日常
長い前置きがここら辺で終わります。
高校に向かう途中に私はバスに揺られながら習慣となった【マッピング】を行う。
私の能力【マッピング】はその名の通り<地図>を描き、そこに存在する対象を把握することにある。実際に紙に描くのではなく頭の中でだ。
どうやら私を中心とした約5メートルの範囲の球があるようで、そこに入った空間を<地図>として見ることが出来る。上から俯瞰として見ることも3Dの立体としてジオラマのように見ることも可能。
更に私が訪れた場所は常に【マッピング】され拡張し続ける。今では家の中は勿論のこと、私が住んでいる東京の訪れた地区は【マッピング】されていつでも頭の中で見ることが出来る。
そして地図の中に居る対象を把握するにあたって生き物で言うと人間が一番精度が高く、犬や猫などの動物はあまり判別が付かなく自信がない。虫や植物に至っては何となく?というレベルだ。
どういう理屈か分からないが人間に対しては青い〇、動物は黄色の〇、虫や植物は緑の塊として<地図>に表示される。
人間に関しては意識ある状態と無い状態が判別出来る。意識が無い場合、すなわち寝ている場合は点滅して表示される。
完全に意識がない…即ち死亡してる場合は灰色で表示される。
無機質の物体に関して言うと例えば今、私が乗っているバスは輪郭が分かり灰色として<地図>に映される。能力では遺体も物体と表示されるという事だ。
中でも便利な能力で私は対象に対してピンを指すことができる。あの人達に対してピンを指すことで<地図>の範囲なら誰がどこに居ようと瞬時に位置が分かるという優れものだ。
逆に言えばピンを指しても<地図>の範囲外に行かれると対象を見失う欠点がある。
私はこの能力を使いある対象を探し続けている。その対象は赤い○で表示され、私のお母さんを殺した殺人犯。警察からも【マッピング】からも逃れ続けている。
早く家を出て犯人探しに世界中を回りたい。この世界全て【マッピング】すれば対象がどこに隠れようと見つけ出す事が可能だ。
(必ず見つけ出し復讐してやる。)
そんな物騒な事を考えているうちに、高校の近くのバス停まで着いた。私は頭を振って思考を切り替える。今は学生として確かな身分があるうちにできる事をしなくちゃ。
いつも通り教室に入り授業の準備をしてスマホをいじる。その間私は誰とも話さず誰とも目を合わせない。
別に高校からではない。中学でも小学校でも一人で過ごしていたからもう慣れっこだ。例え背中に視線を感じても気付かないフリをして時間が過ぎるのを待つ。そうすれば勝手にチャイムが鳴りクラスメートは席に戻るから。
担任の先生が教室に入ってくれば後は流れに任せるだけ。出席を取って連絡事項を聞き取る。特にこれといった内容は話されないが、陽気な男子生徒と先生との漫才のような会話に教室が湧く。
周りは空気を読んでどッと沸くような笑い声を上げている中、私はそれを聞いて心が蝕まれる感覚を覚え教室で一人だけ無表情のまま事の成り行きを見守り続ける。
(あー…テロリストが学校に攻めてこないかな。)
そんな誰もが一度は考えた事のあるだろう妄想を、小学校から毎日お祈りしている私は今日も思う。来ないかな…非日常。
…まあ、来ないよねそんな都合良く。
溜息が出そうな憂鬱な中、毎朝行なわれている茶番が終わり、担任も嫌々そうなポーズをしながら満足そうに教室を出て行った。
教室も少しずつ落ち着きを取り戻し授業の開始を合図するチャイムが鳴る。1限目は現文。少しするとおばちゃん先生が教室に入ってきて欠席者が居ないか日直に聞いた。
そして私は勉強するポーズを授業を受け持つ先生に見せて青春をドブに捨てていく。
それから真面目そうな態度を貫き今日の授業を終え、帰宅部である私が日課にしている【マッピング】に精を出すために私はまだ埋まっていない<地図>を埋める旅、もとい家に帰る時間を延ばす逃避行に出るのだった。
まだまだこの能力に謎は多い。なぜこんな能力が私にあるのかは分からないが、どこまで出来るのかを把握出来ていないことは単純に気持ちが悪いのだ。良く分からないものが私の中にあるのにそのまま暮らし続けられないでしょ?
それにこの能力は使えば使うほど成長するようでどんどん精度が上がってる。犯人探しに売ってつけの能力なのだ。伸ばさなければ。
(この辺りは埋めた。かなり遠くまで足を運ばないと<地図>が埋まらない…何処から攻めようか?)
目的はあるのに、宛がない旅に足を動かし始めた私。財布の中身を思い出しながらあまり遠出が出来ないと判断。雨が降る予報が当たったのか、空は今にも雨が降り出しそうなくらい厚い雲が覆ってる。
そしてそれは突然の出来事だった、私の人生を、運命を大きく歪ませる知らせだった。
赤い○が<地図>に表示されたのだ。
1日1話投稿で頑張ります。もし出来なかったら木の下に埋めて貰っても構わないよ!