地球降下作戦
準備段階まで来ましたが、あまりそこら辺は描写せずスムーズに話を進められたらいいかな〜と考えています。
[観測記録567 今日は447期生がそれぞれの進路を選択し指定された場所へ配属になった 今回の地球奪還作戦の志願者は312年ぶりに3名以上もの人数となり期待が高まる もしかしたらこの年代で本当に地球を奪還することが叶うかもしれない 我々は観測を続ける]
僕達は地球奪還作戦へ志願した。35人も居た447期生は散り散りになりお互いの進路へと進んでいくことになる。最下層は無人になり次の448期生達が入ることとなった。もしかしたら僕達と入れ違いでもうあの階層で生活をしているのかもしれない。
だがそんなことを考えていても仕方ない。僕達はもうあの階層へ行くことは無いしこのネストスロークからも去るかもしれないからだ。
僕達は持っていた私物などの少ない手荷物を持ってアナウンスの指示通り指定された区域へと向かう。ここで地球奪還作戦前の訓練を行なうことになるが、ここで良い結果を出さないと地球奪還作戦へ参加が出来ずにマザーの推奨した進路へ強制的に進むことになるだろう。だけど全員が高い目標を持っているので心配はしていない。特にアネモネのやる気が凄い。
そんな彼女を見ていると自然と自分もやる気になってくる。
「こちらです。扉を開けますので線の前に立ち離れていてください。」
金属が剥き出しになっている廊下を進んでいると横線で白い線が引かれた扉の前に到着し、その直後にアナウンスが入る。自分達が今まで居た居住区とは違う雰囲気に皆が飲まれているが、自分は他の階層などを見たことがあるからそうでもなかった。
「どうぞ中へお入りください。」
扉が開いた先は白い壁と床と天井の広いフロアで見慣れたテーブルや椅子などもあり、自分達が居た階層と似ていてみんながホッとした息を漏らす。
「ここでは現在の地球の環境やバグの新しい情報などを学んでもらい、他には戦闘訓練を実施します。期間は200日を想定しています。では20分後に訓練を開始しますのでそれまでに自室を確認しておくように。」
そこでアナウンスが終了した。丁度いい。ここで時計の見方を教えておこうかな。必要になるだろうし。
「みんなに話しておきたい事があるんだけどいいかな?これ時計って言うだけど説明するね。」
「「「「あ、うん…どうぞ。」」」」
((((何か始まった…。))))
いきなり手に持っていた物を見せて説明すると言ったせいで困惑させてしまったけど、絶対に必要になるから聞いてほしい。
「えっと…この時計の長い針が8を指しているよね?これが上の12を指したら20分経ったことになるんだよ。」
「え?それっておかしくないか?20って数字がどう8から12になるんだ?」
あーー…自分も最初はそう思ったなー。初めて時計を知るとそこで躓くよね。
「細かい線が縁にあるでしょう?その数が20進むと12の文字と重なるの。そういう事でしょう?」
流石はアネモネだ。見ただけで理解している。彼女はやっぱり他の個体とは一線を画す。
「うん。ネストスロークだとアナウンスで次の行動とかを教えてくれるけど地球ではアナウンスなんて無いと思うし時間を決めて動くことになると思う。だから今のうちにこの時計を見て時間の感覚を身につけたらいいかもね。」
「へーそんなものあったんだ。初めて見たぜ。」
時計に興味津々なのがA.P.0149のシリアルナンバーのエピ。褐色の肌にくせ毛の茶髪の少年で非常にやかましい性格をしているのだが、流石に今は声のトーンがいつもより低く緊張していることが見え隠れしている。
「うん、能力の訓練とかに使えるから便利だよ。このフロアに置いておくからみんなで使ってほしい。」
「エピ、壊さないでよ?」
「壊すかよっ!」
「うるさいっ!静かにしてっ!」
「あっ、ごめん…!」
エピを叱りつけるこの少女はマイ。いつもエピと行動を共にする個体だ。確かM.Y.0046がシリアルナンバーだったかな?明るい髪色でアネモネ程の赤色じゃないけどオレンジ色に近い金髪で短めに切り揃えてある。髪の毛は基本的に伸びないから自分で短く切る子はあまり居ないのでかなり珍しい。
この2人がここに居るということはエピもマイも地球奪還作戦に志願したことになる。最初はエピが地球へ向かうか迷っていたらしいんだけど、僕達が地球へ行くことを決めた辺りで自分も決心したらしい。
「俺だけ行ってもどうせ死ぬだけじゃん?でもS判定の能力者2人居ればマジで地球奪還作戦成功しそうじゃん?乗るしかねえよこんなのよ〜。」
そう言って自分も志願すると言ったときにマイも志願したんだけど…
「こいつを野放しにすると成功するものも成功しないから自分も行く。」
と言ってエピに同行する形の志願だったんだよね。だから別に地球に行きたい訳じゃないという珍しい動機の持ち主だ。
「じゃあ私は自分の部屋を確認してくるからみんなも確認したらすぐにここに集合ね。」
ここ最近アネモネがみんなに指示を出してコミュニケーションを取る姿がよく見られるようになった。彼女はやる気に満ちていてみんなを取りまとめるような役割を担っている節がある。みんなはアネモネを信用…というか期待しているから誰もが言うことを聞くようにしていた。
因みに自分もその中の1人だ。彼女の判断力と思考力は高く評価している。自分よりも正しい判断をしてくれるだろう。
「こっちが僕の部屋かな…。」
ここには地図も何もない。だから前に居た居住区の造りを思い出して個人の部屋が設置されているであろう場所を探すしかない。扉にはシリアルナンバーが記入された札がついていたので恐らくここが自室になる。
入ってみるとベッドとテーブル、それにイスが一つずつ設置されていて前の場所と大差が無かった。あるとしたらテーブルの上に置かれた支給品ぐらいだろうか。
「あ、これが噂のジェルのシャンプーか。」
テーブルの上に置かれた箱を開くと小さな鏡とシャンプーの入った容器を見つけて取り出してみる。これで全身をくまなく洗えるようになるから嬉しい。戦闘訓練では汗をかいたりするからとてもお世話になるだろう。
「他は…良く分からないな。」
他にも色々と入っていたけど使用用途が分からないものばかりで、取り出しても仕方がないのでそのまま箱の中に入れたまま僕は部屋を後にした。
フロアに着くとマイが居た。…声を掛けてみよう。あまり2人きりで話したことないしコミュニケーションは大事だ。アネモネを見習って自分も積極的に他人と関わらないとね。
「早いね。もう確認終わったの?」
「あ、アイン。うん、部屋見つけたらすぐにここに来ちゃった。」
マイはイスに座って時計を見続けていた。時計を見たくてすぐにここへと来たらしい。
「私ね…初めて時計を見て私の中の時間…?の感覚とこの針の動きが全くの一緒だったの。本当にビックリしたわ。」
「そうだったの?じゃあマイの中にある時計って正確なんだね。」
「え?」
マイはキョトンとした顔で時計から僕へ視線を向ける。
「今までアナウンス以外で時間の確認って出来なかったよね?そのアナウンスの情報からマイは頭の中で時計を作ったんじゃないかな。それでそんなに正確なら本当に凄いよ。僕は時間を操作出来る能力者なのにそんな正確には時間分からないから。」
「…そうかな〜?」
ちょっと照れくさそうにはにかむマイは時計に視線を動かしてまた秒数を確認し始めた。
「20分ぐらいなら多分1秒も誤差なく測れると思う。大体エピがデータ量を使い終わるのそれぐらいだし。」
「ああ〜前にマイがそんなことを言っていた気がするよ。」
エピがデータ量を使い終わって床の上を寝転がっていた時にマイが20分という時間を言っていた。あのとき彼女は時計無しで時間を測っていたんだね。凄い特技だ。彼女は地球へ行ったらとても重宝されるだろう。
地球は朝と夜で暗くなったり明るくなったりするらしい。彼女の体内時計の正確さなら何時頃に明るくなって何時頃に暗くなるかが分かったりするかもしれない。夜の地球はとても危険で夜間の活動は禁止らしいからね。
「あの端末、時間を確認するにもデータ量使うから誰も時間を見ないよね。」
え?時間ってあの端末から確認出来たの?知らなかった…地球のことを調べていてそんなことは調べたこと無かったから。
「ということはマイは時間を調べたの?」
「うん、みんなはあまり気にしていなかったけど私は今何時か気になってたからいつもデータ量を支給された時に調べてたよ。多分そのおかげで時間が正確に測れるようになったんだと思う。」
「へー。」
やっぱりコミュニケーションって大切だ。マイと話したおかげで彼女の意外な一面を知れた。これからもみんなとコミュニケーションを取り続けよう。
アイン達は私物とか持っていないので手ぶらで移動していたのですが、アインだけは時計という私物を持っていたので彼だけ両手に時計を持ったまま移動していました。かなりシュールな絵面でしたけど、それをシュールと思う人が周りに居ないので描写出来なかったです……悲しい。




