ハーケン
区切りよく終わらせました。明日はゆっくりと執筆しようと思います。
彼等の行動は全てこっちの思惑通りに動いてくれていた。私達が立てた作戦は蜂の巣を駆除するやり方と似ている。巣の中に煙や殺虫剤を撒いて蜂を外に出す。そして出てきた蜂を逃さないように人が掃除機などで吸い込み全滅させる。
今回の場合私達が殺虫剤で先生が掃除機を持った業者さんって所だ。名付けて“蜂の巣ころり作戦”!
因みに命名は発案者の私がした。みんなからは物凄く不評だったけど私は気に入っている。
「貴様…!」
「怒んないでよ。狼を狩るには人員が居るんだよ。」
私は狼ではない。猟犬である。人の生活範囲に侵入してきた狼を狩る死神の犬だワン。
「ぐっ…、何をしている!早くハーケンを起動させろ!」
男の怒声に反応し他の能力者達が作業を再開させた。皆表情が固く真っ青な顔色をしている。
もしかしたらここに残っている能力者は無理やり従わせているのではなく、ちゃんとした関係性を育まれているのかもしれない。…ハーパーとは違ってね。
「チックタックチックタック…死神なら今ので何人かは殺しているね。チックタックチックタック…」
ハーパーの扱いを思い出し苛ついた私は指先で時計の振り子をイメージさせるような動きをし男を煽った。すると男のベルガー粒子に反応が起きる。会った時から彼のベルガー粒子は均一に統制されていて量を上手く測れなかったからやっと彼のベルガー粒子量が分かった。
私より少ないけど平均よりかなり高い。最高責任者って言っていたけど現場上がりのエリートなのかも。
「貴様は必ず私の手で殺してやる…!」
今にも噛み付いてきそうな勢いだ。少し煽りすぎたかもしれない。だけど私は煽るのを止めない。
「避難させた中にあなたの大切な人は居た?部下?それとも同僚?ねえ…生きていて欲しいって願う人はどんな人なの?時間はあるんだし教えてよ。」
相手が今一番言われたくない言葉をすぐに思いついてしまう私は本当に性格が悪いんだろうなっと、そんな自分を冷静に見つめている別の自分を認識した。
「貴様ッ!!」
男が腰についたベルトから何かを取り出した。槍…なのか?かなり小さい。ナイフぐらいのサイズ感だけど両端ともに尖っている。
あ、あれだ。料亭とかで出てくる高級そうな箸に似ている。利休箸だっけ?あれをそのまま金属にしたようなものを私に目掛けて投げ飛ばした。
投げ方は手首のスナップを効かせてコンパクトなフォーム。おそらく軽すぎて大振りでは投げられないのだろう。
その特徴的な槍が私の胸の辺りに飛んできたので私は左手ではたき落とした。
「っ…。」
槍に触れた箇所にほんの少し痛みが走った。感触からして摩擦熱で皮膚が赤みかかるような痛み。あの槍はドリルのように高速回転していたらしい。
槍に触れた手の平の部分が摩擦でツルツルになっていた。
「回転…能力による回転か。」
あのフォームであそこまでの回転は決して出ない。槍自体にはベルガー粒子は付着していなかったから彼の手の中で能力が行使されたのだろう。触るまで気付かなかったな。
「あ。」
手の平から視線を外すと男はコンテナの裏へ戻ってしまっていた。私はこれにも気付かなかった。意識が完全に能力についての考察に切り替わっていたからかな。
「ハーケン行けます!」
どうやらハーケン?の準備が終わったらしいのでこのまま待つ事にした。考えを纏めないといけない。待っている間にあの胸に付けた装置をどうしようかと考える。
一応案はあるけど失敗が出来ないから殺さない方向で行こうとは思っているけど…。
「お前達は先に行け!避難した者の安否を確認するんだ!」
「「「「は!」」」」
男の指示で残りの4人が一箇所に集まると…姿がかき消えた。恐らくテレポーターが混じっていたのだろう。あの人数の能力者を連れてテレポート出来るとはかなり優秀な能力者だね。
そして残ったビリーなんとかやらはコンテナの中へ入り何かを起動させてハーケンとやらと一緒にコンテナの中から出てくる。
ゴウンゴウンゴウン…何かが回っているような音と共にそれは現れた。
見た目は完全にSFモノ。高さが4メートル程の巨体、4つの足に腕のようなものが2つ付いたロボットだった。塗装はされていないからフレームの金属が鈍く光り、動く度に何かが回転する音が鳴って機械って印象を受ける。
うん、これには流石に予想外。決して能力者の研究施設とは関連付け出来ないものが出て来た。
「マジ…?」
敢えてコンテナの中は能力で見なかったんだよね。楽しみにしていたし期待もしてた。そしたら予想以上の物が出てきて私は凄く興奮している。
「どうだ?素晴らしいだろうこのハーケンは。貴様のような能力者を殺す為に造られた能力者専用の戦闘マシーンだ。」
胴体部に人が搭乗している。あそこがコクピットになっているけど座席タイプではなく男は座ってはいない。手足を機械の中に入れて胴体と頭はフリーになっている。
「いや普通に驚いたよ。…それ能力で操っているの?回転の能力でハーケンを駆動させて動かしているんだよね?」
「そうだ。非接触型探知能力とはいえ、一瞬で見抜くとは本当に驚かされる。…お返しに私も貴様を驚かせてやろう!」
ハーケンの腕らしき部分が動き私に照準を合わせたんだと思う。指や関節といった部位は無く長い筒のような物が左右に一つずつくっついている。このハーケンの腕は何かの射出装置のようなものだと私は考えた。
その証拠に腕に空いている穴から金属の擦れる音が鳴り響き機体が小刻みに振動する。そして射出口から私目掛けて凄まじい速度で飛翔体が飛び出て空気を貫きながら突っ込んで来た。
「くそっ!」
私は反射的にサイコキネシスを発動しバリアを展開する。本当にギリギリだったけど展開に間に合った。バリアと飛翔体が衝突する。
バリアに衝突する瞬間に飛翔体は減速しその形状を少しだけ視認する事が出来た。彼が最初に私目掛けて投げ飛ばした槍の巨大版。長さは1メートル程で太さは自転車のハンドルぐらい。だから普通の槍のサイズ感だ。それが超高速回転して射出されていた。
威力も槍のサイズから分かる通り重量もそこそこあるのでかなりの大きさをしている。威力に関しても私の銃と良い勝負だと思う。
だけど私の張ったバリアはそんなことでひび割れる事も無く完全に防ぎ切った。小学生が張るバリア〜!とはひと味もふた味も違うんだよこのバリアは。
それからバリアと衝突し衝撃で吹き飛んだ槍は空中に舞いかなりの距離を飛んでから地面へと落ちる。だが槍は超高速回転しているので床と触れた瞬間弾かれたかのようにまた空中を飛び跳ねる。
まるでモータースポーツでクラッシュしたマシンから外れたタイヤのようだ。しかも観客席にまで突っ込んで止まらないやつね。あの槍もまるで止まらない。槍と床の接触する角度が悪いと天井にまで届くんじゃないかって具合に飛び跳ねる。
床に上手く着地しても回転している槍は目にも止まらない速さで床の上を回転して進み壁にぶつかるとまた飛び跳ねて空を舞う。
「今のを良く防いだな。だが驚いただろう?直撃すれば例え貴様でもただでは済まされない…!」
男は憎悪と冷酷さと高揚さを混ぜ合わせたかのような表情をして私を見下す。…私に突っかかる男はみんなこんな奴ばかり。本当に苛つかせる。
左手が他人の手症候群のように勝手に動き出して私に殺意を自覚させる。この現状が起こる時は私が殺意に頭が飲み込まれそうな時に起こる。だから経験則で分かるの。私は必ずコイツは殺すって。
「…ビリー・マッケンだっけ?あんた…。」
デス・ハウンドの表情から感情が抜け落ちたかのように無表情となり男の名前を口に出す。そんな彼女を見てさっきまで荒れていたビリー・マッケンの感情は凪のように静まり返る。
長き戦いの経験から今の彼女は冷静さを失っては勝てないと本能的に理解した。
「貴様…誰だ?」
男は自分で何故そんな言葉が出たのか理解出来なかった。能力者としての勘…いや、生き物として当たり前の直感か。今の彼女は数秒前の彼女とは別の生き物のように思えた。
「クズ野郎を…能力者を…殺す者よ。」
彼女の口調は変わり雰囲気や立ち姿すら別人かのように変質し、目は青く光って爛々と輝いていた。
そろそろ青い光りの正体に気付く人いそうですね。




