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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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能力の貸し借り

能力の貸し借りって結構ストーリーというかバランスを崩壊させる要因なんですけど、ストーリー的にはパスという概念が必須なのでこの物語を書く時に採用しました。

天狼さんのスパルタ指導は続いた。先生の能力と組み手とも言えない半ばイジメのような……、ただ雪さんが蹂躪されるだけみたいな事が繰り返し行なわれ雪さんは床の上に寝転がったあとに起き上がらなくなってしまった。


この体勢を取ってからもう20分が経つ。その間私は死にそうな顔をしながら雪さんを眺めていた。


……恩を仇で返してしまった。私はなんて悪いやつなんだ。


「そろそろ起きろ淡雪。次のステップに進む。」


まだやる気なのか。理華が良く泣かされていたと聞かされていたけどこれは流石に酷すぎるんじゃないか。私は抗議を申し立てる。


「これ以上追い込んでも意味は無いと思います。今日の所はもう良いじゃないですか。」


しかし天狼さんは表情ひとつも変えずに私の申し立てを切り捨てる。


「これは部活ではない。明日来るかもしれない最悪に備える訓練だ。力が足りなかったらしょうがないと言えるような甘ったるい世界に身を置いていないだろう。私もお前も、淡雪だって。」


「それは……そうですけど。」


甘ったるい…私は雪さんに優しくしたつもりだったけど、甘やかしていたのかな……。


「淡雪、お前がこの派閥で一番のネックになっている自覚はあるか?朧は無能力者だから誰も目に止めない。しかしお前は能力者だ。敵対する者たちからしたらお前が一番劣って見える。」


「天狼さんっ!」


それは言い過ぎだ。そんな事を言わなくてもいいのに口に出して何になるんだ。天狼さんが指摘して気持ちよくなるぐらいだろう。ふざけるなっ!!


「言い過ぎに聞こえるのなら美世、お前は淡雪を下に見ている事になる。保護者気取りなら止めろ。いつでも自分が守ってあげられるとでも?そんな歪な関係、ここで終わらせてしまえ。」


「ぐっ……。」


ぐうの音も出ないとはこの事を言うのだろう。指摘されてからやっと自覚した。私はいつの間にか雪さんを保護する立場で考えていた。なんて恥ずかしい……。これは雪さんにとっては侮辱しているのと変わらない。


「淡雪も早く立て。今の現状を変えたくて来たのだろう。なら寝ている暇なんて無い筈。……立ちなさい。」


最後の方は優しい声色だった。天狼さんと雪さんは大体同年代ぐらいのはず。この2人にどんな心境があるかは分からないけど、お互いにすべき事をしにここに居るという事だけは分かる。


私だってそうだ。私も自分の為にすべき事をするだけ。みんな同じ立場で上も下も無い。


「………休憩していただけだもん。」


雪さんが起きる。目を腫らし涙の跡が残っているけど、その目には今まで以上のやる気が写し出されていた。


「天狼さん、私……強くなりたいです。どうしたら良いですか。」


……本当に強い女性だ雪さんは。その在り方を見ているだけで周りの人は勇気づけられる。天狼さんも雪さんを見て頬を緩めているしね。


「その為に私が居る。これからの話をしよう。2人とも集まれ。」


天狼さんは雪さんの細かい動きのクセや能力に対しての理解の仕方、ベルガー粒子の操作などありとあらゆる事を話した。私もそれらについて気付いた事を話したり雪さんの質問に答えたりもする。最初よりもかなり実戦的な話の内容に変わっていき、私も色々と天狼さんに教えてもらえた。


「手っ取り早く強くなるのならパスを使った能力の貸し借りだろう。美世が良い例だ。」


「私が初めて能力者と戦った時は探知能力だけでは太刀打ち出来なくて、先生に能力を貸してもらう事で勝つ事が出来ました。正直、先生の能力無しなら私はそこまで強くありませんから。」


探知だけなら物理的に攻撃する手段は限られる。この能力一本で勝てる程能力者という生き物は甘くない。


「でも、ちょっと卑怯な気がしなくもないような……」


理華も同じ事を言っていたっけ。この2人結構考え方が似てる。


「だとさ美世。卑怯者と言われた感想は?」


楽しそうな顔をして天狼さんが私に振ってくる。確信犯でしょ。


「卑怯者上等。勝たなきゃ意味が無いんです。負ければ尊厳を奪われて殺されるだけですから。」


あの廃ビルで被害女性達の結末を見た。先生が居なければ私もあの人達の仲間入りをしていた筈だ。弱い者は何も出来ない。それを憂いて人が動いてくれる時もある。だけどその動いてくれる人というのは皆強い者達だ。結局悪い事も良い事も強い者達が決めているのが現実。


例え借り物であろうとも、強い者達と並べられるのならその選択肢を取らない理由は無い。あの光景を見ても弱者で在りたいのなら、勝手にやってろよと私は思う。


「……そうだよね。美世ちゃんの言うとおりだよ。私の考えが甘かったわ。」


「いや、理華にも同じ事を言われた事があるから私がおかしいだけだと思うよ。」


多数決なら負けてる。理華で一人分、雪さんで百人分。私は人でなしだから半分。


「……理華がそんな事を言っていたのか?」


あれ?そこに食いつくの?


「えっと、言ってましたね。でも理華の能力なら十分過ぎますし……あ〜話を聞いてください……。」


スマホを取り出してラインで理華を呼び出そうとする天狼さんを私は止められなかった。すまぬ……理華。


あと見間違いでなければ天狼さんの待ち受け画面、天狼さんの推しグループのプリテイシアと一緒に撮った写真だった。ファン交流会みたいなやつで撮れるやつだと思うけど天狼さんの身長高過ぎてメンバーと並ぶと大人と子供みたいで凄い。天狼ニッコニコだしプリテイシアのみんなも天狼さんを見て笑ってる。


「すまない待たせた。話の続きだが……」


駄目だ。頭の中がプリテイシアの事でゴチャついていて話が入ってこない。


「とりあえず能力の貸し借りを実践してみて欲しい。美世と死神の中だけの現象か、それとも私達にも行なえるのか実験を兼ねて。」


それは私も気になる。確かに私と先生との間ぐらいでしか行なった事が無い。私は色んな能力が使えるけどコピーしたものだし、コピーしてしまえばパスなんていらない。だからパスを通じて私の能力を貸し出せるのか試してみたい。


「では早速行きます。雪さん、私がパスを繋ぐので私の言う内容を良く頭の中に思い浮かべて受け入れてください。私もそうして能力を使えましたから。」


「う、うん。よろしくね。」


雪さんはおっかなびっくり気味に私と目を合わせる。


「パスが繋がっているかどうかは多分雪さんには分かりません。でも私が分かっているのでそこら辺は大丈夫です。……では、行きますね。」


私と先生が初めてパスを通じさせて能力の貸し借りをした時の事を思い出す。先生は能力を貸す時に具体的にイメージしやすい説明をしてくれた。あの説明が無ければ銃を構築出来なかったと思う。だから私はそれを真似て雪さんに伝える。


「パスは繋がりました。今わたしと雪との間に見えない線、ケーブルのような繋がりが私と雪さんの間に繋がってます。この線がパスです。このパスを通じて私の能力を流しています。」


目を瞑りながら私は出来るだけイメージしやすい説明を口にする。


「……全然何も感じないよ?」


雪さんは目をパシパシしながらピンと来ていないようだ。


「雪さん目を瞑ってください。そしてイメージしてください。今やろうとしている事は誰も想像もしていなければ知ってすらない概念です。私の言うイメージが全てです。集中してください。」


「ご、ごめんなさい。集中します。……集中。」


固定観念がある人ほど難しいかもしれない。特に雪さんみたいなしっかりした社会人のような人にはね。


「これから言う事は全て受け入れて否定しないでください。私の言う事を心のどこかで、それはおかしいんじゃないか?とか、分からないとか思わないように。脳のリソースを全てイメージにまわしてください。」


「うん……分かっているんだけど難しいね。どうしても冷静な自分が居ちゃう。」


催眠術とかマジックとかを見る時そんな気持ちになる。雪さんにとってこれから行なう事はそういう認識なのかも。


「私が信じられませんか?私の事を受け入れてくれないんですか?」


「美世ちゃんの全てを受けれます。なんか行けそうな気がしてきたよ。うん。」


始めからこう言えば良かったよ……。


「では電気をイメージしてください。パスというケーブルから電気が送られて自分の中に帯電しています。」


この説明で上手く行くかは分からない。でもやってみない事には何も分からないままで終わってしまう。


「電気は身体全身を巡ってはおらず身体の中心部にあります。」


私の異形能力はベルガー粒子を身体の奥へ送り込み発現する。


「先ずは電気を集めて形作ります。形作るのは青白い電光。電球のようなものです。身体はガラス球であくまで電気と光は身体の中から生まれます。」


身体で発電するのではない。能力で発電する。だから身体はリラックスした状態が好ましい。雪さんも自然と身体から力が抜けている。


「身体の中心部から発電された電気が神経を通し皮膚に運ばれて発光する。それが出来る身体はもう備わっています。人は電気で化学反応を起こす有機物で何らおかしな事はありません。赤ん坊の頃から出来ている事をするだけです。」


少し……雪さんの身体がビクッとした。まるで電気が流れたような反射的な動きだった。


「電気が通れば痛みが走り身体は熱を帯びますが、しかし運動をすれば誰でも起こり、今までの人生で何度も何度も繰り返し体験していた事象です。」


痛みなんて当たり前。だから臆病にならないで、そのまま能力を行使し続けて。


「その電気は自分の身体を動かす。その電気は自分で動かす。その電気は……自分で生み出す。全て繋がってます。身体と能力は1つであり、それが異形能力です。身体を動かすのに能力を使い能力を使うのに脳を使います。全てサイクルが回っているんです。」


身体の一部として能力を使うだけ。そんな事は能力者全員が出来ている。


「帯電した電気が溢れかえります。その電気は皮膚すら通り抜けて空気を貫く。それが私達“異形型電気系能力者”」


異形型電気系能力者はこの道場には私と天狼さんの2人居るけど、ここには()()()()()()。私達と同じ能力を持つ能力者が一人。


「……出来た。」


雪さんの身体から電流が発せられ道場を青白く照らしていた。

史上3人目の異形能力者です。恐らく。

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