リベンジマッチ
戦闘描写は書いてて楽しいです。
時刻は18:50を回り空も薄暗くなり始めて車の騒音が遠くから聴こえる。
周りには障害物も人も居ないこの広場で私は一人待ち構えていた。
(…緊張する。いつも追う側で待つ立場に慣れていないからソワソワする。)
自然公園の中央を陣取ったけどもう少し考えた方が良かったかもしれない。ただ決闘=中央という浅い考えでここに立ってるけど、なんかバカ丸出しで嫌だな。
(でもここ辺りはマッピングが済んでるから動く利点が無いけどね。)
私の半径100メートル以上の範囲をドーム状にマッピングされているから空から宮沢みゆきが来てもすぐに気付ける。それに時間が経つほどここ一帯は暗くなって視認性が悪くなるけど、それは私にとって有利に働く。相手は視認性が悪くなるけど私は相手の軌道もベルガー粒子も認識出来るからね。暗くても関係ない。
でも私にとって有利な条件が揃っているにもかかわらず不利な戦いでもある。真正面からの戦闘とか正直言えば【探求】が腐る場面が多いし銃も6発という制約あるから外したら一気に不利になる。
もう一度周りをぐるりと確認すると、障害物のない平野が広がっているのが見える。
(先生から銃の使い方のレクチャーをしてもらったから問題無い!…と思いたい。)
『先生まだ居ますか?』
『ああ居るぞ』
振り向くとポケットに両手しまって佇む先生が居た。ちょっと可愛い。
『では約束通りお願いしますね。』
『ワタシのベルガー粒子をパスを通じて渡す 分かっていると思うがミヨの脳ではワタシのベルガー粒子をコントロールしきれない ベルガー粒子量はコチラで調整するがタイミングはミヨに任せる』
私と先生との間にあるパスを認識する。この繋がりが私に勇気と安心感を与えてくれる。
『必ず勝ってみせます。だから私の勇姿を見ててよね先生!』
『ああ見守ってるから全力で闘いなさい 後処理はコチラで行なうから後の事は気にしないでいい ミヨはこの闘いだけに集中しなさい』
少し困った様な顔でとても頼りになることを言ってくれた。
《来たな…》
先生が空を見上げる。
(大丈夫です先生。私にも視えますから。)
私も空に目を向けると対象となる能力者が空から現れた。
「5分前行動なんて真面目なんですね宮沢みゆきさん。」
私の挑発にも動じずに微笑をたたえたまま降臨する主人公の宮沢みゆき。
「女子高生を殺せるのが楽しみすぎて速く来ちゃった。」
安い挑発にブチギレそうになる悪役の伊藤美世。
『ーーーベルガー粒子が乱れているぞ』
ツッコミが正確無比の先生。
宮沢みゆきが地面に降り立ったので私はそれを殺し合いを告げるゴングとして解釈し、左手を向けてくいくいと挑発した。
「オイ初手は譲ってやるよ。かかってこいよメンヘラドブスサイコキラーサイコキネシスオバさん!」
私の挑発に耐えられなかった宮沢みゆきは腹を抱えて笑い出す。
「何それ〜!あははひひひおっかしい〜〜!それ自分で考えたの?すっごーい!ひっひひひひ!」
こめかみの血管がブチギレそう…ヤバい早くコイツを殺さないと私、身体中の血管ブチ切れて死んじゃう。
「あーはっははは〜。分かったよその面白い挑発に乗ってあげるよ!リベンジだもんね!ひっひひ!」
馬鹿みたいに笑っているが宮沢みゆきを包む紫色のベルガー粒子が凄まじい輝きを放っている。
…来る!
宮沢みゆきの周りの地面が隆起する。隆起した土の塊が5つ出来上がり彼女の周りを浮遊しながらこちらに照準を合わせる為に停止させた。
(やっぱりこいつ人に対して能力を使う事に躊躇いが無い。あの時の反撃も早すぎだと思っていたけど。)
ここで殺さないとこれから先、彼女が今よりもっと危険な存在になるだろう。この問題を処理するのが私の仕事…平穏な世界を作る為に必要な工程だ。
「ねえ一応聞いておきたいんだけど、わたしが投降したいって言ったら保護してもらえたりするの?」
ここに来て宮沢みゆきがつまらない事を言う。そんなのありえないし組織としては受け入れられないだろうな。
「それは無理。あなた達のような危険な能力を人に行使する能力者は必ず殺すってのが組織の決まりだから。」
「アナタだって危険な能力を人に使ってるじゃない。わたしと何が違うのかしら?」
「宮沢さんと私の違いは平穏を望むかどうかだと思うよ。宮沢さんは人の世を混沌に導くバグみたいなものだよ。」
「ひっどいなー。1人殺しただけで殺されるって等価交換としては正しいのかもしれないけどさ、アイツよりわたしの方が価値があると思うんだけど。」
「宮沢さんの価値は組織が決めるの。あなたの様な馬鹿の価値観なんて社会は考慮しないものだよ?」
流石に苛ついたのかベルガー粒子が少し乱れて土塊が揺れる。
「何で組織が危険な能力者を殺し回っているか分かりやすく説明してあげる。組織はこれから先も能力者の存在を隠し切れるなんて考えていないの。いつか能力者は世間に公表される。だから私たち能力者がこの社会に受け入れられる為に準備をする必要がある。」
そうなのだ。組織は能力者の存在を秘匿しながら公表する準備を整えている。雪さんに聞いた時はビックリしたけど納得もした。ネットが普及したこの世界で能力者の存在を隠すのにも限界がある。
「だから能力者の印象を良くしておく必要があるの。人間はよく分からないモノを拒絶する生き物であり危険な生き物を社会に置いておく器量を持たないからね。分かるでしょ?」
あなただって拒絶されて社会からはじかれた側の生き物でしょう。
「だから保護して隠すか殺して無くすかの2択なの。」
「そんな理屈押し付けないでよ!私はただ幸せに暮らしたいだけだよ!?殺したのだって幸せの為に必要な…」
私は宮沢みゆきが話している途中に割り込む。
「だからみんなが幸せに暮らす為に必要な事なんだって!あなたはみんなの幸せの為に不必要なの!その能力だったらいくらでも殺せるし壊せるでしょうがっ!」
「違う…違う違う違う違う違う!わたしみたいな弱者にはお金も力だって必要なものでアナタみたいな子供には分からないことなのよ!」
「子供はあなたでしょ?人殺した時点で警察に出頭したら宮沢さんを保護してたよ。それなのに遺体を山に隠してお金も色んな所から奪ってさ。通らないでしょ…今更そんな理屈。」
宮沢みゆきは苦虫を噛み潰したよう表情を見せる。
「昔は組織もそこまで強硬手段をとっていなかったらしいよ?危険な能力者だって保護したら施設に収容してさ。でも収容された能力者達が施設に働いている職員全員殺してその家族まで手にかけたんだって。」
宮沢みゆきはただ私の話を聞いてる。
「元々施設に働く人達は危険に晒される事は重々承知だった。だから職員は全員希望制だったらしいよ。能力者だって人なんだから殺すんじゃなくて長い時間を掛けて教育すれば社会に適応出来るって理念を掲げてさ。いや〜凄い人達だよ。宮沢みゆきさんもそう思うでしょ?」
宮沢みゆきも私の言うことに否定はできなさそうだ。
「しかもその理念を掲げた所長さんの奥さんと娘さんは女性として生きていけない傷を心と体に負わせておいて自分達は被害者だって言ったらしいよー!?まるで宮沢さんみたいだね!?こんな奴らほんとうに必要かな!?アッハハ!要らねーよ!!」
お母さんを殺した奴も目の前に居るお前も要らない。絶対に必要のない社会のゴミ野郎共だ。
「宮沢みゆきは私たち能力者の印象を下げて邪魔になる。だからお荷物はお片付けして綺麗にするのっ。」
『その通りだ この世界には必要の無いものは排除しなければならない』
先生が背後から私の耳元で囁くように肯定してくれる。その事が堪らなく嬉しい!
「だからね…さっさとかかって来いよ宮沢みゆき。」
宮沢みゆきの目に殺意と理不尽に対する拒絶の意思が宿る。土塊が怒りで震えるようにぶつかり合う。
「死ねええええ!!!!」
土塊が2つ高速回転し始めて土のかけらが辺りに散らばせながら回転によって空気が震え轟音が鳴り響く。
サイコキネシスによって直径1メートルを超える土塊が時速100kmで撃ち出させれる。その質量と速度で凄まじい威力を秘めた土塊が伊藤美世の視界を埋まるほどに至近距離まで向かってくる。
『ワタシのベルガー粒子はすでに渡している あとはミヨが好きにするといい』
ベルガー粒子が身体から溢れかえる。凄い!こんな量を扱えるか分からないけどここは贅沢に使おう!
【再現】にリソースを割いて軌道を再現する。私は左腕を土塊に向けて振るうと、左手と土塊がぶつかり合って土塊が砕け散る。
1つ目の土塊が私の軌道と重なって土煙に変わり2つ目の土塊を左腕を振るった勢いのまま左足を回し蹴りの要領で“再現”する。
再び土塊が土煙に変わった…しかし、伊藤美世に土煙がかかることは無くそのまま左足を地面に下ろして左手を構える。
「これでお終い?」
そろそろ第二章も佳境に入りました。




