異形能力のきっかけ
この物語の舞台は結構明言している所としていない所がありますが読み手の解釈に任せています。舞台が現実世界の地球と捉えても良いですしパラレルワールド的なやつでも良いです。
見間違いではない。間違いなく雪さんから青白い光が発せられている。能力のシェアリングは成功した。しかし様子がおかしい。雪さんの表情が苦しそう。しかもどんどんベルガー粒子の操作にも影響が生じる。
「ごめんこれ以上無理!」
雪さんは能力の行使を止めてしまった。
「……だろうな。」
天狼さんはこの結末を予想していたようだ。何で分かったのだろう。パスに関しての知識は無い筈なのに。
「今の現象について何か分かったんですか?」
突然雪さんが能力を解除した理由を尋ねる。
「いきなりこの能力は使える筈もない。身体が電気に対して耐性がまだ備わっていないからな。私も最初の頃はこうだった。」
え、そうなの……?私は本番一発目から使えていたけど……。
「お前はまだ能力に自覚が無かっただけで身体は準備出来ていたんだろう。その高い身体能力が良い証拠だ。異形能力者は幼い頃から体格や身体能力に恵まれたりする特徴があるからな。」
へー為になる話だ。無自覚系主人公だったのか私。
「じゃあ、意味無いじゃないですか天狼さん。ただ身体が痺れてダルくなっただけですよ。」
立っているのもやっとそうな雪さんからブーイングが飛ぶ。本当にただの実験のようなものだよね。
「焦るな。何回もやって身体を馴染ませないといけない。いきなり高圧の電流が流れたら心臓が止まるぞ。」
そう言われたら流石に何も言えない。命を危険に晒すような事は出来ないし誰もやりたくはないだろう。
「良い機会だ。私の昔話をしてやろう。」
突然自分語りが始まる。でも私と雪さんは気になって天狼さんの昔話に付き合う事にした。
「あれはまだ私が6歳ぐらいで小学校に上がる前だった。その時の私は近所でも有名な悪ガキで良く近所の子を泣かせていたんだ。今考えてみるととんでもない悪童だな私。」
今の天狼さんとはイメージが違うけど容易く想像出来る。だって周りを振り回すタイプだもん。
「で、あの頃は勉強や稽古から逃げ出す事が多くいつもどおりサボって近所を練り歩いてた。その日は雨が降っていたな。サボりの帰宅中に私は雷に打たれた。」
急展開!雷に打たれた人なんて初めて見た。確か雷に打たれるってかなり確率が低かったよね?運が良いのか悪いのか分からないエピソードだ。
「あ、それで能力に目覚めたんですか?」
「いや違う。心肺停止していたんだから目も能力も目覚める訳がない。」
因みにここ、能力者ジョーク。笑うところです。
「私はすぐに病院へ連れて行かれた。全身に火傷を負っていたんだが、心肺停止していたから先に心肺蘇生をしてもらったんだ。その時に電気ショックが使われてそれで目覚めた。」
「「……どっち?」」
私と雪さんの声が重なる。目が覚めたのか能力が目覚めたのかどっちの事を言っているんですか?
「両方だ。私の身体から電気が走り、周りに居る人全員感電させてしまったんだ。組織の人達が来てくれなければ罪の無い人を殺めてしまう所だった。」
……イイハナシダナー。
「……それで?その話とこの状況と何か関係が?」
「電気を生み出す異形能力者でも雷のような高圧の電流には耐えられない事もあるという事を言いたかった。だが電気ショック程の電流で覚醒する時もある。電流のラインがあるんだ。ここからここまでというラインがな。」
要するに電気を生み出す能力者でも耐えられない電流値、その上限があるからあまり急に強い電気を生み出さなくてもいいよって事かな。
「なるほど……分かりました。自分のペースで行くことにしますね。」
雪さんも理解したようだしこの話はここまで。呼び出しを食らってこの速さは凄い。廊下を全速力で走り抜け道場の戸を開けて彼女は入って来た。
「ゼェー……ゼェー……来ましたよ。」
理華が両手に買い物をした袋を持って道場へやってきた。少しお洒落な格好をしている事から何かの買い物途中で来たことが伺える。
「来たな。」
天狼さん、人をこき使うの様になっている。いつか私もこき使われたりするのかな。嫌だな……。
「理華〜!」
手を振ると理華もすぐに買い物の袋を持ちながら振り返してくれる。
「いきなり呼び出さないでくださいよ……ハーパーと日用品の買い出し行っていたんですから。」
2人はこっちに引っ越して来たばかりだから、まだ生活に必要な物が揃っていないようだ。
ふ〜ん……私は誘わないで2人で行っていたんだ。……ふ〜ん。
「なーに、少し教え子の成長を見ようと思ってな。今から稽古をつけてやる。準備しろ。」
体育会系の先輩とかこんな感じなんだろうな〜…。
「はー……分かりました。準備してきます。」
体育会系の後輩っぽいなーっ理華。受け答えが慣れてるもん。
着替えが出来るロッカー室に向かって数分後、道着を着た理華が戻ってくる。髪を結い上げて準備万端の様子。
「天狼さん。」
「ん?どうした。」
私は楽しそうに待ち構えていた天狼さんに声を掛ける。
「夏休み中か、任務が終わった時に理華と戦ったりしましたか?稽古でもなんでもいいんですけど。」
「いや無い。私も理華も忙しく時間が合わなかったからな。」
まあそうだよね。だからそんな楽しそうにしていられる。昔の彼女と今の彼女のは全くの別物なのに。
「舐めてかからないほうが良いですよ。」
私は壁の方に疲れ果てて座り込んでいる雪さんの方へ向かう。私も観戦勢になろうっと。
「待て。」
「はい。」
振り返らないまま受け答えをする。言うべきことは言ったしね。警告って訳じゃないけど天狼さんがあっさり負ける所は見たくない。
「今のお前と今の理華、どっちが勝つ。」
「さっきまで能力を使って脳が酷使されているので……間違いなく理華が勝ちます。彼女と戦うと持久戦になるので。」
彼女の能力【熱光量】に対抗するには同じ能力で対抗するしかない。お互いに光を放出してその光を吸収してまた放出して……以下ループ状態に入る。
身体に光が纏わりついてもその光を集められるからお互いに致命傷にもダメージにもならない。だから脳が能力を使える状態の間は膠着状態が続き、その後は能力が使えなくなった方が負ける。今の所は私が勝ち越しているけど能力をコピーしていなければ勝負にもならない。
「これ理華が勝つかも。」
壁に立て掛けられた花たちを退かして壁に背中を預けて座る。私の能力で生み出した花たちだけど消すのを忘れていた。
「天狼さんじゃなくて?」
疲れてぐてーっとしていた雪さんがシャキッとして私の独り言に食いついてきた。
「言っときますけど理華マ〜〜ジ強いですよ。世界でトップ10には確実に入ります。」
「そこまでなの!?私、理華ちゃんの能力良く知らないんだけど。」
言っても……大丈夫か。言いふらしたりする人ではないしね雪さんは。
「簡単に言うと光を操作する能力です。光なんで勿論光の速さで襲ってきますし光なんで熱があります。数秒もあれば1000度近く上昇させられますしそんな光量なので射程距離が数十キロあります。」
自分で言ってみて思ったけどチート能力過ぎる。理華能力はほんの少しの光が対象に纏わりついても熱を発生させる。そうするとその部位が燃えたり、金属だと発熱したりしてその光がまた拡大して………以下ループ。
大抵の物質は熱を持てば燃えるか光る。その光がまた【熱光量】のエネルギーになるって云うんだからたちが悪い。とても完結していて弱点の無い能力と言える。
正に殺し屋が欲する能力そのものだと思う。燃えれば証拠隠滅出来るし能力の特定も難しい。
「この戦いちゃんと見ていた方が良いですよ。天狼さんも理華もやる気十分なので殺し合い一歩手前まで行くかもしれません。」
「それなら止めないとでしょ。」
私もそう思う。……思うだけだけど。
「止められます?間に入ってあの2人を。私は嫌ですよ。それとも雪さん行きます?」
「なんか頭痛いような気がしてきたよ。ここで大人しくしている事しか出来ないかな。」
うんうん。それで良いよ。私もポケットモンスタ○ 天狼VS理華VSダークライみたいな所に参戦したくないもん。
また戦わされてるよダークライ…。




