侵略する怪異
また深夜に1話投稿出来そうなら投稿します。
部屋の中に嫌な緊張感が生じる。抱き合ってるお母さんが急に別人のように感じて怖い。
「お母さん…?」
急に雰囲気が、変わ……って……あ…れ?なんか、急…に…意識、が……………………
「ごめんね美世、あなたが目を覚ます頃には終わってるから。何もが失くなって、亡くなって、無くなった後に…ふたりだけで幸せに過ごしましょうね。」
ふたりの身体の輪郭が曖昧になり溶け合うように1つになっていく。
“美世”が“美代”に取り込まれる。美世のベルガー粒子、能力も存在自体全て母親である美代が取り込みこの世界に“ミヨ”が1人だけになる。
(……おかあ、さん……)
「ええ。お母さんに任せておきなさい。能力者は全員殺しておいてあげるから。」
部屋の中には肉体を持った“美代”が一人だけベッドの上に座っていた。その事をすぐさまに察知した者が2人…
《やりやがったな怪異点…!!》
パスを通じて状況を理解し殺気を周囲に撒き散らす死神と…
「…やっぱりいらないかな。」
自室でその様子を未来からの情報で認識した蘇芳がそう呟き本格的に行動に移る。
そしてそれから1時間後、リビングで待っていた美世の父は美世を呼ぶ為に階段の方まで移動し下の階から声を掛ける。
「美世ーーご飯の時間っ。」
いつもなら返事があるが、全くの無反応。こちらの声が届いていないようだ。
「ご飯出来たぞー!」
しかし返事が無い。喧嘩をした時は返事せずに部屋から出てくる事もあるが別に喧嘩をした訳ではない。最近は少し厳しくしていた気がするが、さっきの反応からすると怒ってはいなかった。
「美世ーっ?」
……反応が無いので2階へと向かう。美世の部屋は階段を上ってすぐなのでドアの前に立ちノックする。
「おい、ご飯だぞ。」
勉強に集中していて気付かなかったかもしれない。あの子が勉強している様子を見た記憶が無いがな。
「……入るぞ。」
いくら呼んでも反応が無い。ドアノブを捻って部屋に入ると……
「美世…?あれ?」
部屋の中には誰も居ない。窓も閉められていてベッドにも入っていない。……出掛けたのか?なら気付くはずだが……。
「あの時は全くの無関心だったのに今じゃ立派なパパね。」
その様子を傍らで見守る怪異点が同じ部屋の中に居た。美世の父は彼女を視認することが出来ずに誰も居ないと認識していたのだ。例え美世の肉体を得ても軌道として存在し続けられる特性は消えない。彼女のさじ加減ひとつでいくらでも存在を偽装出来る。
「ムカつくけど美世との約束だから何もしないであげる。あの子もあの人もね。」
元旦那である自分の夫の周りをぐるぐると回って観察をする。近くで良く見ると元旦那も年をとったと感じ何とも言えない思いを抱く。後退した髪も目のシワも乾燥した肌も年月を感じさせる要因だが、一番はその目だ。決して美世には見せなかった優しさの籠もった瞳が美世に向けられている。
「最初は私にも向けてくれていたのにね。」
私は最初からあなたの事は別に好きではなかった。ただ家庭に入ってみたいと思った時に声を掛けてくれたからあなたにしただけの事。でも私みたいな女を抱けたのは良い経験だったでしょう?
「まあ両手で数えられるぐらいしか肌を重ねてないけど…。」
私達の結婚生活は最初から破綻していた。私はあなたの事は好きじゃなかったし好みでもなかった。でもあなたは私の事が大好きだったわね。分不相応の相手と結婚が出来たんだから感謝して欲しいぐらいだわ。
「う〜〜ん…じゃあ行きますかねっ。」
背伸びをしながら歩き出して部屋を後にする。制服姿のままの美代は一歩一歩と歩くたびに周りの景色が凄まじい勢いで後方へと移り変わり、現在地もそれに比例して凄まじい勢いで変わって行く。彼女にとって距離間とは自由に操作できるパラメータ。美世のマッピングした地域を一瞬で移動することが出来る。
東京から東海道新幹線の上を移動し静岡県にまで彼女はその足で歩いて向かった。一歩進めれば数十キロも進むことが出来るのが怪異点としての性質。美世ですら出来ない彼女のみの移動方法だ。しかし…
「ーーーそれは私達の専売特許だ」
その瞬間的な移動速度に追いつく者が居た。白い髪に人種が特定出来ない独特な顔立ち。敵対する者、同じ組織に所属する者達から死神と呼ばれて恐れられる能力者であるオリオンが怪異点に追い付いた。
「先生…!?」
美代は驚愕の表情を浮かべる。自分を視認できる事もこの速度に追い付けるのも信じられない。彼女は死神の能力者としての実力を甘く考えていた。自分が行動した時には彼がすぐに対応する準備と実力を備えていたのだ。
「その呼び方はミヨだけのものだ!!」
美代に追い付いた死神が彼女の顔面目掛けて拳を振りかざした。そして尋常ではない速度とパワーで放たれた拳が美代を捕らえる!
「グがッ…!」
時速的にはマッハを超えた速度の美代の身体が新幹線のレール上から軌道を外れて人気のない森の中へと吹き飛ばされた。彼女は弾道ミサイルのように吹き飛び森の木々をなぎ倒して地面に接触すると巨大なクレーターを作り出す。
何十トンもの土の塊が1キロ先まで舞い上がっても美代の身体はバウンドしながら山の斜面を転がり上がる。そのあまりの衝撃に山の斜面は崩れて土砂崩れを起こし、山に住んでいる生き物は危険を感じて避難を始める。
だが死神の猛攻は止まらない。何度も山々にぶつかりながら吹き飛んでいる美代に向かって死神は新幹線のレールの上を跳躍した。鉄筋コンクリートで出来た土台ごと崩壊する程のパワーで蹴り出された死神の身体は瞬間的に秒速12kmを叩き出し2秒にも満たない速さで怪異点に追いつく。
「お前はここでッ!!」
山を転がりながら登っていく美代の腹部に目掛けて足蹴りを入れて上空へと蹴り上げた。美代の身体は急激な方向転換で身体中がバラバラになりそうな反動と蹴りの威力による衝撃で身体が鯖折りのように腰から折れ曲がりながら遥か上空まで打ち上がる。
「ワタシが仕留めるッ!!【逆行】!!」
美代の身体が空中で急停止しその反動で全身の血管がぶち切れる。目も耳も利かなくなる程のダメージが加わった美代の身体は再び急激な方向転換が加わって死神の元へと向かい……
「これでお終いだッ!!」
死神は両手の拳をこちらへと軌道を逆行させて来る怪異点に目掛けて振り下ろす。死神の拳が彼女の身体に触れた瞬間に衝撃が彼女の身体中を駆け巡り、衝撃に耐えられなかった身体がバラバラに粉砕された。
首、胴体、腕、足のそれぞれの部位が別の軌道を描いて地面へと衝突し、辺りの土と空気を全てを吹き飛ばしていく。まるで爆弾が落とされたような爆音が山々の間に鳴り響き、遠く離れた民家の窓ガラスを震わせて、キノコ雲を思わせる土煙が空高くまで舞い上がる。
「ーーーチッ。」
そんな衝撃を至近距離でモロに食らったはずの死神は何事もなくその場で佇み舌打ちをする。彼の身体はなにものにも干渉されないので土埃ひとつ身体に付着することはない。
「…これでも殺せないか。」
死神は彼女が死んでいない事が手に取るように分かる。彼女の軌道を認識出来る死神はバラバラに散った彼女が部位が蠢いている事が分かるからだ。
「皆を集めるか…。」
オリオンはスマホを取り出して一斉送信する。ここに全員が来れないかもしれないが、天狼と理華が来ればそれで良いと考えている。正直予想以上の怪異点の性質に上位の能力でしかダメージを与えられそうにない。彼女達クラスではないとお荷物にしかならないような相手だ。
「あーあ、美世の身体をこんなにも…。先生であっても娘を傷物にするのは許し難いです。」
地中深くまでめり込んだのに声がここまで届いてくる。パスを通じて話している訳でもないのにどうやって…。
いや、それよりもマッピングされていない場所にも居られる事の方が重要か。
「ミヨの身体を使ってるからマッピングされた地域を離れられるのか。お前を物理的にマッピングされた範囲から追い出そうとするとどうなるか気になっていたんだがな。」
ただの興味心だがどうなるか知りたかった。消失するのか空間に阻まれて反発するのか気になるところだ。
「分かってて美世を傷付けたのですか?………殺されたいようですね先生。」
声を聞くだけで彼女が怒り狂っているのが分かる。そしてどうやらワタシを殺せると思っているようだ。だがそれは叶わない。場合によってはこちらも本気を出して貴様を処理する。
「ミヨなら【再生】を使って生き返らせる。お前はしてはやらないがな。」
オリオンの身体から複数の腕が生える。それは怪異点を殺す為の能力……怪腕を使って彼女の存在を消し去ろうと行動に移す。
戦闘パートです。死神と美代の頂上決戦、書くのがとても大変そうで楽しみ。
 




