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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
322/602

この狭い世界で

[観測記録370 A.N.0588がR.E.0001を部屋の隅へと連行 何かを話していると予想されるがここからでは聞き取れない まさかとは思うが反乱分子の要因になる場合は残念ながら処分せざるを得ない 我々はこのまま観測を続ける]


何故彼女が怒っているのかは分からないけど、自分もさっきの彼女みたいに誠意を込めて謝れば許されると思いたい。


…あれ。誰も居ない食堂の角へと追いやられて逃げ場が無くなったんだけど…。


「声を小さくして話して。」


ドスの利いた声でそう言われれば従うしかない。彼女は恐らくこの447期生の中で現状一番の能力者だ。彼女の機嫌ひとつで自分は天井付近で回る羽目になる。


「うん…ごめんなさい。」


「それはなに?何に対して謝っているのかな?ちゃんと言語化出来る?ん?ん〜?」


アインは生まれて初めて泣きそうになっていた。ある程度歩行が出来るまでは人工子宮の中で生育された為に赤ん坊という過程を端折っていたので、彼は今まで一度も泣いたことがない。まさか同期の女の子に詰め寄られて泣かされるとは思いもしなかった。


「えっと、え、あの…ごめん。」


アネモネも分かっている。アインは何も悪いことはしていないことを。ただ彼のせいでお説教を食らう事になった腹いせで当たっているに過ぎない。


「はあ〜……分かった。謝罪を受け入れるからその泣きそうな顔は止めて。私が悪いみたいじゃん。」


構図的に見ればかなり悪いのでは?と思ったが口には出さなかった。そしてその様子をAIは監視し続けている。


「えっとね、何から話そうかな。」


アネモネは何から話したらいいかを慎重に選びながら言葉にしていく。


「もう二度とベルガー粒子の色を言わないこと。調整されちゃうからね?」


ベルガー粒子の色?何故それを言ってはいけないのかが分からない。


「どうして?色は色をでしょう?」


「…そっか。そこからか。あー先ず最初に言っておくけどベルガー粒子の色なんて普通は認識出来ない。みんなはただの光の粒子としか視認出来ないから。あなたみたいにちゃんと色としては捉えられないの。」


なるほど。…それで?自分がベルガー粒子の色を認識出来るのは分かったけど言ってはいけない理由にはならないと思う。


「それを言ってはいけない理由は?」


「……ちょっと耳を貸して。絶対に誰にも聞かれたくないの。」


誰に?という疑問をよそにアネモネが顔を近付けて耳元に囁く。…少しだけ汗のような匂いがした。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


殺処分…?探知能力の素養があるだけで何故殺処分されてしまうんだ?というより何故それを彼女が知っている?気になることはいっぱいあるけど、彼女が昨日騒ぎを起こしたのは自分の発言を有耶無耶にするためだったことに気付いた。


いきなり彼女のベルガー粒子が膨れたように膨張したのを至近距離で視認した時からずっと気になっていたから疑問の一つが解消して良かった。


「…言いたいことはそれだけ。絶対に言っちゃ駄目だし気取られてもいけない。」


「うん…分かったからちょっと離れてよ。みんなの視線を感じるんだけど…。」


彼女が壁に手を起き僕が逃げられないという構図は流石に悪目立ちしていた。僕たちに気付いてコソコソと話しているグループがちらほらと居る。


「…じゃあこうやっている理由を()()()に見せないとね。」


アネモネが壁から手を離し離れていく。そしてその時にアインの服の襟を掴み自分のもとヘ引き寄せた。


「勘違いしないでよ。アリバイ工作なんだから。」


アネモネは皆に見せつけるような構図でアインの頬に唇を当てた。つまりキスをしたことになるのだが、それを見た個体達の反応は様々。


キスそのものを知らない者は何をしているのか分からないような反応を見せて、キスの意味を知っている者は頬をアインと同じように赤らめてその様子をガン見し続ける。


大体前者が男で後者が女という具合で二分割された反応だった。そしてその様子を見たAIは…


[ーーーーーーーーーA.N.0588の行動は男女の恋愛感情によるものと判断 生殖機能を失っても稀に恋愛感情に目覚める個体も存在する A.N.0588も恋愛感情に目覚める個体の可能性は捨てきれない 昨日の暴走もR.E.0001に接触してから起こった事からR.E.0001に対し恋愛感情を抱いていると考える 我々はこのまま観測を続ける]


盛大に勘違いを起こした最新鋭のAI。だがこれは仕方ない。A.N.0558という個体があまりにも規格外の性能をしていたからだ。彼女は常に監視されている事を自覚しいくつもの予防線を張っている。自身の思惑をネストスロークに悟られないように…。


「やっぱりあの個体面白いわ。」


そう呟いたフェネットからアネモネは毎晩質問攻めされることになる。何度も言うがこのネストスロークは娯楽がない。面白そうなものは常にイジられる運命にあるのだ。


「あ、アネモネ…?」


アネモネはやることはやったとばかりに颯爽と自分を放してその場を離れていき一人取り残される。昨日まで誰とも交流を図ったことのない自分にとっては情報量が多すぎて処理しきれない。


「能力の測定を始めます。R.E.0001はメディカルルームへ向かってください。繰り返します。能力……」


アナウンスが入り僕は言われるがままメディカルルームへと向かう。メディカルルームへはこの食堂を出て生産ラインの方へ向かうと右手に部屋がある。その部屋には更に複数の小さな小部屋があり、その一つに赤いランプが付いているので点灯している部屋に入るのが決まりだ。


(アネモネに聞きたいことがいっぱいあるけど、なんだろう…会うのが少し怖い気がするな。)


初めて感じる人との接し方、距離感がアインの脳に影響を与えた。それは脳波として現れそれを観測するAIにも伝わることになる。


個室に入ったアインは計測器具を身体中に貼り付けられ頭にはヘルメット型の測定装置を装着させられた。毎度の事ながら大仰(おおぎょう)に感じさせられる。


「今回から脳波を更に見るために鼻根、頬、こめかみに電極を追加します。目を閉じリラックスしてください。」


全ての準備は機械がしてくれるので言われた通り目を閉じリラックス状態になろうとした。だが頬をに電極パッドが付いた感触から先程のアネモネとの一件を思い出してしまう。………目を閉じていても頬が赤くなっているのが分かる。


「脳波計測。今回は初めての測定なのでパターン化を構成するために最低でも3分間の5セット行ないます。その間リラックスした状態でじっとしていてください。」


指示には従わないといけない。だけど何故か今日は身体をもじもじとし動かしてしまいその度にちょっとしたストレスになってしまう。身体中に貼り付けられた計測器具が邪魔で身動きが取りづらいからだ。


[ーーー計測方法を変えたせいか前回までの脳波とは違う結果が出ている 脳波は乱れているのに前回よりもベルガー粒子が安定しているという矛盾した結果が測定される]


この測定結果をマザーAIが閲覧し直ちに次の段階へとステップアップさせる。今回のアインの状態ならば確実に能力の特定が可能になるだろう。


「アプリケーション起動。脳への干渉を開始し能力の発動を測定します。」

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