準備開始
シルバーの協力は得ることに成功した。昼間ではまだ時間がある。ここからどれだけ彼女の協力を得れるかが鍵になる。
「それで…ここが良いのか?内緒の話をしてくれるんだろ?」
食堂を出た僕達はシルバーの部屋へと向かった。ここが一番ひとに聞かれたくない話をするのに適している。
「はい。ここにはそんなに人は来ないでしょう?」
「アネモネだったよな。そんな悪そうなの顔をする後輩は見たくない。せめて表情は取り繕え。」
「失礼しました。これから話す内容が楽しみだったもので。」
確かに悪い顔だ。この計画の提案者だからねアネモネは。
「さて、聞かせてもらおうか。そんな時間があればだが。」
「アインの話では昼過ぎから夕方の間に来るらしいのであと5時間程は大丈夫です。」
「そうか。その時間で逃げるという提案を聞ければいいのだが。」
シルバーは平和主義でバグとの接触、戦闘を避けている。彼女は僕達の提案をどう捉えるかが焦点だ。
「それは不可能です。これから現れる人型のバグは何らかの方法で人を探し出せるようなので逃げても殺されるでしょう。」
「人型バグ…?それが私達の基地に来るのか。…ネストスロークに連絡を入れ、帰還用の宇宙船を送ってきて貰えば良い。戦う必要がない。」
なるほど、そういう手もあるのか。戦うことを前提に考えていたから盲点だった。
「その案は確かに良い案です。しかし一緒には乗れない、乗らしてはいけない者が居ます。」
「一緒に乗れない者?誰だそれは。そんな仲の悪い奴が居るのか?」
…恍けている訳ではない…か?アネモネやみんなと顔を合わせて視線を交わす。彼女がどのような反応を見せるかで僕達の命運は変わる。
「僕は未来から来たと言いましたが、それは正確には違います。未来の僕はここには来れなかった。記憶だけ託して死んだのです。」
僕は隠し事を無しに真実をシルバーに告げる。信用を得るためには隠し事は無しだ。
「…それがどう話が繋がるんだ?話の前後関係に共通点を感じないのだが。」
シルバーは真剣に話を聞いてくれている。何かをはぐらかすような感じもしないし、知りすぎても知らなすぎてもいない。ここまでの話で何も分からないというのならファグの件とは無関係なのかもしれない。まだ完全には信用出来ないけど。
「僕の死因は背後からの発砲によるものです。」
「まさか…アインは人に殺されたのか?人型バグではなく?」
シルバーの驚いたリアクションも不自然さも言動のおかしい所も見られない。
「そうか…それが一緒に乗れない者か。ここに居ない者で、そいつに話を聞かれたくないないからこの部屋で話したかったんだな?」
「察しが良くて助かります。それでシルバーに問いたい。その者に心当たりはありますか?」
「あるわけないだろうっ!アインを撃った者が私達の中に居たなんて信じられん!そもそも本当にお前は撃たれたのか?そんな証拠を出せないだろう。今のお前は撃たれていないのだから。」
シルバーは何も知らない?ファグのあの異常さ知らないとなるとファグは周りには本性を隠していた事になるが、シルバーだけ知らなかったのか、他の者も知らなかったのかで話は大きく変わってくる。
「どう思う?」
「私はシルバーは信用してもいいと思う。みんなは?」
僕はアネモネに意見を聞き、アネモネはみんなに意見を求めた。確かにみんなの意見を聞いておきたい。
「アネモネが信用してもいいって言ったから私もシルバーを信用するよ。」
フェネット、それはアネモネが信用しないって言ったらシルバーを信用しないって事になるからね?そこにフェネット個人の意見ってあるの?
「私はまだなんとも。ユーとディズィーは?」
「私もナーフと同じ感じ。まだ話を聞いてみないと信用したくても信用出来ない…かな。」
「ん〜〜俺は信用してもいいんじゃねえかなって思ったけどな。」
珍しくナーフ達3人の意見が割れたな。ディズィーはあまり考えていなさそうだけど、彼は感覚で物事を判断するタイプだからね。しかも結構それが正解を引いたりするからバカにならない。
「信用も何もお互いにやることをやるしかないんだから別にどうでも良くね?」
「こいつの意見は置いておいて私はナーフとユーと同じかな。信用したくてもお互い難しいと思うな〜。」
それはそうだけど、結局エピと同意見なんじゃ…?
「早くお前を撃った者を教えてくれ。信じる信じない以前に気になって仕方ない。」
シルバーは僕らを急かして早く犯人の名前を言うように促す。…やっぱり言うしかないか。ここまでの流れはアネモネの言う通りに進んでいるな。昨日どうシルバーと話し合うか考えたけど、アネモネはどう話が進むかのかを考えていた。それでいくつかのパターンを考えたけどこのパターンはシルバーが白の場合のパターンだ。
「…ファグですよ。昨日ここに居たファグが僕を森を抜けた丘の上に連れて行って背後から撃ったんです。」
「まさかそうなことがっ!?あり得ないっ、彼の事は良く知っている。今までそんな行動は見られなかった!」
「ファグは言ってましたよ。何度も人を殺したって。彼と共にいて不審に消えた人は居なかったのですか?」
彼もまさか僕がそのことを覚えて過去の自分に教えたなんて考えていなかっただろう。だからあそこで口走った。そして彼の過去は僕達が知らなくても彼女なら知っている。
「そんなのっ!…………いやまさか、あの時にシックがバグに襲われたって話…あれは彼しか見ていない。」
…心当たりはあるのか。まさか仲間が仲間を殺したなんて考える訳ないしね。その時は不幸な事故として処理したのだろうけど、僕達の話から不審な点が見えてきた。シルバーがそのことをどう考えるか…。
「あるんですねシルバー、彼が怪しい所が。」
「そんなすぐに彼が怪しいとは言い切れないぞっ!?そうかもしれないという可能性の話であって、そうとは決まっていない。寧ろそうではないと私は考えている。」
長い間一緒に居た彼を疑いきれないか…。ならこのあとどうするかはアネモネ次第だ。
「そうですか…なら彼を呼びましょうか!」
「なにっ!?ファグをここにか!?お前達どうするつもりだ!?」
「聞き出すんですよ。本当に彼が人を殺すような個体なのかを。」
聞き出す手段はある。そういった能力を所有している能力者が僕達の中に居る。
「じゃあ俺が呼んでくるぜ?」
ディズィーが意気揚々に部屋の外へと向かっていき、僕達は彼が連れてこられるのを待つだけ。その間にシルバーに対して説明を済ませておく。
「僕達の中に精神に作用する能力を持った者が居ます。ファグの精神に干渉させ昔のことも含めて彼に吐かせます。」
「精神操作?そんな能力を持った者が地球へ来れる訳ない!危険過ぎてネストスロークの管理下に置かれるはずだ。」
「それを言ったらアインはどうなります?彼ほど管理下に置かなければならない能力は無いでしょう。でもネストスロークが私達を地球へと向かわせたのはシルバーも知っていることですよね?」
「それは…!」
僕達が早めに物資輸送用の宇宙船で来た時にファグ達は迎えに来た。僕がS判定を受けた能力者だってことも知っていた。これはどうしようもない事実だ。
「聞けば分かりますよ…ねえファグ?」
扉が開きディズィーとファグが部屋の中に入ってくる。ファグは何故呼ばれたのか分からないようで僕達を見回す。
さあ、彼の化けの皮を剥ごうか。




