組織との因縁
久し振りに血が流れそうな展開になりそうで嬉しいです。
「雨女……?」
雨女と言ったら雨に恵まれた人達の事を指し示す言葉。でも天狼さんの言った雨女とはコードネームのようなモノを言っているのだろう。
「私達の敵対勢力に属している能力者だ。彼女達の組織の名前は“超能力自然活動家”……まあ名前から分かるが自然的な事象を引き起こす能力者が集まったグループだ。」
SNSに意識の高そうな写真を投稿していそうな連中だね。絶対に私とは仲良くなれないだろうな。
「……あまり聞いたことがありませんね。あまりメジャーな団体ではなさそうですけど。」
「そうだな。構成メンバーの数ははっきりとしていないがかなり小規模なグループだ。自然現象を引き起こす能力者なんて数少ないからな。」
でも天狼さんは警戒している。さっきから苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて必死に思案しているのが見て分かる。
「でも危険なグループなんでしょう?自然現象を引き起こす能力者が少ないという事はそれだけ強力な能力だからですよね。」
「……そういう事になる。数が少なくても未だに日本で活動出来ているのは、能力者単体が単純に強いからだ。……実は我々“組織”の処理課が彼女達に敗北した経験がある。」
「えっ!?天狼さんが負けたんですか!?」
私の中では天狼さんの位置付けは正に最強。最も能力者の中で1番強いと認識してる。……先生は除外。この人はランキング外です。
「いや、私はその時に居合わせていない。他の処理課の者が彼女達と衝突し……敗北している。幸い死者は出なかったが、彼女達を勢いづけてしまう結果となり今日に至るわけだ。」
なるほど……彼女達が私と天狼さんが居たにも関わらず攻撃して来たのは一度勝ったことのある相手だからか。
「……どう言ったらいいか分かりませんけど、なんか……若いグループですね。やり方も考え方も。」
「確かにそうだな。“超然”は比較的新しい組織だ。私が処理課に所属する前辺りから活動が確認されていたから6〜7年前になるか?」
「天狼さんって結構まだ任期短いんですね。もっと前から活躍していたんだと思ってました。」
「……先代がまだ天狼として所属していたからな。私がそのコードネームを受け継ぐのに少し時間が掛かったんだ。」
先代というと……あの父親か。
「まあその話はどうでもいい。奴らが相手なら色々と説明がつく。いま現段階で私達の所属している“組織”が世界で1番大きな勢力だ。他の勢力が私達に牙を剥くのはあり得ないと考えていたが、奴らならあり得る。」
「……でもそれだとおかしい点が出てきます。プリテイシアの立ち位置があまり見えてこないんですけど……。」
元々の話、プリテイシアが襲撃を受けたから私達は襲撃犯であるあのバイクの男を追っていた。しかしそこに雨女が現れて私達の妨害をした。ここまでが今の所の流れだけど一体いつから超然は私達の事やプリテイシアと関わっていたのだろう。雨女達の目的が見えてこない。
「……超然は前からプリテイシアの常夜と接触していた。恐らく彼女の……プリテイシアの能力に気付いていたのだろう。その能力を利用しようとして近付いたのか、それとも常夜から彼女達に近付いたのかまでは分からないが、そこに私達が関わってきたから対処した。……それだけの話だろうよ。」
天狼さんが怒ってる……。表面には出していないけど怒気を凄く感じるよ。この怒りが常夜に向いているのか、彼女達を危険な目に合わせた超然に向いているのか、はたまた自分自身に向いているのかは分からないけど物凄く怒っているのは伝わってきた。
「超然って目的があって集団で動いているんですよね?何が目的なんですか?まさか世界征服とかじゃないですよね……?」
「私達もそこの部分は分かっていない。もしかしたら世界征服なのかもしれないが、彼女達はそこまで大きく動くような過激派ではない。……今の所は保護を拒否して自衛目的で能力を使っている一般人という位置付けで見ている。組織のような運営方針を毛嫌いしているらしいからな。」
そんな一般人が居てたまるか。処理課の能力者相手に勝つ相手なんて人間の域を超えている。
「目的も分からなければ居場所も分からないような相手か……厄介ですね。探そうにもこの雨の中では上手く探せそうにありませんし。」
「敵があいの風の能力を良く知っているのも解せない。本人ですら初めて認識した現象なのに何故敵は妨害出来たんだ?」
「そう言われるとそうですね。たまたま……だったとかじゃないですよね流石に。」
「……待て。もしかしたら敵は雨を降らせてから別の事をしようとしたか、又は違う理由で雨を降らせた……とは考えられないか?たまたまあいの風の能力に干渉して狙撃手は逃げおおせたと。」
「単純に雨を降らせて追いづらくさせた……?もしくはあそこから別の妨害行為に繋げる前工程……?」
いくら考えても分からないし正解は出ない。しかし雨女が雨を降らせて私の追跡を振り切ったとなればこれからもそういう妨害行為をされる可能性が出てくる。そうすれば必然的に私は超然を追えなくなってしまう。
「どちらにしても今のままでは敵を追えない。私もお前も雨を晴らす能力は持ち合わせていないからな。」
今も雨は降り続けて私のマッピングされた地図に干渉し続けている。この雨が晴れて水が蒸発するまで私は探知出来ない。この雨をどうにしかしたいのに解決策は……
「……天狼さん。今日家を出る前に天気予報は見ましたか?」
私の言葉にハッとした様子で天狼さんは私の言いたいことを理解してくれた。
「……お前の言いたいことが分かったよ。天気予報では夕方から深夜まで続くそうだ。」
つまり今雨が降っているのは雨女が降らしたわけではなく自然現象で雨が降っているということだ。だって自分の能力で降らせるのならもっと早く降らすタイミングがあった筈だ。それなのに狙撃手が追われて数時間もの間、雨女は雨を降らせなかった。
「私は勝手に雨女がこの雨を降らしたんだと思い込んでいたんですけど、もしかしたら雨女は天候を操る能力ではないのかもしれません。……その雨女って雨が降った時にしか現れないから雨女と言われているんですよね?」
天気予報通りに降り出す雨がその証拠になる。
「そうだ。能力に関しては雨を降らす……と思われていた。しかし本当は違うのかもしれない。お前の読み通りなら別の能力だ。雨に干渉出来るというだけで雨を降らす能力ではないのかもな。」
しかしまだ引っ掛かるな。こんな能力私ぐらいにしか影響無いのになんで処理課の能力者達が負けたんだろう。そこに雨女の能力の秘密がある気がする。
「では何故そんな能力に負けたのですか?私にはどうしてもそこが引っ掛かるんです。」
「単体ならなんてこと無い能力なのだが奴にはペアを組んでいる能力者が居てな。そいつがかなり厄介な能力なんだ。呼び名は“白雪姫”……能力は氷結系統で雨を凍らせる事が出来たらしい。先輩達の話だと雨に濡れてしまうと生きたまま氷像にされたとか。」
雨……つまり水と相性の良い能力者と組む事で凶悪な複合能力として行使したのか……。
「じゃあ雨女の他に白雪姫も居るかもしれませんね。」
「かもしれない。だが断言は出来ないからな。」
「分かっていますよ。もし居ても殺す相手が増えるだけですから。」
やる事は変わらない。私はその為にここに居るのだから。
「ふふっその粋だ。……ではあいの風、話を戻そう。雨女はどこに居てどうやって雨にベルガー粒子を混入させたと思う?混入させたという事は雨女は東京都内に居ると私は睨んでいるが?」
天狼さんは獰猛な笑みを浮かべて私に問う。獲物はどこだ?……と。
「この広範囲で雨にベルガー粒子を混入させるには範囲はそこまで必要ありません。必要なのは高度です。その方が効率的に雨にベルガー粒子を混入出来ますから。」
「……その言い方から察するに、雨女の位置に検討がついているな?」
「そこに居るか居ないかは半々……と言ったところでしょうか。違ったら観光して帰るだけです。私……あそこは行ったことないので。」
私は天井を見上げその先にある目的の建物を見据えていた。
次回かその次ぐらいから戦闘パートに移れればなと考えています。
 




