能力への理解
能力を考えるの凄く大変ですけどやっぱり楽しいですね。
真面目で誠実そうな松本さんが今回の経緯や事情を説明し、プリテイシアへのこれからの対応などの話に移っていく。しかし当の本人達は良く分かっていないようだ。まあ当然の反応である。いきなり能力とか話されても困るだろう。
なんせプリテイシアの5人は能力者として自覚が無かったのだから。
こういうパターンもたまにあると聞く。自分が能力者だと認識していないパターンが。これは能力が与える事象が他の事で説明出来てしまう。納得してしまう時に起こり得るらしい。
「プリテイシアの5人、朝日さん、夕陽さん、常夜さん、真夏さん、真冬さんはこれから私達組織の監視下に置かせて貰います。貴方達はあまりに有名なので保護したりする事が難しいですので。」
プリテイシアの5人を保護しても期限が設けられない。いつまで保護をしたらいいのか組織で話が纏まらなかったのだ。
だってね?こんな可愛いアイドルを閉じ込めておくなんて天狼さんがキレてしまう。私もキレるよ。みんな本当に可愛いし、鳥籠の中に閉じ込めてしまうのは駄目だ。
プリテイシアの5人はアイドルという事だけあってとても可愛い。見た目もそうだけど雰囲気がとても可愛いんだよね。
髪とかもすっごいちゃんとセットされてる。5人にはイメージカラーがあって朝日ちゃんは白っぽい黄色、夕陽ちゃんがオレンジ、常夜様が私みたいなブルー、真夏ちゃんが赤で真冬ちゃんが白っぽい水色。
このイメージカラーが髪の色にも反映されて毛先とかを染めてあったりメッシュだったりしてとても目を引く。
「あの〜それってプライベートまでもですか?」
常夜ちゃんの質問に私とイザナミちゃんが目線を合わせる。そして気付く。
((合法的にプライベート空間にお邪魔出来る……?))
最低な考えだった。私達が男なら間違いなく犯罪予備軍である。いや女性でも駄目か。一瞬理華の顔がチラついて考えを改めた。
「いえ、流石に24時間ずっと護衛は付けられませんのでご自宅の近くに監視カメラを設置して不審人物が来ないか見張らせてもらいます。」
そうだよね。流石に無理だよね。私とイザナミちゃんでは物理的に数が足りない。5人とも別々の所に住んでいるのだからもっと人が必要になる。しかし私達組織もそこまで自由に動かせる人は現段階では居ない。
「セコムってこと?」
う、う〜ん……どうなんだろうその認識は。やってる事はそうかもしれないけど……
「当たらずといえども遠からずです。あなた達を狙う者は能力者、又は能力者という存在を知っている勢力です。」
「能力者……ふふ。あ、ごめんなさい。」
能力者というワードに笑ってしまう朝日ちゃん。仕方ないよね。いきなり能力者って言われてもSFの世界だろうし。
「私達がいきなり能力者〜って言われてもね……?能力者ってこうテレパシーとか、サイコキネシスみたいな感じじゃないの?」
「その通りです。しかし他にも色々な能力があります。ここに居る2人も能力者です。」
私とイザナミちゃんに視線が集まる。
「私は人より身体能力が高い。あいの風はあなた達を能力者と認識出来る能力を持ってます。」
簡単な能力の説明に留める。私とイザナミちゃんの能力は組織の中でも秘匿されている部分がある。理華ですら最近までイザナミちゃんの能力は知らなかった程だ。私の能力も全容は秘密にされている。
「じゃあイザナミちゃんは力持ちなんだ!」
「恐縮です……。」
誰?あなた誰?さっきからただのファンなんだけど。
「あいの風って芸名みたいなものなの?」
「ま、真冬ちゃんっ!!しょ、しょうですよ!!」
私もただのファンだった。しかも吃るあたり気持ちが悪さがプラスされて死にたくなる。
「ていうか2人とも綺麗すぎない?」
マネージャーさんが近付いてきて私達2人の顔を見比べる。
「社長……この2人磨けばダイヤモンドになれる逸材ですよ。」
「もう組織内にて代えのきかない逸材ですのでヘッドハンティングはお止め下さい。」
そうだ!松本さん言ってあげてくださいよ。私達には芸能活動は無理です。
「でもプリテイシアの後輩になれますよ?」
「「うぐぐぐ……」」
とんでもない誘い文句だ。私達は膝をついて唸りだす。しかし私達にはやらなければならない事がある。
「お二方……」
「松本さん、分かってます。揺らぎはしましたが致命的に人の前に立つスキルが無さすぎるので無理です。大丈夫ですよ。」
松本さんのあの軽蔑混じりの視線を向けられたら正気にならざるを得ない。年上の女性に睨まれてもふざけられる程、私のメンタルは強くないから。
「……そちらの方針は分かりましたが、いきなりプリテイシアが超能力者だと言われても信じられません。あなた達組織が物凄く権力を持った団体なのは分かりましたけど。」
組織と社長の間でどういうやり取りがあったかは詳しくは知らないけど、それなりの証拠を見せて信じさせたのかな。
「本当は第二部にて能力の特定をする為の検査を受けてもらいたかったのですけど、あまり有名な方を組織内部に入れるのは憚れるので……」
「そこから先は私が説明しようと思います。プリテイシアの5人の能力について分かるところまでですが。」
私は【探求】でプリテイシアが能力を行使していた様子を探知していた。だからこの中で誰よりも理解していると自負している。
「えっと、恐らくですがプリテイシアの5人の能力はそれぞれ別々なんですけど一緒に能力を行使する事で絶大な効果を発揮していると予想しております。ですが大まかな部分は5人とも共通しており同種の能力だと思われます。」
「こうし……同種の能力……?」
ヤバい。能力を知らない人に能力を説明するのめちゃくちゃ難しい。なんて言ったら良いのかな。そこまで詳しく言わないで相手が知りたい事だけ言おうかな。
「簡単に能力を言いますと人の精神、心に影響する能力、テレパシーに近い能力だと思いますよ。」
「テレパシー……?」
「私達そんなこと出来たの?」
プリテイシアの5人にとも半信半疑に聞いている。でも根拠はある。
「恐らく声を媒介にしているんだと思います。皆さんの歌声が人の精神に作用するんです。」
歌声を聴いて悲しい気持ちになったり楽しい気持ちになったり感動したりと、歌声にはそんな効果がある。それを大幅に上振れさせたのが彼女達の能力。
「そして恐らくですがプリテイシアの歌声で人の精神に作用させた証拠が私とイザナミちゃんです。」
「あいの風と天狼が……ですか?」
松本さんが驚いた表情でナイスリアクションをしてくれた。これでプリテイシアの皆さんにも話の深刻さが伝わるはず。
「はい松本さん。私と天狼は少し……というかかなりおかしくありませんか?私達だって仕事で来ていますしその自覚はあります。なのにプリテイシアの前では仕事の顔が剥がれちゃうんですよ。」
「あ、自覚はあったんですね。」
うーん……信用を失っていますねこれは。でもそれには理由があるんですよ。
「現状において私と天狼はプリテイシアの言うことを聞いてしまってます。……一体どこまで聞いてしまうんでしょうね。」
そこでイザナミちゃんと松本さんが私の言いたいことに気付く。
「皆さん、今まで生きていて相手が自分の言うことを何でも聞いてくれるような事はありましたか?」
「え?いきなりそんな事を言われても……ねえ?」
「仲が良い友達とかお母さんとかは私のワガママとか聞いてくれるけど?それが超能力に関係するの?」
……ここからは私の単なる予想だ。だから検証して私の読みが外れたらプリテイシアのみんなに嫌われてしまう。
(ファイトだ私……。)
「ファンの人にはどうです?何か変な事を言ったりして無茶振りしたりしてファンが応えてくれたりしていませんか?」
「ファンの皆さんにお願いをしたりはしますけど……そんな変な事はお願いしませんよ!」
ウグッ……ヤバい。分かってても頭の中にダイレクトに言葉が流れ込んできて抗えない。まるで自分自身で否定しているみたいだ。
「……本当ですか?ファンに無茶なお願いをしたりなんかは……」
「していません!」
そこで私の精神とベルガー粒子に異常が起きる。プリテイシアのセンターである朝日ちゃんの否定が私の中に入り込むような錯覚に襲われて私の意思がねじ曲がる。
「ごめんなさい。そうですよね私が間違っていました今から屋上行って紐無しバンジーしてきます。」
私はそれが正しい事だと、自分の意志だと思い屋上へ向かおうとする。しかしイザナミちゃんに腕を掴まれ軽い電流を流されて正気に戻る事が出来た。
「ハッ!……今のは危なかったな。」
「……お前の言いたいことは分かった。」
「……私の言いたいこと分かりました?私の意思で今屋上へ行こうと思ったのに天狼さんのおかげで違うと認識出来ました。」
「え?どういうことですか?」
プリテイシアとマネージャーと社長は状況を理解していない。理解しているのは能力について詳しく知るこの3人のみ。
「まさか……、洗脳系……!?」
そう。精神に作用する能力の中でも一際強力で悪質な能力と言われる精神操作型洗脳系能力。これがプリテイシアの能力だということが私の精神を使って証明された。
次回はちょっと流れ変わります。
 




