思わぬサプライズ
3章完!
皆様本当にお疲れさまでした。伏線張るだけ張って回収せずに終わりましたが4章ではちゃんと回収しますので?
任務を完了して次の日の朝、私はハーパーに声を掛けてから用意してもらった車に無理やり彼女を乗せて出発した。
「さて行きますか。出してください。」
「え?私達だけでどこに向かうのですか?」
ハーパーは状況を飲み込めていないようでオロオロと首を振っている。本当に年上かと思わせるその動作に私はキュンと来てしまう。
「ナイショ。」
それから空港に行き飛行機に乗った。そこそこ長いフライトになるから私は座席を後ろに倒して横になる。この飛行機は組織が持っている個人の飛行機なので私の後ろには誰も居ない。
「あの!?なんで飛行機に乗っているんですか!?日本に帰るのではっ!?」
私はヘッドホンを付けて熟睡する体勢を取って夢の中へと旅立った。
「アイーーーっ!?」
飛行機の中で昼食など取ったり、半ば諦めたような…もうどうとでもなれみたいなテンションのハーパーとゲームなどをして時間を潰していたら目的地の空港にまで到着した。
「ここって…」
「車用意しているから行こう。」
私達はプリンストン空港を抜けて車に乗り込む。ここまで来るとハーパーも目的地が予想出来ているのか、大人しく座って景色を眺めている。
「見覚えある?」
「…いえ、ここは実家から離れていますから…」
受け答えするハーパーは景色に夢中になり、心ここにあらずみたいだったので私は会話を終了させた。
「そっか。」
それからまた車に揺られる時間を過ごし、日が頂点から沈みかけの位置にポジショニングを変えた時に私達はハーパーのご実家の近くで車を降りる。
「アイ。…良いんですか?」
まだ現実感の無さそうなハーパーは私に変な事を聞いてきた。約束を守りに来ただけだけど?
「良いも悪いもハーパーをここに連れて行くみたいな話したじゃん。だから良いんだよ。」
ハーパーは街路樹の影に隠れながら実家の様子を伺う。見た目は不審者そのものだったけど家の中に入ったりはしない。
「多分ハーパーのお母さん居るよ。」
私は探知能力で家に彼女の母親が在宅している事を教える。
「でも、私は死んだ事になってますし、私を監視する意味もあって同行してくれたんですよね?」
流石にハーパーもそこら辺の事を考えられるようになっていた。その通り、今回の件は私のわがままを組織に叶えてもらっただけの事。条件付きでの帰郷なのだ。
「運転手も組織の人だからね。でも会いたいでしょう?」
会えるのなら会ったほうが良いに決まっている。私みたいにもう2度と会えない訳では無いのだから。
「でも、運転手さんも監視しているのに…」
遠慮がちのモジモジを見せられて私はキレた。
「でもでもうるさい。さっさと行ってこんかいっ!」
背中をバシッと叩いてハーパーを促し私は運転手に睨みを利かせる。
「お前はこれから30分の間は何も見てない…オッケー?」
運転手の男性から引き攣ったオーケーサインを頂いたので何も問題は無い。
「会ってきなよ。お母さんの事、心配だったんでしょ?30分しか無いけど後悔の無いようにね。」
ハーパーは感極まった様子で私に抱きついて来た。…めっちゃいい匂いがする。
「アイっ!」
私もハーパーに抱きついて抱擁を交わした。この笑顔を見れたのが今回の任務で1番良かった点だよね。
ハーパーはその後に家の玄関まで向かいドアをノックをして少し待っていたら、玄関のドアが開いた時にハーパーと良く似た優しそうな女性は感極まったように抱擁を交わした。そして家の中へと向かって…これ以上は無粋かな。
私は車に背を預けて空を眺め続けた。…あーー私もお母さんにもう一度で良いから会いたいな。
お母さんとの思い出を思い出しながら世界平和とかなんか適当な事を考えていたら30分が経っていて、ハーパー親子の時間が終わってしまい、ハーパーとその後にまた飛行機に乗って理華とオリオンさん達と合流して一緒の飛行機で日本へと旅立った。
生きていればまた会える。そんなことをハーパーから聞いて私はアメリカでのやり残しを終えることが出来た。
だが、日本周辺に台風が発生した為に私達は一旦ハワイへと降り立つ。台風が消えるまで日本への帰国は見送られて、私達はハワイで数日間滞在する事になった。
「予定的にも余裕はあるしハワイを楽しんじゃいますか!アロハ~っ!!」
私のテンションは爆上がりだった。アメリカに行っても観光らしい観光はしていない。ならハワイで楽しんだってバチは当たらない筈だよね!ヒャッフーっ!!
組織が手配してくれたホテルに向かいオリオンさんは受け付けを済ましてくると言って私達と一旦離れて私と理華とハーパーの3人はホテルの屋内プールへと足を運んだ。
「最終日でみんなと思い出が作れそう。みんなと。」
理華はハーパーの里帰りに置いて行かれた事を根に持っていた。でも仕方ない。理華は爆睡していて全く起きる気配は無かったからだ。疲れが溜まっていたんだと思う。緊張感が解けてどっと疲れが表面化したんじゃないかな。
「皆さんを母に紹介したかったです。」
ハーパーのフォローが入ったことで私が理華に殴られるという理不尽は未然に防がられた。ナイスフォローだよハーパー。
「せっかくリゾート地に来たんだし楽しもうよ。経費で落ちるってさ。」
今の私達は超VIP待遇なのだ。それほどの功績を上げたからね。
「…確かにそうね。せっかくだし羽を伸ばそうっと。」
うーんっと背伸びをしている。あれだけ寝てたのにまだ疲れが溜まっていそうだ。
「私もそうします。」
ハーパーはもうリフレッシュ出来てそうだからぷらぷらと遊びたいって感じかな?じゃあプールに入る為の水着をどこで入手したら…
その時、有り得ない反応を探知した。このホテルのプールサイドに居たらおかしい反応だ。キャラとして似合わないというか何で居るんだよっ!
でも私の【探求】が間違える事なんて有り得ない。だから本当にここに来ているんだよね…。
「…水着さ、受け付けとかで借りれないか聞いてきてくれる?私は念の為に見て回ってくるからさ。もう待ち伏せとか勘弁じゃん?」
「それは確かにそう。じゃあハーパーと聞いてくるよ。」
理華はハーパーを連れて受け付けのロビーへと向かって行く。
「分かったらアイのスマホに連絡しますからっ!」
「あいよ〜っ。」
アイとあいよで掛けたけどスルーされてしまった。…別に良いけどね。
私はパラソルが等間隔に設置されたプールサイドを歩いて行き目的の人物の元へ辿り着く。
その人物はパラソルの下でリクライニングチェアに全身を預けて寛いでいた。わざわざモノキニビキニの水着に着替えてサングラスをしている。そんな女子をリアルで見たのは初めてだよ。私より年下でしょ?溶け込み過ぎだよ全く…。すぐに分からなかったもん。
「なんでここに居るの蘇芳。」
ハワイに蘇芳が居た。これだけでビックリなのにもう一人も気になる。蘇芳と同じくリクライニングチェアに背を預けて寛いでいる女性…新垣さんだ。
彼女は蘇芳の住んでいる洋館の使用人をしている綺麗な女性だ。彼女も蘇芳と似たモノキニビキニを着ているけどこっちはシンプルなデザインで真っ赤な水着。
蘇芳の方は蘇芳色の水着でフリルやリボンがふんだんに使われているから何かの撮影かと勘ぐってしまう程目立っている。みんなチラッと見るし私もガン見している。
しかも彼女の髪型がウェーブが決まっているから金持ちの娘に見える。いや多分金持ちだと思うけどね。
「奇遇ね美世。隣座る?」
蘇芳はサングラスをしたまま自分の隣に手をポンポンと叩いて私を誘う。もし私が男子高校生だったら私はすぐさま座っていたけど、私は女子高生だ。そんな誘いには乗らない。
「ならお言葉に甘えて座らせてもらうね。」
私は蘇芳の隣に座って一緒に寝転がった。海外サイズだから私達みたいな女の子2人が横になっても問題ない。
「オリオンは?一緒に来たんでしょ?」
ん?何か違和感のある言い方だ。そんな事は蘇芳自身が知っているはずなのに…私をおちょくっているな?
「で、なんで居るの?」
私は無視して本題に入る。まあ、多分そんな事を私が言わなくても知っているから聞かなくてもいいんだけどさ。
「美世に気付かれずにここまで来れた理由を知りたいんでしょう?教えてあげる。その為にわざわざ来たんだから。」
蘇芳の言っている意味が分からない。ここまで来れた理由を知らせる為に来た…?日本語おかしくない?
「私はね、美世の弱点を教える為に渾身のギャグを決めたの。」
確かに蘇芳がプールサイドで寛いでいたらギャグだろう。自覚あったのか。
「弱点って今みたいな事だよね?目を離したつもりは無かったのに…。」
蘇芳の優先順位は1番にしていたのに彼女の所在を見失っていた…いや、見てすらなかった。
「美世の能力はどこでも見れるけど見ていない時間が存在している。特に今回みたいな任務中だと私は自由に動けるの。…もし私が美世を殺す気ならもう殺せたよ?」
まさか私の能力にこんな欠点があったとは…、見ていない時間か。確かに能力者同士の戦いの際は蘇芳の位置なんて見ていない。それどころか最終日もその前の日も彼女の事を見ていなかった。目の前の事でいっぱいいっぱいだったし…
「それは心配していないからどうでも良いよ。蘇芳は私が死ぬと困るもんね?」
すぐ隣に居る彼女の横顔を覗きながら反応を伺う。
「だから教えにハワイまで来たんじゃない。感謝してよね。」
蘇芳は得意気に私の顔を見てそう告げた。きょ、距離が近い。ガチ恋距離ってこういう事を言うのか。
「えっと…ありがとう?」
取り敢えず礼は言ったけど、この後の展開ってどうなるの?蘇芳も新垣さんも何も喋らずに寛いでいるんだけど…。
「私行くね?理華達と合流しないと…」
「美世のお母様を殺した能力者は京都に居るよ。」
そこで見計らったように蘇芳は爆弾を投下。その爆弾は私の地雷原に落ちて爆発してしまった。
「…それ本当?」
嘘だったら多分今すぐに彼女を殺してしまう。それほどまでに私は昂っている。
「2学期中に会えるよ。それは確定事項。美世の願いは叶えられる。」
「え、蘇芳…?」
蘇芳の言った内容より蘇芳の反応の方が私にとって衝撃的だった。
あのラスボスとまで言われた彼女が年相応の女の子みたいに表情を曇らせた。何故そんな顔をするか私には分からなかったけど、彼女にとってこの内容を教えるのはかなり精神的に負担があったのだろう。
「ごめんなさい。…本当は伝えなければ良かったのかもしれない。でももう伝えてしまった…もう後戻りは出来ない。」
こんな苦しそうな彼女は見たことがない。いや、想像もしていなかった。彼女にそんな感情があったなんて知らなかった。
「私は後悔しないよ。例えどんな奴だろうと私は殺す。だから教えてくれてありがとう。」
蘇芳の頭を撫でて気にしないでと伝える。彼女の意外な一面を見れただけでも今日この場に来て良かったよ…うん。
「…本当にごめんなさい。本当の目的はそれを伝える為だったの。」
蘇芳は立ち上がるとさよならの挨拶もなく新垣さんを連れてその場から立ち去っていった。…本当に何だったのだろう。まるで夢でも見せられたみたい。
「京都か…。」
私は理華と天狼さんの顔を浮かべながらチェアに身体を預けて思考の海にへと旅立った。
次の話は小話みたいなものを数話投稿して4章に入ります。なので3.5章みたいなものでしょうか…こちらもお楽しみに。




