実情把握
この時代の地球ってマジでどうなっているんでしょうね。そんなことを考えながら書いています。
僕達にはこれらの資料が本当かどうか判断することは出来ない。しかし否定切れないのは事実だ。どれも様々な人々が後世に残すために書かれたものであり貴重な物であるのは確か。これらを否定する材料を僕は持ち合わせていない。
「始まりのバグと呼ばれている個体には共通した特徴があるらしい。」
シルバーが僕達が手記に目を通し終えたタイミングで切り出した。彼女の言うように特徴があるのなら見た目で判断することが可能だ。
「そいつらはまるで血が繋がっているかのように同じ目をしている。青い瞳をしていた…と、私の先輩から聞かせてもらった。」
手記の閲覧に僕達は一晩を要した。この人数で分担してこれだけの時間を要したのだから相当な量だ。
「今日のところはここでお開きにしよう。各人色々と思う所があると思うが、一度情報を持ち帰って考えをまとめてきてほしい。それからちゃんとした話し合いをしよう。」
シルバーの提案で僕達は自分の部屋へと戻った。眠気も酷いしまともに考えられる状態ではなく、僕達はすぐさまベッドへ入り久しぶりの睡眠を味わった。
どれほど寝ていたのか。目を覚ましたら日は高い位置まで昇っていてお昼頃辺りに目を覚ました。他のみんなはまだ寝ている。起こすのも可愛そうなので一人だけで部屋の外へと向かうことした。
「…お腹はあまり空いていないな。」
昨日のことがあってか食欲は無い。まあ変な時間だろうし食堂に行ってもご飯は無いだろう。ここでは働かざる者食うべからずという鉄の掟が存在する。ここは夕飯のためにも働こうかな。
「おーい、アイン。やっと起きたか。…お前だけか?他のみんなは?」
「ファグ…。」
部屋を出て基地の外に出たタイミングで声を掛けられた。ファグは車のメンテナンスをしていたみたい。数日前にもファグが車を掃除していた所を見掛けたからそういう担当なのだろうと推測した。
「…ちょっと付き合ってくれないか?」
「え?」
なんだろう…あまり乗りたくない誘いだな。今までのことや昨日のことがあってからか、僕はファグに対して苦手意識を持っている。別に悪い人ではないのだけど考え方が違うから話が合わない。
「働かざる者…」
「食うべからずですね…。分かりましたやらせてもらいます。」
「あっはっはっ。そんな嫌そうな顔をするな。こいつの使い方を教えてやるから。」
ファグは車のハンドルを叩きながら僕を車に乗せた。この車は二人乗りらしく後ろは荷物を載せられるように出来ている。燃料電池で駆動しタイヤを動かす仕組みで聞いてもいないのにファグは僕に車について教えてくれた。
「車は良いぞ。走っているとゴチャゴチャした頭の中が冴えてくる。今向かう所まで走って行けばやらないといけないことがハッキリするもんだ。」
「話しかけないでください集中しているので。」
「そんなに肩を強張らせたら後で肩がこるぞ〜?」
「初めて運転するので身体が強張るのは仕方ないです!」
ファグは色々と教えてくれた…時速20kmは速い事を、時速30kmは恐怖を覚えるってことを…。
ファグはたった10分ぐらいのレクチャーで自分に運転をさせた。それぐらいの説明で運転していいものではないよ車という乗り物は。このハンドルがもし何かの拍子で左右どちらかに傾いたら僕達は死ぬ。そんな責任のある運転を寝起きの訳も分からない状態のまま現在進行系でやらされている…!
「ここら辺来るのは初めてだよな。この道は良く使うから地面が均されているだろう?」
確かに僕達が苦労しながらカートを押した道に比べれば大分平らにされている。だけど周りに木々が生えていて圧迫感はある。非常に運転がしづらい。
「俺って車が好きでさ。前に居た先輩やそのまた先輩たちにも車が好きなやつが一定数居たらしい。この車なんて何世代も乗せているんだぜ。」
そんな話どうでもいいからこの車の止め方を教えて下さい!走り方しか教えられていないから自分の意志で止まることが出来ない!
「たまに遺跡なんかで大昔の車か発見されるらしいんだけどまだ見たことないんだよな…。一度で良いからイジってみたいわ〜。」
「それなら地球奪還がおすすめですよ。地球を自由に移動出来るので車を発掘し放題です。」
「はっはっはっ!確かにそうだな!世界中に眠ってる車を全部集めて走れるようにしてみるか!」
その前にこの車が走れなくなりそうだけどね。いつ事故を起こしてもおかしくない。早くこの車の止め方を教えて下さいよ。
「あ、そこ右だ右。」
「早く止め方教えて下さい!!!」
アクセルの隣にあるブレーキペダルを踏むだけで止まれることを知ったのは森を抜けて丘の上まで走った後の事だった。
「おー初めての運転にしては中々どうしてやるじゃないか。」
「疲れました…。慣れないと長時間運転はキツいですね。」
「俺なんて運転のしすぎで無意識に運転が出来るようになったぞ。慣れだ慣れ。」
嫌な慣れ方をさせられそうだ…。運転係を任命されたらすぐにエピ辺りに教えて押し付けてしまおうか。
「それで、何故こんな所へ?」
「ん〜?景色が良いだろう?森を抜けると波みたいな丘が続いて誰にも見つかられずにサボれるんだ。」
フォグの言うとおりここは波みたいに丘と坂が段々と重なっていて森の方からでは見つけられない。……さては普段からサボっているな?
「不真面目な先輩ですね。」
「真面目すぎる後輩を持つと俺みたいな奴からしたら困ったもんだけどな。」
「困っているのはこっちですよ。地球に来て土を掘り返す事とご飯を作るのを手伝ったことしかしていません。」
「いいじゃねえか。ネストスロークじゃ到底出来ないような体験が出来て飯にもありつけている。あんなにお腹いっぱいに食べれる経験したことがなかったろ?」
「その体験を自分達だけではなくてみんなに体験させたいんです。それが出来るのは僕達しか居ない。」
そう言い終える前に先輩は車から降りて辺りを見回す。まるで最後まで聞こうとしていない態度に少しイラッとする。
「ここはサボるのに丁度良いが静かには休めないんだ。ほら、あれを見ろ。」
フォグの指を指した方を見ると何かが動いているのを視認した。この地球で動いている生き物は人かバグしか居ない。今回は後者だろう。
「あれはまだ俺みたいな落ちぶれでもどうにか出来る。…来たな。俺達を見つけたんだろう。」
良く見ないと分からないような離れた距離でも向こうは僕達を視認してこっちへ向かってくる。…やはりバグは人を襲う生き物のようだ。
「生きているのを見るのは初めてか?」
「はい…あれはどんなバグなんですか?」
白くて素早い…見た目から判別出来るものはそれぐらいでアレがどういうバグなのかは分からない。
「あれはな…恐らく獣型のバグだろう。四足歩行で動いているからそこまでの知性はない。迎え討てば楽勝よ。」
フォグは足元の草と土を手で掘って手のひらに収まるような石を掘り起こした。地面の中に石があるのは畑を作る時に知ったけどここにもあるのか。
「俺の能力を見せてやるよ。ネストスロークじゃあまり使い道が無かったがここなら役に立つ。」
石を握って構えるフォグの視線の先にはあの白いバグが居た。いつの間にかこんなに近くまで来ていた。…思っていたよりもずっと速い。人が走る速度なんかよりずっと速く、車と競争出来る速度だ。しかもデカいぞこいつ…!フォグの2倍は体積があるんじゃないか?
「よっと!」
フォグは石を握った腕を振りかぶってバグ目掛けて石を投げた。その速度は視認出来るような速度ではなく音しか確認することが出来ない。まるで空気を切ったような音の後にこっちへ突っ込んできたバグが後ろに吹っ飛んで地面の上に倒れ込んだ。…死んだ、のか?
「今のは…?」
「ん?能力だよ能力。俺が使える唯一の能力“加速”だよ。効果範囲内の物体を加速させられるんだ。」
あんな小さな石であの大きさのバグを倒せてみせたファグは決して弱い能力者ではない。かなり戦闘向けの能力だ。
「ネストスロークじゃ投げるものも対象も無かったからな…。粒子を加速させられれば良かったんだけど俺が加速出来るのは小さすぎず大きすぎずの物体だけなんだ。」
そう自嘲気味に笑う彼の表情はとても寂しそうで、僕は彼に掛ける言葉を見つけられずにいた。
「ここ良いところだろ?適度な強さのバグが居るから能力の練習にもってこいよ。」
「…練習、していたんですか?バグと戦う練習を。」
「さあ…どうだったかな。忘れちまったよ。…そうだ、アインもやってみろよ。バグを殺す経験も無しに地球奪還はカッコつけすぎだろ。」
ファグは車のボンネットに腰を下ろしてそんな提案を口にするのだった。
次回からやっと物語を進めていけそうなので頑張って書きます。




