表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
347/602

目標の隔たり

寝不足で重たい頭と瞼を無理やり上げながら目的の人物を探し声を掛けた。


「あの、ファグ…少しいいですか?」


「ん〜?なんだ?トイレが汚いって文句は受け付けないぞ?慣れてもらうしかないからな。」


それはとても文句を言いたい内容だけど!あなたに話したい内容は違う。


「地球奪還作戦についてあなた達と私達とで話し合いをしてもらいたいのです。」


僕が真剣な顔で話し掛けた時から察していたのだろう。「やっぱりか」と言いたげな表情を浮かべて了承してくれた。


「あーそっちね。はいはい。俺達もそこら辺ちゃんとしておきたかったしね。シルバーに話を通しておくよ。」


そう言って手をひらひらと上げファグは去っていった。…一応話し合いの場を設けてはもらえそうだけど、あの態度からでは話し合いの結果はもう決まったようなものだ。


(シルバー…やっぱりあの人が1番この中で偉いのか。)


右腕を肩から先が無く傷跡だらけだった女性。みんなの纏め役みたいな位置に居るとしたらアネモネみたいなタイプか?話したいと思っていたけど機会がなく話しかけられなかった。いつも忙しそうにしていたからね。


「…争いたくはないな。」


相手の考えを否定しようとは思っていないが、相手はどう考えているのかは分からない。もしかしたら僕達のやろうとしていることを否定し、ここのルールに従うように言われるかもしれない。


それでも僕達はこの話し合いで自分達の考えを知ってもらわなければならないと思う。別にどちらが正しいのかを決める気はない。僕達は僕達で活動することを認めてもらいたいだけだ。本当は許可なんていらないんだけど、この基地の物資の流れや食料庫は先輩達が掌握している。


彼らがその気になれば僕達に物資の支給を妨げたり様々な妨害行為が出来るのだ。それは人類同士での争い事に繋がる。そんな選択肢は選びたくない。だから話し合いという過程が必要だと僕達は結論を出した。


「アイン、約束通り話を聞く。仲間を連れて2階へ来い。」


夜の食事を摂った後にファグから呼び出しを受けて僕達はシルバーの待つ部屋へと案内された。


「…みんなと話し合うんじゃなくて代表者が僕達と話すんだね。」


「みんなを集める程のことではないと思っているのか、それともみんなに聞かせられないような内容を話すのかしら。」


外からなにかの生き物の鳴き声が聴こえてくる廊下を進んで行きながらアネモネと小声で会話をする。外から聴こえてくるこの鳴き声のおかけでファグには聞こえていない。


外の鳴き声は虫型と呼ばれるバグが夜な夜な鳴き出すので、最近はある程度鳴き声を区別出来るようになってきた。今鳴いているのは油で揚げると美味いバグだね。


「ここだ。」


この基地の中でも一際頑丈そうなドアの前でファグが立ち止まりドアを開く。部屋の中は思っていたよりも普通で僕達に割り振られた部屋とそこまでの違いはない。天井には照明が点灯しこの部屋の主であるシルバーの髪を照らしていた。


「連れてきましたシルバー。」


「ああ、すまないが皆が座れる椅子は無い。適当に寛いでくれ。」


この部屋には僕達8人が座れるような椅子はなく、あるのはシルバーが座っている机と椅子のみで他には棚や見たことのない機材が置かれていた。


「お、ついに私の出番かな〜?」


「うん、マイお願い出来るかな。」


マイの能力はこういう時に役に立つ。今の所は限定的な使い方しか出来ないけどかなり便利な能力だと思っている。


「ん?何かするの?」


シルバーも身を乗り出しマイの動向を伺っている。能力を使って何かをすることを察したのかな?


「ここら辺でいいかにゃ〜♪」


マイは手を動かして見えない何かを触れているような手振り(ジェスチャー)を始める。それはまるで()()()()()()()()()()()()()


そしてその動作を続けていく内にその空間に変化が現れた。そこには何も無かった筈なのにマイが本当に何かを触れているような音が発生し、次第にソファーのような複数人が座れる椅子が視認出来るようになってくる。


「へー…面白い能力だね。どうやったの?」


「この部屋に漂っている物質とかを固めたんですよ。塵や埃ってどこにもありますよね?それらを私がこうして手を動かすと纏まって固まるんです。」


「それなら人が座れるような強度にはならないでしょう?」


「いやいやこれがまたそこそこ頑丈なんですよ。」


マイは向こう側が透けているぐらい薄い膜上のソファーに座ってみせる。彼女一人が座った所で空気中を舞っていた塵たちは拡散もしなければその位置をズレることもない。


「は〜〜すっげーな。こんな能力があったのか。」


ファグも驚いたような声を出しまじまじとソファーを見回す。


(ま、弱点もある能力なんだけどねっ。この人達には教えないよ〜っと。)


本当はマイがこの場で能力を見せるつもりは無かった。これは元々アネモネの提案で無闇に能力を見せることを原則禁止にしたからだ。信用出来ない相手に能力は見せられない。アインの能力は特にだ。


アインの能力が露呈してしまったからアイン達は時期を早めて地球へ来る羽目になった経緯がある。ここでも似たような事があっては困るという判断は自然な事だろう。


そしてマイが能力を見せたのは話し合いを円滑に進めるための余興のようなもの。自分の手の内を見せることで信用を得る。このマイの判断にはアネモネもアインも心の中で称賛を彼女に送っていた。他のメンバーは純粋に椅子があって楽ちんだなと考えていた。


「それじゃあ君達の話を聞こうか。」


シルバーの横にファグが立ちアイン達と対立するかのような立ち位置になる。実際対立するかどうかの話し合いなので間違ってはいない。


「では私から…いきなりこんな事を聞くのは失礼だと思いますが、先ずあなた達の考えを聞かせていただきたい。私達の中ではっきりとさせたいことがあるのです。」


「なるほど、アネモネ…だったかな。君が聞きたい具体的な内容を聞かせてもらえるかな。」


シルバーは落ち着いた態度でアネモネの質問に答える意思を見せる。流石は地球奪還作戦の纏め役。こういう場に慣れている。


「ありがとうございます。ではシルバー達がこれから行なおうとしている地球奪還作戦について聞かせてください。何か地球を奪還するために準備や計画はあるのですか?」


これは…攻めたな。かなり直球な聞き方だ。聞いている僕達でもドキドキが止まらない。なにしろここでシルバー達のスタンスが分かってしまうからね。


「それで君達の考えが分かったよ。なら私から答えられる事は…」


僕達もその言葉である程度は分かってしまった。やっぱり彼女達は僕達と対立する形になるだろうな…。


()()()()()()()()()()。私達はバグとの接触を極力避けて任期を終える。地球を奪還するなどという自殺行為などするつもりはない。」


思っていたよりも言い切ったな…。この会話の内容をネストスロークに知られたら彼女は重い処罰を課せられるのに…。強い意思が無ければ口に出す事も出来ないような内容だと思うけどそれだけの理由があるのか?


「何故…と、聞いても?」


「逆に何故とこちらが聞きたい。君達はどうして地球に降りてきた。地球(ここ)は他に選択肢が無かった者達が行き着く地獄だ。ここから這い出る為にも安全に任期を終えなければならない。」


他に選択肢が無かったから…か。それはあまりにも身勝手な言い方だ。その考えは自分が己に押し付ける分には問題ない。何故なら自分の事だからだ。自分の感情は自分で考えていい。だがシルバーはその考えを周りにも強要しているように聞こえる。


「僕達は地球を奪還するために来ました。それが人類全体が生き残る唯一の方法だと思うからです。あなた達が地球で過ごしている間にもネストスロークでは食糧難が深刻化し、人口を減らしていくしか手が打てない状態なのです。」


「それで?これから生まれてくる人間の数を減らせば私達は生存できる。」


「それって能力者の数が減ることを意味していますよ。能力が無ければ宇宙で人類が生き続ける事は不可能です。人口はこれ以上減らせないんです。私達には地球という資源が必要であり、地球奪還こそ最も優先されるべき仕事だと思っています!」


僕もアネモネも地球奪還作戦を成功させたいという意思を見せた。だが、シルバーとファグの両名の表情は初めから何も変わらず、最初から僕達の話を聞く気などないとばかりに切り捨てた。


「それはバグを直接見ていない者達がほざく幻想です。私も昔はその幻想と洗脳に取り憑かれてましたが、この右腕を失ってやっと目が覚めましたよ。」


シルバーの目はまるで虚空のように何も写していない。彼女が一体なにを経験し絶望したのか、僕達にシルバーは昔話を語り始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ