失策の代償
ワクワクワクチンチンチンあまりキツくなくて助かりました。
アインが倒れ彼を引き起こしたのはフェネットだけだった。皆が心配し彼の介抱をしようと寄ろうとしたが敵の存在がそれをさせてくれない。ディズィーもアインと同じく戦闘不能状態で人手が足りていない。アインが何かをやったのは間違いないが、倒せたのかは未だに不明な状況下で周囲の警戒を解くことは出来なかった。
アインもディズィーも戦えない状態なのはかなり深刻な状況下であることは間違いない。しかもここまで戦っていて人型バグの能力に対して完璧に対応出来ているのはアインの能力だけで、他の能力ではあの斬撃を防ぐことが出来ていない。しかも本体にダメージを与えたのもアインの能力。人型バグに対し対応出来るのは彼しか居ない事は皆が分かっていた。
そしてアインが能力を使えない状態であることは逆行でやり直せないという事でもある。ここで敵を倒さなければならないというのが、残されたアネモネ達が取れる唯一の選択肢だった。
……いや、唯一ではなかった。取りたくもない選択肢が一つある。ここで全滅するという選択肢だ。しかもその可能性が今のところ一番高い。見えない攻撃がどこから来るのかも分からない状況下で本体にダメージを与えなければならない……それは彼女達にとって酷な話である。
「アイン、アイン起きて。まだ終わっていないんでしょう。こんなことをあなたに言わないといけないのは本当に辛くて酷いことだと分かっているんだけど、このままだとみんなが死んじゃう……!起きてアインっ!!」
フェネットはアインが呼吸しやすいよう口と鼻に入った吐瀉物を自身の口で吸い取っては吐き出し、アインが呼吸出来るように気道を確保していく。口の中に酸味と気持ち悪さが充満するが、それでも彼女は献身的にアインに尽くす。能力者にとって呼吸出来ないことは能力の行使の妨げになるからだ。
フェネットは自分の能力ではこの状況を打破出来ないと冷静に判断し、アインの再起に賭けた。その姿に勇気を貰うアネモネ達。まだ終わってはいないと自分に言い聞かし自分達を鼓舞する。
「まだ何も成せていない!助けられてばかりでなんかいられないのよ!」
アネモネは自分達の周囲の空気を渦のように動かし、空気が物体にぶつかる時の音で敵を探ることした。皆もアネモネの意図を理解し耳を研ぎ澄ませる。風が地面の上を撫でていく音や舞った塵同士の擦れる音もアネモネ達は聞き逃さない。
(必ず……必ず敵は居る。嫌な予感がさっきからしてて冷や汗が止まらない。)
敵が見えなくてもこの空間に居るはずだ。この空間から完全に消えられるのはアインの能力による事象だけ。テレポーターですらこの空間内での移動を瞬間的に行なっているだけで、アインのような完全に消えることは出来ない。人型バグもアインのような能力でない限り不可能と考えていい。
でも、あの一瞬でアインのところへ移動した能力はなんだったの?あれだけはどうやったのか分からない。素早く動いたにしても空気の揺らぎが無かった。敵は超高速で動いても空気の影響を受けないとしたら私の能力では探せないことになる。……やっぱり直接視認するしかないか。
だが見たら見たで向こうから精神支配が飛んでくる。恐らくアインは精神支配に抗った結果こうなった。精神支配されなくてもああなっては能力は使えない。簡単に奴に殺されてしまう。
「……広範囲に攻撃すればいいんじゃないこの場合は。」
ナーフが両手を構えて空気中の原子からイオンを取り出していきイオンビームを発生させていく。その光は暗くなりつつある野外で一際大きな光を放っていた。
「私はバリア張るしか役に立てないからナーフ頼んだよ。」
「さっきから助けられまくっているわよ。」
ナーフの創り出したイオンビームの光が指向性を持って飛んでいく。だがこれは彼女の意志ではなく光が勝手に吸い込まれるように指向性を変えていったものであり、ナーフの制御が甘かったわけではない。
「なっ!?勝手に光が飛んで……」
光の飛んだ先に突如青い瞳をした化け物が現れる。その瞳の大きさは人間がまるまる入ってしまうような大きさで、見ているだけで精神を病んでしまう不気味さがあった。見た目としてはあのデコイを目を大きくし肥大化させたような感じで、宙に浮いている。
これだけの存在感を放つ生物をアネモネ達は自分の目で視認するまで気付くことが出来なかった事に、人型バグの見た目以上の不気味さを感じていた。まるでこの世の理から逸脱しているような存在だ。
「……私の能力を利用されたっ!敵の攻撃が来るっ!!」
ナーフは能力をすぐに解除してそう叫ぶことしか出来なかった。人型バグの青い瞳は所々に赤い血を流血させていてダメージを負っていたが、恐らくアインの攻撃による傷だろうと推測される。そのおかげで人型バグは精神支配の攻撃が出来なくなっていてナーフ達は精神に影響を受けずに済んでいた……と、思われた。
能力による精神支配はなくてもナーフ達の精神に影響はある。人型バグがあまりにも近くに居たという衝撃と、今にもナーフの創り出した光がこちらを襲おうと怪しい光を発していた事。これらの要因が彼女達の思考を鈍らせる。言ってしまえば呆気にとられた。
皆がろくに防御態勢も取れない状況で一番早く動いたのは、人型バグの能力に気付いたエピだった。この中でも雑学と知識量に富んだ彼がいち早く足元の地面に能力を透過して柔らかくした。その速度は能力を行使したエピ自身でも驚くような速さであり、エピ達の体重に耐えられなくなった地面が変形して彼らは地中の中へと落ちていく事になる。
そしてその後に人型バグによる光線の刃がエピ達の居た場所へ放出され空気を切り裂いていく。敵が突然地面の中へと落ちていった事に人型バグは驚きを隠せないようでその大きな瞳で地面を凝視した。
「騾?l縺溪?ヲ窶ヲ?溘∪繧九〒豌エ縺ョ繧医≧縺ォ螟芽ウェ縺励◆繧医≧縺ォ隕九∴縺溘′窶ヲ窶ヲ」
エピの機転によりバグの攻撃という脅威から逃れることに成功はしたが、空気の無い地中の中に入ってしまったという窮地に立たされた。柔らかくなった土の中では身動きが取れても光が届かないので視認性が悪く、自分がどこに居るのかも把握出来ない。
エピ以外のみんなは突然自分の身体に襲った浮遊感と落下する感覚に戸惑って土の中で溺れてしまったが、エピだけは分かっていたので落下中にすぐさまマイの腕を掴んでいた。そしてマイを自分の方へと手引し指先を触って自分の意図を伝える。これが伝わなかったら自分のせいで全滅することになるが、これしか方法は無かったと自分の判断を信じるしかない。
月面での一件で自信を失った自分が勉強をし続けることで身に付けたこの知識から敵の正体を見抜くことに成功した。だからこそ俺はその一瞬で判断したんだ。
(頼む……!伝わってくれ!)
マイは突然自分に襲った息苦しさと誰かの手の感覚に混乱しながら思考した。これはエピの能力でこの手の感覚はあいつだと。そして私の手を取った理由は私にしてほしい事があるってことだ。
(それならユーの方が適任でしょうがバカッ!)
マイは自分の周りにある土に対しエピのようにベルガー粒子を浸透させて能力を行使する。土も塵と同じく原子の集まりに過ぎない。なら自分の能力で作用出来るはずだ。
マイが自由な方の腕を振るうとぶつかった柔らかい土が変形してその形状を保ったまま固定させる。するとそこには腕を振るった軌道の空間が生まれて自由なスペースが確保された。マイは確かな手応えを感じてそのまま能力を行使し続けて地中に空間を作っていく。
そしてそこにアネモネ達が音を辿って向かって来て地中内で合流を果たす。
「た、助かった……ありがとうエピ。でも次はユーの方を頼ってね。バリアでこれぐらいの空間作れるから。」
慣れない能力の行使の仕方にマイは頭痛を覚えながら憎まれ口を叩いてエピに礼を告げる。
「あのとき近くにお前しか居なかったからしょうがなかったんだよ。あとあまり喋るな。酸素なんてここにはあまりないからな。」
結局ここは光も空気も届かない土の中。ここから出ようにも外には見えない攻撃を飛ばすバグが待ち構えている。一つの困難を越えてもまた別の困難がすぐ頭上に存在していることをエピ達は地中で対応を考えなければならないのだ。
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