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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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作戦開始

アインとシルバーが倉庫内で待機していた時、アネモネ達はというと基地で一番外に近い入口の付近でアイン達のように待機していた。いつでも起爆出来るように信管が繋がったスイッチを手元に置きながら。


外の様子は視認出来ない。窓には木の板が打ち付けられていて外からの光を遮断しているし、出入り口のドアの隙間を布で覆ってこちらも完全に光を遮断している。しかも念の為にアネモネ達は一人ひとりベッドのシーツで身体を覆い尽くしているという徹底っぷり。


人型バグが来たかどうかを判断する材料は両足をディズィーにへし折られロープでぐるぐる巻にして放置されたファグの叫び声だけだ。彼は人型バグが来ることも知らされていないので、わけも分からず両足の痛みに苦しみながら爆薬の仕掛けられた地面の上に寝かされている。


「あいつ勝手に暴れて地面の中に落ちたりしないよね。」


「それはない。能力を解除したから普通の地面の硬さになっている。ディズィーが乗っても沈まなかったからな。」


光の入らない基地内で声だけが自分達の居場所を知らせる情報だ。ライトの類は持っているが付けていない。敵がどこから侵入してくるかを見るためにも完全な暗闇でないといけないからだ。敵がファグを無視して人の多そうな建物を優先する可能性を考慮した形である。


「ねえアネモネ、爆薬を爆発させたらここも危険じゃない?どれぐらいの範囲が吹き飛ぶか分かる?」


「その時は私とユーの能力で爆風を防ぐから気にしないで。」


「火は?この基地って木の部分があるし燃えちゃうんじゃない?」


フェネットは結構こういう所が気になる子だとは知っていたけど、今回はかなり多い。不安な気持ちがあるから少しでも安心したいんだと思う。こういう時はなんて言ってあげれば安心してくれるだろうか。


「…それも私の能力で消せるから大丈夫。空気を取り除けば火は消えるから。」


「なら…」


「はいはいフェネット、ストップストップ。見えないけど困っているアネモネの顔が見えてくるよ。私も頑張ってバリア張るから大丈夫。」


ゴソゴソと動く気配からユーがフェネットの所に行ったのが分かる。…私もフェネットの所に行きたい。でもこの起爆するためのスイッチは有線式だから距離が限られている。これを手放せば行けるけど無理ね。


「ねえ、あまり話しすぎると聞こえないでしょう。音でしか判断出来ないから静かに。」


ナーフの口調がいつもより厳しい。こんなナーフの声を聞くのは久しぶりな気がする。初めて彼女と話した時とかはこんな感じだったっけ。彼女も緊張してて余裕が無いんだろうね。


「…なあ、俺がアインに知らせに行くよりもお前が行ったらどうだ?俺ならもし人型バグが来ても足止めは出来る。」


「少しでも早く知らせる為に異形能力者であるお前が行くべきだって決めただろ?そこは守ろうぜ。」


後ろの方でエピとディズィーがコソコソと話しているけど丸聞こえ。ディズィーの方が確実性が高いから彼が適任だ。この作戦は失敗も視野に入れている。アインだけでも生き残っていたならば私達はやり直せる。彼に情報を託すことがこの作戦において一番優先されると私は考えている。


このことはアインには伝えていない。だって、多分彼は怒ってしまうから。人一倍仲間思いだからねアインは。自分よりも仲間を優先してしまう怖さがある。アインは自分の価値と私達との価値を比べて私達を上にして考えている節が様々な言動から見受けられる。


だから後方へ待機するように強く推してシルバーと一緒に下がってもらっている。同じS判定の能力者でもアインの方が圧倒的に上の能力を持っている。みんなもそれが分かっているから誰も私の意見に反対しなかったし、文句も出なかった。


(前回はアインが頑張って繋いでくれたんだ。今回は私達が頑張らないと。)


この作戦に対しての意気込みを再確認した私は外の様子を伺おうと壁に耳を当てた。するとファグの叫び声が聞こえて緊張が走る。


「な、お、おい!誰か!バグが侵入してきたぞっ!早くこの縄を解いてくれッ!!」


壁を一枚隔てていても彼の声が鮮明に聞こえる。声だけなのに臨場感を感じるほどだ。私達は敵に気付かれないよう息を潜めて身動き一つ取らずファグの声を聞き取る。


「シルバー!!おいみんなっ!!どこに居るんだ!?」


彼はまだこの基地内に仲間が居ると思い込んでいるが私達以外誰も居ない。いくら叫んでも助けはこないよ。お前は大事な仲間を殺したから絶対に助けない。私達の誰かがお前を殺さなかったのは餌として使えるから。だからお前は餌としての役割に殉じて死ね。


「待て!待て待て!の、能力がっ!?能力使えないっ!本当にヤバいって……!」


ファグは両足の骨を折られその痛みで上手くベルガー粒子の操作が出来ない。痛みに慣れていない能力者は痛みが原因で能力が使えなくなる。それは彼が一番良く知っていることだった。


「ち、近付くんじゃね!気味悪いんだよお前!人間みてえな姿してるが俺には分かるぞ!」


…独り言がデカい。でも餌としては優秀ね。色々と声の情報だけで状況が分かってきた。人型バグで間違いない。しかもファグに向かってきているのならもう爆発範囲に居る。でもまだ起爆しない。確実にダメージを負わせるのなら距離は彼の真上でなければならないから。


「おい!本当に聞こえないのか!?居るんだろアイン!?なあっ!?」


まだ探し回っているから襲われてはいない。襲われる寸前だとは思うけど。


(まさか…様子を伺っている?)


デコイとはいえ人型をしているバグ、人間と近しい知能を持っていた場合、ファグが仲間を呼んでいることを認識出来ているのでは?もしそうなら人型バグは辺りにまだ人間が居るか様子を伺っている可能性がある。


…なんて狡猾で殺意の高い生き物なんだ。思考し人間を探して殺す。それらの機能に特化した生物であると私はこの人型バグを評価した。魚型や他のバグみたいに人間を認識した瞬間に襲い掛かってきたりしないのが心底気持ち悪い。


「ううぅっ…」


…ファグが地面の上を這い回っている気配を感じる。ロープで手足の自由を奪われてそのロープの先が地中に潜っているからあそこの範囲から逃げられない。だから身をよじって身体の向きを変えるぐらいしか出来ない筈だけど…


(…起爆しないの?)


フェネットが小声で私に起爆しないか聞いてきたけど、まだその時じゃない。私には分かる…奴はまだ警戒してファグの様子を伺っている最中だ。


(ファグが殺される瞬間にスイッチを押す。)


聞こえるか聞こえないかの声量で返答しスイッチを構える。押す瞬間と同時に私は能力を発動して爆風を出来るだけ抑えつける。爆発の威力を無駄にしないように密閉するつもり。…ユーにはもうバリアを張って待機してもらっているから大丈夫そうだしね。私が言う前から張ってくれていた。ファグの声がした辺りから能力を行使していたのかな。


私は気配を探ることに集中しようと壁に耳を当てて外の様子を伺った。壁を通じて聞こえてきたファグの声と同時に嫌な気配を全身で感じる……


「お、おい!()()()()()()()()()()()()!?」


「っ!?」


慌てて壁から耳を離した私は起爆スイッチを押して能力を発動した…が、壁の外から聴いたこともない大きさの爆音と砕けた壁の破片が私の方へと向かってきてそれどころではない。私が起こした風なんて簡単にぶち破って真っ赤な炎が基地内に侵入してきた。


「アネモネ!!」


ユーのベルガー粒子が私の身体を瞬時に包み込み爆風の直撃を免れる。しかし爆風の熱は完全に防ぐことは出来ず、咄嗟に構えた私の腕の皮膚は赤く腫れ上がった。


「キャッ!」


私の悲鳴は爆音と建物が崩れる音にかき消されて誰の耳にも入らず、目を焼くような閃光が晴れたと思ったら熱すぎる真っ黒な煙が基地内に充満し呼吸もままらない。


そして続々と崩れてきた天井の一部がユーの張ったバリアのおかげで防がられて私達は押し潰されずに済んだけど、その影響で私達は瓦礫の下に閉じ込められてしまった。


「み、みんな大丈夫?」


あれ?これ私声が小さい?とても遠くから私の声が聞こえてくる。私の声よりも耳鳴りの方がうるさい。キーーンって鳴り響いてみんなの声が全く聞こえない。


「ーーーー!ーーー!」


誰かが声を張上げて叫んでいるのに誰の声かも判別出来ない。瓦礫の下は真っ暗だ。口の動きも読み取れない…耳も聞こえづらい…だから敵を倒したのかも分からない…つまりここから出れない。


顔を出した瞬間敵の精神支配が飛んでくるかもしれないから瓦礫の下から出るという選択肢が取れないという状況に私達は作戦が失敗したことを痛感したのだった。

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