歴戦の能力者達
いつか処理課全員の能力を書きたいです。ストーリーの関係で絶対に書きますけど。
場が静まり返る。下手な事を言えば天狼さんの地雷を踏んでしまう。だから誰も口にしない。隣に座っている理華なんて冷や汗をかいて挙動不審になっている。
……ここは私が天狼さんのフォローをしないとだね。プリテイシアは被害者なんだから彼女達が不利益を被るのは間違っている。
「あの、それで私から皆さんに伝えないといけない情報があります。書類には纏める時間は無かったので資料が無いんですけど……。」
「1時間前まで意識を失っていたのだから仕方ないでしょう。」
薬降るさんが私に紅茶を用意して目の前に置いてくれる。彼女は私が意識を失っている間ずっと付いていてくれたし、こうやって紅茶を淹れてくれたりも補足もしてくれたりと面倒見の良い人だ。あとでちゃんとお礼を言わないと。
「まあ事情は分かった。言ってみなさい。」
良し、議長を務める蜃気楼さんから許可が出たからここは主導権を握らないと。
「今回の事件は超能力自然活動家のメンバー“雨女”と“白雪姫”の2名によって計画されたテロ行為でした。彼女達はスカイツリーでテロ行為を行おうとし、私と天狼の両名を誘き出すためにプリテイシアを利用したのです。」
先ずは情報を共有し事実確認をする。天狼さんの方から話を聞いている人も居ると思うけど私はついさっき目が覚めてここに来たばかり。だからみんながどの程度情報を持っているか、私のこの発言に対してどういう反応を示すかで分かる。
「テロ行為というと具体的な内容は?俺達は超然の能力者2人を処理したとしか聞いていない。彼女達が何をしようとしたかも知らされていない。天狼もそこが断定出来ずにいたのにあいの風は分かるのか?」
このイケメンのコードネームってなんだっけ……?常闇……だったかな。中2っぽくて印象に残っていた。
この人の発言からみんなには詳しい情報は行き渡っていない事が分かった。
前回では雨女が大量殺戮に成功したから天狼さんも彼女達の目的を知る事が出来た。でも今回は未然に防がられたから具体的に雨女達が何をしようとしたのか天狼さんは知らないんだ。分かるのは前回の記憶を持ち続けている私だけ……
「うっ……。」
あの時の光景がフラッシュバックされる。人々が落下死し建物に押し潰される光景が脳内にこびり付いている。
……あんな光景忘れられる訳ない。少しでも思い出そうとするとあの時の感情や光景が全てくっついて引き出される。
「あいの風?大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。」
「え?あ、大丈夫です。ちょっと……お腹空いたので。」
薬降るさんが私の顔を覗いて心配そうな顔をしている。それは周りの人も同じで特に天狼さんと理華が身を乗り出していた。でもここで席を離れる訳には行かない。
「ええっと、雨女……彼女は雨に自身のベルガー粒子を混入させてそれを操作し、人や建物に多大な損害と被害をもたらそうとしていました。彼女の能力は念動力のLv2で驚異的な射程を持っていて、私が見てきたサイコキネシスの中でも間違いなく1番の能力者でした。」
彼女の能力者としての実力は間違いなく私と天狼さんに並ぶ。私が彼女を殺せたのは他に能力のリソースを割いていたからだ。
雨女は雨に対して干渉しようとしていたから私に全力を出せなかった。本当は人質を使って強行するか時間を稼ごうと考えていた筈だ。
「……それはあいの風の能力で探知し推測しただけで事実として扱うのは別だな。」
蜃気楼さんの言う分は正論だ。この事は私にしか分からない。だってこの時間軸では起きていない事なんだから。
「分かってます。一応皆さんの耳に入れたくて言っただけですから。」
「じゃあ、あいの風さんの言いたい事って別にあるんだね。」
竜田姫さんが私の真意が別にあると見抜き発言する。
「はい竜田姫さん。私が言いたいことは超然がプリテイシアが能力を行使出来る事を知っていたのにも拘らず放置していた事です。」
竜田姫さんの援護射撃のおかげで話を進めやすくなった。この件には竜田姫さんにも関与してもらっているから私達の事情を知っている。
「ん?矛盾してない?超然はプリテイシアを狙って狙撃手を雇って君と天狼をおびき寄せたんだよね?放置していないよね。」
「えーっと……」
人の名前を覚えるの苦手なんだよね。この人と話した記憶が全く無いから呼び方に困る。
「初凪だよ。」
あ、すいません。はつなぎ……初凪。うん……覚えた。この大学生風のチャラそうで軽そうな人が初凪ね。
「すみません。初凪さん、今回の事件を引き起こした雨女と白雪姫は独断…と…いうより単独で計画を立てて実行したと思われます。超然も一枚岩ではないでしょうし。」
「思われます……ねえ。」
……こいつの事は覚えてる。炎天だ。でもこいつの言い分も分かる。物的証拠もなく私の考えしか言っていないからね。だから噛み付いたりしない。
「言いたい事は分かりますよ。でも殺してしまったのでもう本人達から聞けませんし、私の言いたい事は別の事ですのでそこら辺は別にどうでもいいです。」
「雨女と白雪姫の目的はあいの風と天狼に阻まれて本人達は死んでいる。だからこの2人の事は今は気にしないで良いだろう。」
蜃気楼さんも私の言いたい事を理解して話を円滑に進める助け舟を出してくれた。この人が丁度いいタイミングで舵を取ってくれるから助かる。
「はい。いま話したい事は超然とプリテイシアの関係性についてです。超然はプリテイシアの事を知っていた……そして、プリテイシアの常世様と連絡を取り合っていたんです。」
私はチラッと天狼さんと竜田姫さんに視線を向けた。すると竜田姫さんが手を上げて発言する。
「その事に関しては私からも伝えないといけない事があります。プリテイシアの常世が超然と繋がりがあったのは間違いないです。彼女は能力の使い方を知っていました。訓練された能力者という事です。」
私だけの意見では私見でしかないけど2人が言えば説得力が生まれる。私みたいな新人じゃない人が言えば尚更だ。
「……他にもメンバーがいるが、そこはどうなんだ?」
「能力についても何も知らない状態でした。常世を除いたメンバーはまだ能力の使い方を知りませんし自覚もありません。彼女達の危険性については今の所は低いかと。」
竜田姫さんが分かっている情報はそのぐらいか……天狼さんと話し合う時間が無かったのかな。もしくは口止めされているとかね。
ここで彼女達の能力について言ったら間違いなく処理されてしまう。だからここで言う訳が……
「いや、そういう訳でもない。プリテイシアの能力は非常に危険性が高い。」
ここで天狼さんが加わってくるの!?しかも彼女達の危険性を言うつもり!?正気ですか天狼さんっ!
「……それはどういう事だ天狼。」
「彼女達の射程距離と効果範囲に問題があります。」
「その前になんですが彼女達の能力ってなんですか?」
そう質問したのは炎天の腰巾着ポジの……誰だっけ。名前が出てこない。
「……洗脳ですよ初雷。」
「議論する余地無いですね。」
……正論、ではある。
「なら私達全員処理されるべき能力者という事になりますね。洗脳能力と良い勝負してる能力者しか居ないと思うんですけど。」
つい毒を吐いてしまった。
「その理屈なら真っ先に処理されるのはあいの風ですかね。」
「死神では?」
私の間髪入れずに言い放った言葉に誰も反論を述べない。……まあ言える訳ないよね。誰が先生にちょっかいを出すんだって話。
「はぁ……天狼続けろ。」
眉間を揉みながら蜃気楼さんは進行を続ける。この人が居なかったら話し合いすら出来ないね私達。
「……はい。プリテイシアは5人で能力を行使する事でお互いの能力を…増幅させています。その影響で……」
パスの事はやっぱり伏せるよね。先生が絡んでるし仕方ない。突っ込まれたら私がどうにかするか。
「……彼女達の声を聴いた者は全員射程圏内に入ります。」
「それって洗脳能力共通ですよね?そこの所どうなんです竜田姫。」
ん?なんで薬降るさんは竜田姫さんに聞いたんだ?竜田姫さんって洗脳能力に詳しいのかな?
「そうですね。彼女達の場合は声に特化してると言って良いでしょう。」
「そう、特化し過ぎているんです。彼女達の声は文字通り聴くだけでいい。例え録音された音源であってもネットに上がっている音源でもです。」
「それって……!」
室内の空気がざわつく。歴戦の能力者達が集まっているにも拘らず皆が驚愕の表情を浮かべている。
もう彼女達の未来は決まったようなものだった。
明日からまた登校時間が遅くなると思いますのでここで伝えておきますね。
 




