非日常
能力の描写楽しいですけど伝わっているのかこれ?
主人公視点の能力の描写が多いので説明不足になりがちになると思うのですけど主人公もまだ能力をあまり深く理解していないので仕様です。
私は走り出した。血が沸騰したかのように熱い。こんなに興奮したのは生まれて初めての経験だ。上手く感情をコントロールする事が出来ない。
自分にここまでの大きな感情が残っている事に私は心底驚いた。私は感情が人より薄いと思っていたけど違ったようだ。
思春期特有の思い込みだったんだね。恥ずかしい。
…いや、恥ずかしがっている場合ではない。事態は動き出している。犬のように走る事に夢中になるしかない。
重い鞄を肩に掛けながら私は校門を全力疾走で抜けて帰宅部エースの脚を披露する。
突然目の前に餌が吊るされたのだ。飛びつくなというのは無理な話だろう。ここまで必死に抑えてきた数年分の殺意が溢れ出る。もう止められない。
下校途中のクラスメートを追い越しながら走る。何人かにギョッとした目で見られるが気にしない。頭の中は仇を討つことでいっぱいいっぱいだ。
<地図>で対象を確認する。この機会を逃さないためにピンを指す。
場所は最寄り駅から4つ先の駅へ出て200メートルといったところか。
(今も動き続けてる…けど、なにか妙だな。)
能力を通して人間の動きを見続けてきたからか、動きに違和感を覚えた。…でも今は気にしても仕方がない。1秒でも早く目的地に着くことが最優先だ。
駅に近づいてきた。駅構内に意識を向ける。帰宅時間が被ったのか人混みがすごい。
(でも、私の能力なら!)
能力で人の位置は全て把握。人の流れをリアルタイムで頭の中に表示。そこから最適のルートで目的の電車まで最速で向かう事ぐらい容易いことだ。
改札を抜け、ホームまで降りる。ドアから降りる人が列となって押し寄せて来るけど薄い身体を活かして人の間を縫う様に走り、ドアが閉まる直前に滑り込み目的の電車に乗り込む。
呼吸を意識せず走り続けた代償で酸素を求めて大きく肩で息をする。
「ハァーハァー…ふーー。」
近くの人はこちらを見るが睨み返すとバツが悪かったのか目線を外す。
(この電車に乗られたのは大きい。対象もまだ私の射程圏内。)
電車に揺られながら私は監視を続ける。ここまで順調に進んでる。あと少し。
2つ3つ駅と駅を通り過ぎながら降りる駅に差し掛かった時だった。
(っ!?)
声が出そうなのを抑える。対象を見失ったのだ。
(ありえない!対象からは目を話さなかったし、私の能力が見失うなんて考えられない。)
目的の駅に着く。私はすぐに降り対象を見失った場所まで向かうことにした。
場所は人通りから少し離れ小さなビルが並び建っている裏路地。そこではっと気づく対象を俯瞰で見ていたことに。<地図>を展開し3Dの立体で表す。
(やっぱりそうだ。)
私の能力の射程は私から半径5メートル。だからビルのような高い建物の内部は全て網羅出来ていない。流石に内部までは直接入ったことのある建物なんてたかが知れてる。今回見失った周辺のビルなどは入ったことが無い。
(まさかここで私の能力の穴が見つかるなんて、でも建物の中に入ったのは間違いない。必ず必ずこの手で…)
人通りを抜けビルが立ち並ぶ路地まで歩きながら警戒する。相手は殺人犯。ここまで来れたのはいいが、そこからの具体的な所は決まっていない。
ずっと探すことだけ考えてきた。しかしそこまでだ。冷静になって考える。
(ーーー子供の私に何ができる?)
客観的になって自分の腕を見る。あまりに非力だ。普通にやり合ったら私が殺されるだろう。
(何か武器になるものは…)
カバンを開け筆箱を漁る。…あった。私は目的のものを見つけ取り出した。カチカチッと刃が出るか確認する。
私が取り出した物…そう、カッターだ。
相手が凶器を持ち歩いてたら終わりだが、無いよりマシだろう。
目的のビルに近づく。ビルは人の気配がない。
…古い。恐らく使われてない廃ビルだろう。
(でも本当にここ?なんの目的があって…)
とりあえず入口に近づく。空き缶や何か入ったビニールのゴミ、塵やタバコの吸い殻が置かれていて、入る気を喪失させるような…そんなインテリアに入口が飾られていた。
しかしそのインテリアのおかげで対象がこのビルに入ったことが伺えた。足跡が塵の上に残っていて、ドアを開けるためか人が通るスペース分のゴミが除けられている。
私は覚悟を決め、頼りない文房具を片手にビルに足を踏み入れた。
そんな美世を隣のビルから見下ろす者が居た。
『見つけた』
ネタバレになるのですけどこの物語には戦闘描写、もとい残酷な描写も含まれております。それが好きやねん!と言う人は是非読み進めてください。