京都交戦 ⑦
アベンジャーズ始まる。
先生が私に銃を構えながら近付いてくる…!こ、このままじゃこの身体は殺されて自由に動く事が出来ない!そしたら私の魂も死神の手によってっ…!
か、考えないと…!この状況から脱する方法を今すぐに考えて行動に移さなければ…
「余計な真似をするな。」
そう言って先生が一気に間合いを詰めて私を足で踏みつけた。身体を押さえ付ける為に踏まれたせいで身体から血が益々流れ出ていく。もう手足の感覚は薄れて無くなり体温が急激に低下して寒くてたまらない。
先生を睨みつけると赤髪の女は私が怪しい行動をしないか監視をしている事が分かった。彼女は先生よりも私を確実に殺そうっていう意思を感じる…。
…この2人が同時に存在している事が厄介なのよ。先生だけでも厄介なのになんでこの女も姿を現しているの!
「…さっさと殺した方がいい。こういうのは時間をかけても仕方ない。出来るだけ苦しまないようにね。」
アネモネが死神にトドメをさすように促した。
「分かってる。…これでもミヨのオヤだからな。」
「ふざけるな…!」
勝手に人を殺す話を進めないでよっ!あなた達能力者はそうやって殺す事に躊躇が無くてっ!野蛮でっ!
私はあなた達能力者に殺されたのにろくな捜査も行われない様に警察に働きかけて、終いには美世をそんな薄汚れた世界に引き込んだっ!許せない……許せる訳がない!
「死ね…死んでしまえ。しね、しねしねしねし…」
美代は多量の血を床に流しながら呪詛のようなうわ言をドス黒い血と共に吐き出す。彼女の肌は白を通り過ぎて青白くなり、死人のような雰囲気を醸し出していた。
「もう話さなくていいよ。」
「かっ…ぁ…」
アネモネの能力で美代の周りの空気が奪われて呼吸が出来なくなる。只でさえ血液を失い身体中の酸素が足りていないタイミングで、呼吸する事すら出来なくなるのは彼女にとって致命的だった。
美代は次第に失神していって身体が動かなくなる。
「…殺るのは私だ。手を出すな。」
天狼が前に出て自身の手で処理すると宣言、しかしそれを死神とアネモネが拒否する。彼らにとってもここは譲れないのだ。
「それは駄目だ。お前はミヨのフォローをする役割がある。」
「こういうのは私達に任せてあなた達は平穏に暮らしていればいい。」
だがこう言われれば逆にやる気が増すのが彼女だ。天狼にとってこの場合、優しさの言葉は煽りにしか捉えられない。
「ここは私の生まれた土地。殺されたのは私の同郷の者達だ。ここで引き下がり、他の者に役割を押し付けたとなれば死んでいった者達に報いる機会を永遠に失う。だから私の手で今回の事態を終わらせる。これだけは譲れない。」
ボロボロの姿であっても天狼の目には気概と責任が宿っていた。それを見た死神は彼女の強い思いを感じ取り、一瞬だけ引き下がろうとも考えたが、彼にも彼譲れないものがある。だから天狼と同じ様に引く訳にはいかない。
(…気持ちの問題か。)
アネモネは2人とは違い大人しく静観をしていた。
時間が経てば怪異点は自分の能力で窒息死するし、彼女の魂を葬るには時間操作型因果律系能力者でないといけない。つまりこの場合はワタシか彼のどちらかでしか事態を収束させられないという事だ。いくら言い争いをしても結果は変わらない。
アネモネはそう考え2人の言い争いを止めなかった。だが、それがこの後に起こる悲劇に繋がってしまう。
突然エレベーターの隣に設置されていた非常用階段へ続くドアが開いた。3人は建物内に避難した一般人の人が物音に気付いてこちらの様子を伺いに来たのかと思ったのだが、ドアから出てきたのは到底一般人とは思えない格好をした女性だった。
その女性は屋敷の使用人らしき格好をしており見た目からして30代と思われた。綺麗な顔立ちであったがこの状況下であっても冷静な表情を浮かべているせいで見た者に冷たい印象を与える。
「誰だ…?」
「お前は…」
天狼は彼女が何者かを問うたが死神は彼女の事を知っている素振りを見せた。しかし死神には何故彼女がここに居るのかが分からなかった。最初からこの建物の中に居たのかとも考えたが、それは一体全体どんな確率だ?と、考えを改めてその考えを否定する。
彼らの角度からではドアの先は見えない。死神は美世とのパスを切っているので探知能力を失っている。だからドアの先がそもそも非常用の階段には繋がっていない事に気付いていないのだ。
ドアの向こうは古めかしい造りの一室で、壁には古い蔵書が収納された本棚が置かれてありテーブルやイス、ベッドなども設置されていた。
そしてその部屋にはまだ人が居る。使用人らしき女性の後に現れたのは誰もが予想もしていない人物、その人物は華奢な少女だった。首の辺りで切り揃えられた髪に髪飾りなどでセットされているせいかどこかのお嬢様を思わせる。
両目は閉じられているせいで前が見えない筈なのに、誰の助けも補助も無くその少女は一人で歩いて死神達の前に姿を現す。
「あ、間に合いましたね。」
その少女はこれからお出掛けをするのではないかと思わせるような服装とテンションだった。白いワンピース型のスカートや髪飾りで着飾っているせいかこの状況下では酷く浮いている。しかし返ってそれが彼女らしさであり、彼女を象徴している要因のひとつでもあった。
そして、このタイミングを見計らっていたかのように現れたからには何かを企んでいることは誰の目にも明白。彼女がここで勝負を仕掛けてきたことを死神たちは察していた。
「…蘇芳。」
死神が苦々しくそう口にした。天狼もアネモネも同じような反応だ。この状況下で現れたからには何かしらの狙いがあるのだろう。敵か味方か分からない相手というのは一番厄介であり、特に彼女のような能力者はいくら警戒してもし足りない。
「あー美世のお母さんを踏んづけている〜!」
わざとらしいその口調に死神はイラつきを隠せない。この場で蘇芳も処理するのは悪くないなと死神は考えた。だが……
「ねー!お母さんが踏まれているよ美世!」
天狼とアネモネと死神はその名前に反応して身体が硬直した。ドアの向こうから出てきたのは高校の制服を着て眼鏡を掛けた少女。この場に居る全員が見慣れたその姿は、間違いなく【怪異点】の娘の……美世だった。
「お母さん……。」
蘇芳は自身にとって最高のタイミングであり彼女達にとっては最悪のタイミングで美世を連れてきた。死神達はやられたと気づいた時にはもう遅い。自分達は完全に美世にとっては悪者だ。美世の母親を痛みつけて殺害しようとしている集団でしかない。
死神は踏みつけていた足を引いて後退りしてしまう。自分の姿と彼女の母親を殺そうとしている場面を見られてしまった。アネモネも何故美世がここに来られたのか考え込んでしまい、彼女に対して何も言う事が出来ない。
「……マズい。これは……。」
天狼は美世を見て怪異点に対して以上の警戒を見せる。なんせこの状況を美世に見られてしまった。彼女がこのあとどういう行動に出るかは想像に難くない。
「………ゴホッゴホッ。………み、美世…?」
そこで美代が意識を覚醒させる。アネモネの集中が途切れてしまい、能力が解除された影響で呼吸が出来るようになったからだ。
そして目を覚ませば自分の愛する娘がそこに居るではないか。これはチャンスだと思い美代は最後の力を振り絞って愛娘の元へ這いずって近寄る。
「み、美世!た、助けて…!」
美世も傷付いた母親の元へ駆け寄る。そしてそれを蘇芳はとても優しそうな表情で見守っていた。蘇芳が何故そんな表情をしていたか天狼は気になったが、今はそれどころではない。彼女達が揃ってしまったのだ。
怪異点と呼ばれる美世の母親とデス・ハウンドと呼ばれる美世の2人がこの場に集まってしまい状況は一気に変わる。しかもその後方には蘇芳と能力者と思われる女性……最悪な状況だ。
自分と死神とアネモネでも勝てる気がしない。特に今の美世は途轍もなくヤバいという事がひしひしと伝わって来る。今まで会ってきた能力者なんて比較にはならない。正直死神や怪異点が可愛く思えてくる。
背筋に氷の柱を突っ込まれたんじゃないかって錯覚するほどの寒気がして両手の拳が震え始める。もう私の知っている美世ではない。見た目は何も変わっていないのに纏っている空気感が全く違うのだ。
「美世!お願い!」
美代は美世の手を取りわざとらしく縋り付く。その姿はまるで物乞い。母親が娘にするような態度では決してなかった。そして…
「あいつらを全員……」
その後の言葉は言わなくても天狼は分かっていた。そしてその願いを美世が聞き届けるだろう事も。
「……殺して?」
そう彼女は笑顔で娘にそうお願いをしたのだった。
はい主人公登場です。大体1週間ぶりでしょうかね。




