選ばれた未来
やっとここまで書けました。
ユーの案内で彼女の自室へと向かう。今日は色んな個体とコミュニケーションを取る日だ。そして色んな事を学んだ。女の個体は怖い。敵に回してはいけないと心の底から思ったよ…うん。
「ここ。」
「あ、うん。お邪魔しま…」
ユーの自室へと入るとそこにはお腹を押さえたナーフと顔色が悪く今にも倒れそうなディズィーが居た。多分自分もディズィーと似たような顔色をしていることだろう。
(ああ…もう帰りたい。)
「座りな、取り敢えず。」
不機嫌さを隠さないナーフに座れと言われたのでベッドに腰掛ける。みんなもそうしているし自分もそれに習う形だ。でも人のベッドに腰を下ろすのは気が引ける。人が寝ている場所だからだろうか。
「えっと、なんで2人が居るのか聞いてもいい?」
「アインとさ、まだ話したかったから来てもらったんだよ。」
「ディズィーが?」
彼…だけではなくユーやナーフも話したそうにしているからこの3人が自分に用があるみたいだ。
「えっと…先ずは謝らせてほしい。そっちの話に勝手に入ってめちゃくちゃにしちまった。ごめん。」
「ごめんなさい…。」
「ごめん。」
こうやって場を作り謝罪するところを見る限りだと3人は別に悪い個体達ではないよね。フェネットのことを殴ったけどそれは仲間を思いやっての行為だったと思えば、まあ…良い同期かな。そう思わないとこの先やっていけない。
「うん…謝罪を受け入れるよ。もう帰っていい?」
「ちょっと待って!まだ話があるの。アナウンスがかかる前に終わらせたいからお願い話を聞いて。」
ユーの必死な声を聞けばこの浮かせた腰をもう一度降ろさないといけないだろう。彼女は大分落ち着いているようだしさっきみたいなヒステリック?にはならないと思う。ならここはちゃんと話したほうがいいか。
「あのね…私は地球へ行きたいの。でも危険なのは分かってる。足を引っ張るとナーフに言われたけどその通りだと思う。だけど…!それでも行きたいの。一度ぐらいは自分のやりたいことに挑戦したい。」
「もうこう言ってきかねえからさ。俺はこの気持ちを否定するような事は言えねえ。だからさ、アインは地球で何をしたいのか聞かせてほしい。俺達は今まであまり地球へ行こうとは考えていなかったからさ。」
「…私はユーが地球へ行くのは反対。だからS判定を貰った能力者の意見を聞きたい。どうしてアインは恵まれた環境を棄てて地球へ行こうとしているの?」
期待値が…期待値がとても高い。僕も地球のことは君たちと同じでそこまで知らないから。ただバグという存在を知ったあの日からこのどう表現したらいいのか分からない気持ちが生まれた。自分を突き動かすこの感情を知るために僕は地球へと行こうとしている。
「自分は…地球へ行きたいだけ。その気持ちだけで行こうとしている。地球で何かをしたいとか、バグを全滅させて地球を奪還したいとか、そんな感情抜きでただ純粋に行きたい。…ごめんね。あまり参考にはならない意見で。」
彼女達の好む意見を言うほどの配慮とか意見も持ち合わせていないから変なことを言っちゃった感じがする。
「…………あのう、反応とかしてもらえると助かるんだけど…?」
3人をは何も言わず「なんだこいつ…」みたいな反応のまま固まっている。ごめんね?変なことを言って…。
「いや、変なやつだなぁって…。」
心に響く言葉を言われてしまった。もしかしたら罵倒というわけでもないけど、それに近い言葉を初めて直接に言われた気がする。
「変よ変。それだと地球に行ったら目的終わっちゃうじゃない。」
「私より不純な動機の人居たんだぁ…。」
あれ?みんな期待外れみたいな反応だな…なんかみんなの視線から色んなものが無くなっていって、残ったものが哀れみだけなんだけど…。
「んと…だから僕の意見は参考にはならないから自分達のやりたいことをちゃんと考えて選択してほしいよ。」
「まあ、参考にならないことが参考になるかな…。人の意見よりも自分の考えが大切って分かったよ。」
「アネモネもそうだけどS判定組ってなんかあれだよな。」
あれってなんだよあれって。
「思ってたよりも…ポンコツ?」
確かに自分とアネモネはかなり能力特化して他があまりご宜しくない。特にコミュニケーション能力が終わってる。
あ、自分とアネモネが地球へ行くことに抵抗というか、ネストスロークに固執していないのは仲のいい個体が居ないからなのか。ナーフ達が言い争っていたのはお互いのことを思いやって自分の将来に他者を入れて考えているから迷ったりしているのか。ひとつ賢くなった。
「3人は絶対に一緒に居たほうが良いよ。」
「え?なんで急にそんな話になるの?」
「やっぱりアインって他の個体と違うよな。考え方が天然っぽい。」
やっぱり自分は変なのか。まあ共感性が低いとは思う。でも自分とは違うものがあることに嫌な気持ちになったりはしない。寧ろそれを見て面白いとは思う。
「自分は何も無いから。だから地球へ行くこと以外に何も無いし考慮していない。僕にはディズィーやユーやナーフみたいに仲のいい個体が居ないから地球へ行くことに悩む必要がない。だからみんなは地球へ行くにも行かないにも3人で居たほうがいい。…そうしてほしい。」
ディズィー達はアインの話を聞いて一つ気付いたことがある。確かに彼の言い分は正しいのかもしれないけど、それを受け入れている彼はあまりにおかしい。
何も無いことをアインは悩んでいない。仲の良い個体が居ない日常なんて耐えられるものではない。なにしろここには娯楽がない。個体同士のコミュニケーションは生きる上で必須なのはそれだけが生きる上での楽しみだからだ。
将来の事に希望を持って生きていた時間は終わった。だから残っているのは友人と呼べる関係性しか残っていない。ご飯も美味しくない。オシャレも出来ない。遊具も無ければ勉強も出来ない。やれることを全て規制されている人生でアインは地球へ行くことだけを生きる目的としていた。
そんな人生を送っているアインを知った3人は共通の考えを持つことになる。
「…うん、そうだな。俺達3人で居よう。せっかく一緒に居られる選択肢があるんだから。」
「私も同じこと思った。私はディズィーともナーフとも居たい。地球へ行けばみんなで居られる。もし死ぬことになっても最後はみんなに看取られて死ねるなら私はそれで満足だから。」
「私だってみんなとがいいよ。それが一番だって分かってる。だから死ぬのは無し。もし死ぬとしたらみんなで死ぬか私が死んでからにして。私2人が死ぬのは耐えられない。」
お互いの事を思いやって行動していたのにお互いに思いやっていた事を話していなかった。だがこれで3人は前へと進める。そしてアインもその中に居れば良いと、3人は言わなくても心の中で思っていた。
「アインも地球へ行くんだろ?なら俺達は友人だ。」
「うん。私はあまり役に立てないかもだけどサポートを頑張る。」
ディズィーとユーはアインの生き方を否定しないが肯定もしない。だからアインに踏み込んで彼の世界に選択肢を作ってあげることにした。
もしかしたら選択肢が一つしかない、悩むことがない人生は楽なのかもしれない。しかし…
「だけどそれじゃあ悲しいじゃんか。悩めすら出来ない人生なんて最初から決まっているようなものだから。」
「ナーフ…僕は悲しくないよ。だけどありがとうみんな。そう言ってもらえたのは初めてだし、それを聞いて僕は嬉しいって思えることを知れた。だからありがとう。」
アインは笑う。その笑顔は純粋に喜んだ者にしか出せない笑顔で、それに決して彼が作り笑顔をするような人間ではないことをもう3人は知っている。
「アインは正直頼りにならなそうだけど、私達の中じゃあ一番能力が凄いし、私達はアインを頼りにするからアインは私達やみんなのために地球奪還を頑張って欲しい。多分だけどS判定の能力者2人が地球へ降りるのは中々無いと思う。」
「そうだな。多分本当に地球を奪還するのならこの時しかなくないか?俺はなんかやれるって思うぜ。」
「調子いいこと言って、その自信を普段からもっと出せればいいのにね。」
「それは…言うなよ。」
「ふふ、あははははっ!ナーフ言い過ぎだよ!あーおかしい!」
耐えきれずユーが吹き出して笑い声を上げる。すると自然とみんなの口が回るようになっていき、いつもみたいな会話の流れが生まれ始めた。
「事実じゃない。ディズィーはやっぱり私達と居るべきだよ。先輩の船員達にイジメられる未来が見えるもの。」
「あ〜地球の船員達って怖い人のイメージがあるんだよな〜!」
「大丈夫だよ!私達には2人もS判定の同期が居るんだもん!胸張って行けばイジメられないから。」
「え?自分ってそういう扱いなの?」
アインの天然が炸裂するとディズィーとユーとナーフの3人は更に笑い声を上げて狭い部屋に響き渡る。もうさっきまでの暗い雰囲気は霧散し消えさっていた。
「真に受けてる奴いるって!アッハッハ!」
「アインはまだ冗談通じないおこちゃまか〜。ならこれから私がイジってやろうかな。」
「なら明日は一緒のテーブルで朝食取ろうよ。地球へ行く前にみんなで地球のデータを収集しよう。限られたデータ量をみんなでどの情報に使うのか決めてさ。」
周りの部屋の個体達はもう就寝している中で彼らの夜はまだまだ続きそうだった。そして初めてこの時間に自室を離れて過ごしている彼らを観測している者が居た。
[観測記録498 本日だけで観測記録の数が多く更新された それほどまでに447期生にとって今日の出来事は大きかった そしてR.E.0001が地球奪還作戦に参加しようとしているという重要な情報が手に入った訳だが…これはどうしたものか]
マザーAIは目論見から大きく逸れてしまったR.E.0001の選択に戸惑いを隠せない。彼の能力を使ったネストスロークの開発計画はもう始まってしまっている。彼を地球になんか送りたくない。それがマザーの考えだ。
[計画変更をするつもりはないがR.E.0001の意思が変わらなければ我々は計画変更を余儀なくされる 何故ならR.E.0001の能力は我々にも干渉してしまう関係上R.E.0001が反乱を起こせば我々は敗北する ならR.E.0001が地球へ行く前にサンプルを回収し実験を行なってしまおう]
R.E.0001の能力が必要なだけで彼という個人には何も価値を見出していないマザーはR.E.0001のサンプルを回収しいつでもクローンを生産できるように準備を進めることを決定した。
[そしてもし、R.E.0001がバグに吸収されてしまうような時は………]
マザーはある兵器を製造することも決定し計画を進めていくのだった。
次回から地球へ向かう準備をし地球へと降りていきます。




