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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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美世の選択

久しぶりに理華視点ですけど、美世に関わる話です。

最近美世の様子がおかしい。学校では良く寝てるし顔色が本当に悪い。マリナも凄く心配してるけど、当の本人は何でもないって言ってすぐに帰ってしまう。


しかも美世の隣の部屋を借りている私はここ最近美世の部屋から複数の気配を感じている。美世は平日こっちのマンションには来ないはずだから、私は気になって聞き耳を立ててるけど壁が分厚くて何も聴こえない。


今日も彼女が何をやっているのかラインで聞いても既読すら付かない。美世が何をやっているのか知ろうとしてハーパーや天狼さんに聞いてもみんな分からないと言う。


こういう時わたしって美世から信用されていないんだと実感してしまう。ずっと美世を見ていて最近分かったことだけど、彼女は人間関係において踏み込み過ぎない所がある。こっちが近付くと絶対に引いて向こうから距離を置いてしまう。


それは私にとってすごく傷付く行為で、絶対に美世からして欲しくない行為だ。夏休みではほとんど一緒に居て信用も信頼も得れたと思っていた。でもスカイツリーの一件から美世は変わってしまったように思える。


カウンセリングに通っていると組織内で情報が回って来た時はつい問い詰めてしまった。今思うとあれから美世との距離感が分からなくなったような気がする…


「なんで相談してくれなかったの!」


「え…?相談は…しに行ったよ?」


「それはカウンセラーにでしょっ。カウンセリングを受けに行くぐらいなら相談して欲しかったよ…。」


「…そこまでの事じゃないから心配しなくて良いよ理華。カウンセリングは何回か通わないといけないから行っているだけだし。」


「でも…。」


「ごめん。今日から少し忙しいから行くね。」


美世はそう言って、それからは放課後になるとすぐに帰るようになってしまった。いつも帰るのは早いけど、いつも週に1〜2回は私とかマリナ達と放課後に寄り道してくれてた。でも美世はここ2週間は一人で帰宅している。


本当に心配だよ私は。私も組織の人間だからカウンセリングを受けに行く意味は分かっているつもり。組織に所属している人達が精神を病んでしまって入院してしまうのは珍しくない。


だから美世もそうなってしまわないか考えるだけで寝る前に泣いてしまう事がある。毎晩不安で不安で仕方ない。


(…何をしているか突き止めないと。)


美世の性格から分かるのは絶対に何かをしている時は誰にも頼らないこと。何故かは分からないけど彼女は遠慮する。しなくても良いのに美世は自分ひとりで何でもしようとする。それが彼女の良いところでもあり悪いところでもあると私は考えている。


美世はずっと一人で過ごして来た過去があるから自分ひとりで何でもしようとするのは分かるよ。でもそれじゃあいつか上手くいかなくなる時が来る。例え彼女が能力者として優れていても友達なんだから頼ってほしいんだよ。


「すぅー…良し。」


土曜日、美世の自宅マンションのドアの前で深呼吸をする。部屋の中から人の気配がするし休日だから美世はマンションに居ると思うんだけど…妙な気配がする。


能力者としての勘かな。任務を熟して身に付いた感覚がこの中に何かあると叫んでいる。


「美世…私はあなたとなら地獄にだって…。」


彼女がこの部屋の中に居るのなら私を探知しているはず。もし居なくても彼女はテレポートでこの部屋に来れる。だから私がこの部屋に入ろうとしている事を彼女に知らせないと。


「【熱光量(サーマル)】」


鍵穴に光を侵入させて部屋を照らす。私が能力を行使した事はこれで美世に知られたはず。


「…部屋に居ないのかな。」


部屋に居るのならもう出て来てもおかしくない。という事は美世は部屋の中に居ない?でも人の気配はする…。


「おかしい…部屋の中から音がするのに…。」


ドアに耳を当ててみると物音と足音が聴こえる。だから居るはずなんだけど…とても嫌な雰囲気だ。私の部屋と同じドアの前なのに、まるで心霊スポットみたいな感じ。


妙に湿っぽい空気感というか…ここだけ事件現場のような匂いがする。


「血の匂い…だよねこれ。なんで美世の部屋から血の匂いが…。」


何故血の匂いがするの…?隣の部屋だったのにこの異変に気付かなかったなんて…。私が美世に対して距離を置いていたんだ。…バカだ私は。自分から離れていたんじゃないかっ!


「今行くからね美世っ…!」


ドアチェーンがされてるし壊して開けるしかない。ここのドアは内開きだから蹴りつけて開けないと。


「このっ!」


ドアを蹴りつけるとミシッミシッとロック部分から音が鳴るけど、そこからうんともすんとも言わない。ロックの部分がやっぱり頑丈に出来てる。ここは組織の施設だから強固な造りになっている影響で能力者の筋力でも壊せない。


「…ちゃんと弁償するから完全に壊しちゃうね。」


熱光量(サーマル)】で鍵の部分に熱を与える。すると一瞬で真っ赤に熱しられて白い煙が立ち上がる。我ながら便利な能力だと思う。あれだけ頑丈な鍵も…。


「お邪魔します。」


ドアを軽く押せばドアノブに触らなくても勝手に開く。開いたその先にあるのは鉄の焦げた匂いと薄暗い玄関。私の部屋に比べて明らかに暗すぎる。まだ太陽が昇っているお昼時なのにこれは異常な光景だ。


「美世…居るの?」


呼んでみても反応は無い。だけど間違いなく誰か居る。聴こえた…足音が今も聴こえてくる。でもこれは…


「一人じゃ、ない…?」


複数の足音がするけど美世以外にも居る?いや、もし美世が居ないとしたら誰かがこの部屋に居ることになる。それってどう考えてもおかしい。人が居るのに明かりも付けていないなんておかしいよ。


「…照らせ【熱光量(サーマル)】」


熱されて発光していたドアの鍵から光を取り出して廊下を照らす。このマンションはとても広い。一人暮らしにするには広過ぎるぐらいだ。真っ直ぐと伸びた長い廊下にトイレ、バスルームのドアが左右にあって更に廊下の先にはリビングやキッチンがある。他にも部屋が4つもあって5人家族でも暮らせてしまう程の広さだ。


「おかしい…ここには人の熱がない。」


人は熱を持ってるから赤外線を常に発している。でも廊下には人が居たとは思えない。全くといってどこも同じ温度で一定。でも今も足音が聴こえる。


ペタッペタッ…今も聴こえてくる。裸足で廊下を歩いている音が。


「私でも見えないという事は…()()()()()?」


美世と一緒に任務をこなしていたから私には分かる。こういう訳の分からない現象は死神の能力だ。私の勘が間違いないと言っている。だけど、今までの美世の能力とは毛色が違う気がするのは何故?


先ず、美世の目的が分からない。この足音の正体も気になるけど、1番はなんで能力を行使しているかだ。美世はあまり任務以外で能力を行使するタイプではない。だからこの状況があまりに不可解、いつもの彼女らしくない感じがする。


『ーーーここで引き返した方がいい。』


突然脳内に声が響きベルガー粒子の操作が乱れて能力の行使が途切れてしまう。するとまた廊下は薄暗くなり一層の不気味さが辺りを包む。


「誰ッ!?」


(この感じ…死神とパスを通じて会話した時と同じ!)


「死神…貴方なんですか!?」


声は美世と同じだけど口調とかアクセントは違った。美世とは別人の人間の声だった。


『ーーー美世はあなたを巻き込まない様にしていたのに何故ここに来てしまったの?』


この喋り方は…女性?という事は死神ではないとは思うけど美世ではない!


「質問しているのは私です!美世の事を知っているのなら話してもらいますよ!」


私が声を荒上げると突然、廊下が静寂に包まれる。あの奇妙な足音が聴こえなくなり、より一層の不気味さを感じた。まるでこの声の主が足音を止めたみたいだけど、それは本当におかしい。だって能力は美世が行使している。だからこのタイミングで足音が聴こえなくなるのは美世が能力の行使を止めないといけない。


「美世…そこに居るの?」


薄暗くなった廊下の向こうに声を掛けて返事は無い。美世の声もあの怪しげな声も聞こえず私は後退りしてしまう。あまりにここは不気味に感じてこれ以上奥へは入りたくない。


能力者としての勘じゃない。私自身の経験が、心がここを早く離れろと言っている。


でも私は後退りする足を止めて踏み込んでしまった。玄関を土足で上がり廊下を歩く。


「…もしここが地獄なら、私は行くよ。待っててね美世。」


ペタッペタッペタッ…廊下に足音が鳴る。その足音は裸足で廊下を歩く音であり、決して理華から発せられる音では無い。人影もなく生き物が居るような気配も無かった。


《あーあ、聞き分けのない子は嫌いなんだけどな…。》


しかし、その様子を伺う何かが確かにそこに存在していたのだった。

この章で書きたかった所です。次回から鬱展開が続くと思いますのでどうぞお楽しみに。

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