地球で行なわれる抵抗
これが初めての実戦になるだろう。人類の敵であるバグについては全くといって研究が進められていない。バグをネストスロークへ持ち込む事は禁止されているためにサンプル調査すら出来ていないのだ。
これは人類史の歴史においてバグという存在がタブーとされているからだとマザーから教えられた。バグを調べられるのは地球での調査だけ。地球奪還作戦で地球へ降り立った先輩の能力者達が現地で調べ、レポートととしてネストスロークへ提出する。
そのレポートを元に銃火器の研究、製造が成される。そして僕達が受けた訓練のメニューにも反映され授業などでバグの生態を学んだ。
バグは能力を使う生命体だ。
僕達人類と同じ様に能力を使うのだ。人類はバグが能力を使う為に人類はそれらに対抗するために同じ様に能力が使えるようになったという説がネストスロークで唱えられている。
………いや、だからなんだ…!こんな時に考えることじゃない。何故こんな時なのに思考がまとまらないんだ…。
「…ゴクッ…。」
喉がいやに乾く。ベルガー粒子も乱れて訓練みたいに上手くいかない。これではいつもみたいにとは…。
「…来るぞ。もうかなり近い。」
僕達には聴こえない音が聴こえるディズィーからの報告で更に心拍数が跳ね上がる。心拍音が五月蝿くて耳鳴りがしてきた。
「おーーい!!」
…誰の声だ?外から聞こえたのか?外に人が居る…?
「…人の声を模倣するバグが居た報告がある。警戒を解かないで。」
アネモネの一言で緩みそうになった空気がまた一気に引き締まる。…危なかった。アネモネが声を掛けていなかったら集中力が切れる所だった。この緊張感から解放されたいという気持ちがあるせいで気が緩みやすくなってる。
「…人だ。俺達みたいな服装の人達がこっちに近付いてくる。」
「人達ってことは数人?それって本当に人?」
探知能力者が居れば分かるんだろうけどここに居るわけがない。ネストスロークでは探知能力者はバグと同じくらいタブーとして扱っている。…でも、自分はアネモネ曰く素養はあるらしい。
「人の姿を模倣するバグって居たっけ?」
「新種の可能性もある。まだ顔は出さない方が良いよ。」
報告に無い個体が居る可能性は否定しきれない。なんたってバグの種類はおおよそだが最低でも1万種は居ると云われている。…現段階で人類が地球で活動出来るというとても狭い範囲内での話だけどね。もしこれが地球上全てになると想像もつかない。
「おーーーい!!報告はあった!!日程を早めて来たんだろう!!」
こちらの事情を知ってる…?つまり人類じゃないのか?
「………あ!そうだ!この船を操作しているAI!彼らが本当に人類なのか通信を行なえないか!?」
報告があったということは通信でネストスロークと情報のやり取りをしていたということだ。それならここから通信で情報のやり取りが出来れば彼らは間違いなく本物の人類ということになる。
「R.E.0001の指令を承諾。………彼らから受信された通信チャンネルからシリアルナンバーを承認。間違いなくこの地球で674日間任務に就いているF.G.0099の部隊です。」
それを聞きみんなから緊張感が切れて床に尻をついた。脱力しきった身体が急激に軽く感じて変な感覚を覚えた。
これが緊張感から解放された脱力感か…。これに慣れないと地球での生活は難しいだろうな。
「アイン、私に付いてきて。代表者として私達が出向くべきだと思うから。」
「うん。分かった。みんな、ちょっと行ってくる。」
銃は…持っていこう。地球にバグが居るのは間違いないのだから、外に出る時は武器を携帯するのは絶対だ。これも訓練で学んだことでこれを習慣化しないとあっさり死んでしまう。
ネストスロークでは敵なんて居ない生活をずっと続けてきたからこの習慣は慣れないけど、アネモネもそうしてる。気を抜いたら駄目なんだ。
「447期生だよな?俺達は446期生の者だ。」
446期生…僕達の前に生産された個体か。僕達よりも背が高く顔付きがまるで違う。全体的に薄汚れているけど何故かそれが様になっているように感じる。よく見るとところどころ傷があって治っているけど跡になっている。
この僕達に話し掛けてきた個体はディズィーみたいに体格が良くてかなりの短髪だ。ディズィーが持っていた自動機関銃を持っているのにまるで重さを感じさせない。
「はい。私達は447期生、地球奪還作戦に志願し本日付けでこの地球へと参りました。私のシリアルナンバーはA.N.0588。こちらは…」
アネモネの予想外にしっかりとした紹介に驚いてしまったけど、どうにか流れに乗って自己紹介をしようと口を動かした。
「えっと、自分はR.E.0001。今回の地球奪還作戦へ志願しこの地球へと参りました。補給船に乗ってきた為に皆さんへ支給する銃を先に開けてしまい申し訳ありませんでした。」
こちらの都合に巻き込んでしまったのは仲間達だけではない。先にこの地球で任務に就いていた先輩達にもご迷惑をかけてしまっていた。多分彼らがここに来たのは物資だけではなく自分達を迎えに来たという意味もある。
初対面の相手なのにもう迷惑を掛けたなんて申し訳なくて仕方がない。地球を奪還しようと先に活動し生き残っている人達の時間を取らせてしまっている。
「おーやっぱりネストスロークから来たばかりだとみんな硬いなー。俺達はこれから一緒に戦う仲間なんだ。そんなんじゃ長く保たないぜ?特にここではな。」
…ネストスロークじゃあまり聞かないような口調というか話し方だ。結構砕けた言い回しをする。エピやディズィーも似たような口調だけどこっちは更にって感じだ。
「は、はぁ…?」
「ちょっといきなりそんな言い方だと2人が困るでしょうが!」
先頭に立っていた男の後頭部を後ろにいた個体が殴りつけた。殴ったのは女で僕よりも背が高い。髪は良く分からないけど何かで後ろのほうで纏めている。
しかし…この地球でもやっぱり女性って怖いんだな。
「痛てっ!なにすんだよ〜!」
「ゴメンね〜?地球に長く居るとどうしても口が悪くなるんだよ。でも悪い奴じゃないからさ。仲良くしてくれると嬉しいよ。」
そう言ってこちらに手を差し伸ばしてきた。…この手をどうすればいいの?
「えっと、すいません。この手は…?」
「あ、そっか。ネストスロークではやらない習慣だよね。これは挨拶で行なうコミュニケーションの1つだよ。」
「こうやるんだ。」
…珍しい。目に視力矯正器具をつけた男が挨拶のやり方を実践してくれた。
「お互い同じ手を出し合いこうやって握手するんだ。人類が地球に居た時は良くされた方法なんだぜ?」
「それは貴重な情報をありがとうございます。」
「…そっちの赤髪の方は真面目だな。ここじゃあ珍しい。地球に長く居るとコイツみたいなガサツな女になるから気を付け…痛ててて!!」
…女性の方が恐らく握った手を更にキツく握っているのだろう。怖いな…僕もあんなことをされるのかな。握手…したくないな。
「なんか…思ってたのと違うわ。」
「うん…僕もそう思う。」
アネモネと2人して先輩達のやり取りを聞きながら感想を溢し合う。地球奪還…この人達と出来るのかな?




