射程圏内での戦い
もしかして初めて地球でのちゃんとした戦闘シーン?
ディズィーは焦っていた。アインとアネモネならどんな状況下でも正解を引き当てれると思い込み深くまで考えることを放棄していた。血だらけになり脱力しきったアインの軽い身体を背負ってディズィーは理解したのだ。死はすぐそこまで来ていると。
それをどうにかしようと作戦を立てたが失敗し、逃げるという消極的な選択肢しか取れないこの状況…あまりにも2人に負担を掛けすぎていた。責任すらも押し付けて自分は何も出来ていない。…失敗したのは自分が動かなかったからだ。
シルバーが殺されたのは指示待ちをしたから…あそこで誰よりも早く動けれていたら結果は違った。あのユーが最初に動いたから便乗して行動しただけ。嫉妬のような焦りで動いたのは明白だった。
…次は間違えない。自分もみんなと肩を並べれるように動かないとまた誰かが殺される。みんなを守らなければ…っ。
「アイン大丈夫っ?血が凄いけど…」
「…鼻血以外はシルバーの血だから怪我はしていないよ。心配してくれてありがとうアネモネ。それにユーもディズィーもありがとう。来てくれなかったら死んでた。」
「お礼は良いから早くここから逃げないと!アインは逆行して昨日に戻れそうっ!?」
アインが逆行して戻れればこの作戦にも意味がある。だが、アインは自分の状態を鑑みて戻れないと答える。
「さっきの能力で脳へ負荷を掛けすぎて逆行する能力が発動出来ない。…しばらくは無理と考えてほしい。」
しばらく…それはあとどれぐらいだろうか。数分?それとも数時間?その間にどれほどの事象が起こり得るだろうか。アインを除くみんなは覚悟を決める。自分の命を犠牲にしてでも時間を稼ぐしかないと。
「…基地の外へ出ていいんだよな!?」
ディズィーはアインを背負いながら崩壊した出入り口の所で停止する。まだ爆発の際に生じた粉塵が舞っていて視界が悪く、近くにいる者しか視認することが出来ない。どこへ行こうとしても離れ離れになることは防がなければならないから逃げる方向をすぐに決めないといけない。
「…この土煙がある間に距離を取らないと。光が通らなければあのバグも…」
これからの行動をすぐに決めてこの場から逃げる算段を立てようした。しかしそんなことすら人類を滅ぼそうという意志が許さない。
「騾?′縺吶o縺代↑縺九m縺??」
どこからともなく聞こえてきたその言葉に反応し、アイン達は身構えて能力を行使する準備を行なう。人型バグがユーの背後に現れその青い瞳を晒した。その瞳には確かな殺意が宿っており、バグの発する言葉よりも分かりやすい人類への殺意が感じられる。
「ユーッ!!」
ディズィーがアインを背負ったまま走り出しユーの前へと向かっていく。ユーと人型バグとの間に立ったディズィーはアインを背負っていない方の身体の面を人型バグに向けて防御姿勢を取った。
「なっ…!ディズィー!アイン!」
庇われたユーは咄嗟にバリアをディズィーの前に展開し人型バグの攻撃を防ごうとした。その判断が少しでも遅ければディズィーの身体は瞬時に8等分にカットされアインも巻き込まれていただろう。
「ぐっ…!」
しかし完全には防ぎきれずディズィーの身体の表面に複数の切れ込みが入りそこから血が流れ出る。しかも皮膚よりも深い部分まで切り口が広がっていくせいで出血量がどんどん増えていき、これには堪らずディズィーの口から苦悶の声が漏れた。
(範囲を絞れば…!)
アインが人型バグに向けて手を伸ばし能力を行使する。前は全ての事象を止めるという凄まじい効果範囲のせいで脳に多大な負荷を掛けてしまったが、今回はその効果範囲を絞って脳への負荷を軽減させる。
止めるのはこのディズィーへ干渉している能力のみ。この能力による干渉から発生する事象のみなら今の自分でも止められる筈だ!
「くっ、止めてみせる…!」
アインの干渉のおかげでディズィーへの攻撃が止まり傷口の広がりが停止した。だが皮膚から筋肉へと深くまで切り込まれた傷はディズィーの体力と血液を失わせるのに充分なものだった。
立っていられなくなったディズィーをナーフが支えて床の上へと座らせる。それに対し背負われていたアインは能力の行使に精一杯で、そのまま倒れ込むような姿勢で床の上へと着地した。
「この…!」
アネモネは怒りのあまり髪の毛が逆立ち、目が充血してベルガー粒子が大きく乱れた。その乱れたベルガー粒子をアネモネはそのまま能力の行使に利用し仲間を傷付ける敵に対して発動する。
人型バグの目の前に空気の塊が発生し、先程の爆発に負けず劣らずの爆音が発せられる。それはまさに空気の爆発。しかし爆風の向かう方向は全て人型バグに向けられていた。
人型バグの身体にアネモネの操る風がぶつかると凄まじい衝撃音が鳴り、近くにいたアイン達は耳を腕や手で覆わなければならない程だ。そうしなければ耳の鼓膜が破れてしまうだろう。
「窶ヲ窶ヲ髱「逋ス縺??ゅ%縺薙∪縺ァ縺ョ閭ス蜉帙?蛻昴a縺ヲ縺九b縺励l縺ェ縺??」
「まだ話せる余裕があるのなら…!!」
アネモネは右手を握り潰すような構えを取りに能力の方向性を変えた。それが今後の彼女の能力を決める大きな要因となる。
「縺薙l縺ッ窶ヲ窶ヲ?」
ボロボロだった人型バグの身体はアネモネの爆風により服のような皮膚が張り裂けそうだったが、突如伸び切った皮膚が身体のラインに密着して全体的に細見になる。人型バグの周囲の気圧が高まり内部との気圧差が生じた影響だ。
「ユー!こいつを押し潰すから手を貸して!」
「分かった!」
ユーはバリアを解いて念動力でバグの身体を圧縮し始める。アネモネの能力とユーの能力による圧縮は人型バグの身体をみるみると押し固めていき、原型を留めない形状へと変えた。
「…やった?」
フェネットは自分の拳ぐらいに小さくなったバグを見つめて気を緩める。これで死んでいないとは誰も考えないだろう。しかしこれがデコイであることアインは骨の髄まで思い知っている。
「…まだ、まだだよ。あれはデコイでしかない。本体がまだ残っている。」
前回の時は僕はデコイと気付かず倒したと思い込み本体に精神支配を受け掛けた。今度も同じように精神支配を仕掛けてくる可能性が非常に高い。
「みんな辺りを見て、でも見すぎないで。精神支配が飛んでくる。青い瞳を見た瞬間自分の出せる最高火力で押し切って。」
それしか出来ることはない。敵はその気になれば精神支配の攻撃ではなく切り裂く攻撃を飛ばしてくる。どっちも厄介だけど、どっちも僕の能力で対応出来る。それが分かっているから落ち着け僕。ここで落ち着かないとみんな死ぬぞ。
「暗くなったかどうかで敵の射程圏内に入っているか分かる筈なんだけど…。」
アネモネのさっきの能力のおかげで土煙が飛んで視界が良好だ。だから暗くなったらすぐに分かるんだけど明るさは変わらない。…変わらない?まさかっ!
上を見上げた瞬間にあの大きな青い瞳と視線が合い精神支配の攻撃が飛んできた。だから僕は咄嗟に手についていたシルバーの血液を飛ばすように腕を振るった。
「みんな目を瞑ってッ!!!」
自分の行動を目で追っている仲間に対し簡潔に指示を出して精神支配による攻撃を防ぐ。この人数でもあの攻撃一つで瓦解してしまう!
僕の腕に付いた血液の粒が上に向かって飛んでいく。その血の粒に一つ一つ軌道を固定して飛ばしたからどのような物体に衝突したとしても軌道が反れることはない。だからあの青い瞳に血の粒が衝突した場合、血の粒が瞳の中へ侵入しそのまま突き抜けていく!軌道が固定された物体はどのような物体よりも強固で負けることはない!
「縺薙l縺ッ??シ」
青い瞳を血の粒で潰す事に成功したが、バグが突然かき消えてその場から消失した。その影響で精神支配が解かれたが脳みそを直接シェイクしたような感覚に襲われて猛烈な吐き気を催した。能力の不完全な中断による影響だ。
「ウゲッエエェッ!」
胃の中にあるものを一斉に吐き出して鼻の中に吐瀉物が入る。方向感覚にも影響があり僕はその場に座っていることすら出来ないぐらいの酩酊感に襲われた僕は吐瀉物の上に倒れ込んだ。




