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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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難航する交渉

久しぶりに時間取れました。平日が忙し過ぎてまともに執筆出来る時間取れなかったので。

「ふーぅ……いきなり言われても困るな。下手すると私より上の立場の人間が関わっている可能性がある。お互いの領分は不干渉が基本だ。いつ不幸な事故に合うか分からないのだから。」


支部長さんが組織の闇を語る。そんな決まりごとがあるとは思わなかった。派閥が関係しているのかな。つまり私達の派閥も関係してくるって事だ。


もし調べようとして他の派閥を探る場合、私と支部長の派閥が他の派閥にちょっかいを掛ける事に等しい意味を持つ可能性がある。こういうのにはすぐ頭が回る辺り天狼さんの父親って感じだ。指摘されるまで可能性すら思いつかなかった。


「それは承知しています。しかし一般人を殺し隠蔽するなど言語道断。明らかに行き過ぎた職権乱用です。こんな前例が残るのは組織に不利益を生じかねません。」


天狼さんが切り口を変えた。組織としての在り方について問う事で個人的な問題ではなく一個の組織としての問題にすり替える。流石は天狼さんだ。すぐに視点そのものを変えて意見出来るなんて凄い。


「言いたいことは分かるよ。でもさ、そういうのはウチの派閥の仕事じゃないね。内部監査とかはさ、蜃気楼辺りに話をしてくれないかい。」


蜃気楼……処理課のまとめ役みたいな人だったよね。しばらく会っていないけど、あの人は内部監査みたいな事もしてるの?


「領分の話をしたのはそっちです。京都なら先ず貴方に話を通さなければならないでしょう。それとも……外部の者を入れても構わないのですか?」


外部?同じ組織同士でもその表現を使うって事は地域でかなり区分されているって事だよね。まるで合衆国や連邦みたいだ。地域ごとでその地を治めているやり方を取っているみたいだ。


組織も一枚岩じゃないんだね。


「痛くもない腹を探られても特に困らないけど、他の派閥の者たちはどうするかな。私が間に入らないといけなくなるしメリットが何も無いんだよね。個人的な望みをいちいち叶えている暇なんてないよ。」


これが本当に親子同士の会話なの?うちより酷いじゃん。


「ではメリットは?貴方の言い分ではメリットがあれば動くということですよね。」


「そんなものは言葉遊びだ。ただの物の例えだよ。……でもメリット次第なのはこの件以外にも適用される考え方だね。メリットがあれば人は自分の命すら天秤に掛ける。君はどうなんだい?」


お茶の入った湯呑を持ち上げ視線を私達に向ける。


「知っているのに聞かないでください。価値ある事柄にはそれ相応の対価、リスクがあります。貴方に教えてもらった事です。」


こう話しているのを聞いているとこの2人はお互いを分かり合っているように思える。親子だからなのかなやっぱり。


「なら話は簡単だね。私は彼女が欲しい。情報と交換だ。若い彼女ならいくらでも子供を産んでくれるだろう。」


支部長と目線が合う。その瞬間、背筋がゾワゾワとして生理的に拒否感を覚えた。……娘の前でそんな事を言う父親が存在するの?


「彼女は駄目だ。それは認めない。」


天狼さんが私を抱き寄せて支部長から隠そうとしてくれる。


「なら交渉はここで終わりだね。これで死神にも面目が立つ。私は先に帰らせてもらうよ。」


あっさりと引く支部長を見て、そこでやられた……と気付く。彼はこの展開を望んで無茶な要求を出したんだ。しかも多分私がその要求を飲んでも良かった。どっちに転んでも彼は別に良かったんだ。


「あーそうだ。今日は私持ちだから好きにしていい。2人で話し合いながら飲み食いしててくれ。」


支部長さんが立ち上がり部屋を後にしようと襖に手をかける。


「まだ話は終わっていない!」


しかし天狼さんの静止も聞かずに支部長は部屋を出て行ってしまった。私は一切話に入れなかったよ。支部長は私の事は別に興味は無かったんだ。こんな事は初めてかもしれない。組織の者で私に関心を向けないなんて……


「天狼さんごめんなさい。何も出来ず天狼さんだけに任せてしまっていました……。」


抱き寄せられた体勢から座り直して頭を下げる。多分この状況にまで持ってくるだけでも大変だったはずなのに……


「いや謝ることはない。こうなるのは正直な所分かっていた。私が今日この場に父上を呼んだのは観察する為だ。」


まさかこの展開を読んで別の目的の為に動いていたなんて……。でも天狼さんが両手を合わせて握り締めて何か思い詰めた表情を浮かべる。


「あの、観察して何か分かったのですか?」


「逆に聞きたい。美世は何か分かったか。」


縋る様な目に私はどう反応したらいいの困ってしまう。何を私に望んでいるのか分からない。


「能力者でした……あとはあまり身体能力は高くありませんね。鍛えているようですけど鍛え方が私達とは違いました。見た目を良くする為に筋肉を付けているみたいで実戦的な鍛え方はしていないように見えましたよ。」


これぐらいかな。見た目の情報から分かるところはね。


「他には何か分かることは?例えば……嘘を付いているとか。」


嘘、嘘か……まあ言っていたと思うけど、何に対して嘘を言っていたのかは分からない。だって今日初めて会ったばかりの相手だ。クセとかそういうのは分からない。


それに誰でも会ったばかりの相手には話を合わせる為に嘘をついたりするだろう。


「何に対して言っていたのかまでは……。」


「そうか……私は父上を良く知っているから分かったのか。」


「何が分かったのですか。」


「父上は……」


天狼さんが言いづらそうに言葉を濁す。私はそれだけでこれから何を言おうとしているのかが分かってしまった。


「恐らく美世のお母さんを殺した能力者を知っている。」


「……やっぱり。そんな気がしていました。」


暫く無言が続く。私は外から鳥の声が聞こえてくるぐらいに意識が霧散し集中力が切れていた。


「すまない。もしかしたら私の父上が隠蔽に関わっている可能性も……」


「それ以上は言わないでください。」


私は無表情だった。怒りも悲しみもない。真実が近付いてきた実感だけが私の中にある。


「天狼さんを巻き込みすぎました。これからは私一人で動きます。」


無関係の人を巻き込んで嫌な気持ちにさせている。しかも相手は天狼さんだ。彼女にはいつも助けられて良くしてもらっている。これ以上は巻き込めない。


「しかしこれからどうするんだ?父上は馬鹿ではない。これから色々と動くはずだ。そうすれば証拠や下手するとお前の仇を処分してしまうだろう。死神が出てきたのだから父上は必ずそうする。自分に被害が及ばないように立ち回る筈だ。」


それなら別にそれで良い。


「仇が死んでくれるのならそれで良いです。私が殺したいのは誰にも迷惑の掛からない方法だからです。私からしたらそいつはクソ野郎ですけど、他の人からしたら善人かもしれません。だから私は悪人になってでもクソ野郎を殺したいと思うのは私の勝手なワガママなんですよ。」


恨みや怒り、他にも色々な感情が渦巻いていてもう今にも吹き出してしまいそうだ。だからその感情を消化する為にそいつを殺したい。私の感情に殺意を消し去りたい。それだけの事。


「なら私もワガママを言う。この件には最後まで付き合うからな。そしてとっとと終わらせて普通に生きよう。私もお前も。」


「天狼さん……」


今思うと不思議だ。なんでこんなに良くしてくれるのだろう。この人に私は何かをしてあげた事はないのに。


「私には妹弟が居ないから美世が私の妹代わりだ。こんな妹が居るのなら毎日楽しいに決まっている。」


そう言って頭を撫でてくれる。


「なんだ、泣いているのか?」


「え?」


そう指摘されて目の周りを触れると水のような物が付いており私はそこで泣いているんだと自覚した。


「あれ?なんで、なんで泣いているんだろう。別に悲しくないのに。」


必死に涙を拭くのに次々と涙が溢れてきて止まらない。人に泣き姿を見られて情けなくなりまた涙が出てくる。


「安心したからだろう。お前にはちゃんと側にいてくれる人が居るって思えたんだ。……ずっと一人だったんだな。良く我慢したな。」


なんで私が慰められているの。さっきまで天狼さんがツラそうにしていたのに私を慰めてくれる。天使かこの人は。本当に強くて頼りになる人だ。


「いま私の中のお姉ちゃんランキング1位になりましたよ天狼さん。」


因みに元1位は雪さんです。


「それは嬉しいな。」


屈託なく笑う天狼さんを見て私は再度思う。


(やっぱり天狼さんは巻き込めない。)


私はこの先、一人で動く事を決意した。その為に私は……。

この先の展開知っていると書いてるのが辛くなります。これから先結構鬱っぽい描写とか増えるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ、天狼さんの父親ムカつきますねぇ… メリットなんて美世に貸しが出来るだけで十分だと思いますけど美世が女だから見下しているのですかね…
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