光差する思い
美世の母親である美代のボスキャラ感半端ない。
今、私は多分美世の能力による妨害を受けている。彼女の能力は探知能力であって探知されないようにする能力ではなかった筈。なのに彼女を探知して情報を共有しようとすると何らかの干渉で妨害されてしまう。
はっきり言って意味が分からない。誰かから能力をコピーしたの?もしくは協力者が居る?
…聞きたいことは山のようにあるけど、何から聞いたらいいのか検討もつかない。というか彼女は答えてくれるのだろうか。それに……美世は私の知っている美世なのか。私が知っている美世なのかが一番気になるところ。
…あの部屋の惨状は夢に出てくるほどに私に衝撃を与えた。天狼さんが駆けつけてくれて、その後に天狼さんもあの部屋を見てしまったけど、私と違ってすぐに状況を理解していたみたいだったけどね。
そのあと天狼さんは誰かに連絡をしていたみたいだったけど、私は呆然としていて良く覚えていない。その後は死神が消息を絶ち、美世が消えた。だから探そうと動き回ったのに……
「こうやって2人で放課後帰るの久しぶりだね。」
「…うん。」
いつもの様に彼女は振る舞っている。…あれは夢だったのかな。あんな惨状は実は無くて私の思い違いとか?
……な訳がない。あんなものを体験してそんな都合のいい答えを受け入れるわけがない。私に必要なのは真実だ。絶対的な答えが私には必要なんだ。
「先ず聞きたいことがあるんだけどいい?」
「んー?良いけど。」
帰宅途中の私達の周りには一般の人達も帰路についていて、あまり踏み込んだ質問は出来ない。…まあ聞かれるとヤバいものしかないけどね。
「連絡が取れないのは美世のせい?」
私は後ろを歩く美世に自分のスマホを見せる。電波が立たず私の位置も組織には追えなくなっている。
「そうだよ。でも正確に言うとちょっと違うかな。」
…はっきりとしない言い方をする。でも誤魔化して言っている訳じゃない。本心で言っているように思える。
「そう……。なら次の質問、昨日は何をしてどこに行っていたの?どうやって組織の捜査網から消えたの?」
聞かねばならない。今の美世が何をしているのか私には分からないのだから。
「ん?いや昨日は普通に休日を楽しんでいたけど?えっーと…ショッピングに行ったり〜映画観たり〜良い値段のするレストランでディナーしたり…とかかな。」
…嘘ではない、のか?私には正直に話しているように見える。
「えっと私から質問なんだけどその捜査網って何?」
なんで知らないのっ!?ずっと美世を探していたんだよ私はっ!!
「昨日から探し回っていたのにその言い方ってなにっ!?終いには怒るよッ!」
「えぇ…もう怒ってるじゃん…。」
街中で漫才のような会話をする2人を待ち行く人々はチラッと見ながらも歩を進めていく。
「なんでこんな事になっちゃったんだろう……もう嫌っ。」
理華は両手で顔を覆いその場に立ち尽くす。それを見た美世は何か声を掛けようとしたが、口から言葉は出てこない。彼女の中に葛藤があるからだ。
「………私の家来る?」
「………………え?」
それは突然の誘いで理華達は美世の自宅マンションへと向かった。
「ちょっと鍵開けるから待ってて。」
美世はドアの鍵穴に鍵を入れる。しかしその時点でおかしい。理華は一昨日このドアを破壊している。自分の部屋の隣だし朝見た時は[KEEP OUT]のテープがされていた。
組織の人達ですらここに入るなと死神が通告したから私と天狼さん以外この部屋には入っていない。
だけどそんな事は今はどうでもいい。美世に誘われるまま来ちゃったけどこの部屋にはあの軌道がある。しかも浴槽には……あ、帰りたい。急に隣の私の部屋に帰りたくなってきた。
「ただいま〜。」
そんな私の気持ちとは裏腹に美世は軽快にドアを開けて玄関に入っていく。…中は明るい。電気は付いているようだ。
…ここは覚悟を決めて入るしかない。鬼が出るか蛇が出るか…
「…はぁ?」
玄関の先の光景は一昨日とは全くの別物だった。あの異様な薄暗さは無くなっており廊下全体が明るくなっている。
先ず玄関にマットが敷かれてスリッパラックが置かれている。しかも花瓶に花が添えられて飾られてるし血の匂いは一切しない。寧ろ良い匂いがする。美味しそうな料理の匂いだ。
あれ、なんで料理の匂いがするの?
「上がって上がって。紹介したい人が居るからさ。」
美世に勧められて部屋に上がらせてもらうけど脳がついていけない。知りたいこと疑問が同じぐらいあって何から聞いたらいいのか分からない。ただただこの状況に圧倒されてしまう。
「お、お邪魔します。」
何度か上がらせてもらった美世の部屋だけどまるで初めて来たように感じる。一昨日の雰囲気なんて全く感じさせない。やっぱり一昨日の事は幻覚かなにかだったんじゃないかな。
「こっちこっち。」
美世の後ろをついて行き廊下を進んでいく。その途中で浴室のドアの前を通る時、私がドアの方を注視していると…
「もう片付けたから大丈夫だよ。」
心臓が高鳴った。心の中を覗かれたと勘違いしてしまうぐらい完璧なタイミングで指摘されたから本当に驚いてしまった。思わず美世の方を見るけど後ろ髪しか見えず表情は分からない。
本当に今更だけどこの部屋に入って良かったのかな。あの時は部屋が隣同士だから帰り道は全く一緒だったし、あそこで断るのは変だったから来たけど良く考えると軽率過ぎたかもしれない。
「友達連れてきたよっ!」
考え事をしていたせいで気付いたらキッチンに来ていた。私の視界には美世の後ろ姿と美世と良く似た女性の後ろ姿が写る。……誰?美世は一人暮らしだ。私以外にこの部屋のキッチンを使う人なんて居なかった筈なのに…
「おかえり美世。それと…ああ、またお会いしましたね。」
エプロン姿の女性が振り返る。黒髪の綺麗な髪が流れてウェーブを描き軌跡を作り出す。そしてその顔も髪に負けないぐらいにとても綺麗で…………
「美世…?」
美世が2人、2人居る。そっくりとかじゃない。完全に2人居る。違う点は服装とか眼鏡をしているとか目が青いとかあるけど、それ以外は外見全て全くの同じ。
「あら、いきなり名前呼び?」
美代は面白半分で理華に向けて冗談を口にする。
「お母さんあんまり誂わないでよ。理華、紹介するね。こちらは私のお母さん。」
「…お母さん?」
美世のお母さんって確か死んでいるはず……え、どういう事?その説明じゃ何も分からない。だって年も見た目も同じなのに親子の訳がない。まだ姉妹だと言われたほうが信じられるよ。
「こんばんは三船さん。美世の母親です。」
「え、あ、はい。三船理華…です。あの、お邪魔させて頂いております?」
誰かこの状況を説明をして欲しい。私は何を見せられているの?美世の母親と名乗ったこの女性に私は悪寒を感じている。この感覚に私は心当たりがあるけど正確に思い出せない。
それにこの人には見覚えがある気がする。美世に似ているからじゃない。どこかで会っているはず。だって向こうもまたお会いしたと言っていたし間違いない。だけどどこで会ったんだろう。忘れなさそうな顔をしているのに…
「ご飯食べていくでしょ?良いよねお母さん。」
「ええ。久しぶりに料理したものだから作り過ぎちゃったみたいで、そうして貰えると助かるわ。」
この2人の反応から本当に親子であるとは思うんだけど私の理解が追いつかない…。色んな事がこの数日に起きて情報が足りていない。
「…ではお言葉に甘えさせてもらいます。」
「じゃあ出来るまで私の部屋に行こうか。お母さん出来たら呼んでーっ!」
「はいはい。呼んだらすぐに来なさいね〜。」
こんなに甘えた美世を見たことがない。今日は驚いてばかりで疲れてきたかも…昨日から寝てないし仕方ないよね。
美世について行き美世の自室に入る。ここは前と変わらない。美世の匂いがする。甘いような花のような匂い。
「…ふーう。ここは私の領域だから安心していいよ。ここは私の効果範囲だから。」
…この日初めて私は美世と出会った気がした。間違いない。今はいつもの美世だ。さっきとは纏っている空気感が違う。
「聞かせてよ。この数日何があったのかを。」
私は美世と話をしなければならない。彼女がどういう状況に置かれているのかを私は知らなくちゃいけないから。
美代の伏線は物語中ありとあらゆる所に散りばめられているので、その全てに気付いていた人は凄いと思います。




