お疲れ様会
初任務が無事に終わって良かったです。
先生が真剣な表情で話しかけてくるので私は身構えて先生の話を聞き入ることにした。
『アレはとても危険な能力だ 使い方を誤ればこの星すら破壊する 本当はこの能力を教えるつもりは無かったのだ』
かなりスケールのデカい話で変な笑いが出そうになった。
…え?そんなになの?先生は冗談を言うタイプでも誇張して話すタイプでもないから真実なんだろうけど、にわかには信じられない。
『そんなにヤバい能力だったんですか?』
『そうだな…先ずは【削除】の詳細から話すか 事前にパスを通じて渡した情報は覚えているか?』
『えーと、軌道すら省略して軌跡だけしか残らないくらい速い…みたいな感じですよね?』
『まあそれぐらいの理解か 説明するとベルガー粒子の軌跡を削除する分には問題はない 何故ならベルガー粒子単体では物理的に干渉は出来ないからだ』
そこは分かる。しかし先生は私の身体で【削除】を使用する事に危険を感じていたのは何故だろう。
『では私の身体の軌道を削除してはならない理由はなんですか?』
『簡単な話だ 速過ぎるのだ ミヨの身体では【削除】の速度に耐えられなくて蒸発する』
『ヤバいじゃないですか!』
『そのぐらいならまだどうとでもなる 問題は速過ぎるという事だ 必要な軌道を削除したらそれは断続的な瞬間移動と同じだ 分かるか?光速や亜光速の速度が出るならまだ良いが光速を超えた速度が出る可能性がある』
…光速?私インテル入ッテルの?
『光速が出るとどうなるんですか?』
『ミオの拳が亜光速 つまりは光速の90%の速度で放った場合は空気の分子と拳の分子が核融合する。』
イッツサイエンス!私の拳がアイドュウ メルトダウン イアァッ!アイ・ラブ・ユー!!
『私の拳はウラン製では無いのですけど核融合するんですか?』
『普通はしない ミヨが能力を使わずに拳を放って空気とぶつかるとどうなる?』
『空気が裂けますね。空気は軽いですから。』
『そうだな しかし何度も言うが速さ過ぎるのが問題だ 拳が速すぎて空気が拳を避けることが出来ない 空気に含まれる窒素と酸素がミヨの拳に含まれる水素と炭素と酸素の分子同士で激突して核融合が起きる』
『なるほど核融合が起きると私の拳が蒸発してしまうのですね。』
『これも最初のほうに言ったがミヨの拳が蒸発するぐらいなら問題ない 治癒能力者が居れば直せるからだ 問題は蒸発する範囲はミヨの拳の半径数kmまで及ぶ つまり拳の周りの空気が高温のプラズマと化して膨張し放射能生成物とガンマ線を辺りに撒き散らして周辺を火の海に変える』
この説明を聞いたら生きた心地がしなくなった。もし先生の忠告が無ければ最悪私自身が核爆発していたなんて…いや待って亜光速でこれなら光速だった場合は?
『先生…光速で拳を放った場合は?これより被害がデカくなるんですか?』
『尋常じゃなくなる 瞬間的に光速の速度まで速くなったらミヨの拳が凄まじく重くなる もし地球に向かって拳を放ったら一瞬で重力崩壊を起こして恐らくは地表が全て蒸発するのではないか?』
私の拳で地球がヤバい!え!?こっわ!先生の能力こっわ!
『因みにですが光速を超えたらどうなります?』
『ワタシもそのような現象を見た事が無いし観測されたデータも無いから憶測で語るしかないがミヨの拳がブラックホールになって太陽系の惑星を飲み込むんじゃないか?』
先生は左手で頬杖をつき右手をヒラヒラと投げやりにしながらとんでもない事を言う。いつもとんでもない事ばかり言うけど今日は断トツでヤバい話が出てきた。
『だから絶対に“怪腕”以外で使用するんじゃないぞ』
今日1番の笑顔で脅された私は顔を引き攣らせながら承諾する。あの怪腕ってちゃんと能力を使用出来る形にされていたんだな。見た目がアレ過ぎて得体が知れなかったけど。
『でも使い方次第では使えそうですね。亜光速程度なら核爆弾程度の威力なんですよね?』
『自爆限定の運用だがな』
『私の能力と併用したら結構良い線を行きそうなんですけどね。私の能力って非接触の使い方がメインなんでマッピングされた場所にある何か適当な物体に【削除】出来たら遠距離から核爆発させられません?』
《この子は本当にとんでもない事を言うな》
そんな事は出来ないと否定したいがミヨはワタシの想像の斜め上を行く能力者だ。やりかねないというか可能なのだろう。彼女は感覚としてもう【削除】を掴みかけている。
『もし出来たらワタシ以上の能力者になるだろうな』
『はい!頑張ります!』
違う!なるんじゃない!世界中を敵に回す気か!
伊藤美世の能力ならそれでも勝ててしまいそうだから困る。暗殺も不意打ちも殆ど不可能な能力のラインナップに加え死神がサポートに回っている。
世界中を敵に回しても平気そうな師弟コンビが休日は地元客で賑わうラーメン屋でお疲れ様会をしてるとは世も末だ。
「おまたせしました!ご注文の特製醤油と塩と唐揚げで〜す。」
お!キタキタ!お腹空きすぎて先生の話半分くらいしか入ってこなかったけど今はラーメンだ!
私は醤油ラーメンを自分の所に置き、塩ラーメンを迎えの先生の所に置いて真ん中に唐揚げを配置する。完璧だ!
『ミヨ ワタシは食べれないぞ?』
『良いんですよ雰囲気が大事なんです!それに見た目と匂いとかで美味しく感じませんか?』
この状態の死神は今まで匂いを感じれなかったが、伊藤美世が匂いに意識を回した結果、死神の嗅覚に鶏ガラスープのいい匂いが感じられる。
《またこの空間に対しての縛りが増えたな…》
しかし良い匂いがしてくる。クンクン…食べれないのが残念だ。
伊藤美世の知らぬところで死神が目の前のラーメンの匂いを嗅げるのに食べられないというお預け状態にされていた。天然とは恐ろしい。
「写真撮ーろ♪」
ソマホで手前のラーメンと奥のラーメンが少しだけ写って二人で来ています感をアピールする為だけの写真を1枚撮る。ラーメンを2つ注文したのも本当にこの為だけである。
私はポケットから和裁士さん製シュシュを取り出して髪を後ろに纏める。
「いただきます。」
ちゃんと両手を合わせて命を頂く。これ大事、古事記にも書いてあるかも。
早速醤油ラーメンのスープをレンゲですくって口に入れる。うんま〜身体に沁みる〜。
私はレンゲでミニラーメンを作るマシーンと化した。
『美味しいかミヨ?』
『ふぁい!おいしいです!』
『ーーーそうか』
美世が食べ始めてから10分もしないうちに器の中が空になる。その様子を見ていた死神は皿まで食べるんじゃないかと心配していた。
『その身体で良く入ったな』
『先生とのご飯が美味しくて全部いけちゃいました!』
先生は視覚と嗅覚は再現されているのに食べれない状態のままひたすらラーメンを食べる姿を見せつけられた事に伊藤美世は気付いてない。
『ーーーそうか』
先生の元気が無くなってる…こんな時間まで付き合わせてしまった。もしかしたら先生は夜が苦手なのかもしれない。
『先生、今日はありがとうございました。先生のおかげで無事に初任務を終えられました!』
『ミヨのサポートをするのは契約に含まれているから気にするな それに今日の闘いはミヨ自身の実力が反映された結果だ』
『ありがとうございます♪ではそろそろ良い時間になりましたし解散しますか?』
『ミヨもそろそろ帰らないといけない時間だしな 解散しよう』
『お疲れ様でした!』
『お疲れ様 気を付けて帰るんだぞ』
先生と軽く手を振ってお別れをする。寂しいぴえん。でも大丈夫、ラーメンを食べたあとのスマホいじりは現代の病んだ心を癒やす特効薬。
私はソマホを操作して組織製アプリを開き写真を投稿する。
[先生(死神)と二人でラーメン食べた〜♪ここのラーメン屋オススメ!]
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勿論、美世がこの事で死神に叱られたのは言うまでもない。
ブクマ、評価ポイントありがとうございました!!!!




