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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
3.サイコパスの青春
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最大の難関

もっとスマートにしたかったのですけど、つい色々と書きたくなっちゃいました。てへっ。

上手く息が出来ない。人の内側からしか発せられない独特の臭いが沸き立ち鼻腔を刺激した。もう慣れたと思っていたのにハーパーからその臭いがした事にショックを受けるが、そんな事を考える暇もない。


……どんどん吐き気が込み上げてくる。上手く呼吸出来ないのも吐き気を催すのもこの臭いが原因では無い。ストレスから生じる当たり前の反応が原因だ。


先生から現れてからどれくらいの時間が経っただろうか。1秒か?それとも数分か。もう時間の感覚すらあやふやになり足元に溜まる血の水たまりに感覚と意識が持っていかれる。


あの身体にこんなに血があるとは思えない程の血が流れて私も理華も血だらけになっていた。


……怖い。能力で先生の顔色も見れない……いや、見たくない。


だって先生は私が何をしようとしているか分かっている。それを私の口から言わせようとしている。


天秤だ。ハーパーの命と先生からの信頼を、今天秤にのせている。


「ひ、ひ、避難、した者達の処理は……終わった、の……ですか……」


私は気が動転してパスを通じた会話では無く直接口に出して会話をしてしまうが、私はそれに対して何も気付かないまま話し続ける。


そして突然訳の分からない事を口にした美世に理華は怪訝な表情を浮かべて彼女に問い詰める。


「美世!何を言っているのっ!早くっ、早くしないとっ!」


分かっている……分かっている!でも、ここに死神が居るんだよっ!


『ーーーそれならもう終わった 今回は簡単な任務だったな』


「は、はは……」


口から失笑が漏れる。


「4人……能力者がそっちにテレポートし、向かったのですが……」


『敵の避難用通路は全て結界を張っていたからな 勝手に敵からその結界に入ってきたから楽だったぞ』


魔女の集会に使ったあの結界か……それなら簡単に事は済んだだろう。


「美世……?どうしたの?」


流石にこれはおかしいと美世の様子を見て理華は気付く。


まさか天狼さんの言っていた美世の中に潜んでいる何かと話している?でも、そんな感じはしない。何かに怯えたように身体を縮こまらせている。こんな彼女は見たことがない。


そこで彼女の言っていた言葉を思い出す。彼女の畏まった話し方。避難した者の処理、能力者が4人そっちへと向かった。


このキーワードから導き出される一つの可能性が生まれた。彼女は視線を下にしたまま上を向くのを拒否しているかのような態度、まさか……居るとでもいうのか。


ーーーかの御仁が。


私は美世から視線を離し上を向こうとしたら美世が私の手をギュッと握り締めてきた。あまりの動作の速さにこれは本当に死神が居るんだと分かってしまった。でなければここまで過剰に私の手を握ったりはしない。彼女はボディタッチなどを嫌がる節があるからだ。


『それでミヨの所はどうなったか気になってな そしたらパスからミヨの感情が溢れて来たものだから来てしまった』


美世は自責の念に襲われる。


これも……私のミスだ。パスの事もちゃんと気にするべきだった。そうすれば先生にも見つからずに【再生(リヴァイブ)】を行使出来てハーパーを生き返らせたのに……!


ここに理華が居なくて私と先生だけなら説得出来たかもしれない。だけど第三者が居る所で先生の能力は使えない。使えば私が先生の能力をバラした事になるのだから。


でも、でも……天秤は、傾きつつある。だがハーパーの命と先生からの信頼の天秤ではない。別の天秤だ。


「……先生。」


『どうした?』


私はハーパーのまだ柔らかい手を左手で握り締め、右手で理華の手を握り締める。


「私の命はどうなっても構いません……。ハーパーの命を救いたいです。お願いします……!」


天秤は傾いた。ハーパーの命が乗せられた皿と私の命が乗せられた皿、私はハーパーの命を選択した。


「彼女は必ずや先生のお役に立ちます。理華もです。彼女達2人なら私よりずっと、ずっと貴重な人材です。」


天秤には私とハーパー以外にも乗せられている。それは理華の命だ。私対ハーパーと理華。どっちに傾くなんて最初から分かっている。


「な、なにふざけた事言ってんの……ねえ、そんな話なの?」


理華にギュッと握り返されて涙が溢れる。私にはこうする事でしかハーパーを救えないんだ。彼女が死んだのは私のせいだから。


「先生お願いします。ハーパーと理華の命は助けてください。約束を破ったのは私です。死ぬのなら私だけで良い。」


涙が血のたまりに落ちて行き、己の無力を呪った。


もう……大切な人を失う気持ちなんてもう味わいたくないんです。もう終わりにしたいんです……。先生、どうか2人だけは……!


「……死神、私……私の命でどうか美世とハーパーの2人を助けてください!」


理華が血迷った事を口にしたので私は激怒して理華を黙らせようと彼女の言葉を否定した。


「なに言ってんのッ!理華は何も悪くないんだから黙っててよ!これは私と先生との約束なのッ!私達の問題なんだから……部外者は黙っててよッ!!!」


とても酷い言葉を敢えて選んで彼女を突き放し拒絶した。彼女達が生きててくれるのなら嫌われる事ぐらいなんてコトはない。


「お前こそ黙ってろアホッ!!お前と私!どっちが必要な人材かなんて分かってるでしょうがッ!!!母親の仇を取るんでしょっ!?ここで死んでちゃあ……叶わないじゃんバカァ……」


そう言って理華は手をキツく、キツく……ギュッと握り返してきて泣き出す。


『ーーーおい……2人とも何故泣き出すのだ?勝手に話を進めないでくれ 私はただ事情を聞いただけだぞ?』


先生はそう言ってしゃがみ込み私と理華の顔を両方とも覗き込みながら困った表情を浮かべる。頭を左右に振ってどっちを宥めたら良いのか分からないようだった。


『別に生き返らせたかったら生き返らせれば良い ミヨがそれは良い選択 良い結果に導くと思ったならやれば良い ワタシはその意思を尊重する』


私は顔を上げて真っ直ぐ先生の目を見る。先生も真っ直ぐ私を見て、とても心配そうに眉尻を下げながら口を少し開けては閉じて開けては閉じてを繰り返す。何かを言おうとしては躊躇っている先生を見て、私は全身の強張りが解けていった。


ああ……先生はやっぱり先生だった。私に対して甘くそれでいてとても優しい先生だ。


でも疑問は残る。私は約束を破り理華の前で能力を使うと言った。しかも理華もその能力について知っている風な反応だったから、私が理華に能力について話しているのは分かっているはず。


「で、でも……!私は先生との約束を破っ……」


『ああ もうそんな事は気にしなくていい 初めにミヨと会ったばかりの時はこの世界について何も知らなかった だから誰にも話さないように言ったのだよ 話すことでどんな影響があるのかも分からず 誰が味方で誰が敵を分かっていない状態で話して欲しくなかった』


先生は自分の正体を隠す事より、私がそれを話したデメリットを心配していた事を私はいま初めて知った。


「あ、ありがとうっ、ございます。先生が、しぇんじぇで良かった〜〜っ!」


いい年齢の女子高生がギャン泣きする。それはそれは酷い有様だった。


「……美世?話は……まとまったの?」


理華は挙動不審気味に周りをキョロキョロしながら私に聞いてきたけど、私は嗚咽をもらしていてとても話せる状況ではなかった。


『ーーーそうだな このまま話していても彼女は分からないだろう 彼女にもある程度知ってもらおうか』


先生はそう言って理華に対し意識を集中させる。左手を軽く理華の方に向けて念を送っているみたいだ。


『ミヨ 軽く脳のリソースを借りるぞ』


「え?あ、はい。」


先生の一言の後に、私はパスを通じて先生とは別の何かと繋がったような気がした。


「嘘……美世が2人居るんだけど……」


え?理華が先生の事を見ている?という事は先生とパスが繋がっているって事だよね。それで私のパスから情報を構築して先生は私の姿の軌道を理華に見せているんだ。


「えっとね。初めましてになるよね。こちらが私の先生。」


私は理華に先生を紹介する。私の自慢の先生だよ。


『初めましてになるかな 私は死神 いつもミヨが世話になっているようだな』


先生は笑顔を向けて挨拶すると理華の表情が一瞬固まり、それから感情が爆発したかのように叫び出した。


「えっ!?何これ……頭の中に声が聞こえるし、美世のドッペルゲンガーが死神って名乗るしなんなのもうっ!」


先生も私もそこら辺の説明は出来ない。だってどう説明したら良いのか分からない。そこは流させて欲しい。


『そこは深い事情がある ワタシの能力とミヨの特異性が合わさってこうなった ワタシがこうしたくてこうなった訳ではない……』


死神は心底困った表情をして、それを理華が一目見て全てを察した。彼女なら有り得ると。


「……えーっと、ご心中お察しします。」


たった数秒間の間に先生と理華が何かを分かり合っていた。……ちょっと嫉妬しちゃうなーそれ。


「先生は私の姿を借りてここに居るの。だから私も先生の姿は知らないし誰も知らない。」


蘇芳は知っているけど、アイツは勘定には入らない。


『ミヨの説明した通りだ ワタシはミヨの判断を信じる ミヨの好きにしなさい もう自分で考えられる筈だ』


なんだろう……この言い方に何かが引っかかる。


「……なんでそこまで私を信じているんですか?」


『おかしな事を言う もう結果は十分出している ……逆に聞くが何故ワタシをそこまで信じる?』


質問をし返された。理華も気になってそうにこちらを見てるし……ちょっと恥ずかしいな。


「だって先生は私を救ってくれたじゃないですか?そのおかげで私はこうして生きていますから。先生はちゃんと結果を出してくれたから信じているんですよ。」


その答えに先生は力無く目を伏せてしまった。


『ワタシは結果を出せなかった ワタシがちゃんとしていればミヨの母親が死なずに済んだのに ワタシは平穏な世界を創り出す為に存在しているのにだ ……ミヨの平穏な生活を奪ったのはワタシだ』


まさか、先生が私に対して責任を感じていたなんて……。


私も理華も驚いた表情を浮かべてお互いに目を合わせてしまう。……この場合なんて声を掛けたら良いの?


「えっと、そんな事は絶対に無いです。悪いのはお母さんを殺した奴で先生は悪くないです。だって先生が居なければ私みたいな人達がもっともっと居たはずですよ。」


被害者からしたら加害者が悪だ。お母さんを殺した奴を未だに見つけられない警察に対して少しは思う事はあるけど……、別に恨んだりしていない。それと同じような理由で先生を恨んだりなんかしない。そんな最低な気持ちを恩人にぶつけるほど私は落ちぶれていないんだから。

先生は多分この物語で1番良い人だと思います。ここから主人公を裏切ったりラスボスになったりはしないので安心してください。


逆に言うと他のキャラは裏切ったりするかもしれませんね。(ゲス顔)

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