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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
2.死神の猟犬
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殺しの流儀

遅れました。

「オッサンここで降りるから支払い。」


タクシーこオッサンがぶーたれてかなりウザかったけど、時間が勿体無いのですぐにタクシーを降りて対象と思われる者を追う。


(ここだと目立つかもしれないな。)


私はすぐに路地裏まで走り民家の屋根上まで移動する。私の周りに人が居ない事は分かっているので身体能力をフルに活用して屋根まで跳躍した。


(パルクールの動画見て自分なりに動きを再現してみたけど駄目だな。)


私の身体能力だとあまり意味の無い動き方かもしれない。やっぱり人の動きと能力者の動きは別物で考えないといつか痛い目に遭うかもしれない。なんせ生き物として出せる力の大きさと身体の強度が違う。


私は屋根から対象だと思われる人影を見上げる。まだ視認出来る距離だけど【探求】(リサーチ)の射程距離外だな…私の視力はそこまで良くないけど目測は得意だ。


(多分だけど150メートル近く飛んでいるなあの人。)


左手を構えて銃口を向ける。軌道はあの人影に合っているのかは分からないけど対象が動き続けている事は分かった。


人が走るぐらいの速さだけど150メートルも離れているとかなり狙い辛い。もし初撃を外した際には対象が私の存在に気付いて逃走される。


そうなった場合に県外にまで逃げられたら捜索範囲が尋常じゃない位に広がるし最悪国外にだってあの能力なら逃げられるだろう。


(あれ?そうだよ。なんで標的は逃げていないの?)


そこで私は相手の状況に対して不可解な点を見つける。


対象はその気になったら県外にだって逃げられるんだ。雪さん達が逃したぐらいだしそのまま逃げれば良かったんだ。それなのにこの街に居続ける理由は?私達が探している事だって分かっているだろうに。


その証拠に彼女は飛んでいる。私達組織に見つからない様にあんな高さまでだ。もしかしたら普段から飛んでいるのかもしれないけど人通りの多いこんな昼間から飛ぶかな?私だったら飛ばない。


(彼女は家に帰りたいのかな。例え危険を冒す事になっても。)


「そこは私と違うな。」


私はアタッシュケースを開けて双眼鏡を取り出す。この双眼鏡は組織が製作した特注品だとか。良く分からないけどこのレンズを通して見てもベルガー粒子が見えにくくなるという事は無いらしい。


双眼鏡を覗いて対象を見ると写真の顔とそっくりな事が確認出来た。彼女が見ている方角は…やっぱりアパートの方だ。組織に連絡しなきゃ!


[対象を確認しました。対象は警戒しながら自宅に戻ろうとしているので各班は気付かれないようにその場で待機していてください。処理課が対処します。]


ふー、報告はこんなものだろう。途中で気付かれたら面倒くさいことになるし私の能力は秘密にするように先生からきつく言われている。


(私も気付かれないように建物の影から追いますかね。)


双眼鏡をアタッシュケースにしまい屋根から飛び降りて対処のアパートまで走って移動する。ここ一帯は私の能力でマッピングが済んでいるので誰にも見つかれずに移動するなんて朝飯前だ。違う昼飯前?いや夕飯前だ!


走っていると訓練時を思い出す。私の身体能力で走ると普通は靴や靴下がすぐに駄目になるがこのブーツとタイツは能力者の身体能力に耐えられるように設計されているので問題無く走り抜く事が可能だ。


見通しの悪い十字路だって私には視認出来るしスピードを落とさずに住宅街を駆けられる!


人の常識を軽く超えた加速にアタッシュケースから空気を裂く音が耳に届く。


ヤバいこれかなり楽しい!まだまだ足が進む!パルクールをしてる人の気持ちが分かる!


パルクールの動画で感じた世界が私にも感じられた。何でもない住宅街の景色が流れる。誰もが見た事のある景色だからこそ分かるこの異質の速さ。生まれて何度も見た風景を置き去りにする爽快感。


ああ気持ちいい!私が全速で走ればタクシーより速いのか!


酸素を多く吸おうとして鼻呼吸から口呼吸に切り替えてもまだ足りない。何故なら笑いが込み上げてきて呼気がままならないからだ。


「はっはっはっはっはっはははははははははは!!!」


(私“視界”より速く走れてる!時速60kmを超えたの私!?)


住宅街で時速60kmなんて出したら警察にスピード違反で切符を切られる。しかも無免許だし下手すると捕まってしまうよね。


私は公園などでバカみたいに走り回る犬の様にしばらく走り続けていたら彼女を追い越していた事に気付き慌てて急ブレーキを掛ける。


やっべ!走る事に夢中になってしまった!初めて広場に来た犬かよお前は!


慌てて空を見上げて対象を探すと少しずつ高度を下げてアパートに近付いている対象を発見する。


(あっぶなー!少しでも判断が遅かったら対象に気付かれていたかも。)


対象にピンを指せる距離まで近付きたい。あのまま降りきらない可能性も考えたらアパートの敷地内まで近付かないとあの高さではピンを指せない。早速対象に気付かれないように私は歩いてアパートに近付く。


部屋に入っていくあの人物のシルエットって宮沢みゆきさんだよね?写真からだと情報量が限られていて断定が難しい。うーん99%ぐらいの確信あるんだけどな〜。


アパートの駐車場から対処に軌道を合わせているので後は引き金を引けば対処に穴が空いて灰色のオブジェクトの完成だけど、違ったらマズい。


能力者という事も分かってるし能力の特徴も合ってるけど直接会ってもいないし話してもいない相手を殺すのは難しい。こんな迷いと緊張感があるとは知らなかった。


(どうしよう直接会って本人確認しようかな。室内戦でも私の能力は強い。前回の時も【再現】(リムーブ)が凶悪に働いた。)


私は出来るだけ相手を良く知った状態で殺すのが自分にとって1番やりやすい方法だと考えた。


ヨシ!行こう!私の殺しの流儀は直接会って殺す事にした!


対象は探し物を見つけられないみたいで室内をうろうろしているし玄関に鍵を閉めていない。恐らくすぐに出ていけるようにした行動だろうけど私みたいな殺し屋が入ってくるなんて想定してないのかな?


対処の部屋は2階にあるのでジャンプして着地した瞬間、ドアノブに手を掛けて侵入しカバンを漁っている対処を肉眼で視認する。


「え?え?なになになに誰よ!?何で私の家に入ってきてるのよ!?」


かなりヒステリックな女性だ。まあ知らない人が入ってきたら驚くだろうけど甲高い声のせいかキツい性格という印象を受ける。


「良いからそこのソファーに座って、じゃないと()()()()()()。」


私は左手に持った能力()を彼女に見えるように銃口を向ける。


「ひっ!?何で銃なんか持っているのよ!あ、ああなたまだ学生ぐらいでしょ!?」


学生で無くても銃は持ってはいけない。


「やっぱり見えるんだねコレ?後さ、何回も言わせないでよ。座れってソファーに。」


彼女がソファーに座る。ここの間取りは6畳ワンルームで玄関の真正面にベランダに繋がる掃き出し窓がある。ソファーは壁沿いに置いてあり真ん中にはテーブルがありその先にテレビが置いてある。


私は玄関の鍵を閉めて対象に近づきすぎない様にソファーの反対側の壁に背中を預けながら掃き出し窓まで移動する。


ここまでの私の行動には意味がある。玄関に鍵を閉めたのはすぐに出られないようにだ。鍵を開けるというワンアクションは致命的な隙を晒すことになる。私の銃なら2発撃ち込める。


相手を座らせて私が壁沿いに移動したのも対処の射程距離は考えてだ。1.5〜2メートルの射程距離ではこの狭い空間では移動するにも気を使う。掃き出し窓に移動したのは対処が窓から逃げ出さないようにする為。


「質問していいかな。アナタのお名前は?」


身体をビクビクさせながらこちらを睨み付けてくるが左手を少し動かせば怯えた表情に変わる。


「…宮沢、です。」


「お 名 前 は ?」


「…み、みゆき」


「宮沢みゆき…さんですね?年齢と誕生日、学歴を言ってもらえます?」


私は彼女のプロフィールを表示させるために右手でソマホを操作する。その為に私の視線はソマホに向けられて彼女から目を離す形になる。


「宮沢みゆきさん死にたくなかったらそのテーブルを動かさない方が良いですよ。テーブルをぶつけられたぐらいじゃ死にませんしその前に引き金を引く方が早いですよ。」


「っ!?何も!何もしてないわよ!私は何もしていない!!」


探求(リサーチ)】で彼女のベルガー粒子がテーブルの周りに赤紫や青紫の塊の様に集まっている事が認識出来る。この事から念動の能力とはベルガー粒子をコントロールし変容させて物質に対して何かしらのアクションを起こさせる…という所か。


私は再び左手を動かして対象にアクションを起こさせる。


「何なのよ私は悪くないのに何でこんな目に、っ!分かったから!言うから銃を向けるの止めてよ!」


彼女はつらつらと語ってはくれなかったけど欲しい答えは言ってくれた。


「じゃあこれから色々と確認するけど正直に答えてほしい。良い?」


コクコクと頷く宮沢みゆきさん。


「アナタが能力に目覚めたのは2ヶ月前ですか?」


コクコク。


「能力は念動力、つまりテレキネシスで物体を動かせる。」


コクコク。


「私が訪ねる前にスーツ姿の男女が宮沢さんに訪ねてきたと思うけど何で逃げたの?」


「こ、怖かったから…いきなり能力とかどうとか聞いてきて怖くなったの。」


ふむふむ…なるほど。道理は通っている様に思える。


「これはアナタには関係の無い事かも知れないけど、この辺りのATMが破壊される事件が多発しているんだけど知らない?」


ブンブンと首を振る。ふむふむなるほど。


「ここ一ヶ月の出来事だけど犯人に心当たりある?」


ブンブン。


「じゃあ質問変えるけどアナタと同棲していた彼氏さんの行方が分からなくなっているけど知らない?2ヶ月前からなんだけど。」


ブンブン。……ふーんなるほどね〜。


「隣の部屋に住んでる人から良く男性の怒鳴り声が聞こえてたって聞いたんだけど仲は良好だった?」


コクコク。


「実は彼氏さん見つかったんだけど知ってる?」


「えっ!?嘘よ!そんなはずないわ!!」


「いや本当本当。遺体で見つかったけどね。」


「………」


へーそこで黙るんだ。この人頭悪いな。


「うちの鑑識は優秀らしくて色々調べてくれたんだよね。致命傷が後頭部の打撲だったかな。結構強い力でぶつかったから頭蓋骨が割れてるってさ。」


「…」


「でね〜?他の傷は凄いよー腕も千切れてるし指なんて縦に裂けてるわ砕けてるわ潰れてるわでここだけでレパートリーが豊富だよね!」


「…」


「顔はグチャグチャで歯もボロボロで凄かったらしいけど1番凄いのは胴体から70メートルも離れた場所まで吹き飛ばされていたって!」


「…」


「下半身でいうと足とか半液状になるぐらい圧縮されてるのに男性器はバナナの皮みたいに剥かれてから地面に植えたのはちょっと個人的に面白かったよ。」


「クスッ………いや違うのよ私は笑ったわけでは…」


「いや面白いと思うよ?初めて能力に目覚めた時ってさ楽しいよね?出来なかった事が色々と出来てさ、だから色々と試したくなるんだよ。宮沢さんもでしょ?」


「私は…そんな恐ろしい事出来ないわ。」


「今はそう思ってるかもしれないけど能力に目覚めた直後は万能感に満たされて普段しないような行動を取るんだよ。私にも覚えあるから。」


「あ、あなたもそうなの?」


「そうだよ。この銃で人を殺した時はかなりハイになってたしその一連の出来事全部面白かったかな。」


「わ、わたしも楽しかったわ!アイツの首を空高く打ち上げた時なんて生きてて1番楽しかった!アイツ浮気ばかりして私の稼いだお金全部パチンコに使って意味分かんないよね死んで当然の奴だったんだよ!私がこの力に目覚めたのは神様が応援してくれたからなの!アイツは死んで当然死んで死んで死んであははははひひひッヒヒヒ!!」


私を同族だと思ったのか、勝手にペラペラと喋ってくれる。因みにスマホは録音状態にしてるから供述は取れている。


「私もアイツの身体の原型が分からなくなるぐらい撃ち込んでる時が1番楽しかったかも。」


「へ~~~それは楽しそう!ねえ私達って仲間になれないかな?!あのねお金なら私持ってるの!ここを離れて1からやり直せるぐらいの大金が!」


「宮沢さん29歳でアラサーでしょ?その年齢じゃやり直せないと思うなー現実的に。」


「え?…え、え?は…?」


「やりすぎたんだよオバさん。“組織”はあなたを処理する事にした。これは決定事項です。」


「は?ふ…うん?ううん?え?」


「あなたはこの平穏な世界には要らない。」


あなたは人里に下りた熊だ。人を喰らってその血の味を知ったうえに人間様の持ち物にも手を出した熊。そんな恐ろしい熊が居てさ、しかも見た目が人と同じとかねぇ?普通そんな熊が居たら殺処分するでしょ?


あなたを人を喰らう熊か人に従う犬かは組織が判断する。アナタは熊で私は犬だワン!


「今回もクズで良かったよ。」


引き金を引いて“軌道”を再現する。視認出来ない悪魔の弾丸が軌道線上を疾走り空気を裂きながら軌道線上の宮沢みゆきの胸に向かって真っ直ぐ放たれた…が、軌道上を疾走る弾丸は彼女の下までは届かなかった。


「な!?」


弾丸は宮沢みゆきの紫色が混ざったベルガー粒子に阻まれた結果、宮沢みゆきを包むベルガー粒子と一緒に壁に激突して部屋を半壊させる。


(ありえるのか!?()()()()()()()()()()()()!)


そう言えば先生が言っていた…能力には能力に干渉出来ないと!


しかし彼女を包むベルガー粒子が霧散してる。今なら貫けるかもしれない…試してみるか。


「リムー…」


私がリムーブを発動する前に私の視界を紫色が染めた。


(っ!?)


能力を行使するよりも前に気が付いたら私は窓の外に吹き飛ばされていた。

遅れちゃいました。

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