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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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摩擦係数の調整

雪さんの能力が始めて描かれます。実は最近まで決まっていませんでした。ごめんなさい雪さん。

天狼さんの合図で伸ばした手を引っ込めて雪さんから少し間合いを取る。それで私がもう戦う意思が無いことを2人に知ってもらう為だ。ちょっとした事だけどこういう動作を挟むのは大事になってくる。戦いに身を置き過ぎると止まらなくなる時があるからだ。特に私みたいな暴走しがちな能力者は特に。


天狼さんも私の瞳を見ながらさっきの組み手を見ていたし尚更。もし私が暴走しそうになったらいつでも止めに入れるように配慮してくれている。


「ハァーハァーハァー…こんなに早く動いたの初めてかも。私……こんなに早く動けたんだね。」


雪さんは息を切らせながらも楽しそうな表情を浮かべながらさっきまでの組み手の感覚を愉しんでいるようだった。


雪さんにとってそういう感覚を覚える相手を出来たのは喜ばしい。組み手する相手によって稽古の質は変わってくる。雪さんにとっては私はかなり相性の良い稽古相手のようだ。


「もう一回……もう一回お願いします天狼さん。美世ちゃんも良いよね。」


呼吸を整えた雪さんがもう一回組み手をしようと提案する。私は雪さんの満足のいくところまでやるつもりだから構わない。


「なら次は淡雪、お前は能力を使いながら美世と組み手しろ。」


「……能力、ですか。」


私は雪さんの能力を知らない。話したがらないから聞かなかったし、雪さんは自分の能力に自信が無いきらいがある。だから私に見せるのは抵抗があるのかもしれない。


「そうだ。淡雪の能力を見せてくれ。でないと次の稽古に進めないからな。」


天狼さんの反論を許さない言い方に雪さんも覚悟を決めて能力を見せてくれる。


「美世ちゃん。私の手を握ってみて。」


私はそう言われて雪さんの手を握ろうとしたら恋人繋ぎのような指と指を絡ませるような握り方をさせられた。


……何で?


「ちゃんと離さないようにしていてね。」


私はちょっと恥ずかしながらも雪さんの手を離さないように指に力を入れた。しかしその瞬間には雪さんの手は私の手から離れてしまう。


「……滑った?いきなり雪さんの指がすべすべになったような……いや、最初からすべすべでしたけど!?」


誰にも何も言われていないのにそんなフォローを入れるから、まるで雪さんの指はカサついているような言い方になってしまった。


あ、雪さんが自分の指の感触を確かめる様に指をスリスリしてる。……ごめんなさい。


「……あー今のが淡雪の能力か?」


天狼さんもちょっとだけ気まずそうに話を振る。女性にとって指がカサつくなんて思われたり言われたりするのは傷付くよね。天狼さんは敢えてそこに触れないように配慮してくれたけど、逆に雪さんの指がカサついていると思っているみたいで逆効果だった。


あ、雪さんが両手の指を見て皮膚のカサつきを見始めちゃった。


「……カサついていないもん。」


今日の為に長い髪をお団子ヘアで後ろに纏めた雪さんがお団子をイジイジし始めて、私に拗ねてますよ〜っとアピールする。


「カサついて無かったです。寧ろ私のがカサついていました。」


頭を下げて謝罪する。雪さんの怒りを買うのはマズいと経験則で分かる。ここは誠意を見せないと。


……指、指を詰めるか?カサついた指を提出して、そうすれば怒りを沈めてくれるはず!


「……ふふ、怒ってないわ。だから自分の指を折ろうとするのを今すぐ止めなさい美世ちゃん。」


右手の指を4本いこうとしているのを雪さんに止められる。赦された……のか?


「私の能力は摩擦を強くしたり弱めたり出来るの。」


雪さんはその場で直立不動のまま動き出す。それはまるでスケートリンクで滑るみたいに木の床の上を滑っている。


雪さんは自分でふーっと息を吐くとその風力でスイーッと滑って行き面白い。そしてある程度滑った所で急にキュッと止まり私達の方へ歩いてくる。


「……以上でした。あまり強くない能力だから2人に見せるのは恥ずかしいな。」


顔を赤くした雪さんが恥ずかしそうにモジモジしながら照れ笑いを浮かべる。


「美世はどう思う淡雪の能力。」


天狼さんは私の感想が気になるらしい。能力の観察眼には自信あるから任せて欲しい。


「かなり強いと思いますよ。さっきの事象からかなり摩擦を弱める事が出来るのは分かりました。しかも対象は自分だけじゃなく床面にも及んでいましたしね。」


ベルガー粒子の動きで分かったから天狼さんも分かっている筈。


「……今のでそこまで分かるものなの?」


雪さんは驚いたような声を出す。これぐらい出来ないと非接触型探知系能力者とは名乗れない。


「本職ですから。こういう感じで敵の射程距離と効果範囲を把握して、それに合わせて能力を使い分けるのが私の鉄板ムーヴですかね。」


隙を見せたので私の戦い方(自分語り)を雪さんに伝える。いつか一緒に戦うかもしれないからね。私の特性みたいなものを知っておいて欲しい。自己顕示欲の塊って所を。


「美世ちゃん特定課に欲しいわ……。」


心の底から出た言葉だったよ。


「それで他にはあるか?」


天狼さんは能力談義にしか興味は無いらしい。彼女らしいっちゃ彼女らしい反応である。


「えっと……近距離戦ではかなり有効ですね。敵の打撃とか芯を捉えないとダメージ入らないでしょうし、銃撃とかも自分の皮膚とか衣服の摩擦を消せればワンチャン……?」


「まだそこまで出来ていないんだけどね。銃撃は皮膚に掠るぐらいなら完全に受け流せるんだけど、胸とかは摩擦で逃げてくれないから……」


雪さんのメリハリのあるボディでは確かに滑った所で谷間の所に行くか北半球、南半球に行ってしまう。因みに地理の話ではない。人体の話です。


「でもナイフとか雪さんの身体通らないですよね?刃が滑ってしまいますから。」


「うん。ナイフみたいな刃物とかは良いんだけど鉄パイプみたいな物が一番嫌かな。」


面積で当ててくる武器は苦手か。でも足の摩擦を無くしてマトモに受けなければダメージは減らせるし致命的な弱点では無い。


「分かりました。ちょっと組み手してみましょう。私相手ならいくらでも能力使ってください。」


私達は再び間合いを取ってから組み手を再開する。今回も私は能力を使わないけど雪さんは能力アリでの組み手。正直どうなるかは分からない。でも確かにワクワクしている自分が居る。それは雪さんも同じでカードショップに連れて行く時の誠のような顔をしていた。


「行くよ美世ちゃん。」


今度は雪さんから攻めてきた。床の上を滑って来るかなと思ったけど普通に詰めてきたね。


雪さんの足運びはとても綺麗で無駄がない。だからこそ次にどう動くか分かりやすい。……ここで逆に詰めたら利き足が出せないよね!


(先ずは打撃で攻めるか!)


雪さんの足運びを邪魔するように左足を踏み込んだタイミングで左腕から軽いジャブを放つ。私のジャブを雪さんの右腕が受けた時に雪さんがツィーッと後ろに滑る。


足の裏の摩擦を弱めてマトモに受けないで私のジャブを殺した。ここまでは予想通りの展開。また仕切り直し。


「ちょっと腕が痺れたよ美世ちゃん。一発が鋭いね。」


分かっているのならただ殴るのではなく衝撃を流すように殴る。雪さんにはそこら辺の事も考慮して能力を使って欲しい。能力者同士のマジの殺し合いにはそこの対応力が大切になる。


「ただのジャブです。どんどん技増やしていきますからね。」


いつでも足技を出せるようにつま先に力を入れて踵をほんの気持ち程度浮かせる。雪さんには分からないぐらいの前傾姿勢を取る事で攻めの選択肢を増やす。


今度は私から攻める。私は雪さんや理華ほど足運びは上手くない。寧ろ雑で汚い。でもだからこそ読みづらく相手は迷う。私がどこまで動き、いつ止まり、ここからどう繋いで行くのかを定めさせない。敵に選択肢を与えず、私が相手に与えるのは迷いのみ。


私は左手を手刀の形にして雪さんの右肩目掛けて突く。肩の関節なら一点を狙えばそれでいい。滑っても関節に衝撃が走ればそれだけで大ダメージ。暫くは動かせなくなる。


(美世ちゃんえっぐ……!)


美世の手刀の構えを見た時に淡雪は察した。美世は本気で倒しに来ている事を。それは驕りもなく自分を強敵として見ている証拠に他ならない。その事を彼女は嬉しく感じていた。


なので淡雪も本気で能力を行使する事にした。彼女の能力は摩擦を減らす事に注目されやすいが、本当は別の部分が彼女の能力の本質に近く強力である。


美世の左腕を横から淡雪の左手が添えられる。そして左手を押し出すようにしその反動で身体を半身にし攻撃を避ける。


そこで淡雪は能力を行使、するとその事に美世はいち早く察知し慌てて右手を引こうとした。


「引っ付いて……!?」


雪さんは私の腕を掴んでいない。ただ添えるように手を当てているのに彼女の手のひらが私の道着に引っ付いた。摩擦を高めるとこういう事もできるのか。


そして私は慌てて左腕を引いてしまった。そうすれば必然的に雪さんも引っ張られる。雪さんは私の腕力を利用して自分の身体にかかる遠心力に任せて私の背中に回った。私からしたら反時計回りに雪さんが回ってきた感じだ。


(マズい!背中を取られる!)


私は左腕に引っ付いている雪さんの腕を引き剥がそうと掴む。だが雪さんの道着も皮膚もツルッと滑って掴み損ねて完全に裏に回られてしまった。


(貰った!)


美世ちゃんの背後を取れた!後は絞め技で落としてみせる!


私は美世ちゃんの細い首に腕を回して全力で締め上げる。異形能力者といっても脳への酸素供給が途切れたら意識が飛ぶ。ほんの数秒でもいきなり脳への酸素供給が滞るだけでも効果はある。


「やっ……ば……。」


鰻のように滑る雪さんの腕を掴むのは非常に困難な事だった。何度もトライしても雪さんの腕は掴めない。焦れば焦るほどそれは顕著に表れた。


でも雪さんの腕と私の首と接触している面は寧ろ摩擦が強く引っ付いてしまっている。……これで自信が無い?立派な殺し屋だ。実際かなりヤバい所まで来ている。


視界はどんどん(ふち)の周りからブラックアウトしているようなホワイトアウトしているような……そんなモヤがかかって視界が狭くなっていく。


「美世ちゃん、降参して。このままだと落ちるよ。」 


雪さんの淡々と事実を述べるような声が耳元から囁かれる。彼女は本気だ。私をこのまま落とすつもりでいる。


(もう……時間が、やるしか……ない、か。)


私は雪さんの腕を掴むのを止めて足をダランと脱力させてからそのまま前へと倒れ込むのだった。

色んな候補の中でこの能力を採用したのは面白そうだからです。特にストーリーに関係無く面白そうなのが摩擦でした。


…私は摩擦面白いと思います。

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