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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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御対面

こんな御対面はごめんです。

アネモネの記憶を再現した空間に居た私はループという牢獄に閉じ込められていた。何をやってもベッドの上に戻されて次へ進むことが出来ない。


しかし私は41回目のループの所で脱する事が出来た。その方法を語る前にこの空間の仕組みや特性について説明しようと思う。この空間ではある程度の行動と時間が経過すると開始地点に戻されるという特性を持っていた。


なのになぜ私がループしているという自覚や記憶があるのか。そんな疑問を抱いたのがこのループの脱出に繋がるきっかけになった。 


先生の能力である“時間操作型因果律系能力”において記憶というのは重要な要因だ。例え事象を観測していても記録をしていなければどこで原因が起きて、どういう結果に至ったのかという因果関係を認識する事が出来ない。


その点私の能力“非接触型探知系能力”の【探求(リサーチ)】は射程圏内全ての情報を記録し保存する。この特性のおかげで私はループしても記録を閲覧し前のループを認識することが出来た。


でも最初は今現在が何回ループしているのかという自覚だけで、その時は先生との能力と私の能力が拮抗した結果、ループをしているという認識だけを知覚しただけだと思う。


つまりこれは私の脳の処理が先生を上回ればループを脱せるという示唆だった。だから私は先ずセーブポイントは作り出す事にした。


セーブポイントに利用したのはあの透明な容器に入っていた青い瞳。あれは丁度いいセーブポイントになった。あれを見つけたという結果と、そこまでの過程、そして何故見つけようとしたのかという原因。この因果関係を記録し続ける事で私は時間操作型因果律系能力への扉をこじ開ける事に成功した。


そもそもの話だけど、私には時間操作型因果律系能力なんてものは無い。今まで使えていたのは先生から借りていたからだ。


しかし私は長い間それを行使し続けていた。そしてそこまでの経緯や結果は無かった事にはならない。あれだけ能力の奥底まで行使していた私の脳はとっくに時間操作型探知系能力者の脳へと変化をしていたらしい。


そして私は気付いた。私は先生から能力を借りていなくても行使している。でなければ記録するという結果すら巻き戻されていた筈だ。そう認識した時には私は今まであったいつも通りの感覚を覚えた。


その感覚は間違いなく時間を操作し因果律を操る感覚で、私は時間操作型因果律系能力を行使してこの空間を支配した。


そう、私は最初から行使していたんだ。パスが切られて出来ないものだと思い込んでいた。でも本当は違う。もう私の物だ。私は先生の力を借りなくても特異点としてこの空間に存在出来る。


後は外部との繋がりを認識してここから出ていくだけだ。出ていくだけなんだけど…


「…ここどこ?」 


探知能力でもここがどこなのか分からない。自分の位置が分からなければテレポートで脱出する事も出来ない。私はここにどうやって来たのかを記録していないから手掛かりも無くどん詰まりに陥った。


それでも諦める訳にはいかない。私はドアの元へ行ってどうにか出られないか色々な能力を行使した。こちらの空間は支配している。あとは元の世界とのルートが繋がれば出られると思う。


そしてドアにしがみついて暫くすると…ドアがひとりでに開いた。そこには蘇芳と新垣さんが居て、私は二人の助けを借りてお母さんの元へと向かう事が出来た。


…でもね。今思うとあのタイミングで蘇芳が来たのはあまりに出来過ぎていたしタイミングが良過ぎた。彼女は私がどういう状況下で助けを求めていたのか分かっていてタイミングを図って助けに来たのだろう。


多分この推測は間違っていない。蘇芳にどんな目的があったのかは分からないけど、私には最後の残された目的あってこれを果たさなければならない。その為なら彼女に借りを作ることだって私は辞さない。


そして時は京都全体が停電してから一時間弱が経過した所まで進む。京都の中心地に建てられた高級マンションにある男が居た。その男は組織の役員の一人。そんな彼は室内で暇を持て余していた。


「駄目だ。外部と連絡が取れない。」


突然室内が暗くなり最初はブレーカーが落ちたのだと思ったがいくら経っても普及する目処が立たない。しかもスマホを使って外部に連絡を取ろうにも、通信を行なう基地局まで停電しているのかどこにも繋がらない。


「まいったな…。これでは会合に遅れてしまう。」


しかし仮の住まいとしてこのマンションを選んで正解だったな。好きに女を連れて来れるし防犯対策も万全。例え能力者でも容易には忍び込めない。しかも組織のほんの一部にしか知られていない場所だからな。


私みたいに羽根を伸ばしたい連中の為に建設させたが…あと2つぐらい別に建てるか?それも悪くない。なんせここは娘にはバレてしまっているからな。


「はあ…昨日の夜に女共を帰らしたのは失敗だったな。」


女が居ればいい暇潰しになったのだがな。


「しかし復旧しないな…。まさか海外から攻撃を受けているんじゃあるまいな。」


可能性はある。だがもしそうでもこの京都には娘の伊弉冉(いざなみ)が居る。彼女一人居ればどんな能力者が相手でも問題無い。アレは良い手駒だ。能力者を狩る事に特化している。


そうだ。娘で思い出したが伊弉冉の好きなアイドルグループの女が東京支部に所属したんだったな。…少し時間を作って会ってみるか。まあ手は出さないつもりだ。もしバレたら娘に殺されてしまうからな。リスクが高い相手というのはもう懲り懲りだよ。


酒を飲もうと立ち上がったタイミングでドアが開く。一瞬秘書の女かと思ったが、訪ねてきたのは招かれざる客のようだ。


「ここには酒しかないんだがなにか飲むか。ミネラルウォーターでいいかな。」


部屋に備え付けられている冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペッドボトルを取り出しグラスに注ぐ。その間にどうやってここに彼女が来たのかを考えるが…答えは出ない。彼女ほどの能力者ならなんでも出来てしまうだろう。


「ここに来るまで男の能力者がふたり居ただろう。殺したのか。」


ボディガード兼の雑用係のふたりだったが、それなりに長い付き合いだから。死んだのなら申し訳なかったと思わなくもない。


「そんな事はしない…!」


感情的だな…。感情的な女は何を仕出かすか分かったものではない。


「まあ落ち着け。冗談だ。」


彼女との間に置いてあるテーブルの上に彼女の分のグラスを置く。その時にチラッと彼女の表情を見てみたが…うむ、何を考えているのか分からないな。


「それで、何しに来たのかな“あいの風”くん。一応言っておくがここは男の家で君みたいな年頃の子が来るところではないよ。」


先週に彼女ぐらいの子を相手にしたけどな。流石にそれは言えないので適当な事を言って追い返そう。彼女と二人きりなのは居心地が悪くて仕方ない。


「娘が父親に会いに来るのに理由はいるの?ねえ…パパ。」


ゾワリとした感覚が首筋に波立つ。…そうか。彼女は知ったのか。


「どこでそれを知った?記録には残っていないし、血液検査は出来なかった筈だ。」


組織の中では彼女の生体サンプルを手に入れそうとした奴らが居たらしいが、それが原因で死神の尾を踏んでどこかの僻地に飛ばされたと聞いている。それから彼女の髪や唾液を採取することがタブーになっているのだ。


それに記録されている私の生体サンプルはフェイクだ。もしあいの風のDNAを取得しても親子関係であることは証明出来ない。


「お母さんから教えてもらったの。」


「…ああ、あの女か、忌々しい。」


思い出すだけでむかっ腹が立つ。見た目は良かったが中身はただの色狂いの売春婦。あんなのと関係を持ったのは私の人生の汚点だ。

三連休を使って書きたいように書きます。

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