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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
3.サイコパスの青春
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滾る猟犬達

めっっちゃ長いですが書いていて楽しかったですねこの話。

管理室は一瞬で大騒ぎになった。完全に崩落させたと思った通路から押し寄せるように瓦礫の山がアルファ部隊に向かって来たからだ。


「アルファは撤退!ベータ部隊!状況を報告せよ!」


司令の声が部屋の中を木霊する。現場も後方も最早戦場なのだ。


敵は驚異の射程距離を誇る最強の探知能力者。ここはもう敵の射程圏内に入っているのかもしれない。声にも熱が入る。


「こちらベータ、アルファ部隊は確認出来ず!広間は粉塵で視界不良!」


その報告を聞いたビリー・マッケンは声を荒らげる。


「敵が突っ込んで来るぞ!早くアルファ部隊の元へ向かい弾幕を張れ!味方に当たっても構わん!撃て!」


ビリー・マッケンの予測は正しかった。瓦礫を押し出し通路を抜けて広場に出た彼女達の姿をカメラが捉える。粉塵の舞った室内であってもその姿はくっきりと視認する事が出来た。しかしそれも一瞬の事で兵士達から送られる映像が白一色に染まる。


その時、彼女たち一同は瓦礫をサイコキネシスで押し出したタイミングで美世と理華は走り出していた。広間まで進み最後の瓦礫を押し退けると粉塵が舞って視界が極端に悪くなる。


これは狙った訳では無いがこのチャンスを逃す程うちの理華は寝惚けてはいない。彼女は覚醒している。


彼女は自分の能力を発掘して試す面白さに気付いた。予め今の自分がどれぐらい出来るかを理華は試していたのだ。日が沈み込む時に侵入した際、理華はベルガー粒子の操作を行なっていた。不可視化ではない。別の操作だ。


私はベルガー粒子が様々な情報を記録する事が出来る事を理華に話した。それで理華も気付いた。光を操る能力者がベルガー粒子に保存するもの…そんなの物は決まっている。


“光”そのものだ。


彼女は夕日の光を自身のベルガー粒子に保存し続けた。それがどれ程の量かは私には分からない。多分当人である理華も分かっていない。だからこそ実際に試す必要性がある。だけど理華にとって知的好奇心を満たす事が第一になっていたっぽい。私もその気持ちは良く分かるから今回はフォローに回る。


「ハーパーは下がっていて!」


私と理華がヘイトを集める為に分かりやすく姿を曝す。理華は私と左右に別れて理華は広間の中央に向けて光の塊を投下した。その光の塊は激しく燃え上がり強烈な光を辺りに撒き散らした。


その光の強さは溶接の際に発生するアーク光と並び、目を焼く程の紫外線と赤外線を放っていた。流石に兵士達も目を開けられず銃を撃ち出すことも出来ない。狙いが定められないからだ。しかもこの光…異常だ。


兵士達は瞼を閉じて腕で光を遮っているのに光が入り込み視界が明るくなる。瞼が薄くて光を遮光し切れないのではない。まるで閉じた瞼をすり抜けて無理やり侵入しているようだった。そんな感覚に襲われた兵士達はこれは能力による攻撃だと察する。


だが防ぎようが無い。光が物理法則を破って生き物ように侵入してくるのだ。彼等の視界は完全に奪われた。


「ふっ!」


あいの風は目を瞑り走り出した。兵士達と同じ状況だったが彼女のその能力の特性上相手の位置を正確に認識出来る。


そして飛び蹴りを放った。体重の軽い彼女の飛び蹴りは威力が低い。なので彼女に飛び蹴りを胴体に食らわされた兵士は肋骨が折れ内蔵が破裂、そのまま時速75kmという速度で10メートル先にある壁へと激突した。


能力者相手なら軽傷程度のダメージで済む威力だったが無能力者では話は変わる。男は即死だった。


次に動いたのは理華。彼女はゴーグルをしていたので自身が生み出した光に目を眩ませることは無く軽快に動くことが出来る。


「はぁ!」


装備を付けて体重が100kg近くにまで重くなった兵士に掴み掛かり背負い投げを決めた。相手はろくに受け身も取れず頭から床に着地し首が不自然な方向へ曲がる。


そして2人はすぐさま別の標的に向かった。あいの風は筋力に物を言わせた格闘で敵を粉砕し、理華は相手の体重を利用した投げ技や急所を狙った打撃で仕留めていく。


しかしこれでは20人を倒すのに時間が掛かり過ぎる。あいの風は別の部隊が向かって来ている事を察知しこの敵を能力で一網打尽にしようとある能力を行使した。


「理華しゃがんで!」


あいの風はそこらへんに転がっている瓦礫を踏み潰すと靴底の溝に細やかな破片が埋まって足の裏に付着した。それからその破片にベルガー粒子を纏わせて彼女はその場で水平方向に回し蹴りを放った。そうするとあいの風の人間離れした筋力とバネにより凄まじい遠心力が生まれる。その結果靴底の溝にはまっていた破片が放射状に飛び散っていく。


その一つ一つは小さな破片でこのぐらいの大きさなら殺傷力は無い。破片は軽く脆かったからだ。しかしあいの風はある能力を行使し殺傷力を極限にまで昇華させた。


反復(リテイン)!)


破片達の軌道は固定化され空気抵抗や重力の影響を無視し直進し続けた。その結果破片にぶつかった兵士達は破片と一緒にそのまま宙を浮かびながら直進し壁に激突。


だがそれでは破片は停止しない。


「ぐぎゃあああ〜〜ッ!!!」


初速180キロメートルを維持し続ける破片は兵士達の皮膚、肉、骨、内蔵を時速180キロメートルの速度で突き抜けてそのまま壁の中へと直視し続けた。


ありとあらゆる壁の中から掘削音が鳴り響き施設全体が小刻みに振動する。


「ヤバッ!止めないと!」


私は慌てて能力を停止させたが壁には大きく細やかなヒビ割れが至る所に発生し今にも崩落してしまいそうだった。


「…岩をカットしたり崩したりする時にこうやって一列に穴を開けていくんだよね。」


理華の感想…というより豆知識がこの状況に対してどう関係しているかは考えたくなかった。流石に生き埋めにあったら【再生(リヴァイブ)】でも助からない。無限に戻っては死にかけて戻っては死にかけての繰り返しになる。


「…これで敵は全滅したから良いでしょ。」


理華も能力を解除しやっとまともな光景が目に入る。


「…ここにハーパーを呼ぶの?吐かないかな…。」


理華が辺りを見回しそう言葉を漏らしたが何が問題なのか私には分からなかった。だから特に気にせずハーパーを呼んだ。


「ハーパー!来ても大丈夫だよ!」


ガスマスクを着用している影響で声がくぐもってしまい聞こえづらいかも。でもハーパーはこっちに気付いてくれたね。


「は〜い!…うっ!」


廊下から広間に入った瞬間、ハーパーは口に手を当て目を伏せてしまった。


「そうなるでしょうよ…。」


私も辺りを見回しても兵士達の死体がゴロゴロ転がっているのと白い広間に赤い血が流れて目立つなと思うぐらいで特に変な所は無い。人が死ぬ時に漂う臭いとかが嫌なのかな?


「…あの時の事を思い出しました。初めて会ったあの時もこんな感じでしたね。」


アイと死体とこの臭いのせいでまるであの時の事を昨日の事のように思い出しました。彼女は…不思議とこういうシチュエーションに良く合います。何ででしょう。本当に死と彼女はイコールでイメージ出来てしまいます。


「あの時はもっと少なかったし今回は多めだったからキツかった?」


そういう事では…いえ、ここで否定してもしょうがないですね。


「いえ、もう慣れるしかないんだと思いますから前だけを見ててください。私が勝手に付いていきますから。」


「うーん、オッケー。分かったよ。敵も来たしね。」


あいの風達の元へ催涙弾が3つ飛ばされて来たが空中で不自然に停止し、ガスが球体状に拡がるがそれ以上拡散する事はなかった。


「この能力者本当に便利だね。…ほら、お返しだよ!」


サイコキネシスで催涙弾の周りに球体状のバリアを張ったあいの風は腕を振るってガスが閉じ込められた催涙弾を3つとも敵に向かって投げ返した。


敵はガスマスクをしていたが足元に催涙弾が転がり足を止めてしまう。


その機を逃すあいの風ではなかった。


「これから起こる事を質問しないでね!【再発(リカー)】act.堕ちた影(エトンヴェ・オンブル)


ハーパー達に前置きをし私は足元に出来た影に全身を潜入させ影を操る。影は白い床に対して物凄く目立つ。敵も味方もその影に注目してしまう。


「あの黒いのを撃て!」


ベータ部隊隊長の号令で影に向かって鉛弾が撃ち出される。しかし影は停止せず床にも銃痕は現れない。敵も近付く黒いもやもやを視認してこれが影である事を認識したが、だからこそ何故着弾した際に衝撃音と銃痕が生まれないのかが気になってしまう。


そうだ。これは彼等が優秀であるからこそ気付いてしまった。気になってしまったのだ。なんせそういう訓練を施されてしまっているのだから、当然の結果だった。


そして、その一瞬の隙を刈り取るのが死神の猟犬(デス・ハウンド)の仕事。彼女は部隊の中心位置にいる兵士に影を纏わせた。纏わせたといってもほんの少し。自分の身体の面積分だ。


「お、お前の背中に影が纏わりついているぞッ!」


「何だって!?取って!取ってくれッ!!」


同僚の指摘に気付きその場でくるくると回り背中に手を当ててしまう。そうすると手が影の中に入り込み抜けなくなる。そのビジュアルは周りの兵士達の戦意を喪失させるのには十分な見た目だった。なんせ男の左腕の手首から先が自分の背中に突き刺さっているように見えるからだ。


「ひ、引っ張ってくれ!何も感じない!ここに俺の背中がある筈なのに空っぽなんだッ!うわああああッ!!」


男は半狂乱になりながら助けを求めるが兵士達は男から距離を置き銃を構えた。


「な!なんで銃を向けるんだッ!!」


男は周りを見回し涙と鼻水を垂らしながら叫んだ。


「黙れッ!命令だ!動くんじゃないッ!」


隊長の一言に周りの兵士達は察する。全員銃の引き金に人差し指を置く。


「止めろッ!!止めろってッ!!!」


無事な右手で銃を構え周りの兵士達に向ける。そうするともう疑心暗鬼が止まらない。なんせこの影がどういう能力か彼等は知らないのだから。


「仲間を撃とうとなんて酷い奴等だよ全く。」


女の声が聞こえる。聞こえた方角は…中央で半狂乱気味の男からだった。


「…違う。違う違う違う!俺からじゃない!」


「酷いな〜私だよ私。君の正義の心だよ。最近会ってなかったから忘れちゃった?」


男の背中から腕と足が生えてくる。男のではない。女性らしき手足だった。それが影から生えてきて顔まで生えてきた。


「どジャアァぁぁぁ〜〜〜〜ン」


デス・ハウンドが男の背中から半分だけ出てきたのだ。あまりの出来事にその場の兵士達も理華達もその映像を見ていた管理室も口を開けて放心してしまう。


「ど、どうなっている…?俺の身体どうなっている?なんか背中が重いんだよ。…誰か、教えてくれよ〜。」


右手を彷徨わせて味方に話し掛けるが誰も答えない。なんせ説明出来ない状況だったからだ。こんな事はマニュアルには書いていないし人生に置いて起こるはずがない。


「そうなの?だったら支えてあげるよその肩を〜♪」


影が下方向に向かっていきあいの風は足を地面に着ける。そうすると彼女の頭の位置が男の肩甲骨辺りになり、四足歩行で立ってしかも4つの腕と2つの頭があると正確に言い表せているのに、なんとも形容し難い生き物へと変わってしまう。


「撃て。」


「え?」


それは誰の声か分からなかった。しかしそれが文字通り引き金になってしまった。


「撃てーー!!!!」


アサルトライフルから撃ち出される銃弾が中央に居る男に集中し蜂の巣になる。だがその男だけではない。殆ど半狂乱状態で撃ち合ってしまった結果銃弾はお互いに当たってしまう。彼等は円を組んで包囲していた。それで撃ち合えばどうなるかは誰でも分かるはず。しかし今回は誰もその事を留意していなかったのだ。早くこの敵を消してしまいたい。居なくなってし欲しいという感情からやってはいけない選択を取ってしまったのだ。


その結果、お互いの銃弾に撃ち抜かれてベータ部隊は全滅。床は真っ赤に染まり薬莢も転がっていた。その中、一つだけ真っ黒な影が残りそこからあいの風が浮上する。


「馬鹿かよコイツら…。」


そんな感想を漏らして彼女は呆れ返った。

どジャアァぁぁぁ ンをやりたかっただけです。多分彼女もやりたかっただけだと思います。

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