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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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純粋な悪意

また忙しそうな展開になりそうです。

美世の母親は軌道と肉体が混合した存在だった。肉体があるから食事が出来るし体温もある。でも、一方で軌道としての特性もあるから私から彼女に干渉する事が出来ない。


美世……あなた、なんてものをこの世に誕生させてしまったのっ!?


「三船さん、あなたは私達の居場所にはいらないわ。」


美世の母親が私に向けて手を伸ばしてくる。その手からはとても嫌な感覚を感じ取り、これに触れられたら死ぬっていうのが本能的に理解した。


まだ日本刀の剣先を向けられた方がマシに思える程の恐怖をこの人の指先から感じ取る。


(殺される…!)


そう思って覚悟を決めた時、美世の母親が突然止まる。目線が逸れて意識が完全に私からどこかへと向かっているようだった。…急にどうしたっていうの?


「…違うわ。ちょっとじゃれついただけよ。だから美世の心配するような事はないわ。」


構えを解き私から少し離れた所で誰かと会話の様な声を出す。それを見て私は美世とパスを通じて会話している事に気付いた。


「もー本当に優しいんだから。…ええ分かりました。帰りますよ〜。」


私が襲われている事を探知して止めてくれた。…つまりお母さんより私を選んだって事になる。


「でも最初はあっちから……そうね。それを言ったら私の方が先ね。………分かったわ。謝ってから帰るから。」


会話を終えた美世の母親が私の方を向いて頭を下げる。


「ごめんなさい。私が悪かったからまた美世と遊んでくれる?」


こんなに謝罪の気持ちの無い謝罪は初めてだ。声色は本当に悪いと思ってそうに感じるけど、さっきの美世の母親の殺気に比べれば偽物も偽物。真っ赤な嘘であることは明白だった。


「…いえ、私も悪かったですから。」


「そう言ってもらって良かったわ。またお家に遊びに来てね三船さん。」


殺そうとした相手を家に誘うその神経に驚く。私のことなんてこの人は特に何も思っていない。ただ邪魔になりそうだから殺そうとし、美世に静止されたから普通に接しようとしているだけ…。


「…お隣同士ですからね。」


「そうね。それじゃあ先に戻りますのでおやすみなさい。」


そう言って美世のお母さんは消えた。文字通り消えたのだ。目の前に居たのに見失ってしまった。


「あの時の浴室のドアと同じ…。」


私は認識出来ないあの現象をちゃんと認識した。認識出来ない事をちゃんと認識出来た。これはデカいと思う。美世のお母さんの特性を私は良く知れたのだから。


…もしかして、美世は私にその事を伝えるためにはギリギリまで静止しなかった?それなら美世はお母さんの事をどうにかしようと考えているのかもしれない。


(そう受け取って良いんだよね?)


理華の目にはやる気が満ち溢れ、怪しい雰囲気を纏わせていた。


それから数日後、私は天狼さんのご実家にお邪魔していた。この前に起きた事を直接口頭で伝えるために。


「今日は何があったか教えてくれるのだろう?ずっとこの日を楽しみにしていたから期待してるぞ。」


天狼さん家の廊下を歩きながら奥の客間へと向かっていく。天狼さんの家は途轍もなく広くて天狼さんの案内無しではトイレにすら行けない。日本の古く良き館のようなお屋敷だ。


「わーお…ジャパアニメーションの世界です。」


「私の家はただ古いだけだよハーパー。」


私と天狼さんの他に今日はハーパーも来てもらっている。大人気な彼女を1日借り出すのに組織と一悶着したけど、彼女抜きにでは事態に対応出来ないと思い、今日は無理を言って来てもらった。


「雪さんと朧さんはもう来ているんですよね?」


「ああ、お前達と一緒にテレポートする事は組織の方が止めてくれと言ってきたからな。」


ベルガー粒子量の関係上、みんなで一緒には来れなかった。最近特に言われるから一緒にテレポートするメンバーは気を付けている。


「天狼さん、オリオンさんは来ていますか?」


今日は死神一派で集まる事にしている。だけど美世だけは呼んでいない。彼女を呼ぶという事は美世のお母さんをも呼び寄せてしまう事に繋がる。だから呼ぶ事が出来ない。


「ああ、オリオンは…」


私達は一通り顔を合わしてから客間にて、家政婦さんが出してくれたお茶を飲みながら世間話をしていた。客間はとても広くアンティークの家具で揃えられた部屋で、私達は物凄く高そうなソファーに座って居心地の悪い思いをしていた。


「なーんか最近おかしな事が多いよな…。」


「最近って言うと具体的には?」


朧の発言に淡雪が反応する。


「だってさ、つい最近だと死神が消息を絶って、美世ちゃんが消えたんだろう?しかもその前はスカイツリーで戦闘があってプリテイシアの常夜が組織に所属したりとイベント目白押しだったじゃん。こんな短期間でここまでの大事が立て続けに起こったことなんて今までで無かったじゃんかよ。」


「ここ最近ってより今年は、じゃないですか?」


厳密に言うと美世が来てからだ。彼女が来てから世界は大きく動き出したと言って過言ではない。


「まあそうだよな…。」


「今日はその事も聞きたかったんだけど、美世ちゃんって学校に来ているんだよね?」


淡雪は理華とハーパーに質問をする。淡雪はその事を確認する為に今日ここに来ているようなものだ。


「はい。月曜日から普通に登校して来てますよ。」


「私も授業している時に美世とお話をしました。」


「でも組織はその事を把握していないんでしょ?おかしいよね?」


組織は未だに美世の事を捕捉出来ていない。彼女はずっと能力を行使し続けている。母親の存在を隠し通す為に…。


「…それはみんなが集まってから話します。何度も説明する事になりますから。」


その時、客間に備え付けられている電話が鳴り出す。古い黒電話で壁に付けられているタイプだ。電子音じゃなくてベルが本当に鳴っているからこの広い部屋の中でも良く響き渡る。


「はい。………そのまま客間に通して。」


天狼さんが電話に出て、話の内容から誰かが出た事が分かる。最後のメンバーが来たらしい。


「なんか…騒がしくない?」


廊下から話し声が聞こえてくる。一人や二人じゃない。女性の(かしま)しい声がかなり遠くからでも聞こえてくるので、みんなが疑問を感じた表情をしている。みんな自分の知らないうちにメンバーが増えたのかなと考えていそうだった。


私もその中の一人だ。でもみんなの反応からそうじゃないって事も分かる。…敵とかじゃないよね?こんな騒がしそうな敵が居るわけないし、なんか聞いたことがある声なんだよね…どこで聞いた声だっけ?


「特異点と連絡出来なくなったと思ったら変な奴から連絡が来て来日することになったけどよッ。本当に良かったのかよッ!」


「メーディアの予言だから大丈夫でしょ。」


「…ここ良いわね。住みたいわ。」


「でも土足駄目なんでしょ?靴を脱いで家の中歩くのはちょっと…」


「観光気分だよこの人達…。」


(フランス語と…オランダ語?それに聴き覚えがある声……まさかっ!?)


私は立ち上がってドアの方へと視線を向ける。


「遅れた。早速話をしようか。」


客間のドアを開けて最初に入ってきたのは…オリオンさんだった。でも雰囲気がいつもと違う。凄く険しそうな顔をして切羽詰まってそうに見える。


「おーここも良いじゃない。再来年には家族を連れてきて引っ越そうかしら。」


「まだ人が住んでるでしょうが。」


「おっ!アイツ特異点と一緒に居た奴じゃね!?」


「あー私が憑依した奴ね。お久しぶり〜。」


魔女のような格好をした女性達が続いて入って来たものだから私達は面を食らってしまい、声を出せずにただ呆然と彼女達を見ているしかなかった。


……なんでここに魔女の集会が?


「あ、あの。あなた達ってあの島に居た……」


「お久しぶりね。私達ってかなり妙な関係性だけどこれから仲良くしてもらえると助かるわ。」


金髪の女性が代表して私の方に来る。そして予想外な事を言われてしまいしそれ以上の事は言えない。


「…こちらこそ?」


オリオンさんが連れてきたのだから敵ではないと思うしそう言われたら強くは言えない。


……あれ、なんでオリオンさんと一緒に来たの?共通点とかは無さそうな組み合わせだけど?


「オリオンさん、彼女達と知り合いだったのですか?」


私はオリオンさんの下へ向かい、客間のドアの前で話しかけたら私達の間を一人の女の子が通り抜けていった。私はその女の子を知っている。だけどそれはあり得ない。あってはいけない。彼女がここに来るはずないから。


「私にもお茶貰えますか?」


「え?ああ、ちょっと待っててね。」


その女の子は普通に余ったソファーに座って雪さんにお茶を淹れさせる。誰も彼女の事を知らない。いや知っているけど見たことがないから誰かなのか判断出来ないのだ。


彼女を知っているのは会ったことのある私と、彼女を連れてきたオリオンさんだけ…


「…オリオンさん。」


「この状況をどうにかするには彼女の能力が必要になる。」


「オリオンさんっ。」


「もうワタシには手段を選んでいる場合ではない。」


「オリオンさん!彼女は…!」


私の声が部屋の中をやけに響き、みんなの注目を集めてしまう。


「あ、どうもありがとう御座います。いただきます。」


その中でも一人マイペースな彼女は目を瞑ったまま茶の入った湯呑みを受け取って口にする。その様子は皆の目にはかなり奇妙に映った。


「……君って、それで見えるの?」


朧さんが代表して質問をした。


()()()()()()()()()()()()()()。」


間違いない。見た目が似てるとかそんな次元の話じゃない。彼女は間違いなく本人だ。


「…蘇芳。」


「ふー美味しい。あ、始めまして皆さん。私は蘇芳。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


彼女はそう言って微笑み、また湯呑みを口に運ぶのだった。

化け物には化け物をぶつけるんだよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蘇芳が協力したら確かに大型補強になるけど 確実に裏切ってきそうやから 実質、ディア○ガvsパル○アvsダーク○イ← でも先生vs蘇芳やと無理くれやし逆に裏切れやんのか? あーもう本当に謎で面…
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