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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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能力の思考

月面探索を始めてから8時間が経過した。どれだけ歩いても灰色かオレンジ色の地面が続き、たまに青色っぽい岩などが転がっているの見つけるだけで、僕達は一度も供給ステーションを見つけることも補給をすることが出来ずに月の上を彷徨い続けていた。


最初は白かった宇宙服も足を踏み降ろす際に舞った粉塵や腰を下ろした際に地面の細かい粒子が付着し宇宙服が全体的に薄汚くなっている。


腕に付いたモニターは残り少ない酸素量を表示するためにランプが点滅しているけど誰もそのことは触れない。分かりきった事実だからだ。


この数時間の間に色々と考えた。だが現実的な問題として酸素が尽きかけている現状においてこれを一番に考えなくてはならない。そう遠くない未来に僕達は窒息死してしまう。


水分は宇宙服を着ていても補給することが出来る。だが食料は宇宙服を脱がないと不可能。補給ステーションでしか食事をすることすら出来ない事を歩いて一時間経ったあとに気付いた。


もはや誰も言葉にするものは居ない。この慣れない環境下で肉体的に精神的にも疲弊しきっている。特にキツいのが歩き続けるという行為そのものだ。


これも歩き続けて一時間が経過したときに気付いた。僕達はこれほどまでに歩いた経験がない。自分達の居たネストスローク自体がそこまで長く作られていないのでここまで真っ直ぐ進むという経験をしたことがなければ想定もしたこともないのだ。


最初は月面の光景を見ながら歩き続けてはしゃいでいだが、2時間もすれば見慣れた光景になり、重力がネストスロークの6分の1しかなくても宇宙服自体が身体の動きを阻害して体力を奪っていく。


しかも休憩をすれば無くなっていく水と空気を認識しなければならなくなり不安にかられてしまう。誰も取り乱したりはしなかったのが幸いだ。


「アイン。」


久しぶりに誰かが声を出した。スピーカーを通じてみんなに音声が流れる。この声はアネモネのものだ。


「この訓練の意味ってさ、もしかして緊急事態時にどう私達が行動するかってのを見るためかな。」


「…ちょっと思ったよ。多分僕達の会話の内容や位置情報は月面の基地の方へ送られている。だから僕達がこうやって彷徨っていることも知っていると思う。」


先頭を歩くアネモネが止まり、その後ろを歩いている僕達の足も止まる。自然とみんなが腰を下ろして休憩を取る形になった。


「この宇宙服の頭の部分にあるこの黒い丸。これカメラだと思う。」


アネモネが自分の着ている宇宙服の頭の部分を指差した。確かに黒くて小さな丸がみんなの宇宙服に付いている。


「…ごめん。そもそもカメラって何?」


フェネットの声…久しぶりに彼女の声を聞いた気がする。あの身長ではここまで歩くだけでも大変そうだったもんな…。


「この話している会話の音声を通信で送ってみんなに共有しているでしょう?それの映像版かな。私達がネストスロークに居たときもAIが私達のことを見ていないと言えないような内容のアナウンスをするときがあったでしょ?」


「ああ…端末で見れる映像を取る機械だろ?」


「エピは知ってるんだ。私達の居住区にもこれがいっぱい仕掛けられていたんだよ。今もだけど…。」


「……だから?それが今の状況と何か関係ある?」


ナーフの問いはみんなが感じてるものだ。自分の考えとアネモネの考えが当たっているのならこの訓練は…


「つまりこの状況はネストスロークの思惑通りってこと。私達は遭難させられていると見て良いと思う。」


「うん。僕達が予定とは違う状況に追い込まれてどう対応するのかを見る訓練…それが今回の本当の目的なんじゃないかな。」


僕とアネモネの考えは一致した。それ以外だと単純に僕達を亡き者にするとかだけど、回りくどいやり方だと思うからその線は無さそう。


「じゃあこの地図とかも嘘ってこと?」


マイが紙のような素材で出来た地図をペラペラとさせて適当に地面へ落とした。地図も目的も嘘だったとすれば僕達はこのまま彷徨っているのはマズい。早く行動に出なければ。


「…一回周りを見てみない?アネモネとアインを疑う訳じゃないんだけど…。」


ユーの言う通り僕達の考えすぎで本当に遭難している可能性もある。それをどうやって確認するのかという話になるんだけど…。


「…な、なにアイン?そんなじっと見られても困るよ…っ。疑っているわけじゃなくてね?ちゃんとね?状況を整理しようよって話でございましてね?」


最後の方は口調がおかしくなり語尾も怪しい。


「あ、いやユーの能力なら辺りを見ること出来るかなって。」


その時…アイン達に衝撃が走った。その衝撃は恐らくアインが提案しなければ決して出なかったであろうものでアイン以外の者達はお互いの顔を見合わせて「その手があったか!」と思いを一つにする。


「そうだよ!!俺達能力使えるじゃん!!なんで思い付かなかったんだ!!」


「ねっ!ここまで彷徨っていて考えもしなかったの冷静に考えてもおかしいよね私達!」


「…盲点だったわ。そうよ。私達は別に能力の行使を禁止されていないのに…もう少し頭を柔らかくして考えないと駄目ね。」


“能力を使う”。たったそれだけのことなのに8人も居る能力者達が今の今まで思い付かなかったのには理由がある。


ネストスロークでは基本的に能力の行使は指示をされて行使するもので自由に行使するという機会がない。特に狭い空間では能力を行使するだけで被害を出す場合もあり、アネモネのような強力な能力を持つものほどAIから注意を受けていたりする。


この時代の能力とは自分の未来を決定する要因であり、ネストスローク全体に供給されるべきものと捉えられている。幼い頃からそう教わり育ってきた彼らには自由に能力を使うという発想が生まれにくいのだ。


「えっと、私の()()()()()()()()()()?」


ユーは自分の保有している能力でどっちの能力がこの状況に適しているかアインに確認を取った。この時代では能力者達も複数の能力を持つのは珍しくなく、寧ろアネモネやアインといった一つの能力しか行使出来ない方が珍しかったりする。


「サイコキネシスのほうがいいかな。ユーは身体を浮かばせたり出来るよね?それで辺りを確認してほしいんだ。僕達が最初に行った基地を覚えてる?」


「う、うん。宇宙船からでも確認出来るぐらい照明が周りにあったよね。」


「ということは補給ステーションも同じような造りかもしれない。明るく照らされているものがあったらそこが補給ステーションだと思うから見つけたら知らせて。」


「分かった。やってみるね。」


ユーはその場から立ち上がり能力を行使し始めた。彼女のベルガー粒子が蠢き始めてこの世界に事象を引き起こさせる。


「ユー…、危なくなったら降りてきてね。無茶は駄目よ。」


「うん…気をつけて行って来るよナーフ。」


「もし落ちてきたら受け止めるから大丈夫だ。」


「ディズィーにぶつかったら私死んじゃうかも。…じゃあちょっと見てくるね。」


ベルガー粒子を纏ったユーの身体が地面から離れて浮かび上がり、かなりの速度でそのまま上へ向かって飛んでいった。


「…月から出るとか無いよね?」


月の重力は低い。彼女がその気なら重力圏からも脱することも出来るかもしれない。


「そしたら地球の重力に引っ張られて地球へ落ちていくんじゃないか?」


「いや、それは無いと思うよ。ああ見えて地球ってかなり遠いから。ネストスロークから月へ行くにもすごく時間掛かっただろ?地球はもっと遠いんだぜ。」


月面に取り残された僕達はユーの帰りを待ち続けるしかない。この中でユーのように飛べるような能力者は居ないから待っているしかないのだが、もしかしたらディズィーの目にはユーの姿が写っているかもしれない。


「ディズィー、ユーの姿見える?」


「ん〜…()()使()()()()()()()()ユーのやつ結構上へ行っちゃって見えないな。上は暗いしかなり見辛いよ。」


ディズィーの能力でもユーを視認することが出来ないなんて相当遠くの方へ飛んでいったんだな。つまりそれぐらい遠くの方を見ようとしないと補給ステーションらしい建物は無いって事になるんだけど…これは僕とアネモネの考えが当たったかな。

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