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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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イレギュラーが誕生した日

主人公に経産婦という属性がつきました。作者はノーマルです。

美世が行使した能力【再生(リヴァイブ)】は今現在の軌道、因果を消し去って逆行するものであり、正しく言えば死者蘇生をしているわけではない。なら美世は母親と死神に対して何を行なったか。


彼女達は先ず身体を成長させる必要があった。未熟児以下の状態である母親の身体を自身だけで生命活動を維持するのは不可能であるからだ。それに利用したのが死神の軌道(身体)


正確に言えば美世自身の身体の軌道なので美世がその軌道に対し干渉出来るのは当たり前な事であり、その軌道の持つ時間にまで母親を進行させたに過ぎない。


簡単な話AからBへと進んだという事だ。Aは未熟児の母親の身体でBは成長した美世の軌道。この2つの軌道はかなり近しい存在だからこそ可能な事で普通なら不可能な行為だ。


今の母親の身体は美世のDNAと自身のDNAの情報を取り込んでいて、しかも美世は元々その母親のDNAの半分を有している。肉体に関して言えば生前に近い肉体を手に入れる事ができる。


それから美世の軌道は美世自身の現在である為に時間軸をそこまで進行、いや逆行させていく事で母親の身体はそこまで成長していく事が可能になる。


その結果、母親の身体はまるで早送りのように成長していき徐々に身体の体積を増やしていく。もう美世の手のひらには乗ることが不可能なまで急激に成長し、それまでの軌道は削除されていく。


進むも戻るも観測点によって違ってくる。人の立ち位置によって前と後ろが違うように時間軸も同じ意味を持つ。美世の母親にとって今の状態から逆行することは元の身体、つまり髪も皮膚もあった生前の身体の事を指している。


母親の身体はもう人の形に近しいものになり、あとは皮膚と髪の毛だけになる。なので死神が使っている軌道()で包んでしまえば問題はない。


肉と皮が重なり合い中身が入れ替わる。死神という存在は軌道から弾き出され母親の肉と骨と魂が憑依した。余計な軌道は消し去られ全裸の美世の身体がこの世界に誕生する。


「…………ふ、ふふふっ。ああ懐かしい感覚っ…!これが新しい身体っ!」


見た目は美世と瓜二つ。しかし違う点はその目だ。美世の目の部分は虹彩も瞳孔も黒いが、母親の“美代”の方は虹彩も瞳孔も青く染まっていた。それ以外は全て同じ見た目をしている。


「良かった…成功して。」


2人は抱き合う。例え股から血を流し続けていても裸のままであろうと親娘の抱擁を遮る要因にはならない。


ーーーそしてどれぐらいの時間、抱擁をしていたか。流石にこのままではいられないと美世が抱擁を止める。


「……お母さん、そろそろ服を着て。」


美世はいつまでもこの寒くなった時期に裸でいる母親の事を無視出来なかったようだ。


「はいはい。母娘(おやこ)なんだから恥ずかしくもないでしょうに。」


美世が持ってきたバックパックの中から着替えを取り出す。美世が着用している下着をそのまま使うことが出来るので、美世の私物を穿くことになる。


「あら、私より胸小さいのね。」


美代は昔の自分と比べながら身体の隅々までチェックする。美世は自分の身体を見られているように感じて頬を染めた。


「……今はね。これから大きくなると思うし超えるかもよ?」


「そうね。それは楽しみだわ。」


森の中でショーツとブラを着ていく美代の姿はなんとも言えぬ色気を放っていた。彼女が均整のとれた身体を動かすとハリのある皮膚と下着の布とが擦れて森の中に蠱惑的な擦れた音が響く。


「お母さんこれ!」


美世が取り出したのは美代の生前着ていた衣服。美世がずっと保管していた服の1つである。


「ちょっともうデザインが古くないかしら?この年の娘の身体には合わないと思うんだけど…。」


「絶対に似合うから!ほら着て着てっ!」


「全く…仕方ない子ね。」


美代も満更でもない表情でその服を受け取り着用していく。服はシンプルなデザインのワンピース。美代のワンピースとは対のように真っ白な色であり、純白の服を着た美代はその年不相応の色気を醸し出していた。


「これでご満足?」


その場で回転してスカート部を揺らす。その軌道はまるで満開に咲き誇った白百合の花のようで、それを見た美世は興奮しながら最後の衣装を渡す。


「最後にこれ!」


靴だ。美世が履いているような踵が高い靴でこちらも白色のものを用意していた。


「はいはい。今日は私がお人形さんね。」


美世は母親の足元に寄って靴を差し出す。それを見て察した美代が片足を差し出して履いていく。それをもう片方も行なって履き終わった2人は並んで立ってみる。


「お母さん、とっても綺麗!」


「美世もとても綺麗だから落ち着きなさい。」


未だに流血が止まらない娘を心配する美代だったが、これを提案したのは母親である彼女自身。こんなやり方を美世に吹き込んだ張本人であり間違いなくあのデス・ハウンドと呼ばれた美世の母親と呼べる人物だった。


「この後はどうするの?」


「行きたい所があるのっ!一緒に行こうよ!」


美世はまるで小学生のように落ち着きがない。幼児退行したのではないかと思もうほどの変化に対してこの場にいる誰も疑問を持たない。持つはずがない。


「そう、なら美世の好きな所へ行きましょうか。」


「うんお母さんっ!」


2人は手のひらを重ね合って………消えてしまう。その場にいた筈の2人は消え去って、置いていたバックパックも血の痕跡も消失していた。彼女たち親娘がどこへ向かったのかは彼女達にしか分からない。


特異点としての特性をフルに活用した美世親子の行方を追えるものなどこの世に存在する筈が無かった。


そして週を明けた月曜日、三船理華は憂鬱な気持ちのまま学校へと登校していた。昨日は天狼と一緒に連絡の取れない美世の行方を探していたので徹夜明けの為に体調が優れない。


しかし教室に入ると……


「あ、理華おはよう。」


「…美世?」


居た。彼女が居た。間違いなく伊藤美世がそこに居たのだ。彼女はいつも通り登校していた。


「理華もおはよー。美世っち体調良くなったって〜。」


未鈴(みれい)…。」


この高校に来てできた私の友達である未鈴と美世は楽しそうに談義を続ける。麻里奈(まりな)も廊下から教室に入って美世達の輪に入っていく。その様子に私の脳は異様な状況について行けない。


色々とおかしいし疑問もあるけど、なんで普通に登校しているの…?あれだけの事をしておいて何故楽しそうに話せるのかが分からない。


いま組織は大変な事になっている。死神が消息を絶ち、美世が組織の監視網から消え去ったからだ。組織に所属する能力者の中でNo.1争いをしている2人が消えたのだからそれはえらい騒ぎとなった。


どの課の人達も駆り出されて世界中で捜査網が敷かれたけど何一つとして情報は得られなかった。なのに美世は普通に学校に来ている。


だけどそれはあり得ない。


この学校にも監視の目が張り巡らされているからだ。美世を発見したのなら必ず情報が出回る。私のスマホに通知が来る手筈なのに何も通知は来ていない。つまり彼女は未だに見つかっていない事になっている。


「美世…ちょっと話があるんだけど良い?」


「え、うーん…放課後で良い?」


(……かえって、そっちの方が都合が良いか。)


「うん。じゃあ放課後ね。」


私は美世と約束を取り付けてからその場を離れ自分の席へと向かった。この距離なら美世に何をしているかバレてしまうけど、何もしない訳にはいかない。


スマホを操作して組織に連絡を取ろうとしたが、調子が悪いのか電波が立たない。……故障かな。


再起動してみると電波が立ったので組織のアプリを起動しようとタッチするがまた電波が立たなくなり通信エラーが発生する。


(こんな時に…!)


しかしラインに通知が入る。つまり通信自体は出来てる。でも組織のアプリだけが通信出来ない。…サーバーが落ちたのかな。あまり考えられないけど、昨日から引っ切り無しに情報が行き来しているから負荷が掛かったとも考えられる。


なら天狼さんに連絡しよう。ラインが使えるのなら連絡が取れる。天狼さんはずっと第二部ビルに居るはずだし、美世の事を伝えれば組織にその情報は行き渡る。


「は?」


あまりの事に声が漏れて隣の席の関口くんがこっちを見てくる。ご、ごめんなさい。静かにします。


でもしょうがないじゃん。ラインで天狼さんに連絡を取ろうとした瞬間ラインのアプリが反応しなくなったんだもん。今日はついていない。ならショートメールで……


………これも駄目だ。どの連絡手段も私が使おうとした瞬間使えなくなる。逆に使わなければどのアプリも使えるようになる。


(まさか…そんなことが…。)


顔を上げて美世の方を見ると目があった。悪戯が成功した時に見せるような表情で彼女は人差し指を口に当て


「まだ黙ってて」


と彼女は私にだけ分かるように口を動かしたのだった。

この物語も折り返し地点ぐらいまで進行しました。多分今年中に完結出来ると思いますのでそれまでお付き合いをお願いします。

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