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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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京都支部長という男

血を見たいか?私も見たい。

料亭の戸を開けて中に入ると上品で美味しそうなとても良い香りが迎えてくれた。こんな香りを嗅いだら自然とお腹が空いてくる。お昼を軽く済ませてからここに来たのにね。


「今日は会食的なやつですか?」


「食べたかったら頼めばいい。食べたくなかったら何も言わなければ出てこないさ。」


「懐石料理食べたいです。」


「コースは決まってるからな。」


今日は天狼さんのお父さん、支部長さんに会いに来たのに何故か頭の中は懐石料理の事で頭がいっぱいになっていた。


(今日は……戦いとか無しにしよう。)


殺る気スイッチはオフにして天狼さんの案内で廊下を進む。向こうから和服を来た店員さんとすれ違うと、天狼さんと顔馴染みなのか軽く会釈してくれる。まあ小さい頃から出入りしてる筈だから店員さんとも知り合いだよね。


「あまりキョロキョロするな。お前がやると敵対行動になりかねない。」


「あ、ごめんなさい。物珍しくて。」


確かに探知能力者がキョロキョロして観察していたら何かを探っているように見られる。いや、探ってはいたけど能力は意識的に使っていない。本当に物珍しくて色々と見ていただけです。


「あまりこういう所には来ないのか?金ならあるだろう。」


「女子高校生が懐石料理を食べに行く訳ないじゃないですか。修学旅行も旅館でそれっぽいのを食べたぐらいですし。」


ほわほわした空気が2人の間に漂う。この2人はどのような事態にも対応出来る精神力の持ち主である。つまるところ本番に強い。男前な性格をしている。


これから支部長、つまり上司と話し合いをするのに彼女たちはいつも通りの態度だった。待ち構えている支部長も廊下から2人の快談が聞こえて来るので、不思議そうに耳を傾けながら彼女たちがこのまま懐石料理を食べて帰るのではないかと少し心配する。


「ここだ。失礼します。」


襖を開けて天狼が部屋の中へ入る。それに続いて美世も支部長の待つ部屋へと足を踏み入れた。


「失礼します。」


探求(リサーチ)】で相手の顔は分かっていた。はっきり言って支部長さん以外の人かと思っていた。だって凄く若く見える。30代後半にしか見えないけどありえないよね。だって天狼さんっていう娘がいるんだから。


えっと……天狼さんが20代ぐらいだから……支部長さんは40〜50代の筈だもん。まさか10代で作った子供じゃないよね。


でもこの古風な建物に良く合っているんだよね不思議と。私みたいに浮いていない。居るべきして居るって感じ?あの黒いスーツ姿も一人用のソファーみたいな椅子に座っているのも様になっている。大人の男性の見本みたいな人だ。


顔もかなり良い。髭を整えて生やしているから貫禄もあるし髪も整髪料できっちり決めている。


しかし顔立ちはあまり天狼さんには似ていないね。母親似かな。


「良く来てくれたね。さあ座って。」


声もかなり若々しい。声質もそうだけど口調とか言葉のアクセントも若い。常日頃から先生ボイス収録しているから耳は鍛えられている。だから少し聞いただけで色んな事が分かるようになってきた。


「はい。失礼……」


私は座ろうと向かいの椅子に座ろうとしたが、天狼さんが支部長を睨んだまま動かないので私もその場で停止してしまう。


「母の実家で働いている女性にちょっかいを出すのは止めていただきたい。」


「え?」


何?急に修羅場なんだけど!


「はっはっはは!何もしていないよ。少しお茶を出してもらっていただけさ。」


「はて、先程すれ違った女性の和服が乱れており、体温も高く私と目線を不自然に合わせないようにしておりましたが?」


隣に立っている天狼さんがさっきまでとは違う今まで通りの天狼さんに戻っていた。触れただけで斬れてしまいそうな雰囲気も、相手に何も言わせない堂々とした口調もだ。


父親の浮気を疑い、今にも飛び掛かりたい気持ちを必死に抑えている。私という外部の人間が居るから抑えているだけで恐らく私がここから離れたら天狼さんは支部長を……


「……少しスキンシップが過ぎた事は認める。しかし君が思っている様な所までは行かなかったよ。」


飄々とした口調なのは変わらないけど娘を警戒しているのは伝わってくる。支部長も天狼さんを怒らせている事は分かっているか。


「私達がまだここに来ていなかったらどうしていたのですか?」


あ、天狼さんが時間が無いって言って私を急がせたのは父親を信用していなかったからなのか。この一連の流れでこの2人の関係性が見えてきたよ


「想像の通りだよ。」


にっこりと笑う眼の前の男性に私は嫌悪感を覚えた。女性としてこの男性に対して嫌悪感を覚えたんじゃない。この人が娘に対してありえない事を言ったからだ。私の父がマシに見える。いやうちの父は別に悪人でも無いし私にはちゃんと配慮してくれるからこの人と比べる必要も無いけどね。


「……だから母上に嫌われるのですよ。同じ家に住んでいるのにまるで別居中の夫婦みたいです。」


うちは未だにラブラブですよ。あの人は私の母親じゃないけど。


「それは本当に残念に思っている。君みたいな能力者を産んだ母体だから弟や妹を何人も仕込んであげたかったのに……本当に残念だ。」


なるほど、天狼さんが京都ではなく東京支部に所属している理由が分かる。こいつは父親じゃない。天狼さんとは血縁関係があるのかもしれないけど、それだけの関係性だ。


会ったばかりだけどこの人は父親らしい事はしていないし、しない事も分かる。いくつになっても落ち着きのない雄といった所だろう。


「お話の途中ですいませんが、本題に入りませんか?」


このまま会話を続けていたら天狼さんが爆発してしまう。それでは目の前で殺人事件が発生し第一発見者になっちゃうよ。


「……そうだな。見苦しい所を見せてしまった。」


天狼さんは本当に申し訳無さそうに頭を下げて謝罪したけど、それに対し支部長さんは……


「このぐらいなんてこと無いよ伊藤くん。私達の間ではいつもの事さ。」


いちいち癇に障るなこの人。私が女性だから自分を大きく見せようとしている気がしてならない。自分が偉くて上の立場って事を前提に喋ってる気がするんだよね。そういうのが言葉と態度の端々(はしばし)から感じ取れる。


天狼さんこういうの嫌いなんだろうな。私もそうだよ。こういう大人を見るとイライラしてしょうがない。


「なら本題に戻して問題ないですね。」


「ははっせっかちさんだね。隣に座ると良い。伊藤くんみたいな子が近くに居てくれれば男として申し分無いよ。」


「失礼します。」


私は天狼さんと同じ支部長の真反対側の椅子に座り意思表示する。お前の隣なんて死んでもごめんだ。


「つれないね……では話をしようか。死神に出てこられては私も意思表示しなくては。」


部屋の中の空気が変わる。まるで湿度が高くなった重い空気。それが私を纏わりついてきて不愉快極まりない。


ここからが本番、か。


「伊藤くんが私に聞きたいことがあるとか、ないとか?」


「はい。では単刀直入に聞きますが、私の事は組織が調べた筈です。私の母親が殺された事も知っていますよね?」


「……そうなのか?」


え?……知らないの?


「ふぅー……こういう人なんだ。適当なんだ全て。今日会うことは分かっていたのに何も資料に目を通していないようだ。」


それで人の上に立てるの?日本大丈夫か?


「いやねえ、組織に所属している人数を知っているかい?社員の生い立ちを全て知っている幹部が居ると思うかい?」


正論だけどさ……私ってかなり特殊な社員じゃない?社長のコネ入社なんだけど。


「この人に常識は通じない。常識的な思考回路は諦めろ。この人専用の回路じゃないと交渉にはならないよ。」


ならお手上げだ。こいつの為に脳細胞を使うのは無駄だと思う。こいつはただ言われて来ただけ、私の欲する情報は持ち合わせていないだろう。


「父上、あなたの権限で調べて欲しいのです。あいの風の母親は能力者によって殺され、その一件に組織が介入した痕跡があります。誰が裏で手を引き、誰が彼女の母親を殺害したか調べて頂きたい。」


こいつに借りを作るのは嫌だけど、それしか手が無いのが実情だ。ここは天狼さんに任せるしかなさそうだね。

この物語に出てくる男のクズ率高くない?

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