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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
5.終わらせた未来の軌跡
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447期生の日常

自分でも書いていてなんかほのぼのしてるなと思いました。たまにはいいですよね。

[観測記録367 R.E.0001が他者に興味を持つ反応を確認した これは非常にとても珍しい 初めての反応であるとここで記録する 我々はこのまま観測を続ける]


白髪の少年がユー達の隣に設置されたテーブルに着席する。テーブルも椅子も余った金属を溶かし形作られている為か非常に無骨な印象を受ける。椅子を引くと床と擦れて不快な音が鳴ってしまう事は、数年間ここで過ごしている経験上分かっているので彼は椅子を少し浮かせてから椅子を引いて席に着く。


そして赤髪の少女はその真反対側に設置されたテーブルの椅子を同じ様に浮かせてから引いて目立たないように席に着いた。盗み聞きという行為が後ろめたい行為だと認識しているのだろう。


「地球の人々って色んな服を着ていたの覚えてる?私はああいう服を作ってみんなに着てもらいたいの。」


ユーの話す内容を2人は理解しきれない。なにしろそんなところを見ていなかったからだ。


「着てた…か?なんか赤かったり黒かったりしていたけどな〜。」


その言葉に身体をビクッとさせて反応してしまう赤髪の少女。自身の髪の色をそう評されているのを知っているので反射的に反応してしまったようだ。だが幸いにも3人には気付かれていないようで3人は会話に集中していた。


「私はディズィーと違って割と見ていたから分かるけどさ…それって必要なの?貴重な労力と資源を服なんかに費やしても職業として成立しないでしょう。というか許可が下りないと思うよ。」


「ナーフは夢が無いな〜。もしそうだったら良いなって話をしているのに〜。出来ないってことぐらいは分かってるよ。」


ナーフと呼ばれた紫色の髪をした少女は少しバツが悪そうな表情を浮かべて謝罪する。


「ゴメン…ちょっとぐらい夢見ても良いよね。私はあまり目標が無いからユーに嫉妬していたかも。」


この狭い空間で争いはそのまま命に直結する。最悪の場合はAIに目をつけられ不穏分子として処理されてしまうからだ。だが調整を受けて性格を矯正されるだけで済む場合もある。しかし突然別人のように振る舞う仲間を見たくもないし自身もそうはなりたくはないだろう。


なので彼女らはお互いに謝ることで問題は無いとアピールする必要がある。なにしろ監視カメラが常に自分達を監視しているからだ。


「ううん。私こそちょっと思いやりがない発言だったよ。こっちこそゴメン。私とまだ仲良くしてくれる?」


「うん!こっちこそ仲良くしてくれると嬉しい。気軽に話せる人がさ、私少ないしユーとはこれからも仲良くしたいよ。」


ここまでの会話の内容は育成プログラムによる影響が強く出た会話だったが、彼女達にとっては間違いなく本心であった。


「あ〜〜!!なんだよチクショウー!まだ見ている途中だったのに〜!」


突然男子の声が部屋の中をこだまする。だがそれはいつものことであり、誰も特に気にした様子もなく会話をそのまま続けたり横になって寝ていたりしていた。


その中で一人の少女がその男子に話し掛ける。男子は近付いてきた少女の存在には気付いていたが、端末の画面から目を離さずにジタバタと床の上を転がり続けていた。


「あんたまた通信量超えたの?まだ支給されて20分じゃない?しかもまた地球の資料ばっかり…。」


「なんで地球のデータってこんなに重いんだよ〜!ふざけてんの!?お〜ま〜い〜が〜!」


「なら見なきゃいいじゃん……。」


褐色の肌に茶髪のクセ毛の少年はいつものように文句を垂れながら周囲に相方とまで呼ばれている少女と軽い口喧嘩のような会話をし始めた。これはいつものことなので監視しているAIですら特に何も思わなくなっている。


「だって気になるじゃんか〜!あっ!マイ知ってるかっ!?」


その時バッと起き上がりA.P.0149のナンバーが付けられた少年が少女に自身の知識をひけらかす。この流れもいつものことである。そしてマイと呼ばれた少女は辟易とした顔でもちゃんと聞き手にまわっていた。情報を得るチャンスは見逃さない事はこのネストスロークで生きるためには必須技能。


なにしろ情報統制されデータ量も制限されている為に自身の欲する情報を得れる機会が非常に少ないからだ。


「…エピがそこまで言うのなら聞いてあげるけど?」


エピと呼ばれた少年は嬉しそうに語り始めた。


「地球ってさ大きいんだぜっ!?」


「へー…………で?」


「お前ばかっ、分かっていないだろう!?このネストスロークなんか比べ物にならないぐらいデカいんだぜ!スゲーよな〜。」


「あんたネストスロークの大きさ知らないでしょう。私達はこの居住区と私達が産まれた生産ラインしか知らないんだから。」


首を左右に振ってやれやれとジェスチャーをするマイにエピは食い下がる。


「だからそんな話してねえよ!壁や天井が無いんだぜ!?いくら走っても向こう側には着かないような世界なんだ…あ〜行ってみてえな〜。」


目の前に居るマイに対してかなり大きめな声量で話すエピの話を聞きつけたユーとナーフとディズィーの3人がマイとエピの2人に声をかける。


「エピって地球のデータを見てたんだな。いつも騒いでいたのは知ってたけど。」


「ねえ。良かったら私達にも聞かせてくれない?」


「情報の共有は人類の義務だからね。…その情報を統制してるのも人類だけど。」


彼らにとってこの世界の娯楽は情報の共有とコミュニケーションしかない。中には能力にのめり込んでそれを趣味とする者も居るが、大体の人にとって能力とは将来を決める物差しという認識である。


「いいぜ!」


エピは快諾し、マイも他の個体とのコミュニケーションを図ろうと会話に参加する。


「3人は地球について興味あるの?直接見たこともないのに良く興味を持てるわね。」


エピとマイの2人が3人の座っているテーブルの方へと向かっていき5人のグループを形成した。


「壁が無いってどんな景色なんだろう…。」


「それだと隣の部屋の子達に見られたりするのかな。」


「天井や壁が無いって事は照明も無いってことだよね。それだと暗いと思うんだけど地球に暮らしていた人達ってどうしていたんだろう。」


「ばかっ、太陽って星から光が照らされて明るいんだぜ?あのな太陽ってな、地球よりも大きくて…」


「また始まった…。」


5人の楽しそうな弾んだ声を白髪の少年と赤髪の少女が聞いていた。どちらもソワソワとしていて会話に入りたさそうな雰囲気を醸し出していたが、誰も気付いてくれていないので自分から話に加わらないといけないような状況に陥っていた。


だがこの2人にはそんなコミュニケーション能力は無い。地球に対しての関心だけは人一倍あるので、ソワソワとした様子からモゾモゾとした動きに変わっていく。その様子をAIが視認しレポートに書き込んでいく。


[R.E.0001_A.N.0588の2名にはコミュニケーション能力の著しい消極性と不器用さが見られる 調整も視野だが両名は稀に見るベルガー粒子量を誇る能力者のため調整は避けたいと考える 調整も100%成功する訳ではない 最悪のケースは脳が潰れてサンプルとしての価値も無くなることだ]


マザーとは違うAIである育成AIはどのようにして2人のコミュニケーション能力を高められるか模索する。演算領域をフルに使用し過去の記録から読み取って複数のパターンを想定、演算、再計算…………


「自由時間終了。90秒後にアリーナまで集合してください。繰り返します。自由…」 


アナウンスが流れ皆が一斉に立ち上がりアリーナと呼ばれるエリアへと向かう。そこはこの階層でも特に広く頑丈に造られた施設で、能力者が能力を行使出来る修練場といったエリアである。


そこで能力が確定した能力者達と未だに能力が未確定の能力者で一種の実技講習を行おうと育成AIは行動に移した。能力に目覚めきれていない個体が能力に触れる事で能力に目覚めるケースは少なくない。あの2人が能力に目覚めれば自然と将来について周りと会話する頻度が高まると考えたのだ。


「私アリーナ行くの初めて。能力に目覚めた個体達は行ったことがあるって聞いたけど。」


ユーとディズィーは会話を続けながら話題を地球からアリーナに変える。ユーはアリーナと呼ばれる施設に行った事が無いとディズィーに話した。


「前に行った時は走り回っても広くて人とぶつかったりしなかったから楽しかったな〜。」


異形型能力者の自分にとってはまだ少し狭いと感じる広さだったが、ユーのような少女には十分な広さだとディズィーは付け加える。アリーナの敷地面積は約3000坪。縦横100メートルずつの正方形の施設になる。


「いきなりみんなでアリーナっておかしい…何かあるとみた。」


まさか2人のコミュ障を直そうと育成AIが企画したデモンストレーションだとはつゆとも知らずに447期生全員がアリーナへと向かっていくのだった。

今日は明日は休みなんで執筆をしこたまやり始めます。

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