それでも夜は明ける
こういう描写を文章にするのが楽しいんですよね。
私はベッドの上で寝転がっていた。横になるというよりもふて寝に近い。だってやること無いしね。この部屋には娯楽というものがない。現代っ子の私としてはネット環境が整っていない部屋に閉じこられるのは普通に拷問だ。訴えたら勝てるレベル。監禁って段階で警察沙汰だけどね。
「オリオンさんが死神だったんだ…。」
あれが夢じゃないことぐらい分かっている。私は探求を通じてあの時の光景を記憶していた。アネモネと先生が隠したがっていたから話を合わせたに過ぎない。
「バカにすんな……バカ。」
一人置き去りにされて、蚊帳の外にされて、心配をされて……。私の意思なんて誰も考慮してくれなかった。私がこうしている間にも誰かが動いていたりお母さんを殺そうとしているのだろうか。
今の私には外の状況を視認することは出来ない。この時点で先生とのパスが切れていることに気付くべきだった。
「先生がオリオンさんで、オリオンさんが先生だったのか……。」
ショックがデカい。これは嫌なショックじゃなくて衝撃的な意味でショックを受けている。私のバカっぷりにも先生が思っていたより若そうな見た目をしている事にも。
でもね?結構カッコいいんだよオリオンさんの見た目。中身も紳士的だし美味しい食べ物を食べさせてくれる。かなり競争率の高そうなスペックをしているよね何気に。
…そう考えると私って釣り合い取れてるのかな?隣に立った時の見た目ってそんなに悪くないよね私達。美男美女カップル感ある。
私は自身を可愛いと言うタイプでは無いけど、周りからの反応や言動で可愛い見た目をしている事は自覚している。なんてたってお母さんに……そっくりだもん。
あ〜あ、お母さんの事を思い出しちゃった。どうしよう…。お母さんを野放しにする事がとても危険な事は分かっていたからずっと監視していたのに、今の私では監視する事も干渉する事も出来ない。
アネモネの話を思い出すと先生とアネモネがお母さんを殺す気なのは間違いない。そして曖昧な記憶だけどアネモネと先生の能力はお母さんを殺してしまえる。つまり意思も手段も持っている2人が本気でお母さんを殺そうとしているってこと。…止めないといけない。いや止めたい。
先生は私の為と言ってお母さんを殺そうとしているけど、それをすれば私の反感を買う事は分かっているはず。それでも強行するのだからその意志は固いと見て良いと思う。だから説得は無理だろうね。
そしてそれはお母さんにも言える。お母さんが能力者に対して尋常じゃない殺意を持っている事は分かっていた。だから普通の生活を過ごさせて私との生活を優先させようとしていたけど、でもそれが逆効果になって私との生活の為に邪魔になる能力者を皆殺しにしようとしている。
お母さんがあんなに攻撃的な性格をしていたのは知らなかった。お母さんは私の前ではかなりお母さんとしての体裁を保っていたんだなって最近気付いた。それだけ私が大切だったって事にもなるからそれを非難するつもりはない。
私もお母さんが大好きだからだ。例え残虐な一面があろうとも親娘として私も似たり寄ったりだし、私はお母さんをこのまま見捨てる事はあり得ない。
だから私はこの部屋を出なければならない。先生達とお母さんを止めないとだからね。
「でもどうしたらいいのか…。」
ベッドから起き上がって毛布を身体に巻く。流石に人様の部屋の中を裸では歩き回れない。痴女なんて属性まで足されたら私は一体どんな女子高生だよって話。
「…何語の本なのこれ。」
アネモネが読んでいた古めかしい本のページを捲って読もうとするけど良く分からない言葉で書かれているだけで意味を理解する事は出来そうにない。
これを読めるアネモネって一体何者?私の記憶が確かならアネモネは先生やお母さんみたいな特性の身体を持っている。つまり時間操作型因果律系能力者という事になるんだけど、あの人は別の能力を行使していた。
あれがあの人本来の能力で先生とのパスが繋がっているから先生のような身体を手に入れることが出来た…?私でも出来ないのにもしそうならあの2人は結構長い付き合いになる。古い仲だよって言葉にも信憑性が増す。
「じゃあ2人が元恋仲だったてのも信憑性が出てくるんじゃああ〜…。」
呻くしかない。私はこれでも先生を未だに好きでいる。あんな事があって私は先生の軌道を利用してお母さんを生き返らせたけどね……。
だから流石に先生から嫌われたと思っていたんだよね。でも先生ずっと私の心配してくれてたっぽい……裏切ったにも等しい私をさ。最低過ぎるよ私…。
「はぁ~~何やってんだ私…。」
自己嫌悪に苛まれながらも開いた本をそのままにし部屋の中を物色していく。これで5回目だと思う。
「本はどれも古い…乾燥しきっててパサパサ。」
古本というよりも古書って感じ?ハリーポッタ○とかで出てきそうな見た目をしている。でもセットとかじゃない。中もちゃんと文字が書いてあって絵とかも付いている。
本棚を一通り物色し終わった後は作業などが出来そうな机を物色する。棚とか色々置いてあってそこには薬品とか何かの金属や良く分からない物体が試験管の中に入っている。それに検査する為と思われる機材も机の下の箱に仕舞われていた。
「アネモネさんってここで何をしていたんだろう…。」
今日初めて会った人だけどかなり謎な人だ。私よりも先生との距離感が近い人間だった。これは物理的な意味ではなくて存在感?が近かった。2人がどういう仲なのかも気になる所。
「うわッ!」
棚を物色していたら透明な容器に入った何かの目玉が目に映った。なんでこんな物まであるの!?しかも普通の目玉じゃないよこれ!
普通目玉って白目に網膜とかあって2色ぐらい別れているけどこれは全然違う。先ず全体的に真っ青だ。網膜なんて丸くないし楕円形をしている。ヤギってこんなだったような気がするけどこれは少し違う。…作り物?
でも嫌に生っぽい。目玉以外にも神経みたいなのが付いているし本物?こんな目玉してる生き物って居るのかな?
深海魚?それとも猿とか哺乳類かな?これ結構デカいよ。目が大きくて羨ましいと言われる私の目よりも大きいんじゃない?
「…確か、ここってアネモネの記憶を再現した部屋って言っていたよね。じゃあこれも?」
そうなるとアネモネはこの目玉を記憶していた事になるけど一体いつ記憶したんだろう…。脱出しないといけない状況下なのに、脱出とは全く関係のない物が気になってしまう。
アネモネって組織の第二部の人みたいに研究者なのかな。初めに本を読んでいたから知的そうなイメージが先行した結果だけど、あの人は間違いなく私と同類。訓練された能力者だ。
服の上からでもあの身体が戦闘を想定した鍛え方、体格をしていたのは見て分かった。一見細そうなんだけどあれは余計な脂肪が無いだけで筋肉量は標準よりも多かったね。
因みにこれは関係ないけど胸は私が勝ってた。Dカップという大台に踏み込んだ私の敵では無かったよ。
「先生が巨乳好きなら私の勝ちだね!あっはっはっはっは!」
胸を張って勝ち誇る残念女がそこには居た。……私だった。
「はっはっはっは……はぁ~~……また戻った。」
私はベッドの上で寝転がっていた。気が付いたら私は何もしていなかった事になっている。これで6回目になると思う。
私は立ち上がり毛布を身体に巻く。今の私は戻されたという事しか認識出来ていない。だから私がさっき何をして何を思っていたのかは分からない。
「…何語の本なのこれ。」
私は閉じられた本のページを開いた。そこには良く分からない言葉で書かれたページが続くだけで内容を理解する事は出来ない。
本を開いたまま本棚を物色していく。特に気になる物は見つからず次は色々と作業していた痕跡のある机へと向かった。
机に備え付けられた棚とか机の下に置かれていた箱の中身を物色していく内に私はある物を見つけた。
「うわッ!」
目玉だ。真っ青な目玉が透明な容器な入っていて私と目線が合った。私は思わず手に持ったその容器を床に落としてしまった。
「あ!まずい!」
その容器を拾おうと屈んだ所でその目玉が動いたような気がした。
でもしただけ。私はベッドの上で寝転がっていた。
「……7回、目だよね。」
それは分かる。多分そんな気がする。でも何をしていたのか分からない。ここには時計も無いからここにどれぐらい居て何をしていたのかも私は認識出来ていない。
「流石に7回目にもなると…………。7回、め…目?」
なんか引っ掛かる。私の記憶に何かが介入したような感覚に襲われて違和感が確信へと変化する。
「……目、そうだ目だ。なんか変な目と合った気がする。ここには鏡も生き物も居ないのに。」
鏡も生き物も居ないのに目が合うって何?……いや、それよりも一体なんなのこの感覚は。私はこんな経験していないのにデジャヴのように私に対して訴えかけてくる。
「……目を探そう。」
脱出する事よりも私は目を探す事を優先にして物色を始める。私はベッドから立ち上がって毛布を身体に巻く。そしてテーブルに置かれた閉じた本は無視してベッドの下やトイレなどを探索し始めた。
主人公は狂ってますが、正常である部分全てが狂った訳ではありません。というより全部狂うとキャラがチープになると考えているので、小説を書く上でそれはしないと決めています。
色々と考えて、常識的な思考も持っているから狂うという仮定が生まれると思うんですよね。それをこれからも表現していきたいです。
 




