総勢する能力者達
流れがアベンジャーズ。
客間の空気は凍り付いた。凍り付いたのは私達死神一派の人達だけだけど、この少女が只者ではない事はこの場にいるみんなには伝わったようだ。
「……なーんか特異点と同じ感じがするなー。スオー?だったか。私の言葉分かるか?」
ボーが蘇芳に興味を持ち話し掛ける。
「ええ分かりますよ。貴女には感謝しなければなりませんね。ありがとうございましたボー・ペティット。」
蘇芳は微笑みながら流暢なフランス語を披露した。まるで母国語のような発音に魔女達が少し驚く。
「へー…初対面で私の名前を言うなんざ、お前死にたいのか?」
しかし自身のフルネームを初対面の年下のガキに呼ばれた事にボーは獰猛な笑みを蘇芳に向けた。
「いえ、死にたくありませんよ。その為にここに来たのですから。」
しかし蘇芳は涼しげな態度のままボーと見合う。無理してこの態度を取っているのではなく自然体のままなのが誰の目にも分かる。
「…小さいのにガッツがあるなお前。気に入った。魔女に興味あるか?」
一瞬で気に入れられた蘇芳は魔女のコスプレをしないかと誘われるが無難な文句で断りを入れてコスプレを回避する。
彼女の年では考えられない様な受け答えに本人であると確信を得た天狼、ハーパー、淡雪、朧は彼女の事を警戒していた。
いつでも蘇芳に対しアクションを起こせるようアイコンタクトを取り合っているが、彼女がまさか死神の命令でここに来るとは予想外であるため下手に動く事が出来ない。
「オリオンさん…どうするんですかこれから。私では纏められないですよこの状況は。」
理華は現在進行系で起こっている様々な出来事に対し思考を半ば放棄していた。今日の会合で情報を共有し自身の頭の中を整理するという狙いがあったのに、逆に情報がどんどん入って来てパンク寸前だからだ。
だが、理華は淡雪達の動きを見て自身の思いを改める。淡雪達は自分よりもこの状況を分かっていない。なのに自分がここで動かなければ、彼女達を自分よりもキツい立場に立たせてしまう事になりかねない。
「しかし纏めなければならない。君が一番ミヨに近付けたのだから。」
私のここ最近の動きを知っている…まあオリオンさんならそれぐらいは知っていても不思議じゃないけど。
「……先ずは自己紹介から始めましょうか。」
私達はお互いの事を知らな過ぎる。取り敢えず自己紹介をし自分が何者なのかを明確にしなければならない。
私達は家政婦さんが持ってきてくれた椅子などに座り全員で着席した。あれだけ広く感じた客間もこれだけの人数では手狭に感じる。そしてこの圧倒的女子率。オリオンさんと朧さんの2人だけが、男性である朧さんは凄く肩身の狭い思いをしていそうだった。
「えっーと…私は三船理華。あなた達の通訳をしますね。」
ベルギー人が居るから言葉の壁が存在する。通訳出来そうなのが私と蘇芳さんぐらいなので私がその役目を買って出た。
「「「「よろしくー。」」」」
もう順応してるよこの人達……。ある意味すごい。ここには組織に在席している人達が居るから。だからねルイスさん、あなたはそんな呑気に茶菓子食べてる場合じゃないと思うんだけど…。あなたを見つけたらすぐに殺せって命令がずっと有効なんだよ?
「あーじゃあ私から自己紹介しようかな。私は淡雪と言います。」
雪さんから時計回りに自己紹介を始めていった。魔女の人達も自己紹介をし私がそれを通訳したりと、ある程度はお互いの事を分かりあえたと信じたい。
「…あの、魔女の集会って確か美世ちゃんが全滅させたんだよね?報告書にはそう書かれてたと思うんだけど…。」
私もそう聞いている。死神と一緒に協力して殲滅したと。
「ええ、特異点に生き返らせてもらったの。私達を利用する為にね。」
そう答えたのはラァミィさん。彼女達のまとめ役のような立ち位置だと思う。魔女達の中ではかなりしっかりとしている。
「…誰かその事を聞いていたか?」
天狼さんはとても不機嫌そうに私達に聞くけど私も初耳だし多分誰にも言っていないと思う。
(く、空気が死んでるっ!)
「…何を話しているか私には分からないけど、多分私達の存在を知っていたか聞いているのよね?それなら特異点が私達との約束を守るために黙っていたのよ。」
「約束?」
美世が彼女達と約束を?
「私達の存在が死神に知られれば私達は殺される。だから私達の情報を出来るだけ外に漏らさないようにしてくれていたんだと思うわ。」
確かに美世はそうするだろうと思う。約束とかは守るタイプだし、あまり嘘もつきたがらないからね。
「…まあ、それならいいが。」
天狼さんもなんだかんだ結構美世の事好きだよね。黙っていた事に対して怒っているから間違いない。
「じゃあ次は私ですね。また自己紹介する事になりますけど改めまして蘇芳と言います。非力な身なのでいじめないでくださいね。」
身体は華奢で腕も細いし目が見えないらしいので瞼を閉じている。だから非力な身なのは確かなのかもしれない。でも警戒は解かないよ。特に天狼さんは睨みを利かせているからこの子は本当に危険な能力者なんだと思うから。
「初めまして蘇芳。私の事は知っているから言わなくても分かるだろうが、何故ここに来たのかちゃんと説明してくれないか?」
うおっ…天狼さん声を抑えているから分かりづらいけど私には分かる。これを翻訳すると…
「良く顔を出せたテメェ。全てを分かりきっているテメェだから自己紹介なんてしねえが、ここに来たからには覚悟出来ているんだろうな?」
…になる。行間を読むともっと深い解釈があるけど、今回はここらへんにしておこうと思う。
「私がここに来た理由を話す前にまだ自己紹介が終わっていない人が居るみたいなので、先ずそちらから終わらせましょう。」
蘇芳が視線をオリオンさんに向ける。目を閉じているのに彼女は間違いなくオリオンさんと目線を合わせている。
「…そうだな。自己紹介か……ワタシはオリオン。」
分かりきった自己紹介だ。知らないのは魔女達だけど、あの人達は対して興味なさそうにしているから真面目に聞いている人なんて…
「周囲の人間はワタシを死神と呼んでいる。よろしく頼む。」
空気が今日一番に凍り付いた。特に組織に所属している人達は時間が止まったんじゃないかってぐらいに硬直している。
(なんか…聞き間違いかな…変な紹介の仕方だったけど…。)
「あーやっぱりこのタイミングで言っちゃうんだ。」
蘇芳だけが分かっていたかのような態度で茶菓子に手を伸ばす。彼女の発言のせいで信憑性が増してしまったが、まだ悪ノリして発言した可能性も…
「…お前が名乗るぐらいには事態は深刻なんだな。」
なんと天狼さんまで知っていたかの様な反応を見せた。なんなんだ今日は、暴露会なのか今日は。
「おい、何話してんだよ。」
えっと…この人はボーさん?名前が良く思い出せないけど、彼女が席を立ち私の方に来て、何があったのかを聞いてきた。
(…なんて言ったらいいか。…まあ、ありのままを言うしかないんだけど。)
私は彼が……自身を死神と名乗った事と、それを肯定する2人の事を話した。そしたら魔女達がオリオンさんの方を凝視し、何かを感じ取ったのだろう。黒髪の悪女っぽい女がドアの方へと走り出した。
(私よりも速い……いや、そんな事を考えている場合じゃなかった。)
少し遅れてまとめ役っぽい人もドアの方へと走り出し、それに続いて魔女達全員も走り出してこの部屋から逃げ出そうとしたが肝心のドアが開かない。
黒髪の女が力いっぱいにドアノブを捻っても全く開く気配は無く、終いにはドアを破壊しようと殴りかかる始末。
だがドアはビクともしない。この部屋のドアは古いから能力者が殴りかかれば簡単に壊せるはずだ。でも傷1つ付かないドアを前に魔女達は解散し元の席にへと着席し直す。
……こいつら無言で話し合いもなく同じタイミングで戻って来たよ。どんだけ仲良しというか……息があっているというか……。
「あの…私から質問良いですか?」
淡雪がオリオンに質問を投げ掛けた。
「ああ。」
「ありがとうございます…単刀直入に聞きますけど、あなたは私の思っている通りの人ですか?美世ちゃんに能力を貸し出して世界中から死神と恐れられる能力者って事で良いんですよね?」
正に私が今一番知りたい事だ。ナイス雪さん。
「その認識で構わない。」
肯定した…本当にオリオンさんは死神だったの?それなら美世はその事を知っていたのかな…。
「それだとおかしい点があります。…失礼ですけどあなたは私より年下にしか見えません。死神は何十年も前から存在する能力者の筈です。」
あ、確かにそうだ。彼が死神のハズが無い。…まさか死神って何代にも渡ってその称号を継承し続けている能力者達なのか?
「…時間操作する能力者に対し年齢の概念は通じないと言っておこう。」
…この答えはちゃんと答えたものじゃないけどそれっぽいから困る。変に説得力があるから私も雪さんも何も言い返せない。
(というか天狼さん知っていたのに黙ってたなんて人の事言えなくない?)
私が天狼さんを睨みつけるとそれに気付いた天狼さんが両手を合わせて謝るジェスチャーで返してきた。
…別に天狼さんに謝ってほしいわけじゃない。私も天狼さんの立場なら死神の正体を言い触らしたりしないからね。そんな恐ろしい事は死んでも出来ない。
「もうワタシに対し質問は無いな?そろそろ本題に入ろうか。」
オリオン改め死神が今日の会合の進行を務めて、美世の母親の攻略方法を議題にし、話し合いを進めていくのだった。
死神が名乗り出ないといけない程の相手が美世ママ。
 




