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私は殺し屋として世界に寄与する  作者: アナログラビット
3.サイコパスの青春
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ハーパーの苦難

美世のこの真っ直ぐとした殺意と意志は作者的にも好きです。このまま突き進んで欲しい(ゲス顔)

アイが人を直接殺す光景を初めて見ました。あまりに簡単に人を…能力者を殺してしまいました。最後は相手が命乞いをするほどの圧倒的な強さを…ううん、恐怖を見せつけて…。


「じゃあ、行こっか。」


こちらに振り返る彼女の表情は酷く恐ろしいものに思えた。何故なら本当に自然体だったからです。まるで用事を済ませたから帰ろうと言っているような感じです。…いえ、本当にそうなんでしょうね。彼女にとってはこれが“普通”の事なんでしょう。


「はい…行きましょうか。」


「うん。行こう。」


私達が部屋を後にしようとすると部屋の隅から物音がした。私達は自然とそちらに顔を向けると今にも死んでしまいそうな女性が視界に入る。


「…わ、私も、こここ、殺す…のですか…?」


今の惨状を見れば当然の反応だった。彼女の置かれている状況と昔の自分を重ねてしまう。


「いや、あなたはリストに載ってなかったし一般人には絶対に手を出さないよ。多分…ここに私達の仲間が来ると思うんだけどその人達の言う事を聞けばいつもの日常生活を送れると思うよ。」


「い、言う事って…」


彼女は身構える。当たり前だ。何を要求されるか分かったものではないからだ。


「能力者に関しての記憶を消された後に偽の記憶を植え付けられると思う。そういう能力者がうちには居るからね。その後に偽の証言を警察に言って…お終い。失業保険が倍の額で支払われていつもの日常生活に戻るだけだよ。安心して。」


アイはそう言い放ち部屋から出て行ってしまうので私も部屋を後にした。そして彼女の背中を見ながら複雑な思いを募らせる。


(…分からない。アイの事が分からない。)


私は彼女に助けてもらいました。軟禁状態で自由の無い生活から私を救ってくれたのは今でも感謝しています。だから恩を返したいって思っているこの気持ちに嘘はない。だけどアイが人を殺す瞬間を目撃してしまってから何もかも分からなくなってしまった。


命乞いをした人を踏み付けて殺す人は悪人?それとも善人?…別に私は正義の味方を彼女に押し付けているつもりは無い。だけど少しの慈悲も無かったのは悲しく思えます。


アイは私を救ってくれた。あの部屋の隅に縮こまっていた彼女も見逃してくれた。私は…彼女にはミューファミウムみたいに人を殺して欲しくない。アイには人を殺す事ではなく別の方法で人を救って欲しいと思います。


「あ、あの…アイ?」


「ん?何。」


彼女は振り返らずに廊下に転がる私兵の人達を避けて歩き続けている。…彼らもアイは殺さなかった。ただ意識を奪うだけで済ました。リストに載っていなかったからという理由で。


「何で私を助けてくれたんですか?」


「それを聞いて何か変わるの?」


“変わる”…これは私がアイに対する認識について言っていると思う。彼女は聡明でありどの人間より勘が鋭い。言葉、挙動の1つで全てを理解している節がありますから私の考えなどとっくにお見通しなのでしょう。


「…変わりません。ただアイの中の線引きを知りたいんです。殺す殺さないの判断はリストに載っている載っていないですか?」


あまりにド直球の質問だったかもしれない。でもちゃんと伝わらなければ意味が無い。私がちゃんと言語化しなければいけないから。


「ハーパーを生かしたのは…非戦闘員だったのもあるけど利用出来ると思ったから。」


アイの返しは私並みにド直球なものでした。…そう、ですよね。私みたいなのはそういう理由が無ければ助けてはもらえなかったですよね…。


「それに…可哀想だった。ハーパーの置かれていた立場とか、無理やりに能力を使わされて道具のように扱われたのが…嫌だったからかな。」


「え?」


ハーパーは目の前の彼女が言った内容を理解出来ずに素っ頓狂な声を出した。


「え?って何?ハーパーの中の私の印象ってそんなに悪い?…いや、悪いか。初対面の時に周りの人間全員殺してたもんね。」


確かにそういう事があったような気がします。私はその時の事を良く覚えてはいないけど、気が付いたらミューファミウムの人達が亡くなってアイが目の前に居ました。


「悪くなんてありません!あの時は本当に嬉しかったですし、アイのおかげでこの生活が手に入りましたから…。」


「えっと…どういたしまして?…その、あまり気にしすぎないでね。私は結果的にはハーパーを助けた事になったけど、それで私自身の評価を上げなくていいんだよ。」


とても優しい声…数十秒前に人を殺したとは思えない声色で頭が麻痺してしまいそう。彼女の言葉には人を動かす毒が含まれている。そんな気がしてしまう。まるで()()()()()()2()()()()()()()


「私とハーパーが知り合ってまだ日が浅いし、知れば知るほど人の嫌な所も大体見えてくるものでしょ?それで知っていってさ、その結果として私の事を嫌いになってもいいんだよ。無理して私の事を恩人扱いし続けなくていい。私は善人ではないから。」


善人ではない。その言葉を使った彼女の心は一体どんな思いを抱いているのだろう。


「なら何で人を助けるのですか?私も…彼女も殺してしまった方が楽では?」


私はアイの線引きを知りたい。誰を生かし誰を殺すのか。


「…ちょっと話そうか。」


アイが振り返り壁に背を預けて私を見つめる。見た目はとても綺麗な少女。でもその中身がパンドラボックスに近い代物になっている。少し話しただけでは彼女の事を理解する事が出来ない。だから私も壁に寄りかかりアイと対話しようと思います。


「先ず最初に私が思っているハーパーの話をさせて。」


「はい。」


「ハーパーってアメリカ出身だからクリスチャンだよね?」


「はい…そうですけど?」


急にどうしたんだろう。何でこのタイミングで聞くのでしょうか。


「ド偏見…ていうか私の考えを話すね。ハーパーみたいな外国人の人、特にクリスチャンの人達って前提として何もかも白黒つけようと考えているんだよね。私達日本人に比べてさ。例に出すと天使と悪魔みたいな?良いやつ悪い奴、正義と悪のような関係で物事を見て考えていると思うよ。」


「そう…でしょうか。あまり自覚していませんけど…。」


言われてみればそうかもしれない。特にアメリカは意見が2つに別れたら極端化しやすい。白と黒、白人と黒人…良く2つに別けて争いになる。そしてどっちも私が正しいと口を揃えて言うのだ。


「ハーパーってミューファミウムの頃は海外に行きはしても交流はしていなかったんでしょ?私は英語を話せるから意思疎通が出来ている空気があるけどさ、あくまでハーパーと私の関係って他国の人同士なんだよね。」


それは…そうです。私はアメリカ人、彼女は日本人。生まれも文化も違うから価値観も違って…あ。


「理解出来なくて当たり前なんだよ。特に私なんて一般人とはかけ離れている例だから同じ日本人だって私の事は理解出来ないよ。それでハーパーの価値観だと私が変に見えるのは当たり前だし。それでハーパーの価値観が正解で私の価値観の方が正しい…みたいな話をされてもちょっと困るかな。それぞれで違うとしか答えられない。」


彼女は至極真っ当な事を言っている。私は無自覚に彼女を非難してしまっていたようです。…恥ずかしい。偉そうに上から目線で彼女を見ていたのか私は。


「確かにハーパーの考えは正しい。殺さないほうが良いのは私も賛成。でもさ、ハーパーはこの任務の前に資料をちゃんと目を通した?これから殺す相手の事をちゃんと…考えた?」


「…あまり、見ないようにしてました。」


昔…学校の先生に諭される時の事を思い出す。私が間違っている事を行なって、大人に物の道理を教えてもらった時と同じ感覚を今の状況で感じます。


「今回の標的はラリー・シンプソンとその私兵の能力者2人。シンプソンは裏でかなりの悪事を働いていた。FBIだって手を出せない程の大物だったから本当にやりたい放題だった。もし捕まったら最長の懲役刑のギネスを更新してしまうぐらいのね。」


彼の資料がかなり厚かったのは覚えている。疲れて眠い筈の彼女が全ての資料に目を通していたのも良く覚えている。


「あの能力者だってシンプソンの手駒として数十人、下手すると100人以上殺しているかもしれない。奴らが悪人を殺していたと思う?中には赤ん坊も居たんだよ。」


想像もしたくない。彼らが何をしてアイがどんな思いで殺したのかを。


「もしここで殺さなかったらもっと、もっと人が死んでた。その中には悪人も居たと思う。悪人同士が殺し合うのなら私は感知しない。でもなんの罪の無い人が1人でも含まれているのなら私は殺す。正義の為じゃない。私がそうしたいからそうするの。それで組織と意見が合ったから協力し合っただけ。私が任務をする時はそういう認識で行なっている。」


そうしたいから…彼女は仕事として、自分の意志として人を殺していた。


「私は悪人で良い。もし捕まって無期懲役刑や死刑になっても誰も恨まない。私はなんの罪の無い人間の人生、尊厳が理不尽に奪われるのが許せないだけ。…私はね、私みたいな人間を1人でも生み出さない為に人を殺すの。クズ野郎をこの世界から消し去る為に…殺したい奴を見つけ出し必ずこの世界から排除する。その為なら私は…」


その時、()()()()()()()()()()


「地獄に落ちても構わない。」

ハーパーはあくまで一般人目線の価値観を持ったキャラクターです。それでいてあいの風としての一面を知っている数少ない立ち位置のキャラクターでもあり、2つの価値観のぶつかり合いがこの作品の大事なテーマであると考えています。多分。

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