逃走する狙撃手
遅くなりました。明日は早めに投稿出来るようにします。
非常階段の下は裏道になっており人の気配は無かった。それでも飛び降りるのは違うと思うんですよ……
私達が飛び降りたビルの高さは約20m程度。この高さから飛び降りて無事な生き物は居るだろうか。居ても蟻ぐらいじゃないか?蟻はどの高さから落ちても平気らしい。体重の軽さと身体の強度が関係すると何かで読んだ。多分バトル漫画。
でも私の認識は間違っていた。天狼さんは普通に足から着地しその後両手使って勢いを分散させてからスタスタと歩き始めていた。……彼女の強度はどうなっているんだ?同じ異形能力者である私でも無理だよ。
絶賛落下中の私はそんな事を考えながら能力を行使した。自分の真下に出来た影の中へ侵入して慣性と衝撃を殺す。そして影の中から這い出て天狼さんの元へと向かった。
(今日スカートじゃなくて良かった……)
「チッ、抜け目のない。やはり敵はプロだな。」
天狼さんが見ている方向には壊された監視カメラが設置されていた。恐らく狙撃手が破壊したのだろう。手際が良すぎる。工作員という可能性も出てきたかな。
「……昼間なので外は歩行者だらけです。どう追います?」
「少し待て。」
スンスンと辺りを嗅ぎ出した。……まさか匂いで追跡出来るの?この人やっぱり人間じゃないんじゃ……
「……こっちだ。」
私は天狼さんの指示に従い付いて行く。ここは天狼さんのやり方に合わせよう。
「匂いで分かるものなのですか?」
「銃を使用するとどうしても硝煙の匂いが付くんだ。それを追えば大体の方角は分かる。それに今回狙撃手だったのは運が良い。」
狙撃手が良かった?どういう意味だろう。
「狙撃手ならライフルを自分の手で点検している。なんせ仕事道具だ。本番で上手く当てられませんでした。では話にならない。点検するなら仕事をする前……今日の朝って所だな。点検をすれば油と鉄の匂いが手にこびり付く。つまり硝煙と鉄と油の匂いがするやつが狙撃手だ。」
警察犬ですかあなたは!追えるわけないでしょうが!この辺りにどれだけの匂いがあると思ってるの!人だっていっぱい居るしもう車とかで逃げたかもしれない。
「天狼さんはできるかもしれませんが私には無理ですよ。」
取り敢えず天狼さんの後に付いて行くけど、匂いなんて天狼さんの匂いしかしない。石鹸の匂いと畳の匂いだ。
「私達は五感が優れている。訓練していれば……ああ、そうか。そういう訓練は積んでいないか。最近目覚めたからな。」
異形能力者は五感が優れているのは知っていた。天狼さんの口ぶりから察するに訓練を行えば嗅覚を鋭く出来るみたい。でもあまりそういう実感って無いんだよね。味覚もあまり変化無いし……
「五感とか言っても私は視力悪いですからね。あまり当て嵌まらないと思いますよ私。基本的にはそっちじゃなくて探す方がメインですし。」
異形能力者でもあるけど私は探知能力者だ。基本的には私は探知寄りの能力者だと認識している。
「なら目標を探せ。お前の能力はこういう時の為にある。」
「分かってます。」
探しているけど走ったり逃げていたりしている人間は居ない。
「方角はこっちの筈だ。目標は能力者の存在を知っている。つまりあいの風を知っていて撃ち込んだ。それで逃走している事を考えるとあいの風の射程から逃れる為に必ず事務所から離れようと動く。」
なるほど!…確証があってこの方角に行っているのか。
「匂いはどうです?」
「人が行き来しているせいで匂いが散っている。人が居なければその場に滞留してくれるんだが…」
こういう探し方は新鮮で聞いていて面白い。そういう状況じゃないのは分かっているけど。
「そういう知識って訓練とか経験則から来るんですか?私は組織の訓練とか知らないので良く分からないんですけど。」
「まあそんな所だ。あいの風にはあまり縁のない話かもしれないが昔はこうやって足を使って能力者を探していだんだ。一人の能力者に対して人員を多く使って人海戦術で探し、人を探すのに数ヶ月を要するときも珍しくなかったんだぞ?」
「それは……気の遠くなる事で。」
私が来る前の組織はそうやって能力者を探していたんだね。かなりアナログなやり方だ。
「お前が来てから半日や一日程で見つかるケースが増えて私達も他の事に時間を費やせるようになり格段に効率が上がった。お前には本当に感謝している。」
まさか感謝されるとは思いもしなかった。でもそれだけ能力者を探し出すのは大変なんだ。なんてたって先生ですら能力者を見つけ出すのに苦労していたんだから。
「いえ、私は私の出来る事をし続けただけですから。」
「いやお礼を言わせてくれ。あいの風のおかげでライブに行きやすくなった。感謝してる。」
う、う〜〜ん……良い話からアイドルの話になっちゃったよ。天狼さんらしいけどね。
「だったら早く見つけ出さないとですね。この人混みの中を。」
「……昔を思い出す光景だな。全員能力者に見えてしまう。」
歩いているだけで人とすれ違う。視線を向ける者、敢えて視線を背ける者、色々な反応を示す者が無尽蔵にこの辺りを周回している。
「私達の格好って敢えて……でしたっけ。」
私達の着ているこの黒色のスーツははっきり言って昼間だと目立つ。特に天狼さんは男性からも女性からも注目を集めて好奇の目を向けられている。私が霞むなんて中々無いよ。いつも視線を独り占めにしているから逆の立場は初めてだ。
「敵対組織は私達の格好を見ればすぐに反応するからな。近寄って来る者と逃げていく者を追えばそこに能力者が居る。」
「探知出来ないと不便ですね。」
「敵からしたら悪夢だろうさ。狙撃手も平静を保って表には出さないようにしているだろうが心境は冷静ではあるまい。なにしろデス・ハウンドに見つかったら必ず殺されるからな。」
その名前を呼ばないで欲しい。私は顔を顰めて睨みつける。
「殺されたくなければ大人しくしていればいいんですよ。なんで向こうから近付いてくるのか理解に苦しみます。」
「聞いてて気持ちの良いぐらいの暴論だな。…少し走るぞ。」
天狼さんが突然走り出したので私も追従する。でも天狼さんの少しは一般人のガチ走りだった。多分傍から見ると逃走中の女性版に見えると思う。その様子をスマホで撮影しようとする人も居るけど、私達が速すぎて撮り切れていない。
「なんで走るんです?」
「硝煙の匂いがしたからだ。間違いなくこの方角に居る。」
「なるほ……」
その時、私達が居る道路の反対車線に停車したバイクに乗った男性が私達の事をチラッと見た。黒いヘルメットをして顔が見えなかったけど間違いなく私達を認識した反応だった。
「天狼さん!」
私は立ち止まりバイクの男を見る。相手も私の事を見ている。…間違いない。あいつは私が誰なのか知っている。その微動だにしない身体の硬直に少しでもこの場から離れたがっている雰囲気…
「あのバイクの男、どう思います。」
天狼さんはスンッと匂いを嗅ぐ。
「ガソリンに鉄と油、そして…」
バイクの男がハンドルを握り直し右手をひねってアクセルを入れた。
「…硝煙の匂い。」
バイクは轟音を鳴らして走り去ろうと急加速する。
「逃がすか…!」
(【堕ちた影】!)
私の影が街路樹の影を飲み込み走行している車の影へ移動し逃げたバイクを追う。私の影はすぐにバイクに追い付き男の視界を塞ぐようにヘルメットに纏わりつく。
「人が居る!止めろ!」
そこで私は急いで能力の行使を止めて影を解除した。しかし天狼さんの声が辺りに響いて余計に注目を集めてしまう。少し目立ちすぎたかもしれない。
「…ここから離れるぞ。ついて来い。」
天狼さんはスマートウォッチを操作しながらバイクの走っていた方向へ向きを変えて歩き出す。
「すみません…いつものクセで殺ってしまいそうでした。」
あそこでもし殺してしまっていたら…
「人が見ている時にやるべきではない。特に一般人を巻き込んでしまうのは駄目だ。あのままバイクを転倒させていたら最悪歩行者との接触事故に発展してしまう。それはお前も望まない事だろう。」
「はい。考え足らずでした。すみません。」
私の悪いところが出た。殺意が高過ぎて後先考えない行動に出てしまう。
「まだまだ教える事が多そうだな。」
そう言って笑ってくれる天狼さんのおかげで私は少しだけ落ち着きを取り戻した。…失敗はこの後の活躍で挽回しないといけない。私の本分は探知、ここで逃したままになんてさせない!
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