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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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病むを得ない

土日もしかしたら一日2話投稿するかもしれません。(多分しない)

どうしよう……いつも通り勢いで来ちゃったけど何をするのか分からないや。お話をするみたいな事を言っていたからやっぱり相談をしたりする感じなのかな。


「え〜っと、どこに仕舞っていたかな〜。あ、椅子に座っててね〜。」


五十嵐さんがデスクの引き出しを開いて何かを探している。うわぁ……引き出しの中汚い。小物が沢山ゴチャついててガサゴソしてる。


なんか始まる前から心配になってきたよ。この人にカウンセリングお願いしてよかったのかな…。でもあの薬降るさんの推薦だからな…。ここは信じてみるしかないか。


取り敢えず椅子に座る。デスクは壁側に置かれているから私と五十嵐さんは何も挟まず対面する事になるけど、こういう配置って病院を連想するから落ち着かない。


「お、あったあった。」


なにか記入する紙を取り出してデスクの上に置かれたバインダーに挿んだ。多分私の診断に必要な事を記入するんだと思うけど、私は能力のせいで記入欄が視えちゃうんだよね……。


「じゃあ〜とりまはじめまして~あいの風さん。私は五十嵐反亜。あやせから話は聞いているよ。」


あやせって、確か薬降るさんの本名だったよね。五十嵐さんと薬降るさんって下の名前で呼ぶような間柄なのか。


「ん〜いいね〜♪」


デスクに片肘を乗せながら私を笑顔で観察する五十嵐さん。肘を乗せた手に頭を預けているせいで彼女の肩まで伸びた髪が揺らぐ。その1つ1つの所作が人の警戒心を和らげていくようだ。


子供っぽいその瞳もその丸いフレームの眼鏡も全て相手を落ち着かせて信頼を得る為の演出のように思える。これは少し考え過ぎだろうか。初めて会った人にはどうしても警戒してしまう。これが陰キャの(ごう)か。


「うんうん良く見てる。あいの風さんの思っている事は多分当たってるよ〜。」


(こいつ、私の考えを…!)的な能力者なら良かったんだけど、この人はただの無能力者。私の表情を見て見抜いたとしたらこの人の観察眼は相当なものだ。薬降るさんが推すだけある。


「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらを覗いているのだ〜ってね。なんかあいの風さんが怯えていたからさ〜。つい(からか)っちゃったゴメンね。」


悪びれない態度に子供っぽさを感じる。私よりも一回り以上歳上なのに性格が成熟していないよこの人。


「いえ…、気にしていませんから。」


うーんこの人の性格とか話す内容が天然なのか養殖なのか判断に困る。ワザとらしさも感じるし素で話している気もする。


……なーんか誤魔化し方が上手いんだよね。掴み所がありそうで無い。目の錯覚を誘発させる騙し絵みたいなそんな感じ。それがこの人に対する印象かな。


「良かった〜()()()って大事だからね〜。」


ビクッと身体が反射的に動きそうになるのを無理やり抑える。……気付かれたか?この人の観察眼なら少しの微動作にも気付きそうだけど……。


ていうかこの人何者?ただのカウンセラーな気がしない。なんの対策無しで話していい相手ではなかったかもしれないな。


蘇芳の時もそうだったけどさ、誰かに言われてから実際に会ってみるとその人が私の人生にガッツリ関わる人だったりするんだよ。


因みにそんな人達を紹介する人達も私の人生にガッツリと関わっている傾向がある。嫌なジンクスだ。


「考えているね〜良いよ〜君のことが分かってきたよ〜。」


すっごい楽しそうだねこの人……。若人を弄れて満足そう。


「……あの、カウンセリングしてもらえますか。結構マジな感じなので。」


今日はこの人のおもちゃになりにきた訳じゃない。真面目に診てもらえないのなら帰ろうと思う。


「ごめんごめん!久しぶりに若い子のカウンセリングが出来ると思って浮かれちゃってて〜。あ、プリン食べる!冷蔵庫にプリンあるんだよ〜。」


この人の真面目って普通の人とは違うらしい。…もう疲れてきたから適当に話を合わせて帰ろうかな。


「対戦よろしくおねがいします。」


「わお、カウンセラーしていて初めて言われたよ。…対戦か〜なるほどなるほどね〜。」


デスクの上にあるペンスタンドから一本の鉛筆を取り出してバインダーに挿んだ紙に記入し始めた。…やっぱり視えちゃうな。


「あの…私の能力って知ってますか?私の能力だとその記入欄とか何を書いたか分かっちゃうので…。」


自分の事をどういう風に書かれているのか視えてしまうとちょっとね。


「…えっち。」


五十嵐さんがバインダーで顔の下半分を隠しながらそんな台詞を吐く。……人生楽しそうだな〜この人。


「最近だとほとんど無意識に視えちゃうのですみません。」


「へ〜それは不便だね〜。でも書かないとだからさ〜。記録の為に記入してるからね〜。あとで見直した時にさ、前の私と今の私で相手に対しての印象が変わってたりするから必要なんだよね〜。」


まあ……仕事の為なら仕方ないよね。私が我慢すればいいんだし。我慢我慢。


「じゃあ〜カウンセラー反亜の本気見せちゃいますか〜!あいの風さん!ズバリ今日はどのようなご要件で〜?」


「えっと、あの…なんて言ったらいいのか分からないんですけど…。」


あ、コミュ障出ちゃってる私。良く考えると知らない相手に頼るという事をしたことが無いからどこまで言っていいのか分からない。全部話せば良いのかな……。1番改善したい事を言えば良いのかな……。


「時間はあるから自分の考えた事をつらつらと話してみ…、あっ……。」


鉛筆をペン回ししようとして床に落とすな。大の大人がすることじゃないよ。


「………」


取り敢えず無言の圧力をかける。


「もうしません。」


キリッと答えても私の信頼度は上がらないからね。寧ろ下がりまくっている最中だから。


「……ちょっと鉛筆削っていい?芯折れちゃった〜。」


あーなんか小学生と話してるみたい。鉛筆削り使ってる人を見るのが小学校以来だからかな。


「鉛筆ってHBに限るよね〜。あいの風さんもHB派?」


「私は2Bですね。HB使ってる人見たことないですし。」


「えっ!?嘘だよね!?逆に2Bを普段使いしてる人と初めて会ったよ!」


えぇ……。今日イチの反応がそれでいいんですか?


「今の小学校はみんな2Bですよ。筆圧の関係と視力低下を防ぐ為に……みたいな理由だったと思います。」


「ジェネレーションギャップだよ……。今の子達は進んでるな〜。」


……何が?何が進んでいるの?


「私も2Bに替えようかな〜もし2Bに替えたらBB(ばば)ってか!なんつって!」


「………ははっ。」


3点。年齢で自虐入ると笑えないんですよね生々しくて。


「えー愛想笑いが出来る良い子っと…。」


そんな事を書く必要性があるのかは分からないけど、つまらないギャグを言われるよりマシ。


「会話も出来てるし〜表立って問題は無さそうに見える。でも君みたいな子が言われたから来ましたなんてあり得ないよね〜。つまり本当にカウンセリングを受けたくて来たわけだ。」


「…最初の方に言いましたよ。」


「あやせに義理を立てる為に来た可能性が切り捨てられなくてね〜。君みたいな子が本気で嘘をついたら誰にも見破れないし確信が欲しかったんだよ。」


確かに私が特に問題が無い状態であっても薬降るさんに義理を立てる為に来たかもしれない。あれだけ世話になった人なんだし言われた事はしないといけないと考えるだろう。


でも引っかかる言い方だ。私の嘘なんて誰でも見抜けるよ。


「そういう訳なんでカウンセリングお願いしますね五十嵐さん。薬降るさんから優秀なカウンセラーとして紹介されましたので期待してます。」


「プレッシャーの掛け方が上手い女子は味方からは好かれるけど敵からは嫌われるよ〜?」


鉛筆で指差すな。くるくると先端をまわすな。


「五十嵐さんは私のことが好きですか?嫌いですか?」


「それはこれからの付き合いで決めるよ〜。」


軽く流された。主導権は握れそうにない。


「じゃあね〜具体的な悩みを聞きたいな。」


「具体的、具体的ですか。そうですね…」


流石に大勢の人間が殺された光景が忘れられないとは言えない。先生の能力に関して触れないと話せない内容だからね。


「…守秘義務で言えないんですけど、ある光景の記憶が頭の中でループしてそれが夢の中にまで出てくるんです。」


「具体的…とは言えないけど悩みの内容は分かったよ。その光景とは嫌な記憶…だよね?」


「はい。ここ最近ずっと悪夢として出てきて眠れないんです。」


「不眠…と。他にも悩みがあったり?」


「他には……特にこれといったのはありません。」


「本当に些細な事で良いよ〜。解決しなくても良いような悩みなんて1つや2つ持ってるでしょう?」


些細な事で、解決しなくても良いような悩みか…。


「…本当にくだらない悩みなんですけど…。」


「悩みというものは連結しやすいもの。細やかな悩みでもくっつけば重くなる。話して軽くなる事もあるか話してみそっ。」


…この人なら重く捉えないだろうし話しても良いか。


「2週間前に無断外泊した事と怪我した事を父にめちゃくちゃ怒られて冷戦が続いています。助けてください。」


あの事件で私は生死を彷徨うような大怪我を負い意識を失っていた。そのせいで父に連絡が出来なくて無断外泊してしまったのだ。帰った時なんて積乱雲かよってぐらい雷を落としていたね。


「それはちゃんと謝ろう。大丈夫、父親なんて娘がしおらしく謝るだけでイチコロだから。」


しおらしくか……。帰りにプレゼントでも買って謝ってみようかな。


「今日ちょっとやってみます。」


「うんうん。それが良いよ〜。他にも悩みはあるかい?」


他に…?他は…あまり無いな。あっても話せない内容ばかりだし。


「………」


五十嵐さんが無言で書き込んでいく。何も答えていないのに今まで1番記入している量が多い。


「あいの風さん。」


「は、はいっ。」


急に口調が年相応のものになってビックリした。子供っぽい雰囲気が急になくなってまるで大人の人みたい。


……いや、どう見ても大人なんだけどね。でも急に雰囲気変わったのは何でだろう……。私変なことを言ったっけ?

反亜って名前気に入ってます。

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