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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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ここで生きる意味

この話で4章は終わりです。

落ちていった先生が森の中へと消えていく様子を眺めても私は特に心配したりなんかはしていなかった。寧ろ私は自分達の身の心配をしていた。


「終わらせようか。」


蘇芳は先生を確実に仕留めようと高度を下げて地面へと降り立つけど……正直あれで倒せたとは思えない。先生は本当にとんでもない。先生の実際に戦っている姿を目の当たりにしているから、あのぐらいでくたばるなんてあり得ないと知っている。


「心配しないで。弱体化してるって言ったでしょう?」


もうナチュラルに私の心を読んで話している蘇芳を私はジト目で睨みながら話を聞くことにする。


「実はもう私達の敵じゃないから別にここで殺す必要性ないんだよね。というかもう殺しているからこれ以上相手にする必要性は無いって言ったほうがいいかな。」


「…本当に意味が分からないんだけどさ。でも蘇芳が言っているということは真実なんでしょう?なら私の理解力が低いだけって話だよね。」


今の精神状態だから頭が働いていないって理由もあるけど、私はこの状況から逃げたいって気持ちがあるのが大きな要因かもしれない。


蘇芳と先生とは絶対にわかり合えない関係性なのは見ていて分かるから和解しろとは言えない。言っても効果なんてないからね。でも2人はもっと住み分けをしてもらって不干渉を貫けば良いんじゃないかってとは思う。最初はそうしていたんだし。


「肉食動物と草食動物の間に和解なんて無いよ。私だって死にたくないからこうせざるを得ないだけで、私が悪者みたいには思ってほしくないんだけど。」


分かってるよ…だから止めないでいるんじゃないか。彼女だって必死なのは分かっている。脈も呼吸も早くなってとても緊張しているのが見ていて伝わってくるから。


彼女はまだ中学生の年齢なのにこうやって先生と立ち向かっているんだから緊張したり不安になったりするのは当たり前だ。だから私は彼女を否定しない。先生が蘇芳を殺そうとしているのは分かっているから。大人しく殺されてなんて思わないし言わないよ。


「私は死神には殺されないから安心して。」


地面の上に降り立つと私は解放された。身体の軌道も私の意志で動かせるし脇に抱えられることもない。私は先生の下へと歩いて向かう。


「先生…?」


「くっ…これは一体どういうことだ?」


さっき蘇芳につけられた傷を直せないらしく先生が地面に倒れていた。先生の能力と性質なら一瞬で直せても不思議じゃないのにどうして?さっき弱体化してるって言っていたけどそれに関係している?


「死神の目的が果たされようとしているからだよ。」


後ろからついてきた蘇芳が死神をゴミを見るような目で見下ろしながら説明してくれる。


「死神の望みは平穏な世界を創り出すこと。でもこれは正確じゃない。恒久的な平穏ではなく一巡目の世界へと向かわない事が死神達の真の目的。」


蘇芳の言う達って事は先生とアネモネのことだよね。あの2人の関係性とか何も知らないけど同じ志を持った仲間だということはなんとなくだけど察している。


「だからね。私がその望みを叶えてあげる。」


え?蘇芳が敵対している先生の望みを叶える…?


「蘇芳…お前は最初からそうやって私達を排除しようと動いていたんだな。」


「待って、どういうこと?先生の望みが叶えられると先生が排除されるってどういう繋がりがあるの?」


私は蘇芳に質問した。彼女がこの中で一番状況を知っているからだ。


「ん〜〜……言ってもいいのかな……。」


私に真実を伝えるのを迷っているようだ。このタイミングで知ることがどういう影響を与えるかを考えているみたいに感じる。


「えっとね、簡単に言うと死神の望みが叶えられれば死神はこの世から消える。ただそれだけのことなんだよ。だからその役割をお姉ちゃんに託せば自分達はその役割から解放されて消えることが出来る。まあ私がそんなことさせないけどね。」


先生がこの世から消える……?どういう理屈なのそれは。役割から解放されると消えるって理屈はどう考えてもおかしいよ。


「全くおかしくないよ。だってお姉ちゃんはその理屈をよ〜く知っているからね。」


私が知っている?なぞなぞの類いの話なら私は苦手だならちゃんと言ってほしい。


「……言うなそれ以上は。知らなくていい事も世の中にはある。ミヨが知らなくてもいいんだ。私達が勝手にやったことなんだから責任を感じさせたくない。」


先生は無理やり立ち上がり私と見合う。先生は傷が深いのかもう戦えそうにない。血は出ていないけどなんかさっきよりも()()()()()()()()()()()()


「お姉ちゃんを完全に巻き込んできて今更それは通じないでしょう。」


巻き込まれた……かな?私が先生を巻き込んだと言ったほうが合っていると思う。だって私は蘇芳にずっと前から目をつけられていたんだし、私に関わるってことは蘇芳とも関わることになる。そのせいで今の状況になっているんだし私が先生を巻き込んだのが正解だ。


「お姉ちゃんはそんなことを考えていないで早く死神が消える理屈考えてよ。」


「…そんなことを言われても分からないし分かりたくないよ。もうここで止めよ?先生も蘇芳には勝てないって分かったんだから手を引いてください。」


私は蘇芳と先生の間に立ち、どっちが動いても私が干渉出来るような位置取りを取った。蘇芳には勝てなくても先生を逃がすことぐらいは出来るし、今の蘇芳に私の能力を貸し与えているんだから殺されたりはしないだろう。


「バランス関係は決まったんだからもう戦うのは無し。それで良いよね2人とも。」


私が死ねばこの関係性は崩壊しまた殺し合いになる。だから私は生きないといけない。先生も蘇芳も死なせたくないから。


「…お姉ちゃんがそう言うなら私は死神に対して直接的には手を出さないよ。もう殺したも同然だしね。」


「…ミヨがそう言うならワタシも引く。だがミヨになにかあれば蘇芳…お前は差し違えてでも殺すからな。」


なんとか矛を収めてくれだけどこの2人…仲が悪過ぎる。私が目を離したら先生なんか絶対に手を出しそう。


「出来ないことはもう確定しているんだから勝手に言ってたら?たかが亡霊の思い残しの存在のくせに。」


「ミヨの能力が無ければワタシに干渉することも出来ないガキが…。虎の威を借る狐とはお前のことだな。」


亡霊…それに思い残しか。今までの蘇芳が言った内容をまとめると先生がどういう存在なのかは色々と推測出来る。でも今はこの2人が一時的なのかもしれないけど休戦してくれて良かった…。


「じゃあ私達は帰るから。」


蘇芳が私の手を引く。……手が冷たい。つまり今の彼女は臨戦態勢ってことだ。逃げるために足に血が回っているから手先に血が回らなくて冷たくなる。口ではああ言ってもやっぱり先生を警戒している。多分私が間に立つ事は不確定だったんだ。彼女は私が間に立つ事を期待していたんじゃないかな…。


だから蘇芳はすぐにこの場から離れたい。多分先生は本当に全力を出せば私も蘇芳を無かったことに出来るのだろう。そうじゃないと彼女が昔から警戒したり対策を打ったりしない。やっぱり蘇芳にとって先生という存在は天敵なんだろうな。


『余計なこと言ったら怒るからね。』


パスを通じて口止めをされる。やっぱり私の予想は合っていたらしい。彼女の今までに言った内容は真実なんだろうけど別にそれが全てじゃない。先生にとって確定された過去や未来は変わる。だからこそ蘇芳にとって天敵になり得るのだろう。


「伊弉冉に会いに行こう。色々とこれからの事を話したいし。」


「うん。それは私もそうしたい。だけど…」


後ろを振り向くと少し悲しそうに私を見送る先生が見える。ボロボロになった先生は見ていられない哀愁を放っていた。


「いいからっ。はいテレポート。」


蘇芳が美世のパスを通じてテレポートを行使した。森の中には死神だけになり1人取り残された。


「………」


後悔しかない。何故もっと上手く立ち回れなかったのか。もっと早く蘇芳を殺しておけばこんなことにはならなかった。ただミヨを悲しませて巻き込んでしまっただけだ。


そんなぶつけようもない虚無感を抱えて森の中に佇んでいてもしょうがないと死神は東京に戻る事にした。彼が目を瞑り目を開ければ都会の喧騒が聴こえてくる。


彼は一瞬で位置をずらし瞬間的に移動することが出来る。死神の移動先はどこかのビルの屋上、彼は街を見下ろしてその光景を目に焼き付ける事で自分の目的を再認識する。


それから彼の姿は元の姿に戻っていた。傷は消えて服装も髪も元通りになりポケットに入れていたスマホも修復されている。


その証拠に死神のスマホに電話が掛かってきた。死神は耳に当てて電話に出る。彼の番号に掛けてくる者は組織内でも限られている。中でも正体を知って掛けてくる者はこの世に2人しか居ない。


「…ワタシだ。…何かあったか?」


いつもならすぐに要件を伝える相手だと知っている。なのにいつまで経っても要件を言わないことに死神は疑問を持つ。自分が消息不明にはなっていないことを知っているのにだ。


[…創始者が最後にあなたに逢いたいと申しています。]


「…今すぐに向かう。」


今日は彼にとってショックな出来事が多い一日だったが、この電話が一番ショックな内容だったらしく死神は耳からスマホを離して呆然と立ち尽くす。だが彼に休む時間は与えられていない。それが自身に与えられた役割なのだから。


「ーーーワタシがこの時代に来たことは間違いだったのだろうか。」


その問いに答える者も答えられる者は居なかった。再び死神の身体はその場からかき消え、平穏な世界を創り出す為にまた活動を始めていく。まるでそのためだけに存在しているかのように…

次回から5章を書くか、ちょっとした小話を書くか迷っています。

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