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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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悪魔の脚本

ラストパートです。

これからどうしたものか。私達はこんな未来は望んでいない。誰かが不幸を背負って代わりに誰かが幸福になる未来なんて望む訳がない。もし不幸を背負う誰かが必要なら、それは私達が引き受けるべきなのだ。


それが道理というのに天狼は全てを背負い込み私達にミヨを託した。…だがワタシには荷が重過ぎる。もう私達に残された時間は多くはない。この限られた時間で出来ることなんて限られている。


「なあ…これからどうしたらいいと思う?」


私の腕の中で目を覚ましていた美世がワタシの目を見ていた。そして彼女は目を覚まして開口一番に私に批難の言葉を浴びせる。


「なんで…天狼さんを止めてくれなかったんですか。約束してくれたじゃないですか。私はやり遂げたいって、先生はその時に何も言わないで送り出してくれたのに…!」


ミヨのハハが死んだ後、ワタシが彼女と対話を試みようとした時に言われた事だ。ミヨには仇の心当たりがあるらしくワタシはそれを止めなかった。…止められなかった。ただ沈黙をし続けてそれを肯定してしまった。


「彼女の意志だ。ミヨを優先した考えにワタシも賛同した。すまない…。」


何に対して謝っているのだろうか。ミヨに対してか?それとも天狼に対してか?ワタシはワタシが分からない。この感情が正しく再現されたものなのかすら私達の誰にも分からない。


「…当たってしまってごめんなさい。降ろしてください。もう大丈夫なので。」


ビルの屋上に居たワタシはミヨを屋上の床に降ろした。ここなら人に見られることもない。


「…どうしたらいいんでしょう。いや、天狼さんを止めないといけないのは分かるんですけど…。なにをどうしたらいいのかっ…。」


「ーーー彼女の事は一旦保留だ。」


「え?」


美世はその言葉に反応し死神を見た。どうしてそんなことを言うのか問いただそうと考えたが、死神にはちゃんとした狙いがあるのか美世の目を真っ直ぐ見ながらこう続けた。


「この状況を望んで仕組んだ奴が居る。これ以上後手に回らない為にも私達はそちらから攻略する必要があると思う。」


この状況を望んだ者…確かに1人居る。彼女が行動したからこうなったと言っていい程に影響があったのは事実。もしこうなるのが彼女にとって利益になるのなら私達はそれを知らなければならない。


「会いに行きましょう。…場所は、分かってます。」


時と場所は変わり、森の中を歩く1人の少女が居た。白いワンピース型のスカートを着てリボンのついたキャペリン型の帽子を被っており、靴は編み上げブーツで山を歩くには少し心もとない。だが彼女の足取りは軽やかなもので今にも踊りだしそうだ。


「フ〜ン♪フフフーン♪」


…実際に踊りだしていた。バレエを思わせるようなターンを決めてから地面が隆起した丘の下へと向かっていく。


そして急な斜面に背中を預けるようにし正面を見た。彼女の視力は完全に奪われているが、そこに2人が居ることを知っている。それが特異点であることもだ。


「さっき振りだね美世。…先ずは言わせて。お母様の事はお悔やみ申し上げます。…本当にお母様のことは残念だったね。」


蘇芳の前に現れた2人、この2人も森の中を歩くには適していない格好だったが、別に山登りに来たわけではない。彼らは話を聞きに来たのだ。彼女がどこまで分かっていて行動したのかを問わねばならない。


「私がお母さんを殺すのを知っていたの?」


美世は直球に聞いた。余計な事を考える余裕も気力もない。彼女はここに来るまでに両親を殺している。そのメンタル状態は最早形容のしようがない。


「うん。知っていたよ。」


ここの時点で手が出そうになるが死神に手で制され行動には出さなかった。


「なんで言わなかったの?私に死んでほしかった?それともお母さんが邪魔だった?」


この世界の能力者達にとってお母さんは確かに脅威だった。だから私を使って殺させたのだろうか。…でも、それだと先生で十分対処出来たように感じる。


頭が働かないけどそれぐらいは分かる。だから気になるんだ。蘇芳は一体何を知って行動していた?これが分からないとまた天狼さんの時のような事が繰り返される。


「勘違いしているようだからこれだけは先に言わせて。()()()()()()()()()。これは絶対。あなたにとって不利益になることは決して行なわない。」


こんなのは口から出たでまかせだと美世は考えたが、死神は違う。彼女が嘘を言えない事は分かっている。だから蘇芳の言った事は真実であると死神は考えた。考えた上で疑問が生じる。あれがミヨの為になるとは到底思えないからだ。


「ーーーワタシから一つ聞きたい事がある。」


死神が再確認とも言える質問を投げ掛けようとした。


「ええ、良いですよ死神。どうぞ…」


蘇芳は笑みを浮かべて快諾する。


「お前の目的は天狼を排除し、ワタシをも排除することではないか?」


「先生…それはっ…。」


確信はある。蘇芳にとって邪魔なのはワタシと天狼ではないのかと。何故なら天狼はミヨと血が繋がった優秀な能力者だ。()()()()()()()()()()()()


蘇芳にとっては特異点はミヨ1人だけで良い。他にも特異点が居れば自分の思い通りに出来ないからな。


「んー半分正解?正確に言うと半分以下だけど…、あなたの性質でそこまで考えられたのなら及第点でしょうし、半分ってことにしてあげましょう。」


この状況下でも余裕そうな感じの蘇芳を美世は怪しむ。なので今度は美世から蘇芳に質問を投げ掛ける事にした。


「その半分って天狼さんが目的ではなく先生を殺すことが目的って事…?」


狙いはあくまで先生で、その為に私と私のお母さんを利用した…。もしそうなら私はここで彼女を殺す。でもそんなことをすれば私に殺されてしまう事を彼女は分かっていた筈だ。私は…殺ると決めたら、肉親だって殺す。それを知っている彼女がこんな展開を望むか?


「フフフッ…美世はちゃんと考えてくれるから好き。私が何をしようとして、何を望んでいるのかをちゃんと理屈で考えてね。さっきの美世の質問に対しての答えも半分正解だよ。」


また半分…?つまり何かが違うんだ。先生の事は正解なのだろう。でも意味合いが違うのか?殺すのが目的ではない…?


「死神は()()()()()。だって…」


「蘇芳。」


先生が蘇芳の声を制すように遮った。この反応からすると先生は分かっているみたい。でも蘇芳は気にせずに言葉の続きを口にする。


「そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()。だから半分だけ正解で半分不正解なの。」


分かった…。蘇芳は私に情報を言うためにこんな場所を選んだんだと私は察する。ここは私がお母さんを生き返らせた場所。ここなら誰にも聞かれないし認識されない。彼女はここで勝負に出ている。


「…それ以上私達の事を口にすれば首が飛ぶぞ。」


先生から殺気が放たれる。隣に居る私が一番その殺気を感じたけど、今の私にはそれを恐ろしいとは感じられない。多分生きたいという欲求が無いからだ。いつ死んでも構わないから殺気が脅しにならない。例え先生に殺気を向けられても何も思わないだろうな。


「はいはい。知ってるから口にしないでいいよ死神。」


「…では話を戻すが目的がワタシであることは変わらないんだな?お前はワタシを排除するためにミヨとそのハハを利用したと認識していいな?」


先生は怒っている。こんなに怒っている先生は見たことがない。いつも優しげに私を見守っていた先生とはまるで別人だ。


「美世と美世のお母さんは利用していない。利用したのは死神、あなたを利用したの。」


「何…?ワタシを利用した?」


蘇芳はここまでの経緯や目的を語り出す。


「あなたを排除する事は別に難しいことじゃない。問題だったのはあなたを排除すると美世が特異点では無くなってしまうこと。パスが強制的に切れて時間操作型因果律系能力がこの世界から消えてしまう。それは私が最も恐れているルートなの。」


「…そうか。あなたが仮に私を特異点として欲しているとしたら、先生が居なくなってしまう事は特異点としての私を失う事になるのか…。」


蘇芳は自分の死を回避するために私を欲した。確か一番最初に会った時に先生が蘇芳を殺すことはこの2巡目の世界では確定していると言っていた。だから先生に対して特異点である私が必要とも言っていたような気がする。


「そう…!考えて考えてッ!美世なら私の目的が理解出来るはず…!美世の望みは私の望みと合致しているんだからっ!」


普段の彼女からしたら珍しく声量を大きくして言葉を発している。それだけ興奮しているのだろう。今の蘇芳は美世のことで頭がいっぱいになり仮面が外れかけている。大人しそうな見た目とは裏腹に彼女の内面は苛烈そのもの。生き残るためには死神と敵対することも辞さない。


「お前の望みが叶うことはない。今ここでお前が死ぬからだ…!」


死神が蘇芳の下へ歩き始めた。しかし死神の身体が不自然に止まってしまう。彼の身体は軌道で構成されているので彼自身の意志で自由に動かせるのだが、死神の意志とは別の要因で彼の身体は硬直している。


「み、ミヨ…!?何故止めるんだっ!?」


「…ちょっとだけ待ってください。まだ彼女に聞きたい事があるんです。…蘇芳、私が自力で()()()()()()()()()()()()()()()?」


美世は蘇芳と話し始めてずっと引っ掛かっている事があり死神を止めた。これは能力者としての勘が働いた咄嗟の行動だ。この引っ掛かりを解決しないで蘇芳を殺すことはあり得ない。


「…自力で?まさかあの空間から出られたのはあの女の能力ではなく、美世がワタシの能力を記録し、コピーしたからなのか…?まさかそこまでの精度とは…」


死神は更に驚愕する。まさか自分の能力を完璧にコピーされるとは考えもしていなかったからだ。


(あの短時間で記録し行使出来るような代物ではないのにミヨはやり遂げていたのか…。)


「そうだよ♪これで死神、あなたはもういらないの。もうあなたを怖がる必要はないし、私と美世の望みは叶うんだから。」


さっきから蘇芳の言っている望みってなんのことを言っている?私の望みでもあるって言い方だけど、今の私の望みって言ったら…


「天狼さんを助けられるの…?」


その言葉に蘇芳は更に笑みを深めて答えた。


「前に言ったでしょう?天狼を仲間にすれば死神を倒せる…ってね。」

あと多分5話以内で4章が終わるかな。

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