雨の妨害
早く投稿出来てほっこり。
追走劇は夕方まで続いた。私達は相手に見つからないように距離を離し狙撃手を追っていたが、これは天狼さんの判断で私達の存在を悟られないようにだ。なんせここは東京、どこに行っても人、人、人……どうしても人目がついて私達の行動が制限されてしまう。能力を使うのはご法度な状況だった。
「凄いですね相手、ずっと運転しっぱなしですよ。」
「追われていると確信しているからだな。そろそろ燃料が尽きて私達が動きやすい時間帯になる。」
「でも雨が降ってきましたよ。そろそろ捕まえたいです。」
ヘルメットにはポツポツと雨が当たり見上げれば雲に覆われた空が見える。
「雷に打たれても生存出来る。心配するな。」
そういうつもりで言ったわけじゃなくて、さっさとこの追走劇を終わらせたいだけです。
「あれ?なんだこれ……」
「どうした。狙撃手に何かあったか?」
「違います……私のマッピングに何かが干渉されてる?」
私の脳内に創り出された地図に妙なモノが写っている。まるでノイズやバグみたいな不必要な情報体を認識してしまって脳処理に負荷が掛かっているみたい。
「嘘でしょ……こんな事が……私の【探求】を妨害してきてる……!?」
「何!?そんな事がありえるのか!?」
私も天狼さんも混乱に陥る。私の探知能力が妨害行為を受けるなんて経験もなければ想定もしていなかった。
「本当です。……ごめんなさい初めての事態で上手く能力が行使出来ません。」
私の探知能力は常に発動されていてオフが出来ない。特に自分が居る周辺の情報にエラーが発生すれば私は狙撃手を追えきれなくなる。
……そうか、これは敵の妨害。狙撃手の仲間が私に対して妨害行為をしているのか!
「狙撃手の仲間、又は雇い主サイドが動いてきたか。」
「はい。その可能性が高いかと。でもどうやって人の能力に干渉を……。」
「それは分からない。今の言っている状態は私には分からないからだ。分かるのは探知能力者であるあいの風しか居ない。」
私にしか分からない……か。確かにそうだ。探知能力に干渉されたせいでパニック状態になっていたけど、冷静になってみれば解決策は存在している事に気付いた。
そうだ、私の能力はこういう時のために存在している。【探求】はただの探知能力じゃない。敵の能力を暴き敵の能力を理解する為の能力だ。ここでその能力を発揮しないでいつ発揮すると言うのだ。
「……先ずは仮定として私の能力は正しい認識をしているとする。」
「あいの風……?」
天狼さんの声が聞こえなくなる程に集中し思考の海に落ちていく。身体に触れる雨も風も感じなくなり全て思考と能力にリソースが割かれる。
「何故なら干渉出来ないから……これは先生が言った言葉。」
先生が昔、私に話してくれた。能力は能力に干渉出来ないと。ならこの現象は正しい認識であると思っていい筈。エラーだと断定して視野を狭めてしまったから混乱してしまったんだ。これは正しい現象で認識だと考えれば色々と見えてくるものがある。
それはこの現象が起きたのは何時かという事だ。このノイズのような現象は雨が降り出したタイミングと同じ。つまりこの雨がノイズの原因。良く良く視てみると雨粒にベルガー粒子が纏ってあるから確定だろう。
人が多いと人が発したベルガー粒子がそこら中に蔓延してるから雨粒に混ざったベルガー粒子に気付けなかった。この雨がジャミングのような働きをしているのは間違いない。この雨が私の探知に引っ掛かってこのような現象を引き起こしている。
つまり敵は私達を想定して仕掛けてきた。私を妨害出来る算段がついている敵ということになる。
先ずはこの敵をどうにかしないと私は狙撃手を追えない。というか追えていない。狙撃手はこの事を分かっていたかのようにスピードを出して雨が強く降っている方面へ向かった。もうどこに居るのか詳細な事は分からない。
(方向性は……決まったかな。)
そこで思考の海から抜け出し意識が身体に戻る。……雨が強くて寒くなってきた。
「天狼さん。現在進行系で敵の妨害を受けています。取り敢えず屋内へ行けますか?」
「……分かった。」
天狼さんは私の指示に従ってくれて適当な地下駐車場へと向かってくれた。私も曲がる時に自然と身体を傾ける。数時間もバイクに乗っていたから慣れてしまったようだ。
「わぁ、足が。」
バイクから降りてみたら足がガグガグして上手く歩けない。長時間座ったような体勢だったから足に血が回って無くて産まれたての子鹿みたい。
「何をしてる?」
「逆になんで平気なんですか。」
天狼さんは普通にバイクから降りても平気そうだった。どうなってるのこの人の身体。本当に同じ能力を持った能力者なのか疑いたくなる。
「鍛え方が違う。……いやそんな事より何故屋内に来たのか説明してくれ。追うのは諦めるのか?」
バイクに軽く腰掛けながら私は現状を説明する。
「諦めるというより優先順位は変わったと言った方が良いでしょうか……。」
「優先順位?狙撃手よりもか?」
「はい。そしてその狙撃手に関してなんですけどもう追えていません。だからその原因であるこの雨について説明しますね。」
「雨?雨がどうしたんだ?」
天狼さんでも気付けないとしたら並の能力者は絶対に気付けないね。
「今降っている雨は能力によるものです。どうやったのか分からないんですけど雨にベルガー粒子が混ざっています。コイツが私の探知に引っ掛かって邪魔をしているんです。」
「雨……?」
天狼さんは自分のヘルメットについた雨粒を見るけど見えていないようだ。
「見えないんですか?」
「お前……こんなに小さな雨粒に混じったベルガー粒子を見れなんて言われてもすぐには見えないからな普通。」
見え方が能力者によって違う?私も最初は気付かなったけど今ははっきりと見ることが出来る。でも天狼さんは指摘されても見えない……?
「天狼さんはベルガー粒子を見れるんですよね?」
「探知能力者と同じ感覚で言うな。何故私達が能力者を見つけられなかったと思う?そこら中にベルガー粒子があるからだ。私からしたら煙の中に混じった煙を見ろと言われているように感じるんだ。」
個々のベルガー粒子として視認出来ていないの?個人個人でベルガー粒子って違う様に見えるよね?
「え?違うでしょう?人によってベルガー粒子は違いますし混ざったりしませんよ。ちゃんと区切りがあってですね……」
私が説明しようとすると天狼さんが頭を抱えて反論しだした。
「だ〜か〜ら〜!非接触型探知系能力者と同じように見える訳無いだろう!分かるかそんな感覚!お前小学校で習字するだろう!?それでバケツの水に墨汁のついた筆を入れて洗うよな!」
「え、あ、はい。洗いますよねそうやって。」
なんの話だろう。習字?墨汁?
「それをクラスメートみんなが行なえばバケツに墨汁が入った黒い水が出来るだろう。さて、この人の筆に付いていた墨汁は分かりますか?と聞かれてお前は答えられるかっ!?」
物凄い剣幕で言われてようやく理解出来た。天狼さんの気持ちが。
「あーなるほど。そういう事ですね。天狼さん達がどうベルガー粒子が見えているのか分かりました。」
つまり白黒に見えるんだね。色はどれも同じで濃度とかも同じように見えるのかな。それは無理だね。視認出来るはずない。
「……分かれば良い。というかお前には人のベルガー粒子を区別して視認出来ているのか。凄いなお前は。本当に凄いと思う。死神でもそうは認識出来ていなかったと思うぞ。」
「先生でもそうならみんなベルガー粒子が見えてても相手を能力者として認識出来ないでしょうね。……少し能力を使いますよ。【熱光量】」
天狼さんの身体に光を浴びせる。光は雨に纏わり付いて温度を上げて雨を蒸発させた。
「これは温かい……助かる。」
「いえ、私からすると雨が邪魔して天狼さんを良く認識出来ないんですよ。」
私も自分の身体に付いている雨を蒸発させてベルガー粒子を霧散させていく。こうすればジャミングは無くせる。
「天狼さんは敵に心当たりはありますか?」
能力に関してはかなり珍しい能力だと思う。雨を操る能力者なんてかなり凄い能力だ。組織に長く所属している天狼さんなら知っているかもしれない。
「ジャミングに関しては知らないが…国内で雨を操る能力者なんて1人しか居ない。……“雨女”だ。」
田舎なので投稿したあと雪かきをしてきます。




