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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
3.サイコパスの青春
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撤退からの長考

今回はいつもよりちょっと長いです。



薄っすらと見えたその青色は彼女が顔を下に向けた事で見えなくなってしまいました。…私の気の所為だったのでしょうか?


でも彼女の意志は分かりました。理解は中々出来そうにもありませんけど。やっぱり私は人を殺す事に抵抗を感じます。殺人が良くない事なのは私もアイも共有している事実ですが、そこからそのラインを越えるか越えないかは価値観次第なのでしょうね。


「私は…とても悲しいと思います。普通に生きれた筈ですよね?アイの能力なら見つからないように生きていく事が出来た。それでもここに居るのを選ぶのですか?」


私は母の元へ戻りたい。今は無理でもいつかは…


「…私、ハーパーには言ってなかったよね。私が小さい頃にね、お母さんが能力者に殺されたの。私はそのクズ野郎を追ってこの業界に入った。半分スカウトみたいな感じだったけど、後悔はしていないよ。寧ろ私を誘ってくれた…見つけてくれた先生には感謝している。組織の人達にも凄く凄く感謝してる。だからハーパーの恩を返したいっていう気持ち…分かるよ。」


知ってます。組織に保護されてから色々とアイの事を色んな人達から聞いて回りましたから。アイの本当のお母様が亡くなられた事を知った時はとても胸が締め付けられました。


「…アイも恩を返したいって思ってるんですか?」


私はアイのお母様の事は触れず、その後に言った恩を返したいという言葉について質問をしました。だって私と同じではありませんか。私も恩を返したいと思っていますから。


「うん。でも私みたいなのはこういう事でしか役に立てないからこれで頑張るしかないの。幸いこういう才能があるし能力もある。それにこの生活が割と気に入ってるし、こういう仕事をちゃんとこなせないと維持出来ない。まあ…そんな打算的な考えもあるから私は善人じゃないよ。勝手に気ままにやってるだけ。」


そう言って笑う彼女は人として何か…何か、とても大切な物を切り捨てているように思えました。それは何なのかは分かりません。しかし分からないと結論付けて思考を放棄してしまうのは違う。それだけは今の私にも分かります。


「話してくれてありがとうございました。こう…胸のモヤモヤが取れたように感じます。」


「それは良かった。船の時から暗い表情していたから心配していたんだよね。」


「え?」


ずっと知ってた?…そうですよね。彼女の能力なら私がどんな挙動をしていたか分かりますもんね。


「あの時の2人の雰囲気がおかしかったからね。オリオンさんと何かあったんでしょ?例えば…スパイだと疑われた?信用出来ないって言われた?」


「…大、正解です。空港で待ち伏せされていたのは私が情報を流したからみたいな事を言われました。」


(アレは多分、蘇芳が情報を流したんだと思うからハーパーはオリオンさんに濡衣を着せられたんだね。)


なんとなく罪悪感を感じた美世はフォローに入る。


「私はハーパーの事凄く信頼しているからね。またオリオンさんに何か言われたら私に言って、グーパンで沈めるから!」


それはとても、とても良い笑顔だった。スマホの待ち受け画面に出来るほどの満面の笑みではあったが、しかし言っている内容が内容なのでハーパーは苦笑いするしかなかった。


「か、考えておきます。」


私は日本で覚えた愛想笑いと場を濁す言い方をして明言を避けた。日本のコミュニケーションはこういう時に便利です。


「遅い。」


合流地点に向かうと、不機嫌そうな様子の理華が腕を組み仁王立ちで私達を待ち構えていた。その様子は能力でとっくの前に知っていたから特に反応はしない。


「ごめん。組織には連絡した?」


「…最初にオリオンさんに連絡して、その後に組織の方に連絡した。私達はこのまま本命の任務に戻るよう言われたけどさ…人使い荒すぎ。私達は日本所属で本当はアメリカ支部の人達の仕事なのに…!」


う〜ん…これは怒り心頭って感じだけど別の要因もありそうな雰囲気。


「不完全燃焼だった?無能力者じゃ相手にならなかったでしょう?」


「…。」


無言だから当たってたかな。私の勘も中々に超能力だね。


「明日が本番だから今日は帰ろう2人とも。ちょっと疲れが溜まっちゃった。」


美世はうーんと背伸びをしながら先頭を歩いて行き迎えの車の方へと向かった。そしてそれと入れ違いに複数の車から組織の者が降りて後処理の為に建物の方へ向かって行く。


「ねえ、ハーパー。」


理華がハーパーに小声で話し掛けた。


「はい、なんでしょう。」


小声って事は聞かれたくない事なのかな?


「み、あいの風と話出来た?」


「え?」


今日はこの言葉を何度使ったでしょうか。今日は驚かされる事ばかりです。


「なんかスッキリ?したみたいだし。」


まさか彼女にも見抜かれていたとは驚きました。あの時の彼女はそれどころでは無いぐらいに疲弊をしていましたから。


「そんなに分かりやすく顔に出てましたか?」


顔に手を当ててみますが、それでも良くは分かりません。


「う〜ん…空気?」


“エア”…?所謂(いわゆる)日本人だけが読む事の出来るあの技術の事ですか?もうそれって超能力の一種と言えると思います。


「私には空気を読む能力がありません。」


クスッと彼女は笑う。どうやら私の返しが気に入ったようです。


「ハーパーは結界型能力者だもんね。」


私の返しに理華が合わせてくれました。可愛い…年下の女の子とこんな会話が出来るなんて信じられません。少し不謹慎ですが、心が弾むようです。こんななんてこと無い会話1つで人は嬉しくなるものなのですね。


「ありがとうリカ。元気が出ました。」


自然と笑みを浮かべられるくらいには元気になったようです。


「なら良し。明日も期待しているから。」


期待してくれていたんですね。…アイも期待してくれているでしょうか。


「期待に応えられるよう頑張ります。」


翌日、組織が用意してくれたホテルの1室で美世、理華、ハーパー、オリオンの4人が難しそう表情で顔を突き合わせていた。


「計画…?これが計画?小学生が考えた最強の作戦って作戦名でしょこれ。ボツ。」


20枚以上の書類が綴じられたファイルがゴミ箱に捨てられた。そのゴミ箱には同じ様なファイルがいくつも捨てられておりゴミ箱から溢れて床に散乱しているファイルもあった。


「これは…光るものがあるけど最低でも私達の中の3人は死ぬ。ボツ。」


また作戦内容が書かれたファイルがゴミ箱に投げ捨てられる。


「これ…私が爆弾を使う事になってます…。無理です。」


今度のファイルは床にそっと置かれた。しかしもはや足の踏み場もない程にファイルが置かれてしまっている。


「まだまだありますよ。開けていないダンボールがほら、こんなにも。」


ファイルが敷き詰められたダンボールが部屋の隅に積まれていた。その数…実に8個。因みに美世達が開けた段ボールはまだ2つ目でまだ2個目の段ボールの中にはファイルが収納されている。皆の目は死んでいた。


「なんでこんなに作戦内容があるのにどれも、その…クソなんですか?」


「オブラートに隠せていないから。クソなのは同意するけど。」


「確かに内容が、その…稚拙ですよね。結果だけ追い求めてその過程はどうでも良いみたいな印象を受けます。」


私が言いたかった事を全てハーパーが言語化してくれた。理華もうんうんって頷いているしね。オリオンさんなら分かるかな?


私は期待を込めてオリオンさんに熱い視線を向けた。


「皆さん、ファイルに綴じられている書類の左上を見てください。」


オリオンさんの言う通りに私達は適当なファイルを開いて書類を確認した。


え〜と…作戦提案者?


「色々な部署、課、個人から作戦内容を送られてきたんですよ。そして派閥からも。…意味は分かりますよね?」


「あ〜…そういう事ですか。手柄ですね。」


自分の作戦が選ばれてミューファミウムを駆逐出来たらそれは自分の手柄だよね?って戦法ね。なんか嫌だな…。出世道具に使われるのは。私だけなら別に良いけど理華とハーパーが利用されるのはちょっと…。


「ファイルは行き違いで私達の所まで来なかった事になりません?」


「ワタシが持ってきましたので全責任をワタシが持てば可能ですよ。」


「駄目って事ですね。」


オリオンさんのあの笑顔には勝てそうにない。ここは撤退一択。


「でもちょっと多過ぎませんか?アメリカにここまでの課と人が居るとは思いませんでした。」


理華もそこが気になっていたんだね。そうだよね…あまりに多過ぎるよ。学校の宿題じゃないんだからみんな提出しなくても良いんだよ?そんなに成績大事かい?


「それはですね、国内外から送られてきたからです。世界中のほとんどの支部から送られてきたと思いますよ。ミューファミウムに恨みを持っている支部も多くありますし、これを機にポストを狙った人達からも複数送られてきているようです。」


「はた迷惑な事で…。」


「今や世界中から注目されています。誰の作戦が選ばれてどう結果が出るのか…、こんな機会はそうそうありませんから。」


「ソプリの掲示板もお祭り騒ぎの様だしね。…うわ、これなんて凄いよ。私達がどう立ち回ってどう動くか予想して実際に合ってるかどうかを見る実況スレが立ってる。」


なんかさ…組織のこういうミーハーな所止めない?私さぁ、ここに入る前とか凄く期待していたんだよ?格好いい人達が格好いい場所で働いててさ、それで誰にも悟られずに仕事を終える的な感じをイメージしてたのに…。


「あ、天狼さんも書き込みしてる。えーと…」


またあの人書き込みしてるの?止めない?天狼さんちょっと親近感出すの止めない?次会うときどういう心境で会えば良いか分からなくなるから!


「なんて書き込みしてたの?」


しかし気になるものは気になる。それはそれ、これはこれ。


「…さてと削除申請はっと。」


なるほど、酷い内容だったのだろう。理華がスマホを積まれたファイルの上に置いて虚無に(おちい)った。

もうそろそろ3章も終わりに近づいていますが4章のタイトルをどうしようかと毎日悩んでいます。

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