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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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私の役割

やっと主人公が主人公っぽくなるお話です。

私達は敗北した。常時発動型である私の探知能力は被害の大きさを勝手に認識してしまう。死者数は…おおよそ20000人。しかし怪我をした者や、まだ死んでいないだけで意識を失っている人達も入れればもっと数が大きくなる。


「…」


私がクソ野郎にねじ込んだ手を引き抜くとクソ野郎はムカつく顔をしたままカーペットの上に倒れ私はその場に座り込む。もう心も身体も疲れ切って何もしたくない。氷の檻に閉じ込められたまま凍死してしまっても構わないとネガティブな思考になる。でも天狼さんだけは助けないと…


「…天狼さん、天狼さんをテレポートさせられます。」


意識があるのは分かってる。だけど声を掛けても天狼さんは項垂れて反応が鈍い。


「…被害は。」


「…死者2万人、怪我人はその倍ぐらいです…。」


「…そうか。これから第一部ビルに向かって対策を練らないと…」


天狼さんはそう言って立ち上がったけど、限界を迎えて倒れ込む。


「天狼さん!」


私は反射的に動いて血だらけの身体を受け止めたのは良いけど、天狼さんは気を失い私にもたれ掛かったまま動かなくなってしまった。


…そうだよね。もう限界だったはずだ。なのに次の事を考えて組織に戻ろうと言い行動に移そうとした。…本当に凄い人だ。


「どうしたらいい…これから私はどうしたらいいの…」


頭の中に続々と被害状況が流れ込んで来て精神を蝕む。やらないといけないとは分かっているのに行動に移せない。怖いんだ…これから起こる事が。何が起こるのか全く想像がつかないから怖い。私達のような能力者は悪として認識され正義を語る無能力同士で戦争にでもなるのかな。


そしたらもう元の生活には戻れない。本当に殺すか殺されるかの選択肢以外取れなくなる。だってこれだけの被害が出たんだよ?向こうは絶対に能力者(私達)を許さない。


後悔や絶望感が溢れて感情を整理出来ない。涙が出るほどの恐怖とこれから起こる事への不安感で押し潰されそう。


「誰か…誰か助けてよ…!」


『ーーーーーー……』


聞き慣れたような、初めて聞くような声が耳元に届いて顔を上げる。すると私が今見ている景色に違和感みたいな不思議な感覚を覚えて呆然とその光景を眺めた。


そして突然背後から私が現れた。その私はそのまま歩いて行ってから私に振り向く。…私の軌道を模した先生だ。でも雰囲気が明らかにいつもと違う。無表情…を通り越して機械やお面を思わせるような表情に思わず喉が鳴る。


『今の私達の射程では戻せる距離は限られている』


…私の声だった。でも私の声と確信出来ない。いつもの先生の話し方じゃなくてまるで別人のように聞こえる。


『チャンスは一回きり ラストトライだと思って事に当たるように』


私の能力、【探求(リサーチ)】でマッピングした範囲が消えて行きこの場の情報が入ってこなくなる。そんな事はありえないのに。


『特異点にしか出来ない この場に居て記憶を持ち続けられるのはミヨ…君だけだ 君が防ぐんだ』


私がどこに居るのか分からなくない。景色も氷の檻から光の濁流のような光景に変わり雨女も白雪姫も天狼さんも居なくなる。ここに居るのは特異点(わたし)特異点(死神)だけ。


『ーーー、ーーー!』


え、声が出せない…!?というか私の身体…どこ?身体の感覚が曖昧で境界線が無くなったみたいだ。光の濁流にこのまま溶け込んでしまいそう。


そんな未知への恐怖を感じて藻掻くけど藻掻く身体が今の私には無い。どうなってるの!?これは現実…?それとも妄想?


『ここは…そうだな 世界と世界の狭間 どこでも無い場所でどこにも繋がっている 過去や未来 そして現実に』


全然話についていけない。というかそれどころじゃない。私の身体は完全にこの場所から消えていって濁流に飲まれてしまった。先生がどんどん遠くに行って私の意識は(はて)へと向かっていく。


『平穏な世界を創ってほしい 私達だけではそれは叶わない ミヨ…君だけが最後の希望』


もう感情すら希薄なり声も良く届かない。私、は…なに、を…


『叶えてくれ 私達の能力(願い)を 人が理不尽に消費され死んでいく未来を否定し…』


私という存在はこの空間から消えていく。ここに残っているのは死神のみ。ここは…あの世だろうか。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


彼らは最後に能力の名前を口にする。


『【再開(リセット)】』


それを最後に私の記憶は途切れた。最後に先生が何を言っていたのか分からないけど、絶対に聞き逃しては…忘れてはいけない事を、彼らが言っていたような気がしたんだ。










「おい、あいの風。」


そこで私の意識は覚醒した。天狼さんが私の事を呼んでいる。でも私はそれどころじゃない。とんでもない既視感(デジャブ)に襲われて頭の中が大混乱している。


「…大丈夫か?エレベーターに乗るぞほら。」


私は天狼さんに手を引かれてエレベーターに連れて行かれる。そうだ…ここはスカイツリーの一階、私達は上のフロアに能力者が居ないか探しに来て…あれ?そうだよ。私は失敗して、その後に先生が現れてそれで…なんで私は“此処”に居るんだ?


此処は…この時間は過去だ。私が経験した過去の体験で私が居たあの場所じゃない。この景色全てに見覚えがある。肌に感じるこの温度も人の動きもだ。慌てて私はスマートウォッチで時間を確認する。


…やっぱり時間が巻き戻ってる!此処は過去の時間で間違いない。…でも別の可能性がある。


…確かめないといけない。私がイカれたのかもしれないか、それとも先生が本当にとんでもない事をやってのけたのかを。


「あ、あの天狼さん!」


「何だ?雨女は見つけたのか?」


…天狼さんは覚えていない。というかそこまで辿り着けていない。あの悲惨な未来を経験していないんだ。


「いえ…でも、居ると思いますよ。」


私の【探求(リサーチ)】はまだあのカフェ(場所)を認識していない。でもそれは有り得ない事だ。私は一度マッピングした箇所は絶対にマッピングされたままでずっと継続される。でも今はマッピングはされていない。


それに外は歩行者達が傘をさして普通に歩いている。つまり私はあの未来(場所)まで行っていない事になっているという事だ。


事象全てが無かった事になっている。でも私にはあの時間の記憶が残っている。これは特異点としての制約なのかは分からないけど、あの未来は間違いなくあった筈なんだ。思い出すだけで心が蝕まれるような感覚を覚える。でも身体には何も反応はない。汗をかくことも心臓が高鳴ることも無い。


「…お前の勘なら信用出来るな。気を引き締めて行こう。」


私達はエレベーターに乗り込む。…エレベーターに乗ったのは私達以外にも居てその人達に見覚えがある。これってもしかしてさ、このままだとあの未来(場所)まで向かってしまうんじゃない?私がこのまま何もしなければあの未来が確定してしまい、あの悲劇が再び引き起こされることなんじゃっ…!!


(ああ…そうか。そういうことか。)


先生はそれを防ぐ為に私を過去に飛ばしたんだ。そしてあの未来(場所)の記憶を持っていてこの場に居るのは特異点(わたし)だけ。


そこでふと薬降るさんの言葉を思い出した。


「ーーーそれがあなたの役割です。私にも役割があり彼女達にも役割があります。それが組織のルールであり人の生き方そのものです。ーーー」


役割…私の役割は…これだ。特異点としてあの悲劇を未然に防ぐのが私の役割。先生は知っていたんだ。私達が知らない、覚えていないだけで何度もああやって時間を戻して平穏な世界を創り出そうと奔走していたんだ。


やっと…やっと理解した。先生が何を願い何を背負っていたのか。これは茨の道だ。責任は全て自分にのしかかって来る。誰も覚えていないし理解もされない。分かっているのは特異点()のみ。


特異点という言葉の意味を真に理解し、この身を以て痛感させられた。この世界の平穏なんてたった2人の能力者で崩れてしまう。だから誰かがそいつらを殺さないといけない。


ではその役割は誰がする?…特異点である私しか居ない。


先生では事態の収取を図るのに何かしらの制約が働いて難しくなっているんだと思う。だから後継者を探していた。その候補にたまたま私が条件を満たしていたんだ。


これは私の試験だ。私が本当の意味で特異点として機能するのかを測る試練。私が役割を果たせるのかを試されている。


それは誰に?…先生?…それとも世界?…いいやどれも違う。私だ。私が私を試しているんだ。もう2度とあんな光景を現実にはしない!能力であんな大勢の罪のない人々が死ぬのをもう見たくない!


高速エレベーターに揺られながら私は決意を固める。被害は出さずあの能力者2人、雨女と白雪姫を私が殺す。正義の為でも自分の為でもない。この世界の為にも能力者が勝手に暴れて秩序を乱さないように私がこの世界の驚異になる。


そう…例えば先生のような死神に。私がこの世界に居る間はどんな能力者も勝手なマネが出来ないような…そんな結果をここで出すんだ。


「その為にも…私は…。」


エレベーターで上がりながら私はある能力を行使した。あのような惨劇が二度と起こらない為に…

また…伏線です。すいません必ず回収しますので。

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