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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
4.血の繋がった家族
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鍛錬を積む者

久々のバトル回っぽいものです。

蘇芳との一件から一週間後の朝、京都支部に設置された道場に道着を着た3人の女性が集まっていた。


「良く来てくれた二人共。」


「きょ、今日はよろしくお願いします!」


「しゃーす。」


事の経緯は一昨日の夕方に天狼さんから私と雪さんにラインで連絡が来た事から始まる。


[稽古をするから土曜日の8:00に京都支部の道場に集合。遅刻したら………]


蘇芳との一件以来、あまり出掛ける気も起きなかったけど、こんな連絡が来たら行くしかない。私は雪さんと第一部ビルで待ち合わせして京都へ転移門を使って向かった。


そして出待ちしていた天狼さんに捕まり道着に着替えさせられて今に至る。はい説明終わり。


「緊張する〜!あの天狼さんに稽古つけてもらえるなんて……!」


雪さんは私とは違ってかなりやる気のようだ。私もその姿を見てちょっとやる気が上がったような気がする。便乗するのって時には大切だよね。


「美世。」


天狼さんが私を呼ぶ。……嫌な気がするな。


「はい。」


「身体を動かした方が気分転換になる。今日一日集中して行なうように。」


見抜かれていたか……まあそうだよね。天狼さんは良く見ているし頭もすごく回る。気分転換になるって言ってくれたから今日は稽古っていうより運動って感じで行こう。


「分かりました。ありがとうございます。」


それからは3人で軽く準備運動をしてから稽古に入る。流道のような型とかはせず実戦形式での指導がメインだ。


「淡雪の身体能力は大体分かった。良く鍛えられていてとても良い。」


天狼さんは準備運動の際に、雪さんの動きを見て大体の身体能力を測ったらしい。この手の観察眼は私よりも優れている。能力の観察眼なら自信あるんだけど、やっぱり経験値の差かな。


「え?あ、ありがとうございます!」


雪さん楽しそうだな〜。今日の稽古が本当に楽しみだったんだね。良かった良かった。身の回りに楽しそうな人が居ると私も嬉しくなる。


「よーし今日は実戦形式での稽古を行なう。基礎は二人共出来ているからな。しかし特に淡雪は能力者との実戦経験が不足しているので、今回の稽古で色んな能力との対応を経験してもらう。」


「はい!よろしくお願いします!」


色んな能力というと私が雪さんの相手をして色んな能力を雪さんに行使する実戦形式って事かな。今日の私の役割は理解出来た。そういう事なら私以上の能力者は居ないだろう。


「よろしくね雪さん。」


雪さんと対面するように向き合う。雪さんと一緒に稽古をするのも初めてだからちょっと楽しみ。雪さんってどう動くのかな?雪さんはスピードタイプっぽいし私と同じタイプだから速度で勝負する感じかな。


「こっちこそよろしく。どんどんやっちゃってよ!今日はそのつもりで来たからね。」


早くも構えを取って私を挑発するように手をクイクイと動かす雪さん。私からすると可愛らしいその姿で緊張が解かれて逆効果ですよ。本当に雪さんってかわいいお姉さんだ。


「最初は能力無しで組んでみろ。互いの動きを良く見て立ち回るんだ。」


純粋な身体能力で組み手をすれば良いんだね。だったら異形能力者である私はどう立ち回れば良いんだろう……。


「美世はベルガー粒子の操作は一切禁止。急所への攻撃もだ。だが手加減しろとは言わない。調()()()()。」


今の発言で天狼さんの考えは理解出来たし私の中ですごくストンと落ちる解だった。……調整とは上手く言ったものだよね。出力を調整すれば良いって考えれば立ち回りにそこまでの影響は無いし実戦的に動ける。


「りょーかい。じゃあ行きますよ雪さん。」


「かかって来なさい美世ちゃん。年上の威厳にかけて勝たせてもらうわ。」


……ヤバいすっごいワクワクしてる自分が居る。天狼さんの言った通り集中して身体を動かすのは良い気分転換になるね。だってまだやり合ってもないのに憂鬱な気持ちが消し飛んでいったもん!


「フッ。」


私は道場の床を踏み抜いた。道場の床は木の板が敷き詰められたもので、能力者が本気で踏み出したら間違いなく床に穴が開く。なのでこの道場の床は特別な素材と造りがされている。


木の板は合板ではなくいわゆる無垢材という一本の木から切り出された材木が使われている。無垢材は断熱性が優れ湿気を吸ったり水分を放出したりと湿度を一定に保とうとする働きがある。湿度が高い京都ではこの無垢材が大活躍するらしい。


しかし木材だけでは衝撃吸収には心許ない。なので木材の下はコンクリートや諸々が敷かれている。衝撃吸収材とか除湿シートとかかな?


まあ床の事はもう良い。こんなに詳しいのは天狼さんに聞かされたからだ。数ヶ月前に私と天狼さんは道場を半壊させた。その反省を踏まえて今回の道場は耐熱性と耐衝撃性が高く設計されている。そしてまた道場を壊した際は私と天狼さんは始末書を書かないといけないという決まりが設けられた。


……いや、本当にすいませんでした。だからこの道場を建て直すのに掛かった費用の話はしないでください。


閑話休題、話を戻そう。こんな前置きを入れたのはそんな中で踏み出したのだから私はかなり手加減……いや、足加減をしたってことだ。


つまりですよ?雪さんに初手の攻撃を難なくいなされたのは私の踏み込みが甘かった訳で本来の実力を出せていなかったからって事。言い訳終了!


「どうしたの美世ちゃん?手加減しなくても良いんだよ?」


……思っていたより雪さん動けるね。私は踏み出した時の初速のまま雪さんへ詰め寄って軽く拳を放ったけど、雪さんは私が踏み出した時にはもう足運びが終わっていた。彼女は闘牛士のように身体を捻り横に逸れる事で簡単そうに私の攻撃を避けたのだ。


それから私は勢いのまま雪さんから離れて間合いはまた元の距離感になり振り出しに戻る形になった。


「……嬉しい誤算って言うと失礼な言い方になりますけど、私は嬉しいですよ。雪さんが強くて。」


私の中の雪さんのイメージは強くて可愛らしい女性。もし初手で彼女の実力が測れたら私の中の雪さんのイメージが崩壊してしまうところだった。だからこれは嬉しい誤算で合っている。私は彼女を過大評価していた訳じゃないって分かったから。


「美世ちゃんの前ではまだ頼れるお姉さんキャラしていたいからね。隠れてずっと鍛錬を続けていたの。」


努力出来る女性は強いって何かの本で読んだことがあるけど本当にその通りだ。今の雪さんは自信に溢れて最初の頃に会った時のような圧の強さを感じる。これは雪さん自身の圧が強くなったっていうのもあるけど、私が気圧されているのも原因の一つだと思う。気持ちから負けていては勝負にはならない。


「かなり本気で行きます。」


ここからは本気(マジ)で行く。私のそんな考えが伝わったのか私が構えると雪さんの表情が引き締まる。互いに強敵と認め合う訓練された能力者がぶつかり合う。


私は無言のまま距離を詰めてコンパクトに纏めた打撃を合間無く繰り出す。それに対して雪さんはまともに相手せず軽く手ではたき落とす様に弾いて私の攻撃をいなしてみせる。


しかしそれでは異形能力者の筋力から放たれる攻撃を完全には逸らすことは出来ない。たかが手で真横から叩かれたぐらいで私の攻撃は逸れるわけない。でも雪さんは私の攻撃をいなし続ける。そのカラクリは彼女の足運びと腕の動きにある。


雪さんは私の腕を弾くように手で叩いているけどそれは私の攻撃を逸らす為じゃない。その反動を利用して自分の立ち位置を細かく変える為だ。雪さんは私の腕に手を一瞬だけ置いて自分の身体を押し出すようにしている。


分かりやすく言い表すと腕立て伏せのような動きをイメージして欲しい。腕立て伏せは腕を伸ばすと上半身の位置が変わる。腕を伸ばせば床から離れるし腕を曲げれば床に近づく。


雪さんはこれを私の腕を床に見立てて行なっている。私の腕を一瞬だけ押して自分の胴体の位置を私から離し物理的に攻撃の間合いから外しているんだ。


これは雪さんの集中力と技術と単純な身体能力が優れているからこそ出来る芸当。私でもすぐに出来るかと言うと難しいだろう。それを本番一発目から失敗せずに成功し続けているのだから驚きだ。


(でもこの動きはあくまで守りの場面にしか効果は無い。)


雪さんは今の所一度も反撃に移っていない。ずっと私の攻撃を食らわないように立ち回っているだけで攻撃する様子は見られない。


それならちょっと試してみようかな……


「ちょっとペース早めますね。」


私は断りを入れてから攻撃のペースとバリエーションを増やす。拳を使った打撃から肘打ち、手刀を加えて足技を追加する。それをさっきの速度以上で放つとみるみる雪さんの動きが悪くなる。


「ハァハァハァ……」


ペースが上がったせいで雪さんの呼吸のペースも上がり酸欠に近い状態が続く。そうすると脳の機能が落ち雪さんの集中力と技術も落ちていく。


さっきまで全ての攻撃をいなしていたのに5〜6回に1回ぐらい雪さんの胴体に攻撃が掠る。そして攻撃が掠る度に雪さんの立ち位置も悪くなる。


私の攻撃に対して過剰に反応してしまうせいで余計な動作が増えてしまうからだ。もうこうなったら今のペースについて行けなくなる。雪さんが自滅するのはもはや時間の問題、ここから何かしらのアクションを取って状況を好転させないと雪さんの負けは確定する。


(怪我をしないように終わらせるか……)


私は打撃から掴み技に切り換えて雪さんの道着に手を伸ばした。


「そこまで!」


その時、天狼さんの声が道場の中で響き私と雪さんの初の組み手は終了を迎えた。

明日は誤字脱字を直しながら次回の話を執筆していきます。

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