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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
321/602

子供の視点

明日は少し投稿が難しいかもしれません。その時は土曜に2話投稿します。

[観測記録369 A.N.0588のベルガー粒子が爆発的に高まり能力が暴走状態へと移行 7秒が経過した辺りで収まっていきその後に沈静化 今までのA.N.0588では考えられない行動に我々も驚いている 暴走の理由はR.E.0001との接触により血圧と体温の上昇 それに比例し感情の昂ぶりが原因だと考えられる 我々は観測を続ける]


アリーナに突然風が舞い上がり数名がその風に連れて行かれ天井付近すれすれの所でぐるぐると十周したあたりで風が落ち着き、最後は個体の4人が失神した事で今回の人為的な事故は幕を閉じた。


「能力の制御が上手くいきませんでした。脳も痛く私の持つ能力以上の事象を引き起こしてしまったんだと思います。」


就寝時間まで育成AIからの事情聴取を受けていたアネモネは夕食も取ることが出来ずクタクタになりながら自室に向かっていく。何度も何度も同じ質問をされて整合性があるのかを見られていた為に尚更疲れ果てていた。


自身の自室の前に立つとスキャンがされて自動的にドアが開く。


「今日のは凄かったね。暴走……ていうのあれ?毎年誰かしらがやらかすらしいんだけど、まさかルームメイトがそうなるとは予想外。」


アネモネと同室のF.T.0798が珍しくアネモネに話しかける。彼女達は同じ部屋でもそこまで仲良くはない。嫌い合っているわけではないのだがアネモネはあまり人と話すタイプではない為に会話がほとんどないのだ。だがF.T.0798は案外今の関係を気に入っている。無理に仲良くしようとするよりもプライベートな時間を持てたほうが都合がいいからだ。


しかし面白そうな事があれば話は別だ。あそこまで能力による事象が大きく反映され影響することは初めての経験、しかもその相手がルームメイトなら尚更気になってしまう。


「…明日にしてくれる?私もう寝るから。食事していないし疲れてもう話したくない。」


アネモネはそう言ってドライシャンプーもせずにベッドにダイブする。このネストスロークでは水がとても貴重で彼女達の居住区にはお風呂もシャワーも存在しない。あるのは皮脂の汚れやホコリを吸着する粉末が詰まった缶とタオルのみ。


彼女達がもう少し成長するとジェル状のシャンプーが支給されるようになる。これは粉末よりも手間がかかる分身体全体の汚れを綺麗に取る事が出来る。女性にとって無くてはならない代物で常に品不足が続いている状況だ。


「なら良かった。夕食の時間になっても来なかったから取っておいたんだよね。」


F.T.0798というシリアルナンバーを付けられた少女がアネモネの分の夕食を取っておいていた。流石に全てを持ち出す事は出来なかったが手軽に取れる固形のレーションをアネモネに手渡す。


「あ、ありがとう……えっと、F.T……」


「フェネット。みんなは私をそう呼ぶ。A.N.0588はなんて呼ばれてるの?今日はあの個体と楽しそうに話していたよね。」


フェネットと名乗った金髪の少女から予想外の方向からボディーブローを食らい、アネモネは口にしたレーションを喉に詰まらせてゲホゲホと咳を出して苦しそうにベッドをのたうち回る。まさか見られていたとは思っておらず不意打ち気味に良いものを食らってしまったようだ。


「あ、えっと確か棚のところに閉まっていたよね。」


フェネットがベッドの横に置かれた個人用の小さな棚の引き出しから水の入った容器を取り出してアネモネに渡した。それをすぐさま受け取り口の中に貴重な水を流し込んでいく。


「ぜぇーぜぇー…こんなので死ぬ思いするとは思わなかった…。」


「ごめんごめん。まさかそんなに動揺するなんて思わなかったからさ。」


そう謝るフェネットはアネモネを自身にとって面白そうな対象(あいて)として認識する事にした。何故今の今まで話してこなかったのかと後悔するほどに。


「別に動揺してないし…。」


嘘である。かなり動揺しなければ咀嚼中に(むせ)たりはしないだろう。フェネットはルームメイトとして一度もアネモネが咽たりするところを見たことがない。


「分かった分かった。で、なんて呼べばいいの?まだ愛称無かったら私が付けようか?」


小柄ながらもかなりグイグイと来る性格とのギャップにアネモネは押されてしまう。しかしこのままだと自分で付けたものではない愛称で浸透してしまうのでそこはちゃんと否定する。


「いやアネモネって愛称があるからいいよ。」


「アネモネ……不思議な発音。もしかして地球由来の名前?」


「うん。植物の名前から取ったの。フェネットも?」


「いやどうだろう。みんなに付けてもらったから分からないや。」


彼女はそう言ってころころと笑う。アネモネはその時に初めて彼女をちゃんと人として見たかもしれない。今まではただの他人として良く見ていなかったが笑うととても可愛らしい。


身体が小さいからよりそう見えるのかもしれない。もしかしたら同期の個体の中でも一番小さいのかもしれない容姿だ。そんなことも今の今まで気付かなかったぐらいには私は周りに対し興味を持てなかったのだろう。


だったらなんでアインのことを気になって話しかけたのだろう………んー良く分からない。私と同じく一人ぼっちで…………特別な能力者だったからかな。


「おーい、アネモネー?もう眠たい?」


考え事をしていたらフェネットのことを放置してしまっていた。人との会話の流れやテンポが分からないから失敗しちゃうな。


「えっと、まあそこそこ眠たい。これ食べたら寝るね。」


「うん。じゃあまた明日。………明日は質問されるぞ〜気をつけろよ〜。」


ニヤニヤしながらおちょくるような口調でフェネットがアネモネにアドバイスをした。それを聞きアネモネは明日の朝の事を思い憂鬱になりながらもベッドに入る。こんな時は不貞寝が一番だと人類のだれもが知っているのだ。


そして次の朝、アネモネは皆の前で昨日の暴走事件について謝罪をした。


「昨日はすみませんでした。怪我をさせてしまった人も居たと聞きます。本当にごめんなさい。二度と起こらないように気を付けますので、どうか長い目で暖かく見守ってもらえると嬉しいです。」


アネモネの真摯な言い方と言葉選びに誰も何も言えなかった。怪我をした者の中には文句のひとつやふたつを言おうとしていた者も居た。しかしこれを聞いては出る言葉は…


「気をつけろよ。今度やったら調整が入ると思うぞ。」


「いきなり中身が知らない奴になられても困るしもういいよ。」


「……ありがとう。気を付けるね。」


これにて一件落着………とはいかない。育成AIが今日の予定を説明しほんの少しだけ自由になれる時間が発生する。その僅かな時間を利用しアネモネはアインの下へ向かう。


「アイン。ちょっと話いいかな?」


アネモネは出来るだけ笑顔で話しかけたがその表情を見たアインは身体をビクンッと震わせて距離を取る。


「…………怒ってる?」


「怒っていないよ?どうしてそんなことを言うのかな?このおバカさんは。」


これはかなり怒っているとアインは考え、大人しくアネモネに手を引かれていくのだった。

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