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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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決別の時

ここからは私の理解出来る範囲を超えた内容が蘇芳によって語られる。彼女曰く…


「問題を解決する為に来てくれたのは感謝するけど問題となるベルガー粒子をそのままにして二巡目にしたのはあなたの失態。一巡目になかった問題をあなたは創り出してしまった。」


先生は神妙な顔でそれを聞いていた。私はなんのことを言っていて、どういう問題を2人の中で共有しているのかすら私は想像がつかない。


「三巡目へと向うときにあなたが居ると更にベルガー粒子を持ち込むことになる。あなたという本物の特異点では完璧なやり直しは叶わない。」


…私がここに居る事が場違いに思えてきた。彼女達は世界そのものについて言及しているけど、私はただの殺人者。父親と母親を殺したただの精神異常者に過ぎない。


だから私は彼女達のように世界を考える資格すらないと思っている。………なんか、無性に家に帰りたいな。


「でも美世お姉ちゃんならそれは可能。お姉ちゃんが…」


「記録したものを削除するか、持ち込みをするか選択出来るんだろう?ミヨの能力の射程と効果範囲なら可能だろうな。」


…なんでいつもそういう時に私の名前が挙がるんだよ。どうして私がそんな役割が与えられているんだ。別に私の能力がそれに適しているだけで私個人には特に意味はないでしょう?


それこそパスを繋いだ蘇芳がやれば…………ああ、そうか。だから蘇芳は私に生きていて欲しいんだ。だから私が大切で大事な存在なんだ。やっと納得がいったよ。家族というか、姉妹というだけであんなにも私に対して思い入れがあること自体がずっと不自然に感じていたけど……そういうわけね。


確かに私に死なれては困るだろうな。私が居れば特異点になれるし私の【探求(リサーチ)】が使える。仮にだけど私が死んだら蘇芳はこの二巡目の世界に留まり続けるしかなくなる。


多分彼女は私以上に三巡目の世界に行き着きたいのだろうと思う。何故かは分からない。彼女はあまり自分の目的や感情を話していないからね。敢えてそうしているのかもしれないし、無意識で自分の感情を話そうとしていないのかもしれない。


だがそれは先生も同じ。この2人はしなければならない事やしようとしている事は話しているけど、何故そうしたいのかは明言していない。


ちゃんとした理由はあるはずなのにそれを口にしないのは私がこの場にいるからだろうか。もしそうなら理由は私と関係があることになる。………また私だ。


去年までは仇討ちだけを目標に日々を過ごしていた。そんな日々から一転して今年はどうだ。私を巡って新しい世界線の話になっている。


常人の精神とは程遠い私の精神でもこんな話を聞かされれば擦り切れたり摩耗したりする。


もう私は疲れてしまった……。しなければならない事やしようとしている事は分かっているのに身体が動かない。無性にあの家族の顔が見たい…。


「分かっているのなら話は早いよね。ここで終わってくれる?」


「え、おわっ!」


突然私の身体が浮いて蘇芳の下へ引き寄せられる。その独特な浮遊感に私はある事に気付いた。


これって軌道の操作じゃない……この宙に浮かぶ感覚は念動力(サイコキネシス)っ!?蘇芳…あなた私以外にもパスを繋いでいるの!?


「パスの存在を知っていて活用しないわけ無いでしょう。私が戦闘面で何も出来ないと勝手に思い込んでいた?」


小さな身体で私を脇に抱えてそんなことを言う彼女は……その……あれだ………とても私っぽい。


「…あんた、間違いなく私の異母妹だわ。めちゃくちゃし過ぎるもん。」


私は異母妹に抱えられたまま抵抗を止めた。というか出来ない。がっちりと私の軌道が固定されてしまい抵抗しようと能力を行使しても身動きひとつ出来ないからね。


これで蘇芳が私よりも強力な能力者ということが確定した。私よりも脳の開拓領域も処理速度も上とは驚いたよ。それなりに能力者として自負があったけど上には上が居るみたい。


「ミヨを離せ…!」


先生が私達の所まで全速力で突っ込んできたっ!?ヤバい速すぎるよっ!!私の能力でやっと認識出来る速度で間合いが間合いとして機能しない。


「はいバリア。」


蘇芳の前に直径10メートル程の不透明な壁が構築され先生と衝突する。その衝撃は蘇芳が行使したバリアの表面を波立って全方位に拡散し周囲の木々を薙ぎ倒した。


「ウゥ…!」


バリアのおかげで私達は先生の突撃は直接衝突しなかったけど、その衝撃を直径10メートル程のバリアでは全てをカバーしきれる訳もなく空気を伝って私の鼓膜を激しく揺さぶる。異形系の頑丈な身体でも鼓膜だけは柔いから三半規管にも影響があって目眩がしてきた。


でも蘇芳はその辺抜かりはないようで、私よりも身体の強度が低いことを見越して自身の身体の周りに薄い膜のようなバリアを張っていた。……私にも張っておいてほしいんですけど。


「自分で出来るんだから自分で張ってよ。」


人の心を読んでさっきから話しているんだから張ってよ!私お姉ちゃんだよ!異母妹なら気を利かせて!


「はいはい。」


そう軽く流す蘇芳はとても楽しそうに私の目には見えた。


「…ミヨ、もし死んでも生き返らせてやるからな。」


こっちはこっちでヤンデレみたいな事を言い出したんだけど!?ていうかさっきの突撃絶対に私の巻き込まれていたよね!?ヤバいって!


「あれ?お姉ちゃん死にたかったんじゃないの?」


流石に先生に衝突して死ぬのはゴメンだよ!それに先生が居る限り私は死ぬことが出来なさそうだしね!


「死なせない。必ず取り戻す…!」


先生の身体から怪腕が八本も生えて腕を引いて構え始めた。


…これは本当にマズい!この距離でこの能力を受けるのは不可能だから!


「蘇芳…っ!」 


あの突撃の比ではない。こんなバリアは紙切れ同然に粉砕され私達はミンチになってしまう。


「分かってるから。」


口ではそう言っても緊張しているのか、蘇芳の額には汗が滲み服の上からでも体温が上がっているのが分かる。


「【堕ちた影(エトンヴェ・オンブル)】」


影が地面に拡がって盛り上がり私達の身体とその周囲を完全に包む。そしてその次の瞬間には影の中に八本にもなる怪腕の軌跡が描かれた。


…衝撃はない。無音の中で私達は先生の攻撃をやり過ごす事に成功したようだ。


私達の身体に怪腕の軌跡が重なって見えるから心臓がバクバクになっている。もしこれが影の中では無かったら私達の身体はこの軌跡の通りに吹き飛ばされて削除されてしまっただろう。そう考えると生きた心地がしない。


いつも私は怪腕を振るう側だったから振るわれる側になってこの能力の恐ろしさに気付けた…。


「次が来るからちゃんと思考してて。お姉ちゃんとのパスを通じて能力を行使しているから綱渡りなの。」


私達は地面から離れて空へと逃げようとするけど、先生は当たり前のようについてくる。


「なら私を自由にして。流石にこんな形で死にたくないし自衛はするから。」


「それは駄目。ここで死神を殺すから。そこにお姉ちゃんは関わらせない。もう殺しはしなくていいよ。…【振動(ヴァイブレーション)(ヴァーグ)】」


蘇芳の手から凄まじい振動波が放たれる。近くに居る私の骨が振動して痛みを感じるほどの振動は先生にぶつかると……


「くっ…!」


防ぐ手段が無い先生には効果的に作用し、一時的に行動を阻害することに成功する。でも先生は普通の身体ではないからあれぐらいじゃ致命傷にならないだろう。…私のお母さんと似た性質だと思うから。


「まだ終わらない……【振動(ヴァイブレーション)(ヴァーグ)】!」


今度は振動を波としてではなく空気を振動させてそれを刃のように飛ばす。彼女はサイコキネシスと併用して空気と振動を一緒に飛ばした。それが先生の身体に当たると鋸のように斬りつけて服と皮膚を裂いた。ここで先生に対して初めて傷らしい傷をつけることに成功する。


「…特異点相手では軌道の身体でも傷付くか。」


左肩から右太ももにかけて斜めに切り傷がつけた先生が森の中へと落ちていく…。私はその光景を上から見続けていた。

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