交叉する強者
この6人口調がそれぞれ違うので書き分けやすいです。昔の自分ナイス。
蟹を食べる。食べ続ける。正直もの足りていなかったからまたこの蟹を食べられて嬉しい。でもね、みんなに凝視されながら食べるのは居心地がとても悪く喉に上手く通らないんだよ。
「…そんなに見ないでください。独り占めする気はありませんから。」
私が蟹を差し出すと誰も手に取らず遠巻きに私の食事風景を見ている。
「…そういう事ではない。今信じ難いものを見せられてリアクションが取れないんだ。…能力者なのに目の前に起きた事がマジックの類にしか思えない。」
「でもベルガー粒子を見れる天狼さんなら分かりますよね。これは能力によって引き起こされた事象だって事を。」
「まだ幻覚の類なら受け入れられる。しかしこれは…本当に凄い。神の領域だ。この世にあってはならない能力だろう。使い方を仕損じればこの世界が崩壊するほどの…」
凄いのは天狼さんだ。見ただけでこの能力の危険性を完璧に理解してくれた。この能力は人の願望や欲を満たし得る能力。つまり人に知られれば災いのもとになるし私がこの能力を悪用すれば誰も防げない。
こんな危険な能力を私に貸し与えている先生は大物すぎるよ。核爆弾の起爆スイッチを渡しているようなものだ。
「美世の戦いとか見たりして知ってはいたけど…こう説明されるとこの能力の異質さが更にわかってきたよ。私…ううん。この能力以外の能力者が持っている能力とは違いすぎる。私達が生きているこの世界の理にかなっていない。」
理華がかなり良い事を言ってくれた。私も同じ事を感じていた。この能力だけ他の能力と毛色が違うんだよ。明らかに他の能力のグループからかけ離れている。
「でも、これ以上詮索すると死神の正体に繋がるから、そこそこの所でこの考えは止めておいた方がいいんじゃない?」
「淡雪の言う通りだ。これ以上考えても分からないだろう。知っているのは死神だけだろうし死神が言わなければ推測の域を出ない。」
そこで話はまた私がどんな能力を使えるのかに戻る。
「じゃあ次は…」
「まだあるのか…」
朧は脳の許容量を超えた内容に頭から白い煙を立たせていた。
「…案外これが1番ビックリするかもしれません。【削除】」
美世が手のひらを上に向けてみんなの前に出した。みんなも何が起こるか期待と不安半分半分の気持ちで見守っていると、それは起きた。
「手が生えたよっ!?」
皆の期待と予想を裏切るような現象が美世によって引き起こされた。怪腕が美世の手のひらから生えて、その禍々しい腕のフォルムに皆の視線が釘付けになる。
…朧を除いてだが。
「また何か出たのか?見えないから分からん。」
「これが見えない方が信じられないよ!?こんなの見えないなんて事ある!?」
「いやマジで見えない。みんなの反応から察するにヤベーのがあるのは分かるけど…」
同期同士の朧と淡雪は今見ている光景の差に驚き、お互いの言い分を言い合う。しかし怪腕もベルガー粒子であり軌道でもある。無能力者には視認出来ない。
「これはどういう能力なんだ?単純にこの腕を使って殴るのか?」
「天狼さんの言う通りこれで殴ります。でも普通に殴ったりしません。軌道を不完全に再現して知覚出来ないスピードの拳を放てます。」
「不完全…ですか?」
ハーパーに私は分かりやすく怪腕を動かしてみる。
「普通腕はこういう風に動くよね。肘を曲げたり指や手首を曲げたりね。この動きをいくら早くしても目で追える人は追える。でもこの動きの軌道を断続的に削除して再現すると…」
私は怪腕の軌道を削除して手を広げた形、パーの形から手を閉じたグーの形に操作する。
「今の動き見えました?」
「…なるほどね。アニメーションのコマを少なくして始めから終わりまでのモーションを短縮させている感じかな。合ってる美世?」
理華が初見でこの能力のカラクリに辿り着いた。理華は時間操作型因果律系能力に適正がありそうだね。
「大正解だよ理華。イメージはそんな感じ。だからこの腕、“怪腕”って呼んでいるんですけど、この怪腕のスピードは光速に近いスピードを出せるんです。」
「しかし光速のスピードを出したら私達は無事に済まないはずだ。今の動きで空気の揺らぎは感じられない。」
天狼さんもとても良いところに気付いてくれた。天狼さんもこの能力に適正がありそうだ。
「この怪腕はベルガー粒子で創られているので物理的に接触は出来ません。触ってみてください。」
みんなが恐る恐る怪腕に触れようと試みるが、誰も触れられずに指先がすり抜けていく。
「…ならこれはホログラムのようなもので、干渉出来ないという事から軌道ではなく残像に近いものではないか?」
「それがまた違うんですよ。因果律系能力の本質みたいな能力ですから。」
私は怪腕でテーブルの上に置かれたカニフォークを摘んで持ち上げる。
「私ですら触れないのに怪腕は物理的に干渉出来るんです。」
私が怪腕に触れようとしても手がすり抜けて触れることは出来ない。でもそんな怪腕がカニフォークを持っているのだから頭の中がバグりそうになるよね。
「そういう能力…と言えば終わってしまうが、光速の速さでこの腕を振るわれたら生物は耐えられないだろうな。」
「そうでしょうね。近距離戦においてこれ程の能力は無いと思っています。サイコキネシスのバリアだって砕けますしこの腕を使って自分の身体を思いっきり持ち上げれば数十メートルぐらい簡単に飛びますよ。」
応用も効くし非常に使い勝手が良い。他の能力も併用出来るし手足がフリーなのがポイント高い。
「…もしかしてだが私にこれ使った事あるか?」
天狼さんに怪腕を使って脇腹を吹き飛ばそうとして失敗した事があったような無かったような…あの時は結構記憶怪しいんだよね。
「無いです。」
私は自信を持って言い切った。
「絶対に使ったでしょ美世ちゃん。」
「絶対に使ったね。間違いない。」
私に対しての信用の無さに涙する。嘘でしょ?好感度がバクレベルで高い雪さんと理華の2人にも信じてもらえないなんて悲しいよ私は。
「…その件は水に流そう。私が聞きたいのは他にも能力はあるのかどうかだ。」
「ありますけど…もうきりが無いのでここで打ち止めです。それはまたの機会にでもお見せしますよ。」
「そうか、楽しみにしている。」
「あ、私から良い?聞きたいことがね。ちょっとあるんだけど…」
おずおずと挙手して聞きたいことがあると言う雪さん。
「答えられるものなら答えますよ。」
「えっとね。頭の整理がついていないからもしかしたらまた後でラインとか聞くかもしれないんだけどね。パス?を通じて能力の貸し借りが出来るってさっき言ったじゃない?それなら私も美世ちゃんの能力使えたりするのかな〜って。」
私の能力と言ったら探知能力の事だと思うけど…
「出来る…けど出来ないと言ったら良いですかね。私の能力は脳への負担が大きいのとベルガー粒子を大量に必要なので難しいかもしれません。脳が潰れる可能性が…」
私の言わんとする事が分かったらしく、そっか…っと言って引き下がる雪さんがとても、とても…見ていられなかった。雪さんは能力者としての強さを追い求めて私に聞いてきたんだと思う。後輩で年下の私に聞くのはかなり勇気がいる行動だったはずだ。雪さんはそういう所がある。
だから私は別の能力について雪さんに提案する。
「だから異形能力の方は大丈夫だと思いますよ。」
「…異形能力って?」
私=探知能力だから異形能力というのは予想外の提案だったのだろう。私の言った言葉を理解しきれていない。
「それは良い。それなら私が教えられる。今度2人で道場に来ると良い。その時私にも見せてくれ。」
「良いですねそれ!私も教えてもらいたい所がいっぱいあるんですよ。」
「え?え?どういう事…?」
雪さんや他の人達を置いて私と天狼さんは休みが合う日に道場で稽古をつけてもらう話を計画した。
そしてその頃にはみんなが話が出来るような状態では無いことに気が付いた。みんな一様に疲れ果てて椅子にもたれ掛かっており、一度共有した情報をお互いに整理し合ってまた日を改めて話し合おうと話し、今日はもうこのあたりで解散する事になった。
「オリオン、この後仕事か?」
「はい。」
「なら私も組織に用があるから一緒にどうだ?」
「良いですよ。」
オリオンさんと天狼さんはまだ元気そう。それにしてもこの後に組織の元へ向かうとは流石仕事中毒のオリオンさんぱねぇっす。
「私は後片付け手伝うから残るよ。」
「ありがとう美世。」
隣だしいつでもあの家に帰られる距離だからもうちょっと理華と過ごそうっと。
「私は帰ります。…二日酔いが酷そうなので。」
ハーパーは明日の事を思いグロッキー状態だったけど、雪さんが一緒にタクシーに乗って帰宅していった。後で聞いた話だけど同じ寮?に住んでいるんだとか。
「…夜道に気を付けて帰らないとだな。」
「この辺は私の射程距離なんで何かあれば一瞬で向かいます。大通りを歩いて帰ってくださいね。」
大の大人で男性の朧さんが普通の通行人の人にビクビクしながら一人で帰宅していき私はその道中を見守ってあげた。約束だからね。
「最初に言ったけどさ、もう一度言わせて。今日は本当におめでとう。」
「今日の本題は違ったけどね。でもありがとう。そしてこれからもよろしく。」
「こっちこそよろしくね相棒。」
私達はテーブルの上に散乱した割り箸や蟹の殻をゴミ袋に捨てながら今日の出来事を振り返ったり、明日どうしようか、今度一緒に東京を探索して遊ぼうとか、そんな事を話し合い…初の集会を無事に終えることが出来た。
そして場面は移り変わり、美世たちの居るマンションから第一ビルへと向かう大通りから少し離れた路地へと変わる。路地に入った天狼が後ろを歩くオリオンに声を掛けてこう告げた。
「オリオン、ここは美世の射程圏外?」
そんな事は美世本人しか知らない事だろう。しかし彼女は確信めいた問いの仕方をオリオンに対し投げ掛けた。まるでオリオンなら知っているだろうという確信でだ。
「さあ、ワタシには分かりかねますが…もう少し離れてあの高さぐらいのビルの屋上なら射程圏外かもしれませんね。」
「ならあそこで話そう。」
天狼は組織に行く予定など無かった。ただオリオンを誘う口実で言っただけのデマカセだ。
「分かりました。」
オリオンはそう言い天狼の後について行くのだった。
次回は天狼とオリオン回です。
 




